僕なりにまとめた口蹄疫感染問題

 

 今回の口蹄疫感染問題は、中央メディアが本格的に報じる前に、インターネット上で大きな話題となった。

 それぞれの人が様々な角度でこの問題に接したと思うが、次の二つの大きな方向性があったと思う。
 
・鳩山政権に対する不信感
・「そのまんま東」知事に対する不信感
 
 この不信感が、問題の本質を見誤らせ、多くの事実誤認の情報を生みだした。
 だが、その感情が根底にあったからこそ、信頼できる情報を得ようと努めた人が多いのではないかと思う。
 僕もその一人だ。
 
 このエントリでは、僕という一個人が納得したレベルでの情報をまとめている。
 信頼できる関係者のテキストを引用する一方で、僕の素人意見もはばらからず書いている。
 そのように書いたほうが、納得できる人が多いのではないかと考えたからだ。
 以下、目次。
 
(1) 口蹄疫感染が発覚した以前の宮崎県の対応に問題はあるのか?
(2) 感染源はどこから?
(3) 宮崎県の初期対策に問題はなかったのか?
(4) ワクチン接種はするべきだったのか?
(5) 赤松農水大臣の外遊は批判されるべきか?
(6) 種牛助命という「特例」は認められるべきか?
(7) まとめ
 


(1) 口蹄疫感染が発覚した以前の宮崎県の対応に問題はあるのか?



 
 
 5月17日、鳩山首相口蹄疫対策本部長になり、第一回会合を開いたあたりから、それまで沈黙を保っていた中央メディアは、堰を切ったように、口蹄疫関連のニュースを報じるようになった。
 
 そのなかには、5月18日に読売新聞が掲載したリストのように、口蹄疫感染が発覚した4月20日以前の、宮崎県の対応を疑問視する論調が出てきた。
 
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http://www.yomiuri.co.jp/zoom/20100518-OYT9I00147.htm
 
 特に、上の読売新聞ウェブサイトに掲載されたリストは、宮崎県(そして獣医師)に責任をなすりつけるような印象操作が感じられる。
 
 しかし、これは事態を正しく認識していないメディアによる誤った見解である。
 
 5月19日の朝日新聞にて、感染発覚前の獣医師による対応がまとめられた。
宮崎・口蹄疫:病名を特定するまでに獣医師がしていたこと 日々の感想/ウェブリブログ
 
 4月19日になって、初めて宮崎県は国と連絡を取ったのは事実である。
 ただし、感染疑いのあった3月31日以降も、県が無策だったのではない。
 牛の潜伏期間であるとされるのは一週間。獣医師はそれ以降の12日まで毎日診察を続けているのだ。
 獣医師を批判している人は「獣医師が12日まで毎日診察した」事実を知らないのだろう。
 
 「教科書通りの口蹄疫とは異なる初期症状。まったく想定しなかったわけではないが、この症状からは診断できなかった」という獣医師の発言こそ、もっとも報じなければならない事実である。
 
 
 空気感染するほど伝染力が強い口蹄疫対策については、「家畜伝染病予防法」(「家伝法」)にて「農場の全頭殺処分」などの厳しい措置が定められている。
 しかし、性急な検査が早期発見をもたらすわけではない。
 
 口蹄疫関連報道が加熱になるにつれて「拙速」としか言いようがない情報が数多くもたらされた。
 5月31日の、沖縄県石垣島口蹄疫感染疑いもそのひとつだ。
 
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100602k0000m040101000c.html
 
 なぜ、この「疑い」を全国的に報じる必要があったのか、僕は理解に苦しむ。
 農水省には、週に数件、このような事例が報告されていると聞く。検査の結果が判明する前に報道をしていたら、不安を拡大させるだけではなく、有益な情報が埋もれてしまう危険性がある。
 拙速な情報は、実務を混乱させる結果しかもたらさない。
 
 正確な情報というものは限られている。
 感染が発覚した4月20日から現在に至るまで、正確な情報は発信され続けている。
 だが、人々の関心はそうではない。その加熱した人々のニーズにこたえるべく、「あまりよくわかっていない」人たちの本質から外れた意見が、ネット上のみならず、メディアを通じて発信されていた。
 
