10曲でわかるローリング・ストーンズ(動画あり)

 
ローリング・ストーンズ 左から、チャーリー・ワッツ、キース・リチャーズ、ミック・ジャガー、ロン・ウッド
 
 最近、ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)のニュースをちらほら耳にする。
 
ストーンズの広報担当、C・ワッツの「脱退報道」を否定 - ロイター
ストーンズ元メンバーの水死、英警察が再調査へ - ロイター
 
 ローリング・ストーンズ(以下、ストーンズと略す)はイギリスのバンドで、ビートルズとほぼ同期の1963年にデビュー
 それから半世紀近く、メンバーチェンジを繰り返しながら、現在でも活動を続けている
 
 中心メンバーは、ミック・ジャガー(ボーカル)とキース・リチャーズ(ギター)で、ほとんどの曲はこのコンビによって作られている。
 

 今日は、そんなストーンズの個性あふれる代表作を10曲紹介しよう。
 
 


(1) (I Can't Get No) Satisfaction/サティスファクション

 

Rolling Stones - (I Can't Get No) Satisfaction (1965)
http://www.youtube.com/watch?v=8XdMPNBvoc0
 
 ストーンズ出世作であり、会心作であるのが、この「サティスファクション」だ。
 「RS誌の選ぶオールタイム・グレイテスト・ソング500」では第2位に選ばれている。
 ストーンズのみならず、ロックンロールを代表する曲である。
 
 この動画では、キースのギターが音割れしているが、これぐらい荒れた音質のほうが、ストーンズっぽくていい。
(追記 何度も権利者削除されるので、スタジオ・バージョンの動画に差し替えました)
 
 ストーンズサウンドの基本は、この曲のように、キースの作った印象的なギター・リフに、ミックが歌詞を乗せる、というものだ。
 歌詞の内容は不平不満を並べたもの。特に三番のリリックはラップに通じるものがあり、カラオケで歌うと気持ちいい(まわりはドン引きだが)
 
 タイトルは直訳すると「私は不満(no satisfaction)を得ることができない⇒私は満足だ」という二重否定だが、なぜか「やってられねぇ! 不満だぜ!」という意味になる。
 「I can't get/no!/satisfaciton」と区切れば、意味が通じるようになるかもしれない。
 
 これは、黒人のスラングを真似たもので、超自然的を「すごく自然的」という意味で使うのと同じく、テストでは×をつけられる間違った文法の一つである。
 ストーンズの歌詞は、このようなスラングにあふれているので、英語の勉強のために聴くのは絶対にオススメしない
 


(2) Bitch/ビッチ

 

Rolling Stones - Bitch (1971)
http://www.youtube.com/watch?v=UskPWz_FCwo
 
 この「ビッチ」は、ストーンズリトマス試験紙みたいなものである。
 このサウンドが気に入らない人は、ストーンズのことを好きにはなれない。
 ストーンズにだって、名バラードは多いけれど、この曲が気に入らないなら別のミュージシャンを聴いたほうがいいと思う。
 
 この曲はタイトルがひどいが、曲の進行もひどい。
 単純なギター・リフが、リズム・ギターとなって、しつこいぐらいに、えんえんと繰り返されている。
 
 しかし、このリズム・ギターこそが、ストーンズサウンドの中核なのだ。
 
 ストーンズのリズム隊は、ビル・ワイマン(ベース:1993年脱退)とチャーリー・ワッツ(ドラム)である。
 この両者、テクニック的には、さして見るべきところはない。
 チャーリーのドラムは、ジャズ出身らしい正確さにあふれている。世界でもっとも高給なリズム・マシーンとよく揶揄されているが。
 ビル・ワイマンのベースは、まあ、秋山澪よりうまいかどうか、というレベルである。
 
 と、世界最強のロック・バンドを自称しているわりには頼りないリズム隊だが、それをおぎなうどころか率いているのが、リズム・ギターである。
 この曲では、ミック・テイラー(1969〜1974在籍)が弾いているが、ほとんどの曲は、キース・リチャーズの低音ギターがリズムをとっている。
 ベースが頼りないストーンズでは、リズム・ギターが屋台骨となっているのである。
 これが、ストーンズの一番大きな特徴である。
 
 さて、1993年のビル・ワイマンの脱退以降のストーンズサウンドが好きになれないファンは少なくない。
 それは、その後任のベーシストがうますぎたからである。
 妙な話だが、ストーンズのノリというのは、ゴッタ煮シチューみたいなもので、不完全さを勢いでカバーするところにある。
 だから、ビル・ワイマンのベースはよく「味がある」と言われて、ファンには懐かしがられている。どんな味かは誰も教えてくれないが。
 バンドでもっとも大切なのは、演奏技術うんぬんではなく、フィーリングであることを、このエピソードは教えてくれる。
 
