コミティア89レポート、蛸壷屋への恩返し

 
 
 10,000ユーザー来訪感謝企画!
 
 そうなんです。先日、話題になっていた蛸壷屋の新刊の紹介記事を公開したところ、10,000ユーザーぐらいが、このブログに新たに訪れたようなのです。
 
 偉いのは蛸壷屋の作品であり、僕はその話題性に便乗しただけのならず者ですが、そのうちの1%の人が、このブログを気に入ったとしたら100ユーザー獲得ということになります。たいした数です。
 
 ということで、僕のブログを盛り上げてくれた蛸壷屋に、何かの恩返しをせねばなるまいと、本日開催のコミティアに行ってきました!
 
コミティア89
↑2009/8/23 14:05 東京ビッグサイト西1ホール入り口
 
 

コミティアについて

 
COMITIA(自主制作漫画誌展示即売会)公式サイト
http://www.comitia.co.jp/
 
 さて、本日行われたCOMITIA89、スケジュールは次の通りでした。
 
開催日 2009年8月23日(日) 11:00〜15:30 
場所  有明東京ビッグサイト西1ホール
参加サークル数 2128(委託含む)
 
 コミックマーケットと同じ東京ビッグサイトを舞台にしているとはいえ、いろいろと相違点があります。
 例えば、コミックマーケット東京ビッグサイトをまるまる借り切って行われるわけですが、今回のコミティアは西ホールの一つのみ。
 そのほかにも、コミティアには次のような特徴があります。
 
・年に四度の開催
・二次創作は禁止。オリジナル作品のみ
・会場でのコスプレは禁止
・入場にはカタログであるティアズ・マガジン(500円)が必要
 
コミティア89
↑ただし、僕が来た午後1時にはカタログが完売していたので、入場フリーでした
 
 年齢制限のある作品を販売しているサークルは15%ぐらいだと感じました。ただし、売上の割合になると、大きく変わると思います。エロが売れるのは、ゆるぎない事実であります。
 
 男女比は、男5:女5ぐらいだったと思います。出品者の年代は10代から40代以降と幅広かったです。なかには、雑誌で小説を掲載している人の作品や、竹熊健太郎責任編集と銘打った雑誌もあったりと、ただのアマチュアではない作品もあったようです。
 
 僕が抱いた印象では、参加した人数はスタッフ含め1万5千人ぐらいではないか、という感想です。
 ただし、コミックマーケットに比べると、じっくりと作品を選ぶ人も多いため、実数は1万人に満たなかったかもしれません。
 また、午前中だけで帰った人も多かったでしょう。僕が向かった午後一時以降には、行列はどこにも見られませんでした。
 
 三日間で60万人を動員するコミックマーケットに比べれば、このコミティアの規模は小さいですが、参加2000サークルというのは大した数です。オリジナル創作限定としては、最大級のイベントでしょう。
 
(ただし、僕はこのような同人誌即売会の経験が乏しいため、実状からは異なる描写かもしれません。あくまでも、これは僕個人の印象にすぎません)
 
 コミティアは「自主制作漫画誌展示即売会」とあるように、漫画が中心です。しかし、小説やゲーム、そして音楽の創作物を出しているサークルも少なくありませんでした。
 

◆出張編集部コーナー

 
 このコミティアの最大の目玉は「出張編集部コーナー」でしょう。
 コミックマーケットでは「壁サークル」という言葉があるように、壁には大手サークルが並び、それを求める行列がひしめいているわけですが、コミティアの壁の一辺には、商業誌の編集部がブースを出して、希望者の作品を批評しているのです。
 
 今回、コミティアに来ていた編集部は以下の通り。
 
・ガンガン系 (スクウェア・エニックス
少年エースヤングエース (角川)
・REX/ぱれっと (一迅社
フレックスコミックス
少年ライバル (講談社
ウルトラジャンプヤングジャンプ (集英社
・COMIC リュウ (徳間書店
・KISS (講談社
・イブニング (講談社
IKKI (小学館
 
 集英社講談社が来ているとはいえ、「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年マガジン」という最大手の雑誌編集部の人が来ているわけではありません。ただ、コミティア会場で持ち込みというのは、雑誌社に直接連絡するよりは気軽にできるのではないでしょうか。
 