 このブログでもたびたび引用している農務省官僚の原田英男氏は自身のtwitterで次のようなツイートを発している。
 
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戦場に遅参した者ほど、珍兵器を持参する傾向にあるのは世の習いか
 
http://twitter.com/hideoharada/status/14867433800
 
 僕は特定の話題を調べるときは、報道が加熱する以前のニュースを検索して、事実関係を把握しようとしている。
 今後、情報収集をする上で、「戦場に遅参した者ほど、珍兵器を持参する傾向」は肝に命じておくべきだ。
 
 

(2) 感染源はどこから?



 
 僕が口蹄疫感染を知ったのは、5月1日の宮崎県による自衛隊災害派遣要請の報道である。
防衛省・自衛隊:宮崎県において発生した口蹄疫への対応に係る災害派遣について(19時00分現在)
 
 当時、中央メディアは不気味なほどの沈黙を保ち、ほとんどの人が口蹄疫感染の事実を知らなかった。
 
 僕はこのニュースに驚き、あわてて現地の情報を調べた。
 その混乱した現場レポートを読み、元々「民主政権」に反感を抱いていた僕は、その不信感を確かなものにした。
 
 こうして、5月3日に「15行でわかる現政府の口蹄疫感染対策」というエントリをこのブログで掲載した。今、読み返すと、無用な誤解を招いたところが多いのだが、やがて、それを誰かがアレンジした「31行でわかる口蹄疫感染対策」というものが、ネットで流布されることになる。
 
 この「15行」から「31行」で何が追加されたかというと、「韓国が口蹄疫の感染源である」と断定するような内容だった。
 僕自身、「15行」は、素人による叩き台にすぎず、これをもとに、アレンジされるのは当然のことだと思っていた。
 だから、最新の情報が加えられた、より正確な情報にもとづいた「まとめテキスト」が作られたら、自分のブログでも紹介しようと構えていたのである。
 しかし、僕は「31行」をブログで掲載しようとは思えなかった。感染源を特定するのは安直だと思ったし、さらなる混乱を生み出すことになるだけであると感じたからだ。
 
 6月7日、つまり、このエントリを書いている本日に、農林水産省疫学調査チームの現地調査が始まった。
国道219号午後5時から通行止め 西米良 - Miyanichi e-press
 
 ただし、6月4日に移動制限が解除された、えびの地区に限定されたものだ。
 
 まだ、感染源は特定されていないのが現状である。
 そのことをまどろっこしいと感じているかもしれないが、世の中そういうものなのだ。
 
 4月20日から有益な情報を発信していた、農務省官僚・原田氏のtwitterによれば、韓国が感染源であると判断するのは時期尚早とのことだった。
 
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 韓国なのか香港なのか中国なのかを断定するような状況ではない、とのことだ。
 
 初期症状を見抜けなかった獣医師に責任を負わせようとする論調といい、感染源を韓国と断定したテキストが流布した風潮といい、どうして、人間は「犯人探し」に熱中するのだろうか。
 
 新たなる被害を心配する声もあるだろう。
 それは、あたかも、連続殺人犯が自分の街に潜伏しているような不安があるのかもしれない。
 しかし、感染源が特定されていない中でも、宮崎県の地域内「封じ込め」は成功している。
 
 
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 6月7日時点での、口蹄疫感染状況。青が処分済。
(データ:http://twitter.com/dogenkasento/status/15592785593
 
 現段階では、宮崎県二地域以外での感染は発覚していない。
 
 もし、今後、この口蹄疫のような伝染病が発生したときにも、「犯人探し」の情報が猛威をふるうのは心配だ。
 それよりも大事なのは、感染被害地域と感染対策についての情報だろう。
 
 法治国家とは、犯人を見つけて、それを処罰することで、被害者の溜飲を下げる、というようなものではない。
 たとえ、一個人が犯罪をおかしたとしても、それで社会体制がゆらぐようなことはあってはならないし、そのために法整備がなされているのだ。
 
 口蹄疫の感染源解明には、専門知識が欠かせない。
 憶測による風評には耳を傾けない勇気が、第三者である我々には必要だ。
 
 

(3) 宮崎県の初期対策に問題はなかったのか?