 あと、この歌詞は女を「ビッチ(メス犬)」と罵りながら「そんなビッチがたまらねえぜ!」というきわめて不謹慎な内容である。
 当然のことながら、BBCをはじめ、世界の多くの放送局では放送禁止になっている曲だ。
 


(3) Not Fade Away/ノット・フェイド・アウェイ

 

Rolling Stones - Not Fade Away (1964)
http://www.youtube.com/watch?v=pt_zum97kjE
 
 さて、時計の針をストーンズがデビューした時期に戻らせてみよう。
 
 ストーンズは、ほぼ同期のビートルズと違って、デビュー当初はオリジナル・ソングを持たなかった
 ミックもキースも曲を作ったことがなかったのだ。
 ゆえに、初期のレパートリーは、すべてカバーである。この「ノット・フェイド・アウェイ」は50年代の偉大な白人ロッカー、バディー・ホリーのカバー
 
 前方でハーモニカを吹いているのは、ブライアン・ジョーンズ
 ブライアンは初期ストーンズのリーダーであった。
 この配置のとおり、初期のストーンズは、ミックとブライアンがフロントマンで、キース・リチャーズは裏方役にすぎなかった。
 
 なお、ストーンズの初期メンバー5人は、左からビル・ワイマン(ベース)、ブライアン・ジョーンズ(ギターなど)、チャーリー・ワッツ(ドラム)、ミック・ジャガー(ボーカル)、キース・リチャーズ(ギター)
 


(4) The Last Time/ラスト・タイム

 

Rolling Stones - The Last Time (1965)
http://www.youtube.com/watch?v=BzZHmHqEE7k
 
 カバー中心だったストーンズだが、やがて、キースがソングライターとして頭角をあらわし、それにミックが歌詞をのせるというスタイルが確立される。
 この「ラスト・タイム」は、初めて全米チャート10位以内に入った、ストーンズの記念碑的作品である。
 
 印象的なギター・リフは、次のシングルである「サティスファクション」ほどの荒々しさはないが、思わず身を揺さぶってしまうノリの良さがある。
 この曲と次の「サティスファクション」で、彼らの独創性あるストーンズサウンドは、人々に広く認められるようになったのだ。
 


(5) Paint it black/黒く塗れ

 

Rolling Stones - Paint it black (1966)
http://www.youtube.com/watch?v=ycxw4dSBd0k
 
 「すべてのものを黒く塗ってやる!」と歌われるこの「黒く塗れ/Paint it black」は、宇多田ヒカルのカバーで知っている人が多いかもしれない。
 
 サウンドを特徴づけているのは、ブライアンの弾くシタール
 インド楽器シタールを最初に使ったのは、ビートルズノルウェイの森だが、ブライアンはたちまちそれを会得し、見事な演奏を聴かせてくれている。
 
 キース・リチャーズがソングライターとして、バンドで存在感を確立するのとは反対に、曲作りができなかったブライアンは、マルチ・プレイヤーとして数種類の楽器を弾きこなし、その音楽的才能を見せつけた。
 もともと、ストーンズの結成のきっかけは、ミック&キースが、ブライアンという「天才」に会って、バンドを組もうとしたのが始まりだと言われる。
 初期のリーダーであったブライアンの音楽知識と演奏技術は、他メンバーを圧倒するものがあった
 しかし、デビューしてから、キースが新境地を開拓する一方で、ブライアンは古き良きR&Bから抜け出すことはできなかった。
 
 1969年7月、自宅のプールにてブライアン・ジョーンズの死体は発見された。
 その死が、自殺か他殺か事故かは、未だに明らかにされていない。
 
 それは、ブライアンが、パラノイアの悪化により楽器が演奏できなくなり、ストーンズ追放を言い渡されてから、一ヶ月後のことだった。
 彼が精神病を患った原因は、女性関係などが言われているが、かつて、自分がリーダーだったストーンズが、新たなポップの道を進み始めたことへの抵抗だったのかもしれない。
 


(6) She's a Rainbow/シーズ・ア・レインボウ

 

Rolling Stones - She's a Rainbow (1967)
http://www.youtube.com/watch?v=QxrzTYAYFf8
 
 ビートルズの傑作サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドというアルバムジャケットには、人形に「ストーンズもおいでよ」と描かれてあった。
 「サージェント・ペパーズ」は、それまでのアルバム録音の常識をくつがえし、数ヶ月に及ぶレコーディングの末に発表された作品である。
 その多重録音をもとにしたサウンドが、大衆音楽の方向性を決定づけることになる。
 
 そんな挑発にストーンズも乗ってしまったのだが、残念ながら、彼らはビートルズではなかった。
 この「She's a rainbow」を含むアルバム「Their Satanic Majesties Request」は失敗作とみなされている。
 
