蛸壷屋C77新刊「レクイエム・ファイブ・ストーリー」紹介

 
蛸壷屋C77新刊
 
 前記事に書いたように、2009/12/31のC77にて頒布開始の蛸壷屋による『けいおん!』二次創作同人誌『レクイエム・ファイブ・ストーリー』が同人ショップで先行販売しているという情報を知り、COMIC ZINで購入した。
 
 この記事では、その内容をネタバレを極力抑えて紹介してみる。
 
 
 さて、前作『万引きJK生』は、二次創作ではあるまじき「ヒロインの自殺」を描くことで、ネット上で評判になった。
 
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 今回の『レクイエム・ファイブ・ストーリー』は、その『万引きJK生』のクロスストーリーとして描かれている。
 
 題名は、ダーレン・アロノフスキー監督の映画『レクイエム・フォー・ストーリー(Requiem for a Dream)』をもじったものであるらしい。ドラッグに身を崩す親子を描いたその映画を見た者は、今回のタイトルを見て、『万引きJK生』での平沢唯が「大麻取締法違反」で逮捕されていたことを思い出すだろう。
 
 しかし、『レクイエム・ファイブ・ストーリー』の主題はドラッグではない。そして、今作で主軸にすえられているのは、平沢唯ではなく、その妹の平沢憂と、同級生の秋山澪である。
 
 
 作者サイトの予告ページ(18禁!)を見たときに、僕には嫌な予感がした。それは、秋山澪のエピソードが、ネットの某事件をなぞるだけではないかと危惧したからである。だが、その予想は大きく外れた。
 
 秋山澪は高校を卒業して音楽の道をあきらめてからは、男にすがることでみずからの存在を確立しようとする。一流企業に入り、金持ちの男と付き合い、彼女は同級生の田井中律とも「違う人間」であることをアピールしようとしている。やがて、男に捨てられ、自慢話の種であった同級生の死に直面した彼女が、どのようにして「自分」を確立していこうとするかが、この『レクイエム・ファイブ・ストーリー』のメインストーリーとなるだろう。
 
澪と律
↑宅配屋の制服を着た律と一緒にいることを同僚に見られて動揺する澪
 
恍惚の澪
↑妻子ある上司との不倫をして生の充実を得ようとする澪
 
澪の自慰
↑男に捨てられた後、こんなことをやってる澪
 
卑屈な笑顔
↑澪のこんな卑屈な笑顔が見られるのは、蛸壷屋だけ!
 
澪の嘆き
↑これぞ、蛸壷屋クオリティ!!
 
 
 一方の平沢憂に関しては、パロディ元である「けいおん!」アニメ第12話で描かれた「身代わり」事件を題材にしている。風邪をこじらせた平沢唯に代わって、憂が変装して演奏するという筋立ては、「ご都合主義」としか言いようがない、納得のいかないものであったが、それをもとにストーリーを紡ぎだしているところは、さすが蛸壷屋といったところだ。
 
 もちろん、18禁作品であるので、性描写にも徹底的にこだわっている。メッセサンオーの紹介ページで一部掲載されているが、その内容は相変わらず「エゲツない」。ただ、そのエグさこそが、蛸壷屋作品の最大の長所であると考える僕からすれば、今回も納得のいく出来であった。
 
 ただし、作者があとがきで書いているように、中野梓について描ききれていないところがもったいないと思った。
(個人的には、これは「俺が好きにしてもいい」というメッセージと受け取った。このブログの熱心な読者は、僕が「万引きJK生」を読んで、中野梓のその後について大いに妄想をふくらませていることをご存じだろう。(→該当記事)露出度の高い服装をして秋葉原で路上コンサートを開いていた中野梓がどうなったのかは、僕を含め、読者の想像にゆだねられたのだ)
 
 この作品のように、「天才」は居場所が欲しいだけなのに、周囲は彼女を同じように見ることはできないということは、僕のまわりにもある。例えば、僕が属している横浜文学学校では、野間文芸新人賞を取った某作家さんが、未だに会員の一人として会費を払いたいと申し出ていることに、いろいろ戸惑う声がある。我々は「特別会員」として接したいのに、彼女はあくまでも「会員の一人」として接してほしいと言うのだ。
 
 はたして「人の価値」とはなにか? ボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」じゃないけど、すべてを失ったときにこそわかるものがある。ユルさを売りにした「けいおん!」のパロディだからこそ、秋山澪の「自分」への焦燥に共感できる人が多いはずだ。
 
 この『レクイエム・ファイブ・ドリーム』は、逆説的青春群像、といえるだろう。
 
 
 総括すると、『万引きJK生』のような切れ味の鋭い衝撃はなかったものの、秋山澪の「美しくない」裸体描写など、読みごたえのある作品ではあった。決して失望するような内容ではない。
 
 
 冬コミで入手される方は、大いに期待しておいてください。蛸壷屋ならではのユルくない「けいおん!」ワールドを楽しめるはずです。
 
 
蛸壷屋
http://www.takotuboya.jp/(蛸壷屋 公式サイト)