日本では面白いゲームは売れないのか? ―「王様物語」制作者の悲痛の声を読む

 
「まだ死にたくない」――Wiiゲーム開発会社が「魂の叫び」 - ITmedia News
 
 Wii用RPG「王様物語」の制作責任者(取締役)がブログにて、「売れて欲しい」という嘆きの叫びをあげていることに注目が集まっている。
 
 「王様物語」は、日本に先がけて、EU諸国で発売され、高評価を得ている期待作だ。
 
海外レビューハイスコア 『Little King's Story』(王様物語) - Game*Spark
Little King's Story (wii: 2009): Reviews (英語)
 
 
 しかし、多くの人々は、この叫びに冷ややかな目を向けている。例えば、2chスレまとめサイト「ニュー投」では否定的な意見が多数派だ。
 
「まだ死にたくない…」「どれも面白いゲームなのに売れない、もう涙目」…Wiiゲーム開発会社が「魂の叫び」 : ニュー投
 
 
 なぜなら、マーベラスエンターテイメントという会社の作品には、バグが多いという定評があるからだ。去年の「海腹川背Portable」不具合騒動は記憶に新しい。
 
海腹川背Portable要望まとめwiki - トップページ
 
 
 だが、僕はこの「王様物語」に期待を寄せている。その理由は、このゲームのスタッフがPS用RPG「moon」制作に関わっているからだ。
 
木村祥朗 - Wikipedia(「王様物語」プロデューサー)
 
 
 「moon」は、勇者に倒されたモンスターの魂を救う、という王道ファンタジーの逆手をとった内容で知られている。このゲームのファンタジックな独特の雰囲気は、ニコニコ動画にて、愛のあるプレイ動画によって再現されているので、興味がある方は見てほしい。
 
01 lovedelic 「MOON opening〜愛の寝起き」‐ニコニコ動画(ββ)
 
 
 数多くのファンタジーRPGをプレイした中で、「moon」という作品は、僕の記憶の中で特別な位置を保っている。
 
 そんな「moon」の制作スタッフらが作り上げた最新作が、なぜ、日本よりも先にEUで発売されたのか? 上記で紹介したように、海外サイトでは、日本製Wii作品の中では、任天堂宮本茂作品に次ぐ高評価を得ている「王様物語」が、日本では購買者に関心を抱かれず、制作責任者の悲痛の叫びにも冷ややかな目を向けているのはなぜか?
 
 その理由の一つが、日本人の「ブランド」志向だろう。そこには、「マーベラス」という会社に対する不信感ではなく、「人気作の続編でなければ売れない」というゲーム業界の問題点が浮きぼりになっている。
 
 アタリショックで低迷していた80年代の欧米のゲーム業界を一変させたのが、日本のファミリーコンピューターだった。欧米の子どもたちは、日本製ゲームをプレイして育ち、彼らが大人になり、社会的影響力を持つにしたがい「日本文化ブーム」が顕在化した。
 
 しかし、彼らは「日本のゲームすべて」を賛美したのではない。任天堂宮本茂というクリエイターに敬意を抱くいっぽうで、「ドラゴンクエスト」などの日本製RPGには、「JRPG」というレッテルをはり、批判している。
 
痛いニュース(ノ∀`):【JRPG】 海外ユーザーが指摘する「JRPGが変えなければならない7つのこと」
 
 なかなか的を射た意見であると思う。そもそも、日本製RPGは、欧米のテーブルトーク発のRPGとは系譜が異なると考えている。「JRPG」というカテゴライズは必要なものだろう。
 
 僕は「ドラゴンクエスト」などの人気RPGも、数多くプレイした。それらの記憶は、BGMとともにあざやかに思い浮かべることができる。海外の評価が低かろうが、それで僕の当時の興奮が色あせることはない。
 
 だが、問題は、これらの海外ゲーマーの批判に危機感を感じる人が増えていることである。「最近のRPGは面白くなくなった」と多くの人が嘆いている。だからこそ、海外の「JPRG批判」を痛切に受け止めてしまうのだ。
 
 そして、僕も、現状の大作RPGには、あまり期待を寄せていない。
 
 PS以降のハード競争により、ゲーム開発費は増大し、スタッフの数も多くなった。1作品あたりのクリア時間は長くなり、それを飽きさせない趣向がRPGには盛り込まれるようになった。
 
 その結果、「制作動機」や「この作品ならではの面白さ」が見えなくなった。
 
 今のゲームビジネスは「続編だから売れる」というセオリーが具体化され、新たなアイディアを拒んでいるように、僕には思える。
 
(その反応のひとつが、RPGツクールという制作ツールによるフリーゲームだと思う。多くのゲーマーが「プレイする側」では満足できず「制作する側」に回ったことは注目すべきだ)
 
 
 そんななか、海外での評価が高い「王様物語」の制作責任者が、批判覚悟でこのようなブログ記事を書いたことは注目に値する。
 
 ゲーム先進国だと言われている日本では『本当に面白いゲーム』は売れないのか?
 
 「王様物語」が日本よりもEUで先に発売されたという事実。それは、マーベラスの質の低いゲーム作品の量産体制という経営姿勢が起因かもしれないが、このブログ記事がつきつける命題は、もっと深刻なものであるのだ。
 
 これはゲーム業界ばかりではない。漫画やアニメなどの日本のコンテンツ産業の根本に関わる問題とは言えないだろうか。現在の日本のコンテンツ産業に、時代を牽引するほどの勢いが感じれないと思うのは僕だけではないはずだ。
 
 
【追記】
 
 多くのゲーマは「なぜ、PS3で出さないのか」と語る。しかし、この「王様物語」はWiiだからこその面白さを追求していると思うし、WiiならではのRPGがあるはずだ。
 
 問題は「Wii用RPGの傑作」として積極的に宣伝しようとしないゲーム業界である。Wiiを楽しむ少年たちの両親に「王様物語」が魅力あふれるゲームであることを伝えようとしないのはなぜか? その理由に、僕は現在のゲーム業界の問題点を見出したのである。