 と、そんな経緯はあるが、この曲は冒頭でサビを二回くりかえすのがまどろっこしいものの、日本のCMに使われたぐらいメロディアスな佳曲である。
 腐ってもストーンズ、と思わせる楽曲だ。
 いわゆる、サイケデリック期の作品。
 


(7) Jumpin' Jack Flash/ジャンピン・ジャック・フラッシュ

 

Rolling Stones - Jumpin' Jack Flash (1968)
http://www.youtube.com/watch?v=m41qGBWQXlk
 
 ビートルズにそそのかされて、サイケデリックに走って大コケしたストーンズが、本気になった王道ロックが、この「ジャンピン・ジャック・フラッシュ
 これぞ、ロックンロールである。
 
 歌詞の内容はフザけたもので、トム・ソーヤ少年のホラ話みたいな内容がひたすら語られる。
 「俺は嵐の中で生まれた」とか「俺は歯のない髭のある婆に育てられた」とか。
 
 そして、サビの部分で、こう歌われる。
 

But it's alright now
In fact it's a gas
But it's alright
I'm Jumping Jack Flash
It's a gas , gas , gas , oh
 
(日本語訳)
でも、だいじょうぶだぜ
そいつはみんなウソだからな
でも、だいじょうぶだぜ
俺は飛んでるジャックの稲妻
そんなの、ウソ、ウソ、ウソ!

 
 見事なぐらい意味がないが、そこがカッコいい。
 「gas」というのは、口語で「ほら話」という意味がある。「冗談」と訳されたり「最高」と訳されたりする。
 
 こんな意味不明さがストーンズの素晴らしいところであり、ロックンロールであると思うのだ。
 
 なお、このような歌詞を書くミック・ジャガーという男は、ミュージシャンになるか国税局の役人になるか本気で悩んだぐらい、知性ある男である。
 ミックの歌詞は、フザけているように見えて、常に「ロックンロールとは何か」を模索している。
 無責任な内容だが、その姿勢は決して無責任ではないのが、ストーンズの面白いところだ。
 


(8) Sympathy for the Devil/悪魔を憐れむ歌

 

Rolling Stones - Sympathy for The Devil (Live 1969 altamont)
http://www.youtube.com/watch?v=awXRuKDjVDY
 
 1969年12月、通称「オルタモントの悲劇」と呼ばれる事件が起きた。
 ローリング・ストーンズのコンサート中、警備員が客を刺し殺すという、信じがたい出来事が発生したのだ。
 しかも、それはステージから十メートルと離れていない場所で起こった。
 メディアは一斉に、ストーンズを批判した。
 
 なぜ、このようなことが起こったのかをまとめると次の通り。
 
・警備を任せられたのは、地元の暴走族ヘルズ・エンジェルズだった。
カルフォルニア州は、十万以上の観客が予想される、無料コンサートには難色を見せ、場所を提供しなかった
・その結果、オルタモント農場に、出来合いのステージが作られた
・そのステージは低く、後方の客は「見えない」と前列になだれこんだ
・そんな彼らに手を焼いたヘルズ・エンジェルズは、客に暴力をふるうようになった
 
 これほど不穏に満ちたコンサートは他にはないといっていいだろう。
 
 演奏は何度も中断され、客とヘルズ・エンジェルズとの間で衝突が起こる。
 ミックのもとに「中止すべきではないか」との助言が訪れるが、ミックは拒絶する。「これでコンサートをやめたら、それこそ暴動になる」
 
 後方で騒ぎが起きているのに不安を感じながら、頭を振っているグルーピーの女の子たち。
 5:25〜は全裸の女性が出てくる。何とかステージに上ろうとする彼女を、ヘルズ・エンジェルズは押しのける。
 
 裸の女性がここまで醜いと思い知らされる映像はなかなかないと思う。
 
 ステージ下では、言い争いや喧嘩が繰り広げられているが、それでもミックは演奏を止めずに、踊り続ける。
 もっとも印象的なのは、8:18でのグルーピーの女の子の涙
 彼女の涙はいったい何を意味するのか?
 
