AVGNから学ぶアタリショック(1) ー 商品総額4000万円!! アタリバブルの象徴「ソードクエスト」キャンペーン

 
 

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Atari 2600
(1977年 アタリ)
 1986年に全米で販売開始された、任天堂の海外版ファミコンNintendo Entertainment System」、略称「NES」は、たちまち全米ゲーム市場を支配した。
 それは『スーパーマリオブラザーズ』というキラーソフトの存在と、NESの性能の良さだけがもたらしたものではない。
 悪名高き1983年の「アタリショック」(North American video game crash)により、米国ゲームメーカーが次々と倒産し、壊滅状態に陥っていたからである。
 
 Wikipediaによれば、「アタリショック」とは、『Atari 2600』で質の低いソフトが大量製作されたことから、ユーザの不信感を招き、その買い控えが市場破壊をもたらした、とある。
 はたして、その「Atari 2600」のゲームソフトは、どれほどのクオリティであったのだろうか。
 
 今回は、1982年から開始された、商品総額15万ドル(当時の為替レートだと、約4000万円)という、アタリ社のゲームソフト連動企画「ソードクエスト」を、米国で人気の動画シリーズ「AVGN」を引用しながら紹介しよう。
 アタリ社のゲームに対する方向性がわかるはずだ。
 

 
 
 
 最初に、レトロゲーム紹介動画「AVGN」シリーズを見る上での注意点を。
 
 
(1)日本語字幕は有志によってつけられたもので、非公式。
 
 ニコニコ動画に公開されている日本語字幕版は、オフィシャルではない。
 そして、公式では無断転載を禁止している。
 権利問題等から、日本語字幕版が公認される可能性はきわめて薄い。
 ゆえに、節度を持った視聴が望まれる、ということだ。
 
 
(2)罵詈雑言がハンパない。下品な描写も数知れず。
 
 「AVGN」シリーズでは、「Fuck」「Shit」「Bitch」という言葉は、ひとつの動画で百回ぐらい聞かされる。
 それだけではなく、ウ◯コそのもの(模造品だが)も頻繁に出てくるので、苦手な人は注意。
 くれぐれも学生の方はこれで英語の勉強をしないでほしいものだ。特に女子高生の皆さんには。
 
 
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NES周辺機器で身を固めた
フル装備のAVGN
 この「AVGN」とは「The Angry Video Game Nerd」(怒れるゲームオタク)の略称だ。
 動画シリーズを指すこともあるし、その登場人物を指すこともある。
 
 このNerd(ゲーヲタ)を演じているのが、ジェームス・ロルフ(James D. Rolfe)。
 もともと、映画を自主制作していた人である。
 そのためか、ゲーム紹介動画とは思えない多彩なエフェクトやムダに熱いアクションシーンがあったりする。
 ゲーム紹介動画を、ひとつの短編映画のように見ることができるのだ。
 その知識や執着心は、まさに「オタク」というしかないが、映像の面白さもあって、紹介するゲームをプレイしたことのない人にも楽しめる内容になっている。
(実際のところ、少なからずの紹介ゲームが、日本未発売である)
 
 彼がプレイするものは、「NES」(ファミコン)・「SNES」(スーファミ)・「GENESIS」(セガメガドライブ)などのレトロゲームがほとんどで、しかも問題作ばかりである。
 ただし、他の「クソゲーレビュー」と異なるのは、ただ罵倒するだけではなく、真面目にクリアしている作品が多いこと。
 彼自身の感性に基づいたレビューは、時には新鮮で、多くが納得させられるものばかりだ。
(北米版や日本版との、ゲームバランスや説明書の違いもあり、一概に彼の見解を的外れだと退けるのは賢明ではないと思う)
 
 では、今回の「ソードクエスト」について。
 
 
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 「アタリショック」が起きる一年前の1982年に始まったのが「ソードクエスト」キャンペーンである。
 
 
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 これは、ただのゲームではない。ゲームに秘められた謎を解けば、本物の「宝」を手にすることができるのだ。
 
 
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 その「宝」は、本物のダイヤモンドや宝石が散りばめられたものであり、
 
 
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 ひとつ、2万5000ドルもの価値があるのだ!
 
 なお、1982年11月の為替レートは、1ドル278円である。
 計算してみると、約700万円となる。サラリーマンの平均年収よりもスゴい!
 
 
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 この「ソードクエスト」キャンペーンは、四つのソフトから成り立っている。
 「EARTH WORLD」(地)「FIRE WORLD」(火)「WATER WORLD」(水)「AIR WORLD」(空気)。
 西洋の四大元素を意味している。
 
 それぞれのゲームで、2万5000ドル、つまり約700万円相当の「宝」が用意されている。
 
 
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 約700万円の「宝」を手にするためにはどうするか。
 それは、それぞれのゲームソフトに秘められた謎を解いて、締め切りまでにアタリ社に応募すればいい。
 そして、アタリ社にて最終決戦が行われ、その勝者が700万円相当の「宝」を手にするという段取りである。
 
 
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 さらに、四人の優勝者によって最終決戦が行われる。
 その勝者に与えられるのが、5万ドル相当の「剣」である。
 当時の為替レートでいうならば、約1400万円である!
 