 この中で一番ブースが広かったのは、スクウェアエニックスのガンガン系でした。初めての参加なので、今回だけの特別措置かどうかはわかりませんが、ガンガンという雑誌が自分の気質にあってると思う人は、コミティア会場に自分の作品を持って足を運ぶのもいいと思います。そのアドバイスは貴重な経験となるでしょう。
 
 その隣で、コミティアで出展するサークルは、プロの経験のある人から、落書き程度のコピー本を出しているところまで、千差万別ではあります。プロを目指すために同人即売会に出ている人や、同人作家として活躍している人もいます。
 

◆蛸壷屋について

 
 さて、一部では「変態エロ同人誌」発信源として、その悪評を欲しいままにしている蛸壷屋ですが、なぜ、コミティアに参加しているのかというと、二次創作だけではなく、オリジナル作品も同人誌として販売しているからです。もちろん、コミティアでは、先日、話題となった、けいおん新刊は出品していないわけですが。
 
 蛸壷屋では、これまで「魔法少女R」(全4巻)と「松陰神社」(全5巻)という、二作品を完結させていて、今は「OUTSIDER」という作品を6巻まで頒布しています。
 
 なお、「魔法少女R」は、現在では頒布しておらず、蛸壷屋公式サイトにてダウンロードして読むことができます。
 
 最初のうちは好悪がわかれるクオリティかもしれませんが、第4巻まで読んだ人ならば、蛸壷屋同人誌でなければ味わえない迫真性を体験することができるでしょう。
 
 蛸壷屋の同人誌は1巻およそ60ページ。同人誌としては多いページ数ですが、商業誌に比べると、多い枚数ではありません。「魔法少女R」の場合だと、ダウンロード版だと約300ページ。単行本だと、分厚い一冊におさまるボリュームにすぎません。
 しかし、商業作品にはページ数をはじめ、多くの制約があります。締切に追われるあまり、作品の完成度が二の次である場合が少なくありません。
 それに比べて、同人作品では作者の納得のいくペースと分量で描くことができます。また、表現の自由があります。ゆえに、同人作品が商業誌よりも密度が濃く、読後感に優れた内容になっていても、別段おかしなことではありません。
 
 蛸壷屋では、同人サークルとしては珍しいですが、それぞれのイベントの実績を公式サイトの「結果報告」のコーナーで公開しています。
 
 それによれば、コミックマーケットにあわせて出されるアニメ二次作品(18禁)新刊が1000部以上売れるのに対し、オリジナル作品は新作でも100部程度。売上の数は10倍以上の開きがあります。
 
 といっても、オリジナル作品の手を抜いているわけではありません。むしろ、オリジナル作品を続けるために、エロパロ作品を出しているといってもいいぐらいなクオリティが高いので、蛸壷屋のストーリー性のある二次創作に興味を持った人は、オリジナル作品にふれてみたらどうでしょう。読んでみて、裏切られることはないと思います。
 
 ただし、高いです。蛸壷屋の同人誌は1巻600円(書店などの委託販売は800円)。商業誌や単行本に比べると割高です。
 
 しかし、A4サイズということもあり、ページあたりの情報量は多く、読みごたえあります。
 話題になった蛸壷屋けいおん新刊に関していえば、わずか5ページのエピローグに多くの人が様々な思いをよせました。これらのイメージ豊かな漫画表現は、商業作品では見ることのできない、同人作家として十年以上活動し続けた蛸壷屋だからこそ見せることができたインパクトがあります。
 
 蛸壷屋の作品は、よく「変態」と呼ばれているわけですが、それは徹底したエグい描写によるものだと思います。性的というより、心理描写にその傾向が強いです。
 
 オリジナル作品の「魔法少女R」の場合だと、最終巻である4巻で、主人公の少女は完膚なきまでに叩きのめされても、感情をむきだしにして挑みます。このような「打ちのめされる」迫真性の高さが、蛸壷屋作品の魅力ではないでしょうか。
 
 蛸壷屋けいおん新刊については、センチメンタルなファンの「あんまりだ」という声がやみませんでした。まあ、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を上演したときだって、その元ネタのブルックのファンからすれば「冒涜だ」と罵られたことでしょうし、特に気を病むことではありません。
 ただ、僕は、そのエピローグに、そこにある種の生々しさを感じました。起こりえる未来だと思ったわけです。二次創作同人誌とは思えないほど、蛸壷屋けいおん新刊が話題になったのは、そんなリアリティがあったからでしょう。
 
