僕達の友情は儚い(13)「よぞらぁー、なんとかしてよぉ」【完結】

 
※この作品は、ライトノベル僕は友達が少ない10』の続きを書いた二次創作小説です。

 
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    (13)
 
 小鳩の嗚咽は長く続かなかった。
「……あれ? 小鳩さん、どうしました?」
 理科の胸の中で、小鳩はぶるぶると震えている。
 まるで泣き声をもらさないように懸命におさえているようだ。
「小鳩さん、別に遠慮しなくても……」
 理科がそう声をかけたときだ。
 じーーーーーーー。
 部室から視線に気づく。
「あはははっ! やっぱり泣いとるやんけ! うんこ吸血鬼!」
 その無邪気な声は、先ほど泣きわめいていたはずのマリアだった。
「な、泣いちょらんばい! それに、おまえだってさっきまではビービー泣いちょったやろが!」
「な、なぜ、それを知っているのだ?」
 本気で驚くマリアに、小鳩は指二本を目にあてながら言った。
「ククク……一万年の時を生きた我の秘めたる能力『魔導千里眼』をもってすれば、どんな事象でも見通すことは可能……」
「くそー、うんこ吸血鬼め! これでもくらえ!」
 マリアは小鳩に向けて走りだす。
「フッ……我のシールドをもってすれば、そんな攻撃など……」
 小鳩は理科から離れて、アニメ『くろねく』の必殺技の構えを真似ようとしたが――。
 ぽかり。
「なんでたたくんじゃ! まだ必殺技の名前言っちょらんじゃろが!!」
「そんなものなぜ聞かなければならないのだ?」
「だ、だって、アニメじゃ……」
 ぽかり。
「あはははっ、うんこ吸血鬼、今日は弱いなー!」
「き、貴様……この『レイシス・ヴィ・フェリシティ・煌』を本気にさせるとは……」
「あのー、二人とも、廊下でケンカするのは問題あるんじゃないですか?」
 理科の言葉に年少二人組は矛をおさめる。
「じゃあ、今日はなんで勝負をつけるのだ?」
「ククク……やはり、あのゲームしかあるまい」
「そうだな! 今度こそ、ワタシが勝つぞ!」
「愚かな。一万年の月日を生きる我の能力に比べれば……って、最後まで聞かんか、ボケ!」
「あはははっ、寝言は寝て言えなのだ!」
 軽口をたたきながら、小鳩とマリアは部室に入っていく。
 その立ち直りの早さに唖然としながらも、理科には引っかかることがあった。
 ――たしか、部室のゲームって星奈先輩が……。
 そのことに気づいた理科の思考を覆い尽くす気持ち悪い叫び声が部室から聞こえてきた。
「おおおおおおおお! 小鳩ちゃんキターーーー!!」
「おい馬鹿肉。煌に近寄るんじゃないっ!」
 さっきまで夜空に抱かれて泣いていたはずの星奈が、今度は夜空をふりほどこうとしている。
「ぐへへへへ〜〜。小鳩ちゃんマジ天使! 制服姿も超似合ってるよ、小鳩ちゅわんっ!」
「煌、ここは私がおさえているから、早く離れるのだ。今の肉はまさに手負いの熊。なにをされるかわからんぞ!」
 そんな夜空の忠告を珍しく小鳩は拒否してみせた。
「ククク……我は今、このクソ聖女と戦わなければならぬ理由があるゆえに、ダークナイトの望みとはいえそれを叶えることはできぬ……って、なんじゃこりゃーー!」
「げ、ゲームが壊されとるやんけ! 悪魔か? これは悪魔の仕業なのか?」
 年少二人組が取り乱す様子を見て、夜空は舌打ちをしながら言った。
「……チッ、忘れてた。それはこの馬鹿肉が傷心のあまりやったことなのだ」
「ちょっ! 夜空、なに余計なことを言ってんのよ! こういうときはウソをついてでも助けるのが友達じゃないの?」
「肉よ、友達のあやまちを正すことも友情というものではないか」
