ゲームプレイ動画の様々な魅力 ーRTAやTAS、海外のレビュー動画など

 

スーパーマリオブラザーズ2ノーワープタイムアタック - ニコニコ動画
 


 ゲームプレイ動画には様々な手法がある。それぞれの面白さについて考えてみよう。
 最初に紹介するのは、RTA(リアルタイムアタック)動画のひとつ「スーパーマリオブラザーズ2 ノーワープタイムアタック」である。
 シリーズ屈指の難度を誇る『スーパーマリオブラザーズ2』(ディスクシステム)のタイムアタック動画のなかで、ノーワープのものは数少ない。表面32ステージクリアには、どんなに速くても20分以上はかかる。人間の集中力からいって、それほどの長時間をノーミスでクリアすることは難しいのだ。
 ここで紹介する動画は、タイムアタックとしての精度は高くない。時間を短縮できる可能性を、視聴者は見出すことができるだろう。だが、その「ロス」にこそ、この動画の魅力がある。
 ノーミスで、できるだけ早くクリアするためには、どのルートを使うべきか。ランダム性のあるアクションで、危機に陥ったとき、どう回避するべきなのか。そんな判断のうまさがきわだっているのが、このRTA動画である。プレイヤーの腕前を堪能できる動画といえるだろう。
*なお、RTAというのは和製英語であり、英語圏では「Speedrun」と称する。
 

(SFC)スーパーマリオワールド RTA - ニコニコ動画
 
 ニコニコ動画で人気のRTA動画といえば、「ロースコアの人」によるタイムアタックだろう。
 この『スーパーマリオワールド』(スーパーファミコン)でのRTA動画は、二ヶ月以上に及ぶニコニコ生放送を通じて、ルートを確立した後で達成されたものである。
 それぞれ想定した理想タイムに実機でのプレイで近づくという、数学的根拠をもとにしたRTAであるところが、冒頭で紹介したRTA動画と大きく異なるところだ。
 「規定」や「特定」などの用語があふれる字幕による解説も「ロースコアの人」動画の魅力であろう。ルート構築での理論と、それを達成できる腕前。その双方で高いレベルを持つのが、この「ロースコアの人」である。
 名が示すとおり、このプレイヤは数多くの「ロースコアプレイ動画」も公開している。
 それぞれの解説動画では、自身のプレイ映像をスローモーションにして、そのアクションを解説している。ゲームの難度の高さを伝えるために、自分のプレイをスローにして解説できるほどの人はそれほど多くないだろう。自分のプレイを客観的に検証できることが、一流プレイヤと一般プレイヤとの差でないかと思う。
 なお、「ロースコアの人」が、達成した記録「10分59秒8」は、すでに破られている。
 

スーパーマリオワールドRTA(SFC版) 10:49.84 - ニコニコ動画
 
 「綿棒(93キロ)」というプレイヤによる「10分49秒8」という記録は、なんと、ニコニコ生放送中で達成されたものだ。
 これまでの記録を破るべく、ツールによって最速ルートを作成し、それを実機で達成しているのだ。その精度は「ロースコアの人」よりも、さらに高いレベルにあるといえる。
 
 RTA動画には、次に紹介するTAS動画と異なり、それぞれのプレイヤの「うまさ」の質が感じられる。
 「ロースコアの人」のアイディアも、その記録を破った「綿棒(93キロ)」の手法も、プレイの巧みさがあってこそ実現できたものだ。
 個人的には、冒頭で紹介した『スーパーマリオ2』RTA動画ぐらいの精度のほうが、動画としては楽しめるのだが、「タイムアタック」という性質上、コンマ1秒でも速い動画に、人々の関心は向かうものだ。
 最速動画では、究極的に精度の高さのみが求められる。それぞれのゲームの独自性を、最速動画を通して知ることはきわめて困難である。
 
 そのゲームをプレイしたことのない者にとって、RTA動画は最速を求めるがゆえに、ゲームの面白さを知ることが難しい。「10分でわかるスーパーマリオワールド」というわけにはいかないわけである。
 だが、ツールによる最速動画であるTAS動画よりは、わかりやすいだろう。
 

スペランカー Spelunker タイムアタック (5:03) - ニコニコ動画
 
 こちらが革新的な手法で最速値を導き出した『スペランカー』(ファミコン)のTAS動画である。
 TASとは「Tool-Assisted Speedrun」の略称で、エミュレーターによって、理論的最速値を実現した動画である。主に、次の三つの手段が取られている。
(1)セーブ&ロードによる、ランダム性の排除
(2)ゲームスピードを遅くすることでの、精度の高いプレイングの実現
(3)その双方により達成できる、バグ技の多用
 注意してほしいのは「チート」、つまり、内部データを操作することがTAS動画では認められないことだ。
 わかりやすい例でいえば、「ドラゴンクエスト」シリーズで、敵が出ないように改造してはいけないということだ。どのような法則で、戦闘に突入するかを理解した上で、敵が出ないという状況を確立しなければならないのだ。
 TAS動画には、追記回数を表記するのが一般的だ。この「スペランカーTAS動画」では、わずか5分あまりの動画で、900回近いロードをすることで、この記録を達成している。
 TAS動画作成には、それぞれのゲームソフトのプログラムの知識が欠かせない。闇雲にセーブ&ロードを繰り返したり、ゲームスピードを落としてプレイしたところで、それぞれのゲームのランダム性を検証していなければ、最速値を更新することはできないだろう。
 