(ちなみに、僕の場合は、むしろあそこを出発点として、彼女たちの魂が癒される過程を描きたいという欲求にかられています。男に裏切られ、過去にすがりつくことができない女と、憧れの先輩の背中を追いかけるあまり、まわりが見えていない女の、喪失と再生の物語。そんな物語があってもいいではありませんか)
 
 「ほのぼのレイプ」というご都合主義がまかり通る同人界の中で、蛸壷屋の徹底描写には確かな熱が宿っていますす。
 蛸壷屋の同人作家として描き続ける漫画に対するプライドは、ある種の人には読みづらさになるでしょうが、一方で僕のようなファンも生んできたわけです。まあ、これは好みの問題ですけどね。
 
 
 さて、話が長くなりましたが、本日はそんな蛸壷屋のブースに行ったわけです。購入予定だったのは「松陰神社」(全5巻)。
 サイトの紹介記事を見ると、なかなか面白そうな内容でして、それをブログでレビューするのも悪くないと思いました。たとえ、そのレビューが的外れでも、一冊でも買おうとする人が出たならば、それなりの恩返しになるのではないかと。
 そう考えて、足を運んでみたのですが、なんと松陰神社は3巻だけが売り切れてしまったとのこと。
 やはり、けいおん新刊の話題性があったせいか、それとも午後1時にノコノコと足を運んだ僕が悪かったのか。
 
 
戦利品
 
 ということで、新作の「OUTSIDER」を1〜6巻購入したわけです。しめて、3600円なり。
 
 この「OUTSIDER」は美少女アクション漫画です。そのバトルシーンは、A4サイズということもあり、他の漫画では味わえないエキサイティングな内容になっています。文字で表現するならば、骨のきしむ音まで肌で感じられる作品、となるでしょうか。彼女たちの身体のひねりの構図が見ていて心地いいです。痛快アクション活劇と呼べるような、能天気な内容ではありませんが。
 
 この「OUTSIDER」、昔の「魔法少女R」に比べると、画力といい構図といい、格段に進化しています。同人漫画が自己満足だと思っている人は、「魔法少女R」と「OUTSIDER」を読み比べるといいです。
 
 ただ、この「OUTSIDER」、キャラが増えるばかりで、ストーリーがあまり進みません。このままでは、10巻をこえてしまいそうな勢いです。
 まあ、週刊や月刊連載ではとても味わえない密度のこい戦闘場面は、この蛸壷屋でなければ味わえない興奮度がありますので、それだけで買う値打ちはあります。「別に終わらなくてもいいや」と思うぐらいです。何しろ、この作品の魅力は、主人公の女性たちの刹那的なまでの生き様にありますので。
 

コミティアのジャンルについて

 
 コミティアに話を戻します。コミティアで出品されたジャンルはどのようなものがあるのか、というと、日常ものからファンタジーものまで多岐にわたっています。
 軍事ものもありましたし、鉄道擬人化もありました。東大お茶の会というサークルもいました。「勇者アレックスの冒険」だなんて、VIP RPGを知っている僕からすれば笑っちゃうようなタイトルの作品もあったり。
 
 中には、商業誌で活躍するような人もいるわけで、「宇宙戦艦ヤマトのデザインをした人」なんてアピールをしているサークルもいました。僕はその方面にあまり詳しくないので、特に感動しなかったのですが、その人がかなり年季の入った人であるとともに、隣に若い女性がいたことに驚きました。おそらく娘さんだと思います。娘と一緒に同人即売会に出ているなんてうらやましいかぎりです。
 
 そうそう、「父ものジャンル」の作品が多かったことが、僕の印象に残りました。例えば、父と超能力者である娘の二人家族によるほのぼの物語とか、双子の兄妹を父が育てるトラブル作品とか。30代で参加している人も少なくありませんから、そういうジャンルに移行するのは自然なことかもしれません。
 
 僕としては、漫画よりも小説のほうが興味深かったわけですが、オリジナル小説をイチから読むほどの気力はないので、ほとんどスルーしました。
 最後まで買うのに悩んだのが「ドージン落語」という本。僕は不勉強にも落語をあまり知らないし、同人ネタをからませることで、そちら方面を知らない僕にも勉強になる、という大変面白そうな本で、かなりのページを立ち読みしたのですが、結局、買うのをやめました。
 