 そんなことを言っている間に、小鳩は問題のゲームを見つけてしまった。
「そ、そんな……『くろねく』のゲームまで……」
「あちゃー見つかっちゃいましたか」
 理科は額に手をあてながら言う。
 実は、夜空と片づけをしたときに、それは見つからないように奥深くにしまっていた。中のディスクは星奈に粉々に砕かれていたが、ケースはひびが入っただけだったからだ。
 だから、遠目に見る分には問題なかったのだ。プレイするためにケースから取り出そうとしなければ。
「こ、小鳩ちゃん。これにはふかーいわけがあってね?」
 星奈がおそるおそる声をかけるが、小鳩の身体の震えは止まらない。
「あんだか? これ、あんだがやったんか?」
「で、でも……あたしが買ったやつだから、小鳩ちゃんのやつじゃないから……」
「余計悪いわ、アホーーー!!」
 大声でなじりだした小鳩をなだめるべく星奈はさらに余計なことを言った。
「わ、わかったわよ……すぐに買い直すから……」
「金の問題ちゃうわ、ボケーーー!!」
「う……」
「あんだなぁ、自分の愛するゲームが壊されているのを見て、どんな気がすると思う? そういうことをする人を、どんな目で見ればいいと思う?」
「ご、……ごめん」
「あやまってすむ問題か、アホッ!! あんだに同情しようとしたうちがバカやった……あんだ、絶対に許さへん。うちの愛する『くろねく』を粉々に打ち砕いたあんだを、うちはじぇったいに許さへん」
「夜空ぁ、なんとかしてよ。あんた、小鳩ちゃんのダークナイトなんでしょ?」
「ふっ、残念だな。あきらめろ肉」
 夜空は泣きついた友達を助ける気がなさそうだった。
「そんな……あんた、友達でしょ?」
「友達だから忠告するのだ。そして、これを機に煌の半径3メートル以内に二度と近づくな!」
「なっ……あんた、あたしを小鳩ちゃんのストーカーあつかいするっていうの?」
「自覚がなかったのか、この馬鹿肉は……」
 夜空にも見放された星奈は、それでもあきらめようとしなかった。
「わ、わかったわよ……ほら、この通り」
「……なんのつもりじゃ、それは」
 驚くべきことに、星奈は小鳩に向けてひざまずいたのだ。そして、手をついて頭をたれる。
「ワタシは知ってるぞ! これはお兄ちゃんが得意な土下座というやつなのだ」
 なぜかうれしそうな顔をするマリアに、頭を床に向けた星奈は言った。
「……ち、ちがうわよ」
「違うのか?」
 夜空は素で驚く。
 星奈はおごそかな口調になって、
「こ、これは、この罪をつぐなうべく……あたしが聖騎士、いわばホーリーナイトとして、小鳩ちゃんに生涯仕える忠誠の証なのよ」
「そんなんいらんわ、ボケ!」
 即答した小鳩だけではない。
 部室にいる誰もが、この星奈の発言にはあきれ返っていた。
「で、でも!」と星奈は頭を上げて、
ダークナイトだけだったら不安じゃない? 闇属性が効かない敵って結構多いわよ? そんなときに、聖属性のマスターであるあたしがいれば……」
「この期に及んで、なぜここまでの自信があるんだ、この傷心肉は……」
 夜空は本気であきれている。
 小鳩はそんな押し掛け聖騎士に吐き捨てるように、
「じゃあ、このクソ聖女に仕えたらいいんじゃ、ドアホ!」
 話をふられたマリアはのんきにポテチを食べながら、
「ワタシのほうでもお断りなのだ。なーにが、聖属性のマスターなのだ。ワタシたちのゲームを壊した悪魔のくせに!」
 星奈は小鳩ばかりかマリアにすら嫌われてしまったらしい。
「よぞらぁー、なんとかしてよぉ」
 そんな星奈に容赦する夜空ではなかった。
「どうしようもならん。だから、そのみっともない土下座をやめろ。この馬鹿肉がっ!」
 