 
 
 宮崎の「尾崎畜産」社長の発言をもとにした、口蹄疫対策をまとめた良質なテキストがある。
 
大規模和牛生産をする尾崎畜産の尾崎社長自ら現状を発信する(前編) ーやまけんの出張食い倒れ日記
口蹄疫は全く収まっていない! 尾崎さんインタビュー(後編) ーやまけんの出張食い倒れ日記
 
 そのページでは、実際に畜産業に携わり、感染地域内に農場を持つ経営者による、県の初動対策への批判が記されている。
 

 10年前は、家伝法では20km圏内となっている範囲を50km圏内に拡大して、徹底的な消毒をした。通行する全車両の消毒もした。結果、最終的に30億の支出で済んだ。
 そして、10年前は宮崎の養豚も和牛繁殖・肥育もぽつんぽつんと少なかった。
 
 今回はその10年前の対応が生かされなかった。
 速攻で10km圏内の通行封鎖をして、殺処分すべきだった。
 消毒についても徹底的ではなかった。消毒ポイントを設けるのではなく、幹線入口道路のアスファルト表面をはがし、そこに消毒液を流しこむべきだった。それを国土庁に提案して了承を得たが、宮崎県警が「GW中だから」と認めなかった。
 県の初動はやはり認識の甘さがあった。
 
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2010/05/post_1518.html
 
 このような具体的意見であれば、多くの人は納得できただろう。
 しかし、多くの「県の初動対策批判」は、「ぞのまんま東」知事という、個人批判に終結していたと感じる。
 それは、今回の口蹄疫感染拡大を、赤松農水大臣一人の原因とし、「赤松口蹄疫」と名付けた論調と同じである。
 
 東国原知事は、芸能人「そのまんま東」であったことを最大限に利用していた。
 公務の合間をぬって、宮崎県の畜産物をアピールする知事の姿をTVで見た者は少なくないだろう。
 だが、東国原知事が、芸能人との二足のわらじを履こうとしていたわけではない。
 
 芸能人が政治家をすることを批判する人がいるが、すでになじみのある人間だからこそ、政治家としての資質が問えると僕は思う。
 「政治のプロ」である政治家だって、実は「選挙のプロ」にすぎないケースが多いではないか。
 名が売れているだけで、政治家の資質があるとは思えない芸能人立候補者を目にすることは少なくないが、そのまんま東が知事だった」ゆえに感染拡大を招いたとする論調は、正しくないと思う。
 
 東国原知事は、「家伝法」にのっとって、しかるべき対策を進めてきた。
 ただし、今回の口蹄疫感染は、「家伝法」では対応しきれないほど、甚大なものであった。
 
 しかし、その教訓は、6月4日に施行された「特措法」という成果をもたらすことができた。
 そして、県の初動対応を批判した先の尾崎畜産社長も、6月4日に収束宣言が出た「えびの地区」感染対策については、県の対応を絶賛している。
 
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http://twitter.com/ozakibeef/status/15525514804
 
 
 東国原知事は、感染が発覚した4月20日以降、現場の責任者として、記者会見だけではなく、twitterやブログを通じて、情報を提供してきた。
 その姿勢は「そのまんま東」が嫌いだった人も認めるべきだ。
 
 東国原知事の発言に、歯切れの悪いところや、感情的になるところが多かったのは、政府による財務支援が確かではなかったことにあるだろう。
 従来の「家伝法」では想定されていない感染拡大は、「県」だけで補填を保証できない金額に及んでいた。
 しかし、中央メディアが報じる、政府の対応は二転三転したものだった。
 以下、朝日新聞ウェブサイトから引用。
 

