はがない最終巻が俺の二次創作に比べてクソだった理由を、各ヒロイン別に検証してみる

 

 
 前巻から1年2カ月の期間をおいて発刊された、シリーズ最終巻『僕は友達が少ない11』は、不満というより呆れ返る内容だった。
 
(1)幸村と付き合うようになった小鷹に、星奈はあっさりと引き下がり、
(2)友情にこだわっていた夜空は、星奈との友情を特に発展させず、
(3)カノジョを持った小鷹と理科との友達関係は日常に埋没し、
 
 小鷹が高校卒業するまでのエピソードが特に盛り上がりもなく羅列されているだけなのだ。これは小説ではない。
 
 はがない最終巻の各章タイトルには、卒業式までのカウントダウンがある。
 まるで夏休みの日記をまとめて書く子供と同じ心境である。
 小鷹を卒業させるべく、原作者は1年3カ月分の行事を設定し、それを律儀に時系列順にまとめて書いた。
 結果として、達成感に満たされた原作者と、途方に暮れた読者が残った。
 
 ところで、最終巻が出るまでの1年2カ月の間に、僕は隣人部の結末を描いた二次創作を書いた。僕なりに『はがない』シリーズにケリをつけたかったのだ。
 
・僕達の友情は儚い
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5798186(pxiv)
http://d.hatena.ne.jp/esu-kei/20141123/p1はてなダイアリー内・全13回)
  
 原作最終巻が出たことで、その二次創作はお役御免だと思ったのだが、原作のあんまりな出来に驚き、改めて自分の二次創作を読み返すと、原作最終巻よりもマシだと感じた。
 少なくとも、僕が書いた二次創作のほうが、読者の満足がいく『はがない』シリーズの結末ではないかと。
 
 今回は、原作最終巻と僕の二次創作での各ヒロインの行動を比較することで、原作最終巻がいかにクソだったかを検証してみる。
 個人的見解全開の記事なので、ご了承を。
 
 

(1)柏崎星奈 ――物分りの良い失恋肉に輝きは戻らず

 
「で、あのヘタレの言葉をうのみにして待っている間に幸村に寝取られたというわけか。ハッ、とんだお笑い草だな! だから貴様はうんこなのだっ! その胸にぶら下げた脂肪のカタマリは、ただの飾りか?」
 
 僕の二次創作で、小鷹が幸村と恋人関係になったと聞かされて呆然とする星奈に、夜空はこんな罵倒を浴びせる。
 
「そんな下品な身体をした淫乱なメスブタの分際で健気な乙女を演じていたとは、滑稽以外の何者でもない! まさに宝ならぬ肉の持ち腐れというやつだな! ひょっとしてあれか? 貴様の好きなギャルゲーに出てくる清純ヒロインの真似事でもしてたのか? そういう演技は鏡を見てからするんだな! 貴様の役はどう見ても、B級映画で真っ先にサメに食い殺される頭の弱いブロンド女ではないか!」
 
 原作10巻の時点で、小鷹争奪戦の大本命であった柏崎星奈は、なぜ楠幸村に敗れたのか?
 その理由は後述するとして、9巻以降の星奈の行動はこんな罵声を浴びせられても仕方のないものだったと思う。
 僕の二次創作では、星奈がこの夜空の毒舌に反発するところから動き始める。
 
 しかし、原作最終巻にて、星奈は幸村と付き合う小鷹を許してしまう。それからの星奈は単なる隣人部部員にすぎなくなる。
 と思っていたら、進学は小鷹と同じ大学同じ学部にしているのだ。小鷹高3のクリスマスにて、幸村はフラれているので、結果として、原作11巻は「幸村ルート星奈エンド」となる。
 
 ただ、原作9巻で「我慢してくれ」といって、原作10巻で幸村の告白に応じるような小鷹を、星奈は「恋愛対象」として見ることができるのだろうか。
 土壇場で自分を選ばなかった男子を、生涯の伴侶として信じることができるのだろうか?
 とても金髪巨乳女子高生お嬢様という高スペックな星奈には不相応な展開である。星奈が小鷹にこだわる理由が、読者にはサッパリわからない。
 
