「エンドレスエイト」の再生産が面白いとか、

 
 「エンドレスエイト」の再生産が面白いとか、その魅力がわからない奴はアニメを語る資格なしとか、バカなことを言ってるお前。だから、お前はオタクって呼ばれてるんだよ。
 
 演劇でたとえてみようか。シェイクスピアの「ハムレット」を知ってるよな? 「ハムレット」は現代でも様々な劇団が、それぞれの演出で舞台にしている。それらの「ハムレット」を比較することは、演劇の楽しみ方のひとつだし、演劇という表現手段を学ぶ良い教材だ。
 
 でもな、お前が今ほめてるのは、どっかの劇団の、さして評価されていないオリジナル脚本を、同じ劇団で、同じ配役で、演出だけ変えて何度も上演しているようなもんだ。それのどこが面白い? この違いがわからない奴は、語る資格なしだって? 冗談もたいがいにしてくれ!
 
 「エンドレスエイト」を、シリーズの中で良作とする奴はいないし、それでファンになった奴は一人もいない。それなら、ハルヒが新規ファンを獲得した「ライブアライブ」の学園祭のシーンと、その構図のもとになった映画「[rakuten:ikeya:10000339:title]」を比較したほうが、ずっと面白いじゃないか。
 
 もし、お前がアニメ関係のブログやってて、アクセス数を稼いでアフィ収入が得てるんだったら、「エンドレスエイト」の面白さをこじつけてる理由はわかるよ。良くも悪くも旬のネタになってるからな。その涙ぐましい努力は、金という報酬になって返ってくる。でも、お前、そうじゃないだろ?
 
 なら、「[rakuten:ikeya:10000339:title]」から「ライブアライブ」が生まれたように、実写映画を見たほうが、面白いネタは見つけやすいと思わないか? 原画の画風の違いなんて、最終的には先天的な問題だしさ。
 
 手塚治虫が映画に触発された漫画を量産したように、別メディアを見てたほうが他人を説得させやすい。オタクはアニメから見ないからオタクなんだよ。オタク呼ばわりされたくなきゃ、アニメ以外のものも見ろよな。そして、他人の言葉をうのみにせず、自分の感覚だけを信じて、叩かれる覚悟で発言してみろよ。
 
 
 そうそう、俺は確かに洋楽オタクだ。だから、お前のような楽しみ方があるのは知ってるよ。
 例えば、ビーチ・ボーイズに「グッド・ヴァイブレーション」って曲があるんだが、その海賊盤で三枚組のやつがある。その三枚組には、たった一曲「グッド・ヴァイブレーション」しか収録されていない。三枚まるまる「グッド・ヴァイブレーション」だ。そんなのを聴く奴の気が知れないと思うだろうが、これはこれで面白いんだ。
 
 ビーチ・ボーイズで曲を作ってたブライアン・ウィルソンって奴は「ポケット・シンフォニー」っていうのを提唱していた。3分程度の交響曲って意味だ。そのために、それぞれの部分を別録音して、あとでつなぎ合わせるという手法を取った。当時はデジタル機材がなかったから、すべて手作業だ。「Audacity」のようなフリーソフトがある現在じゃ考えられないぐらい、それは困難な作業だった。そのために、数多くの未発表部分が残されているんだ。それをつなぎ合わせると、別の「グッド・ヴァイブレーション」が俺でも作れる。そんな素材がまとめられているのが、その三枚組の海賊盤ってわけさ。
 
 この「グッド・ヴァイブレーション」は、よくWikipediaで引用されるRS誌の偉大な曲ベスト500にて第6位に選ばれた名曲だ。「イマジン」よりは低いが、「レット・イット・ビー」よりは高い。つまり、聞き比べするだけの価値がある曲なんだよ。
 
 なお、そのランクで1位なのが、ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」って曲だ。Youtubeにそのセッションの音源を拾ったので、興味があるなら聴いてくれ。
 
