ループ構造を活用したフリーゲーム
以前、アニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」の新シリーズが「どこに向かってるのかわからない」と書いたが、2009/7/25現在、「エンドレスエイト」という同じ筋書きの内容を六回連続で放映したようだ。
このようなループ構造は、様々な作品で見ることができる。いずれも、ループとなった「原因」があり、主人公がそれを「解明」する展開を、視聴者に楽しませる内容になっている。
しかし、今回の「エンドレスエイト」は、そういうものではなさそうだ。
今や、原作を読んでいる者は、その原因と解明方法を第三者に明かすことをはばかることはなく、擁護派は「各話ごとに作画監督の違いが出ているのが楽しい」と主張することしかできない。ハルヒ人気の延命策と批判されるのが当然だろう。
と、ハルヒの迷走を語るのはこれぐらいにして、では、ほかにどのようなループ構造の作品があるのか考えてみた。
例えば、カート・ヴォネガットの最後の長編「[rakuten:book:11130196:title]」など、時間ループを題材にしたSF小説は多い。
日本の作品で、ループ構造を効果的に生かしている分野といえば、ヴィジュアルノベルADVが思い浮かぶ。
和風伝奇ものサウンドノベル "ひとかた" (フリーソフト) |
その代表作とされるのが、リーフの「痕」とエルフの「YU-NO」だが、いずれも性描写を含む年齢制限つきゲームとして発売されている。
フリーゲームだと、両者の影響を受けつつも、独自性を確立した「ひとかた」が有名だ。こちらは年齢制限はない。
選択肢がほとんどなく、キャラCGがない、と商業作品に比べて見栄えは劣るが、それを差し引いてもプレイする価値はある。
何度も「牛鬼」に挑みつづける主人公の宿命と、その主人公の思いを拒もうとする田舎町の人々の心理など、読みごたえがあり、ループ構造という仕掛けを効果的に生かした作品である。
「痕」や「YU-NO」をプレイした人や、そのようなゲームに興味がある人ならば、必ずや、この「ひとかた」は楽しめるフリーゲームだ。
数日間で謎を解き、初恋の成就をめざすADV "時の故郷 〜フリーウェア版〜" (フリーソフト) |
この作品では、プレイするごとに選択肢が増えることはない。最初からベストエンドをむかえることは可能である。
だが、普通にプレイしていれば、真相は何ひとつ明らかにされないまま、ヒロインは消え、バッドエンドをむかえることになる。
初回プレイでは、気軽にプレイしていた人も、やがて一日目に何をするべきか、二日目までに何を終わらせなければならないかに気づき、どのような行動を起こすべきか綿密な計画を立てなければならなくなる。
そして、すべての謎を解いたときに、ベストエンドをむかえることができるのだ。
この「時の故郷」のフリーウェア版は、ストーリーが数日間と短く、ヒロインが一人であるために、選択肢の自由度が高いものの、筋道は立てやすい。
作者は「ギャルゲーのふりをした硬派なアドベンチャー」と語っているが、フリーゲームならではの手軽さとアイディアがつまった良作である。
(なお、シェアウェアの「完全版」も用意されているが、フリーウェア版だけでも達成感のある完結されたシナリオに作られている)
このようにADVではループ構造がさかんなのだが、RPGではあまり見かけない。
その理由の一つが「経験値稼ぎ」を繰り返すわずらわしさ。レベルを上げてもバッドエンドをむかえるという展開は、RPGプレイヤーにとっては「むくわれない努力」をしたという徒労感を残すだけの結果に終わるだろう。
また、RPGではキャラの行動範囲が広いため「バッドエンドがある」とわかった時点で、プレイヤーはセーブ&ロードを繰り返し、最善の道をとろうとする。ヴィジュアルノベルならば、既読スキップという機能があるので、別の選択肢をとることに時間をさくことはないが、RPGでは移動や戦闘をする手間がかかる。結果的に、多くのプレイヤーにセーブデータ管理などの面倒な作業を強(し)いることになるだろう。
日本でRPGが子どもたちに支持されたのは、「ドラゴンクエスト」を始まりとして、RPGという形式にストーリーを添え、筋道を整えたことが理由である。自由度の高さこそがRPG、というゲームデザインでは、日本人プレイヤーに支持されることはない。
2005年4月号コンパク金賞受賞作品 "シルフェイド幻想譚" (フリーソフト) |
その世界では、15日後に「災い」が起きてしまう。そのために、15日以内にそれが何であるかを解明し、解決しなければならない。
この15日間という設定は、実際にプレイしてみると、やや長めだと感じる。多くの人は、10日前後でクリアすることができるだろう。
おそらく、厳しい制限日数だと、多くのプレイヤが「セーブ&ロード」を駆使して、クリアすることに専念することを恐れて、余裕のある時間制限にしているのだろう。「寄り道」することも、RPGの楽しさのひとつであるからだ。自由度は高いものの、行き先をサポートするイベントが用意されているので、一回目のプレイでは、さして迷うことなくクリアできるのではないか。
しかし、普通にプレイすれば、救えない人たちが出てきたりするなど、達成できないイベントが少なくない。一度のプレイだけでは、すべてのストーリーを知ることができないのだ。
ゆえに、この作品では3タイプの主人公を用意している。最低でも二回、たいていの人は三回クリアすることを念頭に置いたゲームデザインがされているのだ。
RPGツクール2000で制作されているが、この作者はのちに「Wolf RPG Editor(通称「ウディタ」)」というRPG作成ツールを公開したほどの実力の持ち主である。テンポのいい先行入力型バトルなど、この作者のこだわりがシステム全体に反映されている。
三回クリアしても楽しめるRPGを確立した点で、商業作品にはない面白さが確立されているといえる。プレイ時間が長いだけの市販RPGに飽き飽きしている人に、ぜひともプレイしてほしい作品が、この「シルフェイド幻想譚」である。
個人的に、RPGにおけるループ構造にはいろいろ可能性があると思う。何度も魔王に挑み続ける勇者っていうのは、悲愴感があっていい。
数回クリアを前提とした世界観を構築するのは、RPGではきわめて困難な作業だが「RPGでループ構造に成功した」という宣伝文句は、多くの人の興味をひきつけることができるはずだ。
コンパクもAコンもない今では、そのような労力のかかるゲームが、フリーソフトという形で公開されることは難しいだろうが、そのような野心的な作品があれば、無償有償問わず、ぜひとも、プレイしてみたいと思う。