 結論として、小鷹が幸村と付き合うのを許した時点で、柏崎星奈というヒロインの輝きは損なわれたといえる。
 
 僕の二次創作では、星奈は電話で小鷹から幸村と付き合うようになったと聞かされる。具体的には、以下の章である。
 
僕達の友情は儚い(3)「あんたになにがわかるのよ、夜空!」
 
 ここで小鷹は「ダメな男にはダメな男なりの幸せってやつがあるんだよ!」と星奈に言っている。
 9巻以降、星奈は小鷹の良き理解者ではなかった。結婚願望を押し付けるだけの女子にすぎなかった。そんな星奈に、小鷹の心は離れてしまっていた。小鷹が心を寄せるのは、友達となった理科、そして、自分の現状をもっとも理解していた幸村に向かっていたのだ。
 星奈といえば、みずからのスペックの高さを誇る言動ばかりが目立っていた。10巻のクリスマス会がそうである。星奈はみずからの崇拝者のためにプレゼントを受け取っていたとき、せめて小鷹に「あんたはあたしのマネージャーなんだから手伝ってよ」ぐらいは言うべきだっただろう。
 また、星奈が小鷹争奪戦のライバルである後輩コンビよりも、夜空ばかりを気にしていたのは、10巻の「人狼」のリプレイでもわかる。小鷹の本心を見抜けなかったのに婚約者気分だったのは、愚かというほかない。
 
 だが、それでも柏崎星奈には他ヒロインを圧倒する魅力がある。そして、星奈は小鷹の良き理解者ではないが、その愛情は一途なものだった。
 結局、小鷹は高嶺の花よりも野百合を愛でる男子だった。つまり、小鷹に星奈はオーバースペックだったのである。
 だが、僕はそれでも柏崎星奈には高嶺の花であり続けてほしかった。小鷹に選ばれなかったのに、小鷹をあきらめない地味キャラになるのではなく。
 星奈が高嶺の花であるのをやめたとき、彼女の輝きは失われ、『はがない』シリーズの魅力もうせた。平凡な恋愛は幸せなものである。ただ、それはわざわざ小説にすることではない。
 
 せめて、その輝きが放つ最後の発光を書くべきではなかったか。僕は二次創作でそれを書いたのだけれど。
 
 

(2)三日月夜空 ――青春ドラマを愛したパクリ女王は復活せず

 
「ええい、肉と友達ごっこをしている場合ではない!」
 
 原作最終巻で、小鷹が幸村と付き合うことを聞かされて、夜空がとった反応がこれである。
 10巻で夜空と星奈が友達と認め合ったことは『はがない』シリーズの転機であったはずだ。
 例えば、ラノベ人気作家の二次創作をまとめた『僕は友達が少ない ゆにばーす』では、どの作者も夜空と星奈の言い争いを中心にすえて物語を展開している。
 

僕は友達が少ない ゆにばーす (MF文庫J)

僕は友達が少ない ゆにばーす (MF文庫J)

 
 夜空と星奈は、『はがない』の二枚看板である。その両者の感動的和解を、原作最終巻はブチ壊したのだ。
 大半のファンは、夜空の「友達ごっこ」というセリフに唖然としたのではないか。
 
 というのは、夜空というヒロインは「友情」というものを相当に重視していたからである。
 それは小鷹の気を引くためだけだったという声もあるだろう。
 ただ、青春ドラマの脚本をパクった夜空には、自分なりの「友情論」があったのではないかと考える。
 
 僕の二次創作では、夜空と星奈の友情がテーマのひとつである。
 小鷹にフラれた星奈を夜空は毒舌をはきながらも、良き理解者としてなぐさめようとする。
 具体的にいえば、次の章にあたる。
 
僕達の友情は儚い(10)「友達だから、できること?」
 
 しかし、夜空が星奈をなぐさめるには、一つの問題がある。
 原作最終巻の夜空は小鷹に未練タラタラだった。そんな夜空では星奈をなぐさめることはできない。
 だから、僕の二次創作では、12月上旬にオリジナルエピソードを挿入している。
 
僕達の友情は儚い(8)「お、お前にソラの何がわかる?」
 
 僕の二次創作では「夜空が生徒会でかっこいいヤツを演じるようになった理由」が、原作とは異なっている。
 僕の二次創作の夜空は、小鷹のためではなく、思い出のタカのためでもなく、自分の中にいるソラのために、かっこいいヤツを演じようとするのだ。
 いわば、小鷹依存からの脱却である。
 
 原作9巻10巻では「三日月夜空、復活」をキャッチコピーにしていた。しかし、この「復活」のプロセスが僕には納得しかねるものだった。
 原作9巻で小鷹は星奈に向かって「隣人部がどうしようもない状況なので、今は恋人になれない」と返事をした。それを聞いた星奈や理科が思い描いたのは、夜空のことであっただろう。
 夜空問題に決着をつけるまで、自分は誰とも付き合わない。小鷹はそう宣言したように感じられた。しかし、夜空問題は実姉である日向と仲直りするだけで解決するものであったのか。小鷹依存を克服しなければ、夜空復活とはいえないのではないか。
 小鷹は夜空に星奈と相思相愛の仲だと宣言し、夜空にもそう伝えたのだから。
 
 小鷹が幸村と付き合うと聞かされて、夜空が星奈を「友達ごっこ」と切り捨て自分アピールをしたことに、僕を含め読者はガッカリしたことだろう。
 原作者は、三日月夜空とはその程度の女子だ、理想を持つな、と言うかもしれないが、その程度の女子ならば、読者は『はがない』シリーズに思い入れをいだかなかったのではないか。
 
