マイケル・ジャクソンが企画・出演したTVゲーム「Moonwalker」

 
Youtube - USA For Africa - We Are The World (字幕つき)
  
 マイケル・ジャクソンの訃報と共に、注目を集めている楽曲の一つが「We are the world
 米国の著名なミュージシャンが、この曲のために、マイケル・ジャクソンを中心にして結成されたのだ。
 
 僕の上の世代の人だと、この曲で「洋楽にハマった」人が多い。そのせいで、彼らには、ボブ・ディランの凄さが理解できない。この曲が発表された80年代の半ば、ディランの新作レコードの売り上げは低迷し、彼はすっかり自信喪失していた。「We are the world」でのディランは、「米国の偉大なミュージシャン」として敬意を払われていて、ソロのパートも与えられているのだが、はっきりいって、冴えないディランである。まるで、若い世代が「昔は凄かった」先輩を励ましている構図が思い浮かぶようだ。(そして、その励みは何らディランの助けにはならなかった)
 
 このようなディランへの偏見は、かなり根強い。今では、新作が全米全英チャート一位になるほど再評価されているディランだが、「洋楽好き」の人とディランのことを話してみると、彼らに「We are the world」の印象が脳裏に刻みこまれていることがわかる。ディランをまともに聴いていないとは、あまりにももったいないと僕は思うのだが、それほど、この楽曲が与えた影響は偉大なのだ。
 
 と、そんな僕のうがった視点は、マイケル・ジャクソンを語る上ではまったく関係ない。幼少からステージに立ち続けた彼が「We are the world」を作り、「Heal the world」を歌ったのは、彼の夢であり本心だった。彼は「自分の歌が世界を救うことができる」と信じていた数少ないミュージシャンだった。
 
 世界でもっとも売れたアルバムである「スリラー」で富と名声を手に入れた彼は、それから自分の夢をかなえ続けてきた。自宅に遊園地を作ったり、ゲームの主人公になったり。
 

 
 ゲーム愛好家の間では、かなりの際物として知られているセガのゲーム「Moonwalker」は、マイケル・ジャクソンが持ちこんだアイディアであった。軽やかな身のこなしで敵を追い払い、子どもたちを助けるマイケル・ジャクソン。敵に囲まれて、一瞬即発の危機が訪れても、彼には音楽とダンスがある。彼が踊りはじめると、たちまち、敵は邪心を喪失し、一緒に踊ってしまうのである。
 

 
 まずは、この「MoonWalker」の紹介動画をご覧になってほしい。他のアクションゲームと比べて、かなり特殊な内容になっている。この作品の成り立ちを知らないファンからすれば「マイケル・ジャクソンの名声を貶める許しがたい作品」と思われるかもしれない。しかし、BGMでヒット曲が矢継ぎ早に使われているように、これはマイケル・ジャクソンが正式に認めたゲームである。彼からすれば、ショート・フィルムと呼ばれるPVと同じぐらい、このゲームは大事な作品であったのだ。
 
 
 この「Moonwalker」でもっとも注目すべきところは、マイケル・ジャクソンがロボットに変身するところであろう。
 

 
 このとてつもない設定に、プレイヤーの多くは、乾いた笑いをしてしまったのではないか。
 しかし、これは、マイケル・ジャクソン側の発案であることは間違いないだろう。彼は「トランスフォーマー」のファンの一人であった。そんな彼がロボットに変身する願望を抱いていたとしても無理はない。そして、これはゲームの世界である。ゲームでは、自分がロボットになることぐらい許されて当然だろうと、彼は思った。
 
 彼の童心は並はずれて大きなものだったが、理想と現実の境界はしっかりと見定めていた。エンターテイナーとしての彼は、曲をかき、ダンスをマスターし、その外見を美しくすることに生涯を捧げた。しかし、それだけでは「世界が救えない」こともわかっていた。だから、彼は自身がゲームの主人公にならなければならなかった。スーパースターを求める無力な子どもたちの、心の支えとなる存在となれるように。
 
 

 
 最後のスタッフ・クレジットをご覧になればわかるように、今作のゲーム・デザインはマイケル・ジャクソン自身である。彼は本気で自分が主人公であるゲームを作ったのだ。そして、それが許されるほど、マイケル・ジャクソンは偉大であったのだ。
 
 このゲームを構想するときのマイケル・ジャクソンの笑顔が目に浮かぶようだ。残念ながら、天は彼にゲームクリエイトの才能までは授けなかったようだが。
 
 
 「デンジャラス」の成功以降、彼のキャリアには陰が見られるようになった。彼の名声をねたむ者、彼の富をねらう者、そして、自分の体に訪れる老化。それが彼の身体だけではなく、心をむしばんでいった。それでも、彼の魂は「自分の音楽で世界を救うことができる」と信じつづけていたのだろう。 
 
 世界中から「R.I.P」というコメントが寄せられるなか、少なくないファンが「マイケルはネバーランドに行ったんだよ」と言った。今、彼はネバーランドで、ゲームの世界と同じように、子どもたちを救い、悪をこらしめているのかもしれない。世界中の人々を魅了させた、あの軽やかなステップで。
 
【関連動画】
 

 
 ツール使用による「Moonwalker」最速動画。最速であるがゆえに、このゲームのやけに凝ったギミックを楽しむことは難しいが、世界観を把握することはできるだろう。ポォッ!