 まさに、アタリバブルといっていい、この企画。
 肝心のゲーム「EARTH WORLD」はどんな内容だったのかというと……
 
 
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 こんな感じ。実にチープなゲーム画面である。
 
 
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 部屋を移動するたびに、ムダに大げさなエフェクトが流れる。
 
 
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 この部屋はそれぞれ色が違うのだが、それは「説明書」を見なければ、さっぱりわからない。
 
 
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 それぞれの部屋には隠し部屋と財宝が秘められていて、アクションステージをクリアしなければならない。
 
 
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 こうして、手に入れた財宝を、しかるべき部屋に配置すると、キーワードが現れる。
 
 「16   4」
 
 なんだ、これは?
 
 
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 実はこれ、ソフトに付属している「コミック」からヒントを探す手がかりらしいのだ。
 
 
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 「16   4」
 それは、16ページの4コマ目を意味する。
 
 
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 そこには秘められたスペルが!
 
 
 
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 ただし、このスペルを集めても、コミックの1ページの謎を解かなければ、正解にはたどり着けない。
 
 
 と、こうしてみると、ゲームソフトによる謎解きではなく、ゲームソフトを利用した謎解きといえるだろう。
 説明書やコミックがなければ、解くことができないとは、アドベンチャーゲームとは言いがたい代物である。
 
 しかし、何はともあれ、本物の「宝物」を手にすることができたのだ。
 ゲームは「アドベンチャーゲーム」とは言いがたいが、「ソードクエスト」のゲームを手にすること自体が「アドベンチャー」であったことは間違いない。
 
 「ソードクエスト」第一弾「EARTH WORLD」の謎に正解したのは、わずか8名であった。
 
 
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 その8名が、アタリ社にて最終決戦を行い、
 
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 この二十歳のオタクに、700万円相当の宝が与えられたわけである。
 
 
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 ところが、この「ソードクエスト」キャンペーンは、第二弾「FIRE WORLD」をもって、中止されることになった。
 なぜなら、第三弾「WATER WORLD」の発売した1983年に、「アタリショック」が起こったからだ。
 
 
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 「アタリショック」によって、バブルは崩壊。
 アタリ社は経営そのものが行き詰まり、「ソードクエスト」キャンペーンを続けることはできなくなった。
 五つの宝物のうち、プレイヤに与えられたのは、二つのみであった。
 はたして、1400万円相当の「剣」はどこにいったのだろうか。
 
 
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 「AVGN」では、ATARIを買収したジャック・トラミエルが、三つの宝物を担保として持ち去ったのではないか、という俗説を紹介している。
 その真偽がさておき、米国ビデオゲーマーにとっては、これから任天堂の「NES」が全米進出を果たすまでの数年間、「ソードクエスト」のような景気のいいキャンペーンはなく、大作が発売されることもない、暗黒時代が待ち受けていた、ということだ。
 
 それにしても、総額4000万円もの「宝」を用意するならば、その分だけ開発費に向けていれば、
 
 
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 こんなチープな画面でも、ゲームの面白さを追求することはできていた、と感じるのは僕だけか。
 わずか4人しか手に入れられない「宝」探しのゲームイベントよりも、やはり、初代ゼルダのような、ゲームで楽しめるアドベンチャーのほうがいい。
 
 もし、そのような発想があれば、「アタリショック」が起こることはなかったのかもしれない。
 ハードとしての「Atari 2600」が名機であっても、対応ソフトが悪ければ、ユーザの不信感をあおり、それが買い控えにつながるのだ。
 世界有数のゲームハード会社でありながら、任天堂が世界一のゲームメーカーであり続けるのは、この「アタリショック」を教訓にしたことは言うまでもない。
 
 
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 「ファミコン」以前には、このようなゲームも発売されていた、ということである。
 アドベンチャーゲームではなく、ゲームそのものがアドベンチャーだった時代。
 それもまた、ひとつのゲーム史として、語り継がれるべきことだろう。
 
 
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・AVGNから学ぶアタリショック(2) ー アタリのエロゲー(モザイクなし)
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・AVGNから学ぶアタリショック(4) ー 64ビットの怪物「アタリ・ジャガー」の末路
 
 
【関連リンク】
 
・AVGN日本語字幕版タイトルリスト
http://www.din.or.jp/~wild7/fallout_summary/avgn.html
 
 非公式のAVGN日本語字幕版は、こちらから見ることができる。
 AVGN以外にも、ボードゲームレビュー「Board James」など、興味深いコンテンツも。
 
 「その他の外人さんによる動画」でのオススメは、Jew Warioによる「日本版ゲーム紹介動画」
 生粋の日本びいきであるJew Wario氏のレビューは、日本人ならば見ていて微笑ましい気持ちになれるはず。