 ゲーム分野ではノベルゲームがほとんどでしたね。値段は100円〜500円ぐらい。その閑散したブースを見ると、フリーソフトという形でネットで公開したほうが幸せなんかじゃないかと思いました。
 
 コミティアに出品するためには、机一つにつき5000円、イス一つにつき500円が必要です。ということは、最低でも5500円を稼がないと元が取れないわけですが、500円で販売して15本以上売るのはきわめて難しいです。一つの作品しかなかったら、絶望的な数字といっていいでしょう。
 創作系サークルは、コミックマーケットよりも、コミティアのほうが売れるチャンスが高いと思いますが、ゲーム作品の場合、手にとるだけで買おうとする人がどれだけいるかは疑問です。それこそ、CGの美麗なアダルト要素のある作品でなければ、物好きな人でないかぎり購入までこぎつけることはないでしょう。
 「ひぐらし」プロジェクトのように、広告するべき人がいなければ、やる価値ないんじゃないかと思います。参加することに意義があるのかもしれませんが。
 
 もし、このような同人即売会に発表の場を求めるのならば、蛸壷屋の「イベント結果報告」を読むことは参考になるはずです。
 コミックマーケットで1000万円儲けた、なんて景気のいい話を聞いて「同人作家っていいなあ」と感じるかもしれませんが、限られた時間で数千部売るなんて、一人では物理的に不可能です。売り子の確保を含め、それ相応の準備をしなければ、いくら絵がうまくても、話がよくても限界があるんです。
 
 そして、売れてる同人作家には、商業作品で活躍している人がゴロゴロします。彼らが有名でないのは、ストーリーよりも女の子を描くほうがうまいからです。そんな相手と渡りあわなければなりません。
 さらに、同人作家には、商業作家に比べると、孤独な立場です。売れなくなったら、はい、それまでよ、という過酷な現実が待ち受けています。
 
 絵に興味ある人はpixivなどを通じて、いろんな人と交流してその実態を知っているとは思いますが、僕のようにくわしくない人は、同人誌即売会に過度な幻想を抱きがちです。
 そんななか、作品自体の好みは激しく分かれるといっても、蛸壷屋のイベント結果のデータは、同人界の実態を知る上で参考になるはずです。
 

◆売場について

 
 これを読んでいる人のなかには、同人即売会なんて行ったことない人も少なくないでしょう。そこでは、ただ机の上に作品をぽつんと置いて売っているわけではありません。
 
 まず、必須となるのはテーブルクロス。これだけでずいぶんと印象が変わります。そして、POP広告も欠かせません。ただし、他のブースのさまたげになる装飾は許されません。たいていのサークルは卓上スタンドにポスターを掲げて、自分の作品をアピールしていました。
 
 同人即売会では「寄ってらっしゃい見てらっしゃい」ともみ手をしても買ってくれるわけではありません。「安さ」のアピールはおしつけがましくありませんが、「面白さ」のアピールは気分を害するだけです。
 
 特に、コミティアでは立ち読みだけの人がほとんどというのが実態ですので、そんな読者と向き合わなければなりません。僕としては、売り子さんには、DSをプレイしたり、携帯電話をいじったりしていた方が気楽でいいんですが、作り手としては、なかなかその心境に達することは難しいでしょう。
 
 もともと、同人即売会なんて、新たな出会いと交流の場のようなもので、一部の(本当にごく一部の)行列ができるほどの人気サークルをのぞけば、売ることに専念することで一日がすぎることはありません。自作の販売が第一ですが、知り合いと楽しい会話をするのもイベントに参加する大きな理由なのです。
 買い手としても、自分のペースでお気に入り作品を見つけたい、ということで、売り手のサービス精神には特に期待していないはずです。
 
 しかし、中にはがんばるサークルもいます。驚いたのは、ティッシュ配りをしていたサークル。思わず、受け取ってしまいましたが、帰りの電車で紛失しました(僕にはよくあること)。いったい何が書かれてあったのでしょう。もしかすると、商業作品でも活躍しているサークルだったのかもしれませんね。
 あと、ビラみたいなものを渡している人がいましたが、あまり好ましくないと感じました。やはり、同人即売会ではチラシやビラも、机の上にポンと置いて、好きな人だけ取ってもらう、というのがマナーだと。
 
