種牛49頭殺処分をめぐる、宮崎県知事と農水省官僚のtwitterから

 
 みずからの家畜の殺処分を命じられた農場主の悲嘆の声を知るたびに、胸がつまる思いがするのは僕だけではないはずだ。
 家畜は「経済動物」にすぎない。それを「我が子」のように育てたところで、その家畜の価値は、人間の市場価格でしか測れない。
 しかし、農場主が種牛の誕生日をケーキで祝うほど、愛をこめて育てたからこそ、「宮崎牛」というブランドが成り立ったのだし、「日本産」の信用が生まれた、と考えるのはセンチメンタルだろうか。
 
 
 24日、種牛49頭の殺処分が正式に決定された。
宮崎の口蹄疫問題、種牛49頭の殺処分正式決定 (読売新聞)
 
 東国原・宮崎県知事は、この国の決定に応じない方針を見せている。
口蹄疫 宮崎・東国原知事、あらためて種牛49頭の救済を求める考え表明 (読売新聞)
 
 インターネット上では、この種牛処分に反対する署名を集める動きが起きた。
<口蹄疫>種牛殺さないで 6000人が「助命」署名 (毎日新聞)
 
 東国原・宮崎県知事は、自身のtwitterで次のように語っている。
 
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家伝法は分かる。法の遵守も分かる。しかし、その家伝法自体が実態や時代に明らかに合って無いのだ。
迅速な法改正や特別措置等で実態や現状に合った対応をすることが正しく政治主導ではないだろうか。
 
http://twitter.com/higashitiji/status/14613604697
 
 
 しかし、先日に紹介した農務省官僚のtwitterでは「ただちに殺処分なさなければならない」としている。
 
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口蹄疫の「と殺」は法16条に基づき、家畜の所有者は誰の命令にも依らず直ちに殺さなければならないもの。
鳥フルのような17条に基づく知事の殺処分命令によるものと異なる 。
従って、現時点で法令違反してるのは改良事業団理事長で、県も国も命じてもいない殺処分を取り消すことは出来ない。
 
http://twitter.com/hideoharada/status/14656982816
 
 感染力が強い口蹄疫に関しては、東国原知事にその殺処分を取り消す権限がないのが、実情であるようだ。
 
 なぜ、口蹄疫に感染した農場では、その他の家畜を殺処分しなければならないのかについては、以前の「ツイートまとめ記事」で解説した。
 

 口蹄疫は人体に影響ないとはいえ、その加工段階でも、感染が拡大する可能性が高い。
 そのために、口蹄疫感染が発覚した場合は、農場単位で殺処分しなければならないのである。
 
 そうでないと、畜産業が経済としてなりたない。
 その義務を怠る農場に行政が支援することは許されないことだ。
 
 もちろん、このような対策は日本だけではない。
 口蹄疫の感染力は強く、その封じ込めができない国家は、国際的に批判されるのが当然のことなのだ。
 
http://d.hatena.ne.jp/esu-kei/20100519/p1
 
 ごく一部の情報を紹介しただけだが、これだけでも、国の「ただちに殺処分」という命令は、理にかなったものであることがおわかりだろう。
 しかし、頭ではそう納得しても、心では「種牛の殺処分取り消し」を求めるネット世論に同情する気持ちもあるのは僕だけではあるまい。
 
 やはり、それは、メディアや政治家が、口蹄疫についての正しい知識を伝える努力を怠ったからではないか。
 政府の「現地対策本部」は5月17日になって、やっと立ち上がった。
 そして、閣僚内の意見の不一致が連日のように報じられている。
 
 以下、asahi.com(朝日新聞社)から引用。
 

 首相は17日昼に赤松広隆農林水産相らと会談。
 その後、出席者の一人は記者団に、口蹄疫の対策費として「予備費から1千億円使っていいということだった」と紹介したが、平野官房長官は同日夕の記者会見で「まったく承知していない」と否定。
 首相は同日夕、記者団に「額はこれからだが、迅速性が求められているときには、予備費を使用することが正しい判断ではないか」と述べた。
 
http://www.asahi.com/special/kouteieki/TKY201005170458.html
 
 このような迷走を続ける中央政府を、信じろ、というほうが無理というものだ。
 
 これでは、農水省官僚の不断の努力も伝わらないのではないかと思う。種牛殺処分を「ただちに」と命ずる現地大作本部長・山田農水副大臣の言葉は、関係者にとっては「宮崎県の畜産業を滅ぼす気か!」と感じるものかもしれない。
 
 現地に深く関わっている東国原・宮崎県知事には、合理的な判断は下せなくなっているのだろう。だから、現場責任者と実務者との間で、国民への説明を果たすべき農水大臣以下国会議員が、うまく間を取り持つべきなのだ。
 
 山田農水副大臣の言葉は、どうも官僚の実務者(スペシャリスト)を鵜呑みにしたものと感じられる。それは山田農水副大臣口蹄疫に関する知識が足りないせいだろう。だが、そうだとしても、農場主に理解を求めるやり方ができるはずである。そのような説明責任を果たす必死さが、現政権にはまったく感じられない。
 
 それこそが、選挙で選ばれた政治家の果たすべき役割ではないだろうか。迅速な対応という実務だけで人々の不安が癒されないからこそ、政治家という職業が存在しているのだから。
 
 口蹄疫への正確な知識がなかった政府とメディアが、国民感情を悪化させている。支持政党がどうであるかはさておき、僕は現地関係者の応援をしながら、感情的にならないよう努めることが、在野世論の果たすべき役割だと思う。
 
 今回の口蹄疫問題は、まずは、Twitterで次のユーザをフォローするべきだ。TVを見る必要はない。
 
Twitter/東国原英夫 (宮崎県知事)
Twitter/原田英男 (農水省官僚)
 
 
 2chの関連スレで、事実関係を把握するのは、素人である僕にはひどく困難である。あまりにも感情論が幅をきかせている。
 そして、現政権がまだまだ続くようでは、政府の説明責任は期待できない。また、中央メディアの見当違いな意見を鵜呑みにするのも時間のムダだ。
 今後、我々は冷静な判断をくだせるだけの情報を仕入れるように、自衛していかなければなるまい。
 
 
【追記】
 
 今回の件について、東国原知事がみずからのブログに記しています。
家伝法及びガイドライン | 東国原英夫オフィシャルブログ「そのまんま日記」by Ameba
 
 果たして、この知事の発言がどれほど事実に基づいているのか、そして、殺処分をしないだけの説得力ある理由になりえるのか。
 冷静に事実関係を見定めていきたいと思います。
 
 
【関連エントリ】
僕なりにまとめた口蹄疫感染問題 - esu-kei_text