 

http://www.youtube.com/watch?v=PhrM-HVvgqM
 
 まず、これがディランのピアノ弾き語りによるリハーサル。
 楽譜がかけなかったディランは、実際に歌って、ミュージシャンたちに曲を教えていたんだ。
 それを聴きながら、ミュージシャンはコード進行をメモして、曲の全容を頭に叩きつける。
 これが60年代の録音のやり方だった。
 
 

http://www.youtube.com/watch?v=Q4OFfKkimGA
 
 そして、それからすぐにセッションが開始される。
 この曲ができた1965年代は、一つの楽曲に二日以上の時間をかけるほどの余裕がなかったからな。
 ミュージシャンがいろいろ試行錯誤しながら、曲がまとまっていく過程が面白いだろ?
 三拍子だったのが、気づけば四拍子になってるぐらい、曲がアレンジされるのが、ロックンロールのいいところだ。
 
 

http://www.youtube.com/watch?v=qq4WlwdARiU
 
 で、このテイクで最後まで演奏している。
 だんだんノリがよくなるディランの声とミュージシャンたちに注目だ。
 
 

http://www.youtube.com/watch?v=SX3wKCziFJA
 
 それでも満足できなかったのか、さらにテイクを繰り返している。ディランは「歌いきれていない」と思ったんだろうな。
 ただ、いろいろ試しているが、歌詞間違えたり、ノリが悪かったりして、十数回、録音を試みたものの、ディランはあきらめた。
 
 結局、先のテイク4が公式テイクで使われた。
 そして、それが、RS誌の偉大な曲ベスト1位に選ばれた歴史的名曲「Like a rolling stone」ってわけだ。
 なかなか興味深い話だと思わないか?
 
 まあ、こういう舞台裏を知っていたら、多くの人は曲の「凄さ」がやわらいでしまう。白鳥の水面下のバタ足なんて、ファンだけが知っていればいいんだ。ミュージシャンにとっては完成テイクこそすべてだ。
 
 
 俺の中学時代の数学教師との思い出を話してみよう。その先生の教え方のわかりやすさに、俺はいつも舌を巻いていた。どんな難問でも、赤子の手をひねるがごとく、彼は楽に解いてみせたからな。
 あるときに、その先生に質問に行った。それは、単純そうだが意地悪な問題で、俺には解答のための発想が思いつかなかったんだ。その先生に見せると、驚いたことに、先生にも解法が浮かばないという。で、先生が考えてる途中で、俺のほうが先にわかった。
 
 そのとき、俺は知った。この人が凄いのは、あらかじめ予習をしているのに、さも初見のようなふりをして、すらすら解いてるせいだってことに。先生が予習してない問題だったら、生徒の俺のほうが先にわかることも、別におかしいものじゃないってことに。
 
 で、教師はそういう職業だってことに俺は気づいたんだ。前準備と経験があるからこそ、人にものを教えられるんだ。頭の良し悪しっていうのは、あんま関係ない。これは、会社でも同じことが言えるけどな。
 
 
 芸術の凄さも同じようなもんだ。それを表現するまでには、何度も道を誤ったり、水面下でバタバタもがいていたりするが、その完成品をいきなり人に見せるからこそ、それが「凄い」って思われるわけだ。
 
 その「凄さ」を解明するうえで、エンドレスエイトの再生産を語ることに、どれだけ意味があると思う?
 そんなヒマがあったら、なんでおまえが「涼宮ハルヒの憂鬱」というアニメのファンになったのか、じっくり考えてみたらどうだ?
 最初に見たときはどんな印象だったか。ファンになって、どんな遍歴をへてきたか。
 それをふりかえってみりゃ「エンドレスエイト」を擁護するバカらしさがわかるんじゃないかな。それがわからないかぎり、お前はただのオタクだよ。
 
 そうそう、上山道郎のドラハルヒは面白いと思ったよ(その1その2