『ドラクエ』シナリオスタッフ募集の課題作文を分析する

 


http://www.square-enix.com/jp/recruit/career/job/game/dq_index.html

 
 「ドラクエ」という愛称で親しまれている人気RPGドラゴンクエスト』シリーズが、シナリオスタッフを募集していることを、以下のまとめブログから知った。
http://blog.livedoor.jp/himasoku123/archives/51507719.html
 このスタッフ募集の概要は次の通りである。
・必要学歴は高卒程度。職歴は関係なし
・書類選考は、二つの「応募作文」の提出
・応募締切は7月12日(月)
 このページを見て、さっそく、二つの「応募作文」について、あれこれ構想している人がいるのではないだろうか。僕もその一人である。ということで、今回は、この課題について分析してみよう。

 この記事で分析するのは、「応募作文その2」である。

 「6つの要素から4つを選び」とあるが、6つすべての要素を含んでいたほうが好ましいのは言うまでもない。1600文字以内という制限があるし、4つに絞らずに、この6つすべてをいかすようなシナリオを構想をしてみたほうが良いだろう。
 さて、「復讐物語のプロット」と書いておきながら、場違いに思える『お鍋のふた』『思い出し笑い』などの要素が含まれているが、これは、それぞれ「ドラクエ」らしさを示す道具だと思う。この6つの要素を「キャラクター」「ストーリー」と分けてみると、この課題で求められているクライアントの意向が見えてくるはずだ。
【キャラクター】
・お鍋のふた
・超能力
男装の麗人
【ストーリー】
・伝説の剣
・思い出し笑い
・初恋
 キャラクターの要素を生かすのは簡単である。もっとも単純なのは、「お鍋のふた」で戦うサンチョ(V)のような者、「超能力」使い、「男装の麗人」という三人のキャラを仲間にすればいいだけだ。
 一方のストーリー要素は、この三つを組み合わせるのは難しい。主人公は、「初恋」相手との約束である「伝説の剣」を使える勇者になろうとしていた少年時代をふりかえり、「思い出し笑い」をする、では「復讐物語」のプロットにはなりえない。
 「ドラクエ」シリーズのシナリオは、IV以降は「復讐」を動機とした作品が少なくない。IVの勇者は、愛する故郷をデスピサロに破壊された。Vの主人公も、父を殺されている。しかし、両者とも「復讐物語」らしい血なまぐさを感じられないのは、ドラクエが「町を自由に行き来できる」ゲーム性を保たなければならないからだ。
 たいていの復讐物語の主人公は、堂々と宿に泊まったり、町の人々と話したりはしない。「復讐」を決意したとき、彼らは「闇の人間」となり、息を殺すような静かな声を仲間と交わし、じっとその機会を待っている。ところが、ドラクエというゲーム性では、そんな演出ができないのである。
 また、主人公が言葉を発しないというゲーム性も「ドラクエ」シリーズの特色となっている。だから、いかに単発イベントで「復讐物語」を演出しても、戦闘の単純作業の中で、プレイヤーはゲーム主人公の復讐心を忘れ去ってしまうことだろう。これまでの「ドラクエ」シリーズでは、「復讐」は登場人物を冒険させる動機づけにすぎないのではないか、というのが僕の感想である。
 だから、主人公以外の者の「復讐物語」であったほうがいい。例えば、IVの悪役であるデスピサロは、恋人を殺されて逆上する。僕はIVの第六章を蛇足だと思うのだが、ものを発しない主人公だからこそ、悪役や仲間の優れた復讐物語を描けるのではないか、と思うのだ。
 個人的に、この6つの要素で一番難しいと思うのは「超能力」である。「ドラクエ」世界には、すでに「魔法」がある。この「魔法」と「超能力」の違いとはなにか、それが共存できる世界観とはなにか。このキーワードを含めたことに、僕はスタッフが「新たなドラクエワールド」を求めていることを感じた。
 「指輪物語」をもとにした、欧米の「テーブルトーク」から生まれた「コンピュータRPG」に影響された「ドラゴンクエスト」は、日本で熱狂的なブームを起こしたのにも関わらず、欧米では支持されなかった。それは「ファンタジー」の土壌が、日本に比べて、欧米が豊かだったからだ。
 「ドラクエ」には素晴らしいゲーム性があるものの、欧米ゲーマーにとっては、自分たちの文化である「ファンタジーRPG」から、中途半端に世界観をパクっただけのシロモノにしか映らなかったのかもしれない。そして、その限界が、メインシナリオライターである堀井雄二を苦しめ、今回のスタッフ募集につながったのではないか、と思う。