「ドラゴンクエスト」は、「夢幻の心臓II」のパクリ?

 
 熱心なファンは、それぞれのアーティストのオリジナリティに固執するあまり、彼らが受けた影響を知ると、「パクリだ」「パクリじゃない」論争に没頭してしまうものだ。
 たとえば、マイケル・ジャクソンのPVは、確かに革新的であったのだが、すべてがオリジナルというわけではない。
 

 
 有名なミュージカル映画West Side Story」(1961年)の「Cool」のシーンなどは、マイケル・ジャクソンのPVに通じる魅力がある。
 しかし、それで、マイケルが人々に与えた影響が損なわれることはない。
 
 ニコニコ動画では、マイケル・ジャクソンとエグザイルを比較しようとする人がいて、コメントで批難を受けていた。世界的スーパースターと日本人スターを比べるな、と。
 
 だが、エグザイルのメンバーがマイケルの影響を受けたか受けなかったかはさておき、それぞれの人がエグザイルのダンスを見て受けた衝撃というものは、他人の言葉によって傷つけられるものではないはずだ。
 
 エグザイルのカッコ良さに憧れて、ダンスを始めた人が、マイケル・ジャクソンの訃報の後に、彼のPVを見て「マイケルってこんなにすごかったのか」と知る。ただ、それだけのことだ。
 自分にとって特別なものは誰だってある。他人の格づけによって、それをコロコロ変える人が一番危険なのだ。
 自分の憧れは、そのまま、自我に直結する。それは、その人の個性である。

 
 
 さて、今回はRPGの話題。
 
 日本のRPGを良くも悪くも決定づけたのは「ドラゴンクエスト」という作品だが、「ドラクエに影響を与えたゲーム」というのが、パソコンゲームにあるようなのだ。
 
 
転載元:http://katuo.hp.infoseek.co.jp/mugen2/index.html
夢幻の心臓2
 
 それが、この「夢幻の心臓II」という国産RPGである。
 
夢幻の心臓シリーズ - Wikipedia
 
 
 この「夢幻の心臓II」の様々なギミックやフィールドマップが、ドラゴンクエストに流用されているというのだ。
 興味があったので、解説サイトから画像を転載させていただいて、それらを比較してみることにしよう。
 
 
 まず、マップについて。
 
 
転載元:http://www9.plala.or.jp/a-ya/dq1map.htm
ドラクエI
↑こちらが「ドラゴンクエストI」のフィールドマップ
 
 
転載元:http://katuo.hp.infoseek.co.jp/mugen2/index.html
夢幻の心臓2
↑こちらが「夢幻の心臓II」の人間界のフィールドマップ
 
 似てる、と言われれば似てるかもしれないが、「パクリ」というほどのものではないと思う。
 
 
 ただし、それ以外にも、リムルダールの鍵屋の位置を思わせるギミックなど、「ドラゴンクエストI」に影響を及ぼしたと思われる箇所は多い。
 
 
転載元:http://katuo.hp.infoseek.co.jp/mugen2/index.html
夢幻の心臓2
↑街から出ずに、川を回りこむと、有力な情報を持った人物が
 
 
 しかし「夢幻の心臓II」がパソコンゲームにありがちの敷居の高そうな画面構成になっているのに比べて、ドラゴンクエストIは全画面でマップを表現している。
 ドラクエの文字数を極力なくそうとしたデザインこそが、子どもたちに支持される要因になったのだ。
 
 
転載元:http://katuo.hp.infoseek.co.jp/mugen2/index.html
夢幻の心臓2
↑スタート開始後の「夢幻の心臓II」。右にある街に行かないと、ゲームオーバー確定である
 その理不尽さは「星をみるひと」を想起させる
 
 
ドラクエ2
ドラゴンクエストでは、尊大な王様に命令されて始まる
 
 
 シナリオのボリュームは「夢幻の心臓II」が圧倒的に大きい。アクションゲームを想定したファミリーコンピューターと、パソコンとの性能の違いもあるが、「夢幻の心臓II」は「勇者が竜王を倒す」にとどまらないストーリーを表現できている。
 
 フィールドマップも「人間界」「エルフの世界」「魔神の世界」と三つにわかれている。仲間だって5人パーティーを組める。ドラゴンクエストIより前に作られたとは思えない完成度の高さだ。
 
 
転載元:http://katuo.hp.infoseek.co.jp/mugen2/index.html
夢幻の心臓2
ドラクエと違い、「夢幻の心臓II」の王様はレベルアップするごとに報酬を渡してくれる良き支援者である
 
 
ドラクエ2
ドラクエ2での王様の支援はたったこれだけ。ひどすぎる
 
 一方で、ドラゴンクエストIは、ゲーマー以外のRPG支持者を獲得することに成功した。
 それは、鳥山明のキャラクターデザインと、すぎやまこういちのBGMによるところが大きいのだろう。
 結局のところ「ドラゴンクエスト」というコンセプトの勝利だったと思う。
 
 
 初期の「ドラゴンクエスト」シリーズは、常にその容量の少なさとのせめぎ合いで作られたと聞く。
 よくネタにされる「ドラクエ用語」は、文字数を限界まで削ったという事情からもたらされたものだ。
 
 日本のRPG人気を決定づけた作品として「ドラゴンクエストI〜III」、いわゆる、ロト三部作は、未だに「RPGの典型」と見なされている。
 そのために「勇者が王様に命じられて、魔王を倒しに行く」という、JRPG固有の王道ストーリーが成り立っているのだが、それは容量の少なさからの苦肉の策であったのだ。
 
 海外ユーザーは、日本産RPGを批判しているが(⇒リンク)、その一つに「黒白はっきりしていて、ストーリーに深みがない」というものがある。それは「勇者だから魔王を倒しに行かなければならない」という日本産RPGだけの不文律がまかり通っているせいではないだろうか。
 
 ドラゴンクエストIV以降は、冒険に出る理由も明確になっている。だが、それでも日本人の多くは「勇者と魔王」がRPGの典型だと思っている。
 そこからさらに想像力をふくらまし、「勇者に襲われる魔王はかわいそう」という同情論まで出てきてしまっている。
 勇者と魔王のなれ合いが「魅力ある悪役を描くことにならない」のは当然のことだ。
 
 日本産RPGを批判する海外ユーザに反論する前に、まず、「勇者と魔王」の物語を不自然さを理解するところから始めなければならないだろう。
 
 
 「ドラゴンクエスト」が、TVゲームに与えた影響は大きいが、その頃にも「夢幻の心臓II」という魅力あふれる国産RPGがあったことを知ることは、「勇者と魔王」の物語の絶対性をくつがえすために必要な知識であると考える。
 
 と、「夢幻の心臓II」をまったくプレイしていない僕が、偉そうなことを書いてみた。
 プロジェクトEGGというところでは、有料でプレイできるみたいだが、他にやりたいゲームがないのが困ったところ。
 PC98シリーズなんて、ほとんど思い入れがないし。
 
http://www.amusement-center.com/project/egg/index.shtml
 
 
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