 (鳩山)首相は17日昼に赤松広隆農林水産相らと会談。
 その後、出席者の一人は記者団に、口蹄疫の対策費として「予備費から1千億円使っていいということだった」と紹介したが、平野官房長官は同日夕の記者会見で「まったく承知していない」と否定。
 首相は同日夕、記者団に「額はこれからだが、迅速性が求められているときには、予備費を使用することが正しい判断ではないか」と述べた。
 
http://www.asahi.com/special/kouteieki/TKY201005170458.html
 
 
 このような政府の迷走が、東国原知事の歯切れの悪い発言を生み、そのことが、現地農場主に殺処分をためらう不信感をもたらしたのではないかと考えている。
 宮崎県の初期動作には至らないところがあったが、その後の対策は万全をきしたものだった。
 ゆえに、政府はもっと早くから、全面支援の具体案を表明し、現地農場主の不安を解消すべきであったはずだ。
 
 6月8日に予定されている新内閣発足では、閣僚のほとんどが留任するのに関わらず、口蹄疫対策の担当大臣である赤松農水相は留任を辞退したという。
 それならば、正式な形で辞意表明をすれば良かったであろう。あまりにも都合よく、無責任な態度だ。
 
 感染拡大は、東国原知事や赤松大臣がもたらしたものではないと思うが、政治家としての赤松大臣の行動は許されるものではない、と思う。
 
 

(4) ワクチン接種はするべきだったのか?



 
 
 感染が拡大する前にワクチン接種をすべきではなかったのか、という意見が、医学関係者から出た。
 不思議なことに、畜産には門外漢であるはずの医学関係者の言葉を信じる人が少なくなかった。
 これにより、ワクチン接種をしない宮崎県の対応を批判する動きが起こった。
 
 なぜ、今回の口蹄疫感染で、ワクチン接種をしなかったのか。
 それは、スーパーに中国産の畜産肉が並んでいない理由につながる。
 
 「口蹄疫清浄国」とは、ワクチン接種をしていない畜産肉を生産している国家のことである。
 米国・豪国などの日本が畜産肉を輸入している国家は「口蹄疫清浄国」である。
 今の日本は「口蹄疫汚染国」となっているが、ほとんどの「清浄国」は「汚染国」からの畜産肉を輸入しないのが習わしだ。
 
 口蹄疫ワクチンには、次の二つがある。
 
(1)予防ワクチン
(2)戦略ワクチン
 
 日本では、5月18日から、殺処分対象の家畜にワクチンを投与することを決定した。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100519-OYT1T00034.htm
 
 これは「戦略ワクチン」であって、「予防ワクチン」ではない。
 
 「予防ワクチン」を使う代表国家が中国である。
 中国では、口蹄疫ワクチンを接種することで、感染を防いでいる状況なのだ。
 だが、予防ワクチンは新たな抗体をもたらす可能性もあり、万全なものではない。
 だから、予防ワクチン接種をする国家は、感染している家畜の有無に関わらず、「口蹄疫汚染国」とされるのだ。
 
 日本を初め、多くの国家は、「汚染国」であることを理由に、中国の畜産物輸出を受け入れていないのである。
 
 「ワクチン接種しない」ことについて、陰謀論としか思えないような見当外れな意見が、ネット上を賑わせたこともあった。
 だが、前述した尾崎畜産社長をはじめ、多くの関係者が、予防ワクチン接種は、日本の畜産業を考える上で、選択することはできない判断であったことを明確に発言している。
 
 僕は「遺伝子組み替え」大豆ですら受け入れない日本の消費者層が、「予防ワクチン」に汚染された畜産肉を受け入れるとは考えられない。
 安価な中国産肉を、日本人が望んでいるとは、到底思えないのだ。
 
 ワクチン接種をしなかったことが、宮崎県の初動の遅れを招いたわけではないことは、認識すべきだろう。
 
 

(5) 赤松農水大臣の外遊は批判されるべきか?