 結局、夜空と星奈の友達設定が原作最終巻でいかされたのは、夜空が母親からDVを受けるという、重い話のあとである。ついでに、その前の夏合宿で、カノジョ持ちの小鷹に夜空は告白している。どこまでも自分本位な女である。
 
 原作者は『はがない』の主人公は夜空であると語る。たしかに、隣人部を作ったのは夜空であるが、もし、その設立動機をあらかじめ読者が知っていたら、『はがない』シリーズは人気を集めただろうか。
 小鷹視点だから、夜空のミステリアスなカッコよさが描けたのだ。
 
 やがて、星奈の台頭によりそのメッキが剥がされたのだが、そんな星奈を友達として認めることで夜空の物語は完結できたはずだ。
 夜空のいう「友達」は、いわゆるリア充のような軽いものではない。たいていの人にとっての「親友」が夜空にとっての「友達」なのだ。
 そして、小鷹を愛していた夜空だからこそ、小鷹にフラれた星奈をなぐさめたことができたはずなのだ。
 
 原作最終巻で明らかになった、隣人部ポスターの隠されたメッセージとか、夜空の将来について、僕はあまり興味がない。
 幼馴染との恋に破れた夜空が、そのライバルである星奈を友達として認め、どんな友情をはぐくむのか。無論、毒舌のない夜空は夜空ではない。いつものように、夜空は星奈を罵倒しながらも、その最大の理解者であるのだ。
 
 僕の二次創作は、そこらへんがうまく書けたと思うと自画自賛している。それに比べると、原作最終巻の夜空のエピソードは、どうも読者の気分を悪くするだけのものにしか感じられないのだ。
 
 

(3)楠幸村 ――原作者はギャルゲのシナリオライターに怒られるべき

 
 原作最終巻にて、小鷹と幸村は付き合うのだが、特にラブラブなエピソードはない。原作6巻のほうが、はるかにインパクトがある。だから、一年後のクリスマスで幸村がフラれても「あ、そう」と思う。それから、隣人部に復帰する幸村もすごいが、戸惑わない小鷹もすごい。二人とも、どれだけ面の皮があついのか。
 
 原作最終巻は表向きは「幸村ルート星奈エンド」となるが、ギャルゲのシナリオライターからすれば、「幸村ルート」と称するには話にならないレベルだろう。あまりにも幸村関連のイベントが少なすぎる。ギャルゲライターに原作者は説教を受けるべきである。この程度の内容で、読み手を感動させると考えるのは甘すぎると。
 
 さて、原作9巻10巻までの、幸村の立ち回りは見事であった。
 遊佐葵と友達になった幸村は、小鷹から一歩ひくようになる。これで、夜空や星奈、そして理科までも、幸村に関心を持たなくなる。
 例えば、9巻での「ロマ佐賀」プレイ中で、夜空と星奈は、それぞれ幸村に向かって、とんでもない侮辱発言をする。恋のライバルとして眼中にすらないといわんばかりだ。
 いっぽうの幸村は正確に小鷹の心境を見定めていた。自分のライバルは星奈ではなく、理科であると考えていた。10巻の「人狼」リプレイでそれはわかる。
 
 そして、小鷹の本心を喝破し、動揺したすきに、告白の承諾を引き出すことに成功する。天晴である。
 
 なお、僕の二次創作では、幸村の告白に応諾した小鷹はその後に動揺するものの、その逃げ癖を知っている幸村はあせらなかった。「困ったら理科どのに相談しては?」と優しく声をかける。実は小鷹が理科に相談することで、二人の友情が破滅すると幸村は知っていたのだ。小鷹が理科に「おまえのことが好きだった」と言えば、二人の関係は粉々に終わってしまうのである。
 この爆弾については、僕の二次創作では最後から二番目の章でくわしく書いている。
 
僕達の友情は儚い(12)「全部、うちが悪いんじゃ」
 
 いっぽう、原作最終巻では、あらかじめ告白の前に、理科に報告していたことになっている。幸村なりのスポーツマンシップであろう。結果、小鷹と理科の友情は保たれるが、原作10巻のような輝きは二度と戻らなくなる。
 なお、原作最終巻で小鷹が理科に想いを告白するのは、8月の同人誌即売会に二人で行ったときのことになっている。それまで、小鷹は理科と何度も二人きりになっていたはずなのだが、自分の想いを伝えなかった理由はどうもよくわからない。
 とりあえず、その告白シーンは「ほろにがい青春の思い出」としてはピッタリであろう。三年夏合宿の夜空の告白にも似て。
 
