男一人『藤子Fミュージアム』体験記
これは、川崎市多摩区にある『藤子・F・不二雄ミュージアム』に、2017年1月4日14時会場のチケットで入った30代男性(連れなし)が、圧倒的場違い感に肩身が狭い思いをしながらも、18時の閉館時間まで楽しんだ体験記である。
【目次】
(1) 生田緑地四天王? あれは嘘だ
(2) 1月4日14時入場男一人→不審者
(3) エントランスでニワカとファンの違いが試される
(4) 原画展示にひそむコピーロボットの罠
(5) 「先生の部屋」の見どころ
(6) オリジナル映画鑑賞での3つの驚き
(7) 屋上「はらっぱ」で見るべき本当のもの
(8) 子供にまぎれてF全集を読みあさる
(9) 売店と星野源と明かされた真実
(10) 閉館間際に「はらっぱ」をうろつく不審者(俺)
(11) 藤子Fミュージアムで楽しむ5つのポイント
(1) 生田緑地四天王? あれは嘘だ
以前の記事で『藤子・F・不二雄ミュージアム』を「生田緑地四天王」として紹介した。
実際、生田緑地の公式サイトでは、藤子Fミュージアムの案内をしている。
↑http://www.ikutaryokuti.jp
しかし、一般的に見て、藤子Fミュージアムを「生田緑地四天王」に含めるべきではないだろう。
一つ目の理由は、知名度の差。
ガイジン二人が出てくる藤子FミュージアムCMを知っている人は多いはずだ。
小田急線登戸駅でも大々的に宣伝されている。
↑登戸駅改札内にあるドラえもん(透過素材作成に最適)
これだけ金をかけて宣伝しているものを「日本民家園」と同列に語るのは失礼であろう。
(→僕が日本民家園に行った記事)
二つ目の理由が、距離。
藤子Fミュージアムには、登戸駅からのシャトルバスで行くのがもっとも便利だが、最寄り駅は登戸駅ではない。
三つの駅の中間に藤子Fミュージアムは立地しているのだ。
↑藤子・F・不二雄ミュージアム内の案内板
この案内板によると、
(小田急線)向ヶ丘遊園駅 1.3km
(JR南武線・小田急線)登戸駅 1.4km
(JR南武線)宿河原駅 1.3km
生田緑地入口 1.6km
と、最寄り駅より生田緑地入口は遠いのである。
藤子Fミュージアムと岡本太郎美術館を、同日に見るのは、かなり気合を入れないと難しいミッションなのだ。
三つ目が、入館券購入方法。
藤子Fミュージアムの入館券は窓口では売っておらず、ローソンチケットで購入しなければならない。
しかも、完全日時指定制である。
↑http://l-tike.com/fujiko-m/
このハードルの高さから、藤子Fミュージアムは、他の生田緑地四天王と違い、気軽に通える場所ではない。
それなのに、僕は男一人で1月4日14時入場のチケットを購入した。
理由は「1月5日が仕事始めだから、それまでに藤子Fミュージアムぐらいは行っておこう」という軽いノリだった。
これがとんでもない見込み違いであることを、僕は当日に思い知らされたわけだが。
(2) 1月4日14時入場チケット男一人(不審者)
13時55分ぐらいに藤子Fミュージアムに行けるように、向ヶ丘遊園の駅前の「松屋」でプルコギ定食(690円)をたいらげた後で向かった僕が見たものは、
人の列である。
あれ? 藤子Fミュージアムって、こんなに流行ってたっけ?
驚きつつも、列に並んだ僕はすぐに気づく。
男一人で並んでるの、俺だけじゃねーか!