     ◇
 
 理科はそんな隣人部の馬鹿騒ぎを見ていた。
 本当は語り合いたいことがあるのに、それを隠して感情をぶつけあおうとする部員たちの姿を。
 ゲームの対戦を通じてお互いの悲しみを解消しようとする小鳩とマリア。さきほどの真摯なやりとりが嘘のように滑稽にふるまう夜空と星奈。
 そこに友情があると理科は思う。
 言葉にしなくても通じ合える。だから友達なのだ。
 そして、理科は信じる。そんな彼女たちの心境がわかる自分だって、立派な友達の一員じゃないかと。
 理科は胸ポケットからタブレットを取りだした。小鷹とのLINEの画面を表示させる。あれからずっと発信できなかったメッセージを思いついたからだ
(隣人部はもうだいじょうぶだから、小鷹は気にしなくていいよ)
 そう入力しようとした理科の手は止まる。
 本当は理科は小鷹にこう伝えたかった。
(隣人部はもうだいじょうぶだから、小鷹はいつでも戻ってきていいんだからね)
 でも、そんな自分の思いを伝えても迷惑じゃないかと理科は不安になる。幸村を通じて退部届を出した小鷹にそんなことを言ったところで……。
「あたしはあきらめない! 小鳩ちゃんが許してくれるまで!」
「あきらめろ馬鹿肉、ゼロに何を掛けてもゼロになるって算数で教わらなかったか?」
「いや、いまこそ聖騎士として奇跡を起こすときよ! 天にまします我らの――」
「って、祈らんでいい! そんなことで呼び出される神の身にもなってみろ!」
 理科の耳に騒がしい声が聞こえてくる。そう、いつだって彼女たちは言い争いを始める。もともと友達がいなかった女子ばかりだ。何をやってもうまくいかない。
 でも、そんな残念な仲間たちだったからこそ、理科は自分の居場所を見つけられた。そのきっかけとなったのは――。
 理科はさみしく笑って、小鷹にこんなメッセージを送った。
 
『ありがとう小鷹。隣人部はもうだいじょうぶだから、』
 
 最後の「、」に気づいてくれるかな、と理科は考える。
 たぶんあいつは気にしないだろうな、と理科は思う。
 でも、この句点があるかぎり、返事が来なくても気にしないことにした。
 このメッセージはまだ途中なのだ。理科のターンはまだ続いているのだ。
 その続きを送るのは何ヶ月後、いや何年後になるのかもしれないけれど。
 それから、理科は隣人部の仲間たちに近づいていく。星奈はまだひざまずいている。夜空はそんな星奈を立ち上がらせようとしている。小鳩は砕かれた『くろねく』のゲームの破片を悲しげに見つめ、マリアはポテチを満面の笑みで食べている。
 そんな仲間たちに理科はあきれた口調で言ってみた。
「まったく何の部活なんですか、ここは」
 
 
【僕達の友情は儚(はかな)い・終わり】
 
 
 
 

 
【あとがき】
 
 
 この『僕達の友情は儚(はかな)い』という小説は、ライトノベル『僕の友達が少ない』シリーズの二次創作です。
 
 今作のテーマはズバリ『友情』です。夜空と星奈、ソラとタカ、そして理科と小鷹の友情を中心にすえた物語です。
 
 今作は通常の二次創作にあるような平行世界を描いたものではありません。原作10巻の続きを書き、しかもハッピーエンドで終わらせるという、かなり原作者にケンカを売った内容です。
 それもこれも、作者が10巻であんな終わらせ方をするのが悪いんですよ。シリーズ全巻読んだ読者の身にもなってください。
 しかも、このままフェイドアウトして、『はがない』は未完に終わりそうな気配がぷんぷん漂っています。なので、僕が予想する『隣人部の結末』を書いてみました。
 原作の伏線をほとんど回収したつもりですが、今作の『隣人部の結末』は原作者の頭にあるものとは違うはずです。だから、今作の存在を知れば「こしゃくな! 本当の隣人部の結末を書いてやる!」と原作者が張り切ってくれるかもしれないと思ったり(適当)
 
     ◇
 
 ところで、『はがない』シリーズは、物語の進行でキャラの外見や人間関係がコロコロ変わるので、二次創作をするのが結構面倒だったりします。
 例えば、夜空が長髪なのは夏休み(3巻)までとか、幸村がメイド服を着るのは新学期が始まる(5巻)までとか。
 志熊理科がもっともややこしくて、夏休み以降、眼鏡を外す(4巻)→髪型を変えるようになる(4巻)→白衣を着ないようになる(6巻)、という順番で変わります。
 ファンが望む理想の隣人部の人間関係は、5巻後半だと思うんですね。幸村の性別が判明してから夜空が幼なじみ関係を公言するまでの10月上旬です。
 というのは、それ以降になると、夜空と星奈の力関係が変わっちゃうんです。
 星奈は夜空に言い負かされるからこそ読者人気を集めていたのですが、6巻から雲行きが怪しくなり、7巻になると完全に逆転しちゃいます。だから、7巻以降の星奈を好きになれない人がいるのは当然のことです。
 