 こうして、小鷹の恋人になった幸村だったが、原作最終巻では、一年間付き合ったものの、フラれてしまう。告白のときは、あれほど強気だった幸村が、なぜ小鷹の心を繋ぎ止められなかったのかはよくわからない。幸村の母との約束があったせいかもしれないが、ただ単に「ラノベの都合上」によるものであろう。
 
 ということで、幸村ルートの物足りなさは、この原作者がギャルゲライターに劣る力量だったという理由にすぎない。一年後に、小鷹が幸村を選ばなかったという過程を描くにせよ、決定的となるイベントを書かなかったのは努力不足であろう。
 
 

(4)志熊理科 ――意固地になってメインヒロインになりきれなかった女友達

 
 原作8巻での星奈の告白に逃げだした小鷹を正面から受け止めようとしたのは理科だった。その結果、理科は小鷹の友達となり、幸せな12月を送ることになる。
 原作9巻10巻での最重要ヒロインは理科である。2巻の初登場時から考えると、もっとも成長したキャラといえるだろう。
 
 さて、その12月に理科は小鷹にヨコシマな考えをいだかなかったのか。
 本当に友達のままでいたかったのか。
 原作では、あまりにも不透明である。
 
 従来、異性の友達と恋人の違いは「肉体関係があるか否か」で考えられることが多い。
 では、理科は小鷹に抱かれたくなかったのか?
 9巻最後のエピソードからして、どうもそうは考えられない。
 つまり、ラノベらしからぬ話をすると、理科は処女喪失の相手は小鷹しかないと考えていたのではないか。
 
 それでは、どうして、理科は友達関係にこだわったのか。
 その理由は、小鷹が理科をあまりにも軽く受け止めていたからだろう。
 理科が原作9巻で各ヒロインの好感度を小鷹から聞き出したとき、自分の名前は出さなかった。小鷹もそれに言及しようとしなかった。
 小鷹からすれば、理科は逃避場所にすぎなかった。自分のせいで崩壊した隣人部を立て直すために、小鷹は夜空でも星奈でもなく、もっとも気軽に話せる理科だけを頼りにした。
 
 もし、小鷹が12月の時点で理科に「おまえが好きだ」と告白しても「今さらどうしようもない」となるだろう。理科は星奈への後ろめたさを払しょくできないはずだ。幸村とちがって、理科は星奈を相当に苦手としている。
 おそらく、理科は星奈と小鷹が付き合う未来を確信していたはずだ。そして、それでも保たれる友情を模索していたにちがいない。
 
 これらは、僕の個人的見解にすぎないのだが、原作最終巻を読んでも、理科の本心はイマイチわからない。
 ただ、小鷹と幸村の関係を認めたとたんに、理科が原作9巻10巻での輝きを失い、隣人部員の一人に成り果てたのは事実である。
 
 その後の生徒会選挙での、幸村と理科とのバトルは楽しい人には楽しいかもしれない。僕にとっては茶番にすら感じなかったが。
 
 僕は小鷹と理科の「男女の友情関係の美しさともろさ」を二次創作で書いたわけだし、原作者にそれを本気で描いてほしかったと思う。
 「時の流れに身を任せ」という原作最終巻の展開は心底ウンザリした。
 
 

まとめ ――小鷹視点・時系列順にこだわって自滅した原作者

 
 原作最終巻の失敗は「小鷹視点・時系列順」という手法にこだわったことが最大の理由であろう。
 
 なぜ「小鷹視点・時系列順」で書かなければならなかったのか。
 それは、8巻と9巻の間に発刊された、各ヒロイン視点で描いた『僕は友達が少ない コネクト』というオムニバス集で書かれている。
 

僕は友達が少ない CONNECT (MF文庫J)

僕は友達が少ない CONNECT (MF文庫J)

 
 なぜ、9冊目の本編であるこの本を「9巻」とせずに「コネクト」と題したのかについて、原作者はこう書く。
 
「ナンバリングタイトルは小鷹視点で時系列順で語るべき」
 
 まるで、ゲーム実況動画の無意味な「縛り」のようなルール設定である。
 おかげで「コネクト」は本編扱いされず、どの順番で読むべきかわからない代物になってしまった。
 そのくせ、原作者は「コネクト」を『はがない』シリーズの一冊という重要な位置づけをしているのである。
 
 読者を幸せにしないルール作りよりも面白さを重視するのがラノベ作家の使命ではないだろうか。
 原作最終巻の失敗は「小鷹視点・時系列順」というルールにこだわりすぎたせいであろう。
 
 ひょっとすると、原作者が小鷹が高校卒業するまで『はがない』を進めたのは、もう二度と隣人部関連エピソードは書きたくない、という自己主張かもしれない。
 その目的は達成された。
 この原作最終巻を読んだ者は、二度とこの作者が書いた小説を読もうとはしないだろう。『はがない』シリーズだけではなく、他のシリーズも含めて。