 
 
 宮崎県が口蹄疫対策に追われているなか、赤松農水大臣は予定通りに、4月8日から5月8日にわたって、長期外遊を行った。
 このことが批判されるべき行動であるのは言うまでもない。
 現地の農場主にとって、政府の全面支援が明らかになっていない状況で、命じられた殺処分を下すことは、大きな不安をもたらしたはずだ。
 
 この赤松大臣の外遊目的を「カストロに会いたかっただけではないか」と批難する向きが多い。
 しかし、僕が調べたかぎり、カストロ兄弟の弟ラウルに会ったとは報じられているが、兄フィデルと会ったことを知ることはできなかった。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100505/plc1005051516004-n1.htm
 
 フィデル・カストロは、1959年にキューバ革命を樹立し、以降50年にわたって、米国と断交しながらも「平等原理主義」をつらぬいた独裁的政治家である。わずか十数名のゲリラ兵を率いて国を転覆させたその軍事的手腕は、世界中でファンが多い。
 ラウル・カストロはその実弟であり、キューバ革命のときから、司令官の一人として活躍したが、軍事的に目立った功績をのこしていない。
 「カストロに会いたかった」といえば、兄フィデルのほうではないか、と僕は考えるのだが、どうだろうか。
 
 そして、キューバ革命を調べた僕からすれば、口蹄疫感染で揺れる母国をさしおいて外遊した赤松農水大臣の政治姿勢は、弟ラウルはともかく、兄フィデルには許しがたいことだったと思う。
 「農村革命」から発したキューバ革命は、その建前として、農業重視の政策を取ってきた。
 社会主義国家では「労働奉仕」というものがある。フィデル・カストロは休日にも、農場に顔を出し、その収穫を協力することで、国民に政治姿勢をアピールした。
 1961年の「プラヤ・ヒロン侵攻事件(ピッグス湾事件)」で、米国と対立した際に、フィデルがこう発したことは有名だ。
「捕虜を返してほしければ、米国製トラクターをよこせ。ソ連のトラクターは使いものにならないんだよ!」
 
 ソビエト連邦の崩壊、中国共産党文化大革命、そして亡命者がたえないキューバ、と歴史を振り返れば、社会主義国家体制に問題があるのは明らかだ。
 しかし、日本の「左翼」の論調はそれ以前の問題で、「反米」を根底とした実態のないものだと感じる。
 
 1970年、日米安保条約の延長を阻止できなかったことで、当時の学生運動の主体だった「新左翼」の過激派は国外に活躍の場を求めた。
 ある者は、イスラエルに対抗すべく、アラビアに渡った。1972年、彼らはテルアビブ空港乱射事件という、世界をゆるがすテロ事件を起こした。
 ある者は、航空機をハイジャックし、北朝鮮に渡った。世にいう「よど号ハイジャック事件」である。その後、彼らの半数は死に、残りの者は日本の帰国を要請しているものの、政府は許可を出していない。
 そして、ある者はキューバに渡った。フィデル・カストロ新左翼の若者を丁重に日本に返した。日本の技術者たちに敬意を抱いていた彼だが、テロリズムを賛美する彼らを留めることは、キューバに何の益をもたらさないと即断したからだ
 ゲバラカストロ兄も、テロリズムには否定的であった。米国CIAのような「カストロ兄暗殺」という手法を、キューバはとったことはない。
 
 地政学を知るうえで「毛沢東のゲリラ理論」を知らなければ話にならないのと同じように、資本主義を考えるうえで「共産主義国家の経緯」を知らないことは片手落ちだと思う。
 「カストロに会いたかった」ことを、赤松農水大臣の外遊目的と見なす人々は、果たして、キューバのことをどれぐらい知っているのだろうか。「左翼はダメ」という一面的な見方しかしていないのではないか。
 
 そして、もし、赤松農水大臣が「カストロに会いたかった」ために外遊したのが事実ならば、あきれるしかない。
 社会主義国家には、批判するべきところは多いが、口蹄疫感染のような農業問題の際は、まずは現場にかけつけるのが、革命を背景になりたった政権の責務である。
 その点を見習わずに、のこのこと外遊に行ったとすれば、いったい、赤松広隆という人は、キューバ革命の何を知っているのか、と思う。
 もし、米国に断交したことにヒロイズムを感じたのならば、それをもたらしたリーダーとしてのフィデル・カストロの果断な決断力と、それによってもたらされたキューバの現状ぐらいは知るべきはずだが。
 