藤子Fミュージアムの待機列で並んでいたのは、
(1)子連れ家族
(2)中国人カップル
この両者でほとんどが占められていた。
そんな場所に男一人で並ぼうとした僕は、常識外れ、いわば不審者である。
前の前に並んでいた家族連れの女の子は青いベレー帽をかぶっている。
親の趣味か、子供自身が選んだのかはともかく、これほど藤子Fミュージアムにふさわしい格好はあるまい。
そう考えながら、ほっこりしていた僕だが、ハタから見れば、かなりの不審者。
もし、その子の後ろ姿を撮ろうとしたものなら、たちまち警備員に取り押さえられて、
「申し訳ありません! ロリコンは入場不可です!」
と、追い払われていた可能性がある。
それぐらい、この日の僕は浮いていた。
監視カメラで様子を見守るスタッフがいるならば、男一人の僕は徹底的にマークされていただろう。
なお、藤子Fミュージアム側でも、この日の行列は異様だったらしく「いつもよりお客様が多いので、どうぞ、四列になって移動してください」と何度も声をかけていた。
どうして、混雑していたのかといえば、前日の1月3日まで正月休みだったからだ。
↑http://fujiko-museum.com
また、公式ブログによると、屋上の「はらっぱ」(土管などがある)では、餅つき大会をしていたらしい。
・2017年開館初日! | 川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム
そんな圧倒的場違い感のなか、それでも僕は並ぶ。
チケットが日時指定制なのが悪いのだ。
僕がエントランスホールに入れたのは、20分ぐらい待ったあと、14時18分のこと。
それまで並んでいた入口の壁には様々なオブジェがある。
ロクな画像がないのは、僕の前の中国人カップルが一眼レフで撮りまくっていたからで、僕はその邪魔にならない位置にいるしかなかったからだ。
自分の写真よりも他人優先という態度をとることで、僕は「男一人で来てますが不審者ではありませんよ」と必死でアピールしていたわけである。
(3) エントランスでニワカとファンの違いが試される
約20分並んで、ようやく藤子Fミュージアムに入る。
入館は約30人ごとで、館内スタッフによる「写真撮影は指定された場所以外は禁止」などの説明を聞いてから、エントランスホールに入ることができる。
この館内スタッフはすべて女性。
制服は黒を基調にしたもので、ベレー帽が美しさを引き立てている。
思わず見とれそうになるが、男一人の僕が視線を向けると「館内スタッフへのストーカー行為は禁止です」と出禁になってしまうことは明白である。
さて、最初の「エントランスホール」で、早くもニワカとファンの違いが試された。
僕は「エントランスホール」で果たすべきミッションを「おはなしデンワ」を借りることだと考えていた。
↑フロアガイドより
「おはなしデンワ」とは、展示物を解説する音声ガイド機器。
その種類は、日本語子供・日本語大人・英語・中国語など多岐にわたる。
男一人の客に「おはなしデンワ」を貸すなんてもったいない。
館内スタッフがそう考えるのは当然なのかもしれない。
しかし「おはなしデンワ」は来場客全員が手にすることができる権利のはずだ。
そう考えて、僕は強い口調で「(おはなしデンワを)お願いします!」と言い、それを持って、いそいそと展示室に入っていった。
ところが、これが失敗である。
まず「おはなしデンワ」は、初心者向けの説明をゆっくり話す機械である。
藤子Fの作品をある程度知っていて、藤子Aの「まんが道」を読んでいる僕には、聞くまでもない内容ばかりだった。
そんなものを要求した僕は「ニワカです!」と自己主張したようなものなのだ。
もう一つ、いそいそと展示室に入ったのも失敗だ。
なぜならば、エントランスホールの壁には、多数の藤子Fキャラの彫刻がほどこされていたからだ。
↑http://fujiko-museum.com/facilities/
このエントランスホールには、入館時しか立ち寄ることができない。
見るべきチャンスは、たった一度しかないのだ。
それを僕は見過ごしてしまった。
入館して約一分。
早くも僕はイベント完全制覇に失敗したのだが、その過ちに気づくことはなかった。
(4) 原画展示にひそむコピーロボットの罠
藤子Aの「まんが道」によれば、手塚治虫の生原稿を初めて見たときに、藤子Fも藤子Aも光り輝くように見えたらしい。
しかし、僕が藤子Fミュージアムで生原稿を見たときの感想といえば、
人が多い!