 終了間際になると、無料配布をしていたサークルもいました。これは意味不明です。無料で渡されたところで、そんなものはただのゴミです。それなら、ネットでWEB漫画を見たほうがずっと楽しめます。あくまでも「売り物に値する作品」を期待して、わざわざ東京ビッグサイトまで足を運んでいるわけです。
 無料配布というのは、あまりにも見苦しいのでやめてほしいです。売るべき商品を自分で無料とした時点で、そんなものはただのゴミです。空のペットボトルを配布しているぐらいバカげた行為です。
 

◆立ち読みスペース

 
 コミティアの特徴として、西ホールの入り口に「見本誌立ち読みスペース」というものがありました。そこでは、各サークルが提出した見本誌を自由に読むことができます。
 
 
立ち読みスペース
↑西ホール入口の立ち読みスペース
 
 ここだと、売り手の神経質な視線を気にせず、思いぞんぶん読むことができるわけです。気に入った作品は、表紙の裏に場所が書かれたシールがあるので、それをチェックすればいいのです。僕はここで、一時間ばかり過ごしました。
 
 成人誌の立ち読みもできます。ただし、このスペースでは、万引き防止のために、コミティアのボランティアスタッフがイスの上に立って見張りをしています。ああいう環境で成人誌を読む人はすごいなあ、と思いました。
 
 ということで、この立ち読みコーナーだけでも、時間はかなり潰せます。同人誌には興味あるけど、コミックマーケットで買わなければならない作品があるわけでもない人は、コミティアに行くと有意義な時間がすごせるのではないでしょうか。
 
 そのコーナーで拾い読みをしていると、どんなものを人々が描きたいのかを知るきっかけにはなると思います。
 

◆同人誌についての個人的雑感

 
 最後に個人的雑感。
 
 僕は小説を書いて同人即売会に出そうという野心はありません。ブログのほうが反応がいいし、所詮ブログだから、と気軽に書くことができます。オフセット印刷となると、どうしても商業作家と渡り合わなければならない気持ちになります。
 
 小説の場合だと、いかに誤読させずに面白さを伝えることができるのか、ということがもっとも大切なことです。何しろ、書き直しをするのが簡単です。もし、一ヵ月後に自分が読んで、枕に顔をうずめて足をバタバタさせるようなものしか書けないのならば、それを他人に読ませるなんて、時間泥棒と同じです。
 
 もともと、文学賞が応募締切から発表までに時間があるのは、応募作品を書き直す時間を設定しているからです。我々が受賞作品を読んで「すごいなあ」と思っても、それは応募された状態の作品ではないことが少なくありません。
 「筆がすべった」という表現がありますが、書いているうちに感情がたかぶるあまり、ついつい誤解を招く描写をしてしまうのは、文章を書くうえではありがちなこと。文学賞の受賞作品は、編集者のアドバイスのもと、そういう雑草抜きや刈り込みをしたうえで、世間に発表されているわけです。自分ひとりでは、とても太刀打ちできないわけです。
 
 ただ、文学賞で選外になった作品を、同人即売会で販売するのは面白いと思います。「最終選考で落ちた」とか「これが二次選考作品だ!」と宣伝すると、興味を持つ人も出てくるでしょう。ただ、この時勢に作家を目指す人なんて、どれだけいるのかわかりませんが。
 
 作家になる人なんて、若い女性をのぞけば、編集者とコネがある人がほとんどです。大学時代に小説を書くのは楽しいことではありますが、小説家になろうと考えるのならば、それに近づける仕事に属したほうがいい。満足のいく仕事につけば、創作意欲も満たされるし、人脈を築くことができます。
 ただ、そんなコースから外れたのにも関わらず、死に物狂いで小説を書いて認められたいと思っている人が多すぎるのが現状でしょうけど。
 
 そういう人たちを心を満たすべく、同人即売会は今後も続けられていくと思います。僕はコミティアに現代の縮図を見出すことはできませんでしたけど、なかなか充実した時間を過ごせました。なかには、今後の生活を刺激するような出会いを体験する人もいるかもしれませんしね。
 
COMITIA(自主制作漫画誌展示即売会)公式サイト
http://www.comitia.co.jp/