 たいていのファンにとって、8巻から本格的に登場する『生徒会の面々』はどうでもいいと考えているかもしれません。9巻での『夜空と小鳩のコンビ』も受け付けない人が多いでしょう(その理由を説明すると長くなるので割愛)。ましてや10巻の唐突な結末なんて、こんなの私が好きだった『はがない』じゃない、と認めない人がほとんどじゃないでしょうか。
 でも、10巻で示唆された「小鷹のいなくなった隣人部」に僕は興味を持ちました。たしかに5巻ぐらいの理想的な人間関係とは遠いものかもしれませんが、彼女たちに訪れる「危機」とその「再生」を僕は書いてみたかったのです。
 
     ◇
 
 今作はその性質上、原作にきわめて忠実に書かれています。もし、それぞれのキャラ設定で気になるものがあれば、原作の既刊11冊(1巻〜10巻+コネクト)を読み返してみてください。おおむね、そこに書かれたものばかりです。
 ただし、12月上旬に二つのオリジナルエピソードをねじこんでいます。これは今作に欠かせない要素として織り込みましたが、その結果、その二人のキャラの印象が原作と大きく異なって映っているかもしれません。
 
 原作の設定で個人的に不満だったものが二点あります。今作ではそのどちらもごまかしています。
 1つ目は、ソラとタカが出会った学年です。小1ですよ、知ってましたか? なんで小3か小4にしなかったのか本気で理解に苦しみます。
 『はがない』シリーズには『ゆにばーす』という人気ラノベ作家による二次創作集が二冊あります。
 その『ゆにばーす1』では、『はまち(俺ガイル)』作者と『変猫』作者の二次創作がオススメですが、前者はタカ&ソラの思い出を小4ぐらいにとらえている感じです。後者は原作設定を重視してタカ&ソラの仕掛けを泣く泣く見送ったことをあとがきに匂わせています。
 今作では、タカ&ソラの思い出は重要な位置づけを持っていますが、小1らしさは意識せずに書きました。自分が小1だった記憶をふりかえると、友達なんて親の交遊で決まったようなものだし、自分の言葉も持ち合わせてませんでしたからね。
 『ゆにばーす』2冊でも、タカ&ソラの小1らしさはあまり感じられませんでしたし、それぐらいは見逃してください。
 
 原作の不満点その2は、10歳のマリアを「幼女」と表現していることです。
 幼女って、幼稚園卒業までの女児のことじゃないんですか?
 だいたい、銭湯で男湯に入れる女児は9歳までと条例で決まっています。温泉施設だと8歳未満の女児お断りのところも多いです。だから原作6巻にあるような、10歳女児のマリアが男湯に入るといったことは今の日本じゃありえないことなんですよ!
 ……と、こういう指摘をすると逆に「やけにくわしいな。あんたロリコンじゃねーの」と怪しい目をされるのが悲しいところ。いやいや、俺はこの国の現状を冷静に語っただけだから!
 ということで、今作では地の文では「幼女」という表現をしていません。10歳女児を幼女と形容するのは、どうも違和感があるのです。8歳ぐらいまでなら何とか許せるんですが、9歳10歳となると女の子ってかなり変わりますよね? 11歳になれば男子を身長で圧倒する女子天下の日々で調子に乗っちゃいます。せっかく、おばあちゃんが買ってくれた赤のランドセルをダサいと思うようになり、お兄ちゃんのお古の黒のランドセルを背負いたくなるお年頃、いわゆる「小6病」をむかえちゃうんですよ。どうも、そこらへんの小学生女子の学年ごとの区別が原作者はできてないんじゃないかとか、最近の子供はランドセルの色が自由に選べるようになったからキャラ設定がはかどりそうだとか、水色のランドセルにカバーをつけている女児を見かけたら思わず「ほら見ろ、水色は汚れが目立つからやめとけって言ったじゃないか!」と姪をさとすような目をしてしまったりとか、だから俺はロリコンじゃないって何度も言ってるだろ!
 
     ◇
 
 最後に文章スタイルについて。
 『はがない』シリーズの特徴といえば、文字サイズ変更の多用と空行の活用があります。
 
 今作はネット掲載という性質上、フォントサイズの変更はしていません。大きくしたかった箇所はあるんですけどね。幸村のいう「えろげー」とか、星奈のいう「おちんちん」とか、理科のいう「オナニー」とか。
 
 あと、空行の活用について。
 今作は原作とは別の用法で空行を使っています。
 行が空いている文は過去のセリフの引用です。その多くが原作で使われたものです。
 興味ある方は、それらが原作のどの巻に出てきたか調べてみると面白いかもしれませんよ?