展示室には、あまりにも人が多すぎて、落ち着いて原画を見る余裕なんてなかったのだ。
藤子Fミュージアムは、入場時間指定制である。
14時入場の客は、30人ずつ導かれて、ぞろぞろと展示室に入る。
しかし、最初に展示室に行かなくても良い。
だから、藤子Fミュージアムの人は僕に「おはなしデンワいりますか?」とたずねたのだ。
意訳すればこうなる。
「(今日はお客様が多いので、展示室は大変混み合っております。あとでご覧いただいたほうがよろしいと存じますが、あなたはいかがなされますか? それでも、展示室に向かうのでしたら)おはなしデンワ貸出しましょうか?」
この真意に気づかず、僕が答えたのはこんな感じ。
「(たしかに俺は男一人でこんなところに来るようなみじめな男だ。笑いたければ笑うがよい。しかし、そんな俺でも客の一人だ。お客様なのだ! お前らに断る権利はない! だから、おはなしデンワを)お願いします」
つくづく、僕は空気の読めない男である。
さて、藤子Fミュージアムのメイン展示である生原稿は、1階の展示室Iでは代表作のカラー原稿を中心に、2階の展示室II(撮影可)では人気エピソードをまるまる展示されている。
しかし、展示室Iで、子供たちが集まっていたのは、藤子F原画よりも、マンガの描き方をアニメーションで紹介している画面だった。
やはり子供に原稿の価値はわからぬか、と僕は偉そうに思いながら、人ごみのなかで原画を見ていたのだが、重大な罠があることに最初気づかなかった。
上の二つの展示には、重要な違いがある。
それが何だか、わかるだろうか?
正解は、右下にあるこのマーク。
パーマンでおなじみのコピーロボットのマーク。
これがついている原稿はコピー原稿にすぎないのだ。
藤子Fミュージアムで展示されているのは、すべてが生原稿ではない。
長時間展示すると原画が痛むので、コピー原稿をまぜて掲載しているのだ。
このマークに気づかずに、コピー原稿と生原稿を同じぐらいの時間をかけて鑑賞していた僕は、ニワカまるだしだった。
まあ、写植の文字貼り付けやホワイトの質感で、途中で「あれ?」と気づいたのだけれど。
なお、二階の展示室IIは「名作展示」と称して、人気の高いドラえもんエピソード回をまるまる展示している。
「もしもボックス」や「ドラえもんだらけ」などのファン投票上位作品を、生原稿(コピーもあるが)で読むことができるのだ。
ファンにとってはたまらない企画であろう。
ただ、この日は人が多すぎた。
しかも、展示室IIは撮影可ということで、ガイジンさんがいたるところでパシャパシャ撮っている。
とても落ち着いて鑑賞できる余裕はなかった。
まあこれも、入場してすぐに展示室に向かう僕の素人判断が招いたミスなんだけれど。
(5) 「先生の部屋」の見どころ
↑http://fujiko-museum.com/facilities/
人の多すぎる展示室を出た僕に待ち構えていたのが「先生の部屋」である。
これは、藤子Fの作業机を再現したもの。
藤子Fが実際に使っていた作業道具も含めて、そのままの配置で展示されていたのだ。
原画にはさして感動しなかった僕だが、この部屋は強い印象を受けた。
マンガを描かない僕にとっては、作品よりも作品を描く机のほうが、わかりやすかったのだ。
この机で、藤子Fは「大長編ドラえもん」を構想し、執筆したと思うと感慨深かった。
机の上には恐竜のフィギュアが置かれている。
藤子Fは恐竜マニアで有名だ。
大長編ドラえもん一作目も恐竜ネタだった。
ところが、現在では、恐竜は爬虫類ではなく鳥類だったといわれている。
藤子Fの恐竜フィギュアとは異なる姿だったらしいのだ。
最近発見された琥珀の中に閉じ込められていた恐竜の尾は、羽毛に包まれたものだった。
・http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-38259003
このニュースを藤子Fが知ったらどうするだろう。
机の恐竜フィギュアを見つめながら、ガッカリするだろうか。
いや、ドラえもんなら何とかできると、新たな大長編ドラえもんを描いてくれたかもしれない。
この「先生の部屋」には、藤子Fの蔵書も大量に展示されている。
マンガの参考にした図鑑だけでなく、「愛に時間を」などのSF小説も多い。
藤子Fは「オバケのQ太郎」が売れるまで「代表作のない人気マンガ家」といわれていたが、それを裏付けるのがこの蔵書の山だ。