*これは、普天間基地移設問題での、鳩山政権の右往左往した発言からも感じたことだ。
 日米安保条約を損なうような行為をするならば、それ相応の覚悟がなければなるまい。
 東アジアという、世界有数の軍事力が結集した地域で、「抑止力」を欠いた国家運営が、どのような弊害をもたらすのか。
 平和主義者は、このことを徹底的に議論するべきだ。
 「第9条」は日本の常識であって、世界の常識ではない。
 
  

(6) 種牛助命という「特例」は認められるべきか?



 
 
 5月下旬の東国原知事による「宮崎種牛助命」の動きは、少なからずの反発を招くことになった。
 僕も最初はかなり否定的な見解をブログで掲載したものだ。
 
 しかし、49頭の種牛のうち、二頭の発熱が判明していた状況で、それを知らせなかった知事に、「怒りを覚える」とまで表現するブログ(http://d.hatena.ne.jp/what_a_dude/20100528/1275039006)に、多くのはてなブックマークが集まったことには、首をかしげざるをえなかった。
 発熱から24時間以内に口蹄疫感染であると断定することなど、できるはずがないではないか。
 彼らの知事に対する怒りは、事実誤認と偏見による「正義欲」がもたらしたものであろう。
 
 なお、二頭のうち、一頭は風邪による発熱であった。
 そして、その「過敏」すぎる風潮が、5月31日の「沖縄県石垣島での感染疑い」という無用な報道をもたらしたと考える。
 
 スーパー種牛については、五頭が抗体検査を終えている。
 6月中に最終判断が下される予定である。
 
 この助命は「家伝法」にはない特別措置である。
 空気感染するほど感染力の強い「口蹄疫」は、感染が発覚すれば、その農場全体の家畜を殺処分するように定められている。
 ゆえに、種牛を管理する「家畜改良事業団」の肥育牛から感染が発覚した時点で、全頭処分しなければならないのが従来の「家伝法」に基づく措置だった。
 
 だが、今回の五頭に関しては、専門家集団である「牛豚疾病小委員会」の了承をとりつけ、県と農水省論議の末、特別措置が実現したのだ。
 僕はこれを、東国原知事の政治的成果だと見る。
 感情をふりかざした訴えは、本質を見誤らせ、事実誤認の情報を流布させる結果を招くが、人を動かす力があることは忘れてはならない。
 
 このような特例措置に不満を抱く畜産業者は少なくなった。知事に謝罪を要求した「養豚協会」もその一つである。
 その「養豚業界」に電話で質問をした人のブログ記事を紹介しよう。
http://blogs.yahoo.co.jp/kira_alicetear/25390614.html
 
 現場が混乱している状況の中で、電話対応をした事務員の発言が感情的なのは差し引いて受け止めるべきだろう。
 養豚業者からすれば、「種豚殺処分には躊躇しなかったのに、種牛殺処分にあらがう東国原知事はおかしい」と考えても仕方ないかもしれない。
 
 これらの特例措置は、東国原知事がブログで記したように「家伝法が実状にそぐわない」ためにもたらされたものだ。
 「種牛助命」は、それを象徴する一例だが、今後は、この教訓をもとにして策定された「特措法」の説明を、県や国はしていかなければならないはずだ。
 
 そして、首班指名から五日後に任命される新しい農水大臣には、赤松農水大臣が果たさなかった説明責任をきちんと行い、現地の人々の不安をやわらげてほしいと思う。
 

(7) まとめ



 
 
 この口蹄疫問題について、様々な論調があるが、それは「口蹄疫問題に注視した」時期が関係していると思う。
 
 僕を含めた5月1日〜3日で事実を知った者は、鳩山政権の無策を批判し、10年前に比べて感染が拡大しているのは民主政権のせいであるとすら断定した。
 5月17日ごろの中央メディアの報道では、県の初期対応、そして初期症状を見抜けなかった獣医師に、あらぬ批判が集まった。
 5月24日から活発化した「種牛助命」に関しては、「そのまんま東」知事への批判が多かった。
 