 しかし、TAS動画では、ゲームの面白さを表現することは不可能である。
 そのゲームをプレイしたことのない人にとって、TAS動画を見ても状況を理解することはできないだろう。手っ取り早く、そのゲームのことを知りたいと、より時間的束縛の少ないTAS動画を見たところで、徒労に終わるだけなのだ。
 TAS動画よりも、はるかにムダがあるRTA動画のほうが、面白さを知る上では役に立つということだ。
 
 ゲームの面白さを伝える動画としては、ニコニコ動画では「実況プレイ動画」が一般的である。だが、その多くはゲームに関係ないつぶやきで埋め尽くされており、「初見プレイ」にこだわるあまり、その面白さを伝えることができていない。
 「実況プレイ動画」で人気が高いのは、プレイヤの個性によるところが大きい。ゲームの名声を利用した売名行為に見えなくもない。アナウンサーを志望している人ならともかく、ゲーマーを自認する者は、安易な「実況プレイ動画」を垂れ流さないでほしいものだ。
 それよりも、個人的には「ミクランカー」のような動画が好きである。
 

【初音ミク】ミクがスペランカー略して「ミクランカー」 - ニコニコ動画
 
 「ミクランカー」は、ゲームのBGMに歌詞がつけられており、その歌はプレイ映像と同期している。
 きわめて完成度の高い動画だが、その精度はRTA動画やTAS動画とは異なる方向性にある。
 この「ミクランカー」を見れば、有名な「スペランカー」の主人公の弱さや、パワーアップアイテムのワナなどのゲーム性を、プレイしたことない人にも楽しむことができる。
 
 「初見プレイ」を重視するあまり、冗長になっている日本の「実況プレイ動画」と異なり、海外では「レビュー動画」が人気を集めている。
 その中で有名なのが「AVGN」(Angry Video Game Nerd)というものだ。訳すると「怒れるビデオゲームオタク」となるだろう。
 

AVGNがドラゴンズレアを遊ぶ(Ep37) by tosche ゲーム/動画 - ニコニコ動画
 
 紹介しているゲームはファミコンの有名な「クソゲー」のひとつ『ドラゴンズ・レア』である。
 その操作性の悪さを「AVGN」では口汚くののしっているのだが、罵詈雑言だけではなく、『ドラゴンズ・レア』の歴史についても簡単にまとめられている。
 オープニングテーマがあったり、随所に映像演出が見られたりと、「レビュー動画」の中ではきわめて完成度が高いのが、この「AVGN」シリーズだ。
 「AVGN」では、数多くの日本未発売のゲームを紹介しているが、それらの動画も楽しめる。ゲーム未プレイの人でも面白いと思わせる作りであることが、人気を集めている理由なのだ。
 

AVGNのクソゲーレビュー:EP#12 13日の金曜日 by Nihonsyu_1gou ゲーム/動画 - ニコニコ動画
(ゲームは日本未発売)
 
 この「AVGN」動画を製作・出演しているジェームス・ロルフは、1980年生まれで、自主制作映画などを発表している。ゆえに、その「レビュー動画」は、ただのゲーム紹介ではなく、短編映画のような物語性がある。自分の部屋を舞台にアクションシーンを繰り広げるなど、その迫力のあるカメラワークは学ぶべきところは多い。
 この「13日の金曜日」の紹介動画は、出演する二人がカメラマンも兼ねていることが、後に明らかにされている。
AVGNとジェイソンが『13日の金曜日』レビューを振り返る by Nikujaga ゲーム/動画 - ニコニコ動画
 ジェームス・ロルフのゲーム・プレイヤとしての腕前は、決して高いとはいえない。だが「本来は映画オタク」であるという建前があるからこそ、彼のゲーム紹介動画は、レトロゲームマニア以外の一般視聴者の支持を得ることができる面白さがある。
 マニアに評価される動画が、人気となるわけではない。任天堂が「Wii」と「DS」で成功したように、ライト層を取り込むことが欠かせないのだ。それには、ゲームプレイの腕前よりも、自身の感性に忠実な作品づくりが求められる。
 
 日本でいうならば、「有野課長ゲームセンターCX」が、この「AVGN」に近いであろう。だが、ゲーム情報に内通したADと、一般ゲーマーである有野晋哉という、キャラクタの住み分けによってしか、「ゲームセンターCX」の面白さは演出できていない。アマチュアによるプレイヤ主導のゲーム紹介動画作成において、「ゲームセンターCX」は参考にならないだろう。
  
 ニコニコ動画では顔出しが危険といわれる。だが、芸のない「実況プレイ動画」を垂れ流すよりも、それぞれのゲームの面白さを伝えるための創意工夫をすべきではないかと感じる。
 「実況プレイ動画」が多くの再生数を集めていることから、ゲーム動画を求めるユーザ数の多さを知ることができる。しかし、現状では惰性による更新がほとんどであり、新たなライト層を取り込んでいないと思う。まだまだ、ゲーム動画には可能性が秘められているだろう。
 日本でも、「AVGN」シリーズとは言わないでも、「ミクランカー」のような完成度の高いゲーム動画を、もっと見せて欲しい。そのような動画が、日本のゲームコミュニティを成熟させ、新たな発展につながるのではないかと、個人的に期待している。