様々なジャンルに挑戦した藤子Fの読切作品の背景には、豊富な読書量があったのである。
しかし、僕が驚いたのは蔵書の豊富さだけではない。
本棚にはSL模型が展示してあって、それがときどき動くのだ。
これがまた、ごくごくたまに動くのだ。
蔵書のタイトルを見ていると「あれ? あのSL動いたような……」と首をかしげるレベルの動きである。
「先生の部屋」の蔵書の棚のオモチャは動く。
そのことに気づいた僕は「フッ、これでニワカとは言わせないぜ」と自画自賛した。
しかし、あとから知ったのだが、机の上にある消防車のオモチャにもニヤリとする仕掛けがあったという。
「先生の部屋」は、そんなイタズラ好きの藤子Fらしい、細かいところまで想像力が行き届く、魅力ある展示だった。
(6) オリジナル映画鑑賞での3つの驚き
↑http://fujiko-museum.com/theater/
この藤子Fミュージアムでは、オリジナル短編映画(約20分)を上映していて、来場客は一度だけ見ることができる。
僕が見たのは15時の部。
14時入場の客が原画展示を見終えて集まってくる時間帯であり、鑑賞室は満員となった。
僕はひとまず、一番上の一番奥の席に座る。
男性一人客の僕にできることは存在を消すしかない。
それでも隣に座る人はなかなか来ず「満員です! 席をつめてください!」というスタッフの声が響く。
そして、僕の隣に親子連れが来た途端、鑑賞室の照明は消えた。
やはり、混んでいるときに一人で映画を見るものではないのだ。
さて、このオリジナル短編映画には三つの驚きがあった。
まず、館内スタッフが可愛かったこと。
具体的には、彼女が発したタイトルコールである。
最後の「ニャン」をいうときの仕草は、僕の胸をズキューンと撃ち抜いた。
もし、これがアイドルライブだったら、あとの物販でその子のために五枚ぐらい積むことが確実視されていたぐらいの愛らしさである。
しかし、彼女はアイドルではないし、彼女の仕草はオタクではなく子供に向けたもの。
僕がズキューンとときめくのはお門違いなのだ。
その衝撃のなか、オープニング(オリジナル曲)が流れ、本編がスタートする。
「ニャン」を反芻していた僕は、やがて、大きな違和感に気づく。
あれ? これ、誰の声だ?
あ、ドラえもんか。
そうか! これが水田わさびドラえもんか!
なんとまあ、僕は水田わさびドラえもんの声をずっと知らなかったのである。
この藤子Fミュージアムの短編映画が初めてだったといっていい。
ここに来た子どもたちは、そんな違和感をいだかない。
おかしいのは僕なのだ。
水田わさびドラえもんを知らないくせに、一人で藤子Fミュージアムに来た僕が悪いのだ。
ともあれ、オリジナル短編映画はツボをおさえた面白さだった。
ポコニャンの特殊能力がイマイチわからなくても内容がつかめる、万人受けの楽しさである。
この安定さが、多くの人々が望む、藤子Fアニメであろう。
3つめの驚きは、短編映画上映後のことである。
これは非常に面白い仕掛けだと思ったので、ネタバレはしない。
ただ、この驚きを味わうためには、晴天時に行かなければならないだろう。
完全日時指定制チケットとはいえ、藤子Fミュージアムは天候の悪いときに行くと楽しみは半減だ。
ぜひ、天気の良い日を選んで行くべきである。
(7) 屋上「はらっぱ」で見るべき本当のもの
オリジナル短編映画を見終えて、屋上の「はらっぱ」に出た。
ピースケがいたり、土管のあるドラえもんがいたりと、絶好の写真スポットである。
ドラミちゃんが笑っているし、
パーマンとブービーが寝転んでいたりする
しかし、この「はらっぱ」にはわかりにくいオブジェが多くひそんでいるのだ。
例えば、このピースケの写真。
人が多くて正面からは撮れなかったのだが、何かあることに気づかないだろうか。
こんな感じで、言われて見ないとわからないところにも藤子Fキャラがひそんでいるのが、この「はらっぱ」なのである。
もちろん、もっとも有名なのは、このドラえもんと土管だろう。
この土管は、子供が中に入って遊べるようになっている。
もちろん、子供限定である。
そんな子供たちの中で目立っていたのがコレ。
タケコプター(ヘリトンボ)ヘアバンドである。
これほど、子供心をくすぶるアイテムがあるだろうか?
これをつけて遊ぶ子供の、はしゃぎようといったら。
藤子Fミュージアムの「はらっぱ」では、タケコプターヘアバンドをつけぬ者は子供にあらず、と言わんばかりである。
もし、僕が子供だったら、親に泣いてせがむのは間違いあるまい