「衝撃のラスト」No.1映画といえば

 



カジノに展示されている、ボニー&クライドの車
 

僕が知っている、もっとも衝撃的なラストシーンの映画といえば『俺たちに明日はない/Bonnie and Clyde』(1967/米国)

 
 盗んだ車で強盗を繰り返していたボニー&クライドの凄惨な最期を描いたラストシーンは、見る者すべてに強烈な印象をもたらした。
 
 87発もの銃弾を受けた二人の死の舞踏。その後の静けさのなか、やるせない表情で死体を見つめる警官の表情。さらには、これが実話に基づいていることなど、「衝撃のラストNo.1」にふさわしい映画であろう。
 

Bonnie And Clyde' Death from Bonnie And Clyde 1967 - HQ - YouTube
 
 
 ボニー&クライドが殺された車は、今でもラスベガスに展示されているが、射殺直後の模様が映された映像もある。
 

Bonnie and Clyde Death Scene - YouTube
 
※こちらは本物の死体が写っているので注意
 
 
 しかし、映画「俺たちに明日はない」は事実に基づいているものの、かなりの改変が加えられている。

 
 例えば、ボニー&クライドを射殺した「蜂の巣作戦」を実行した警官は、映画では壮年の男として描かれている。
 だが、実際は、クライドの幼なじみだった男が、その作戦を遂行したのだ。
 
 どうして、クライドを幼少から知る者が、あれほど残酷な「蜂の巣作戦」をとったのか、という観点で見ると、ボニー&クライドの物語は、かなり違った印象になるだろう。
 もちろん、彼はクライドに何度も警告を出していた。しかし、クライドの返答は、警官の射殺だった。
 禁酒法によって、政府に不満を抱いていた米国市民は、ボニー&クライドを英雄視するようになっていた。
 彼らは貧乏人から物を盗まなかったというが、その強盗のほとんどは、町の小さな商店で行われた。抵抗した店主を射殺したこともある。
 彼らは社会の不正を訴えたかったわけではなく、強盗で金を稼ぐことが、まともに生きるよりも楽だと信じこむようになった「チンケな犯罪者」だった。
 そんな彼らを野放しにすることなど、警官であるクライドの幼なじみには許されないことだった。
 「蜂の巣作戦」をとらざるをえなかった彼の心境を知れば、ボニー&クライドの逃避行に憧れることはないだろう。
 
 しかし、その事実を知ってもなお、この映画のラストシーンの衝撃はゆるぎないものだ。
 事実に忠実なものが、驚きをもたらすのではない。
 この映画以降、より実話にもとづいた「ボニー&クライド」の映画が作られたものの、陽の目を浴びていないのが何よりも証拠だ。
 
 
 さて、この『俺たちに明日はない』が公開された二年後の1969年に、同じく犯罪者二人組を取り上げた『明日に向かって撃て!/Butch Cassidy and the Sundance Kid』のラストシーンも有名である。
 

YouTube
 
 軍隊に囲まれた銀行強盗のブッチ&サンダンスが、軽口を交わして外に出る。
 もちろん、二人に待っているのは射殺なのだが、その映像を直接映すのではなく、音声だけのストップモーションで表現しているのだ。
 
 それを物足りないと感じる者は、映画を通して見ていない人だけだろう。
 ハイライトである二人が滝に飛び込むシーンは興奮するし(→動画)、主題歌の「雨にぬれても」も良い(→動画)。
 必死で逃れてきた彼らに待ちかまえていた結末。それは、法を犯した者が受ける当然の報いではあるけれど、それでもユーモアを失わず、死地に赴いた彼らが無残な死体になる姿は「見たくない」と思うのが人情というものだ。
 その結末に至る彼らの逃避行を描ききったからこそ、納得できるエンディングなのである。
 

 
 そうそう、なぜ、こんな記事を書こうとしたかといえば『猿の惑星』の新作が公開されて、その関連の記事を読んだからである。
 『猿の惑星』のエンディングも、衝撃のラストとして知られているのだが、DVDのパッケージがネタバレというレベルではない。
 

猿の惑星 [DVD]

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 実際の映画では、最後の最後に「自由の女神」が映される。
 視聴者のほとんどは、そのような世界設定であることには気づいていただろう。
 しかし、その演出の見事さゆえに、「衝撃のラスト」になることができたのだ。
 

planet of the apes part 9 (end scene,credits) - YouTube
 
 主人公の怒りや嘆きのあと、すべてのセリフが終わったあと、ようやく、それが映される。
 視聴者は、その1カットで、その世界の真相を知ることができるのだ。
 このような計算された演出は何度見ても素晴らしいものだ。
 
 
 ちなみに、小説で僕がもっとも衝撃を受けた結末は、ナボコフの悪名高き小説『ロリータ』である。
 
ロリータ (新潮文庫)

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 この小説、結末自体はたいしたことないのだが、実は冒頭の三ページ目あたりに、あまりにもさりげなく衝撃的な結末が描かれている。ちゃんと読んでいない人にはわからないことだけれど。
 高校時代に読んでから、一度はその手法を使ってみたいと思うのだが、なかなかその機会がない。
 まあ、文章における「驚き」を学びたい人は、一度『ロリータ』を読んでみるといい。あれほどシンプルで劇的なものはないと思う。