 この映像は、人間が恐怖と混乱に満ちたときに、どのような表情をするか教えてくれる。
 
 なお、殺人が起きたのは、この次の曲「Under My Thumb」である
 しかし、ストーンズやスタッフはそれに気づかず、コンサートは続行された。
 その様子は「ギミー・シェルター [DVD]」に収録されているので、興味のある方はそちらを見ていただきたい。
(グロテスクな映像はまったくない。ただ、狂騒の中で、人がどのように死んでいくのかを知る手がかりにはなる)
 
 「オルタモントの悲劇」は、愛と平和を叫ぶだけのヒッピー文化を終焉に導いた。
 彼らの能天気な笑顔が、何ももたらさず、殺人すら止めることができなかったことは、この動画を見てもわかると思う。
 
 1969年8月のウッドストックの幻想は、1969年12月のオルタモントの悲劇で打ち砕かれた。それは人々を夢から現実に戻すようなものだった。
 


(9) Gimme Shelter/ギミー・シェルター

 

The Rolling Stones - Gimme Shelter (1969)
http://www.youtube.com/watch?v=1pHpWo55lrQ
 
 初期リーダーのブライアンの不審死、コンサート中に警備員がファンを刺し殺したオルタモントの悲劇。
 ストーンズには解散すべき理由はいくらでもあったはずだが、70年代になってもストーンズは活動を続けた
 
 その理由はミック・ジャガーの商才にあるだろう。
 ビジネスの才能を持つ彼はビートルズの失敗と同じ轍は踏まなかった。
 オルタモントの悲劇ですら、それを検証する映像作品「ギミー・シェルター [DVD]」として発売したぐらいである。
 
 さて、その表題曲「ギミー・シェルター」は、「オルタモントの悲劇」と同時期に発売された「レット・イット・ブリード」というアルバムの冒頭に収録された。
 
 「戦争だ! レイプだ! 殺される! 避難所をくれ!」
と、あまりにもストレートな歌詞をソウルフルにミックは歌い上げる。
 この曲から始まるアルバム「レット・イット・ブリード」のメッセージはたったひとつ、「生き残れ」ということに尽きると思っている。
 
 そして、その通りに、ストーンズは70年代をへても、世紀をまたいでも、未だに生き残っているのだ。
 


(10) Brown Sugar/ブラウン・シュガー

  

Rolling Stones - Brown Sugar (1971)
http://www.youtube.com/watch?v=Rx07A9LWBJA
 
 

スティッキー・フィンガーズ
 この「ブラウン・シュガー」は、「サティスファクション」「Jumpin' Jack Flashとともに、ストーンズのコンサートのフィナーレを飾る代表曲である。
 この曲の最後で歌われる「Yeah! Yeah! Yeah! Hoo!」の掛け声は、いたるところで使われているので、ストーンズを知らない人も聞いたことがあるかもしれない。
 
 イントロからして素晴らしい。キースの重低音あふれるこのギター・リフの圧倒的存在感。
 そして、このリズム。ジャズ畑出身のチャーリー・ワッツがドラムをしているぐらいだから、ストーンズにはドラムの激しさはない。
 しかし、この余裕あるテンポがうねりをもたらし、開放感あふれるナンバーになっているのだ。
 
 この曲が収録されたスティッキー・フィンガーズのアルバムジャケットは、ストーンズの中でもっとも有名なものだ。
(個人的に、このアルバムの作品性は、その前後に比べては、あまり好きではない)
 

(11) Sweet Virginia/スウィート・ヴァージニア

  

Rolling Stones - Sweet Virginia (1972)
http://www.youtube.com/watch?v=T3eLQlVg6As
 
 最後に紹介するのは、ストーンズの最高傑作といわれるアルバム「メイン・ストリートのならず者より、アコースティック・ナンバー「スウィート・ヴァージニア」
 
 ストーンズは黒人R&Bの模倣から始まったため、その音楽性はきわめて泥臭い。
 そのワイルドさは唯一無二のものではあるけれど、ビートルズほどのとっつきやすさはない
 
 ただし、時にはストーンズのルーズなサウンドが聴きたくなるときだってあるはずだ。
 
 この曲が収録された「メイン・ストリートのならず者は、もともと二枚組として発売された。
 一言でいえば、無駄のないビートルズのホワイト・アルバムという感じである。
 一曲目の「Rocks Off」から最後の「Soul Survivor」までに演奏される様々な音楽性は、さながらゴッタ煮のシチューである。
 それを聴くことは、とろけるような素晴らしい時間がすごすことができるのだ。
 


◆ 最後に

 
 と、気づけば、1曲多くなったのはご愛嬌。
 しかし、今回は「悲しみのアンジー」や「Time Is On My Side」など、多くの人が知っている曲は、あえて紹介しなかった。
 ストーンズらしさにこだわって選曲したつもりである。
 
 もちろん、この11曲で、45年以上の歴史があるストーンズを語ることはできないが、もし、これらの曲に興味があれば、まずはベスト・アルバムを買ってみるといいだろう。
 

Forty Licks

Forty Licks

 
 それで、満足すればそれで良し。満足しなくても「ストーンズが合わない」ことがわかっただけでも損ではない。
 そして、さらに、その音楽を知りたくなったら、好きな曲の入ったアルバムを買ってみるといいと思う。
 個人的にオススメは「レット・イット・ブリード」だけど。