 一つのニュースに接したとき、その本質を見抜くのに、人間は少なからずの時間を要する。
 僕は今回の口蹄疫問題で、それが「二週間かかった」と自己分析している。
 だから、中央メディアが大々的に報道を開始した5月17日頃に事実を知った者が、種牛助命報道の中で、本質を見誤った感情的発言を吐露したのは、仕方がないことかもしれないと思う。
 
 だが、今後も「二週間かかる」とあきらめてしまうわけにはいかない。
 この口蹄疫感染問題を教訓に、僕はよりよい情報収集をし、本質に近い見解をなるべく早く出せるように努めなければならないと考えている。
 
 僕は今回の口蹄疫感染が無用の混乱を招いたことの理由として、「日本という国家への不信感」があると思う。
 4月下旬の報道量では、地方メディアと中央メディアの温度差が激しく、それがゆえに「国は宮崎県を見捨てるのではないか」と考えた。
 そして、その理由を「東国原知事が、民主党に否定的なため」とまで考えた。
 それは、おおよそ事実に反する。4月20日から農水省では様々な対策をとってきたし、農場主への補填プランを立てていた。
 その説明責任を鳩山政権が果たしたとは言えないが、我々はネットでその情報源にアクセスすることはできたのだ。
 もし、日本に対する不信感がなければ、我々は該当省庁の公式サイトにアクセスし、正確な情報を入手することができただろう。
 
 もちろん、「正確な情報」で人は動かされるのではない。
 「スーパー種牛助命」については、東国原知事の必死の訴えが、国を動かして、特別措置がされるまでに至った。
 感情によって動かされる人間の力を我々は知らなければいけないし、その熱を冷ますやり方を身につけなければならないと思う。
 
 今回は(今回も?)防疫関係をほとんど知らない僕なりに、口蹄疫問題についてまとめてみた。
 専門家の意見に比べると、あまりにもノイズがひどい(余計なことが多い)内容だが、それぞれ、自分が口蹄疫問題について、どのように受け取ったのかを考えるきっかけになれば幸いだ。
 
 そして、口蹄疫対策は、まだまだ始まったばかりである。
 
 最後に、この記事で何度も引用した、尾崎畜産社長の言葉から。
 

 今日もある雑誌社の記者さんが来て、口蹄疫についての取材をされていった。そして途方に暮れていた。和牛のことだけを理解するにも一日以上かかるのに、養豚のことも理解しないといけない。その生産のことだけじゃなく流通のことまで。僕は15年かけて農と食の業界の理解をしてきた。それをどんなにはしょっても、数時間では伝えきれない。数年経ったら他の部署に異動させられてしまう、農と食のバックボーンのない記者さんが、きちんとした記事を書くのは大変だ。
 
 マスコミのおかしな報道は、もしかすると単に「よくわからない」から、起こっていることなのかもしれないな、と思ってしまった。
 
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2010/06/20km.html
 
 獣医師の初期対応およびワクチン接種をしないことへの批判は、専門家が即座に否定するほどのありえない見解なのだが、そのような報道を平気でするのが、現在の中央メディアの現状なのだ。
 我々はそのことを知った上で、メディアに接しなければならないだろう。
 
 
 そして、いま。
 まだ、組閣もされていないのに、首班指名から五日に及ぶ政治的空白をあけているのに関わらず、世論調査が実施され、その支持率が報道されている。
http://www.47news.jp/CN/201006/CN2010060501000475.html
 
 こんな報道に何の意味があるのだろうか。
 
  
 まだ、現地では口蹄疫対策は続いている。
 第三者である我々は、まずは、誤報による不用な混乱をもたらさないよう努めるべきだと思う。
 
 あまり僕には経済的余裕がないので、金銭的支援をすることはできないが、現地で対策に追われる人を応援するために、この記事を書いたつもりだ。
 
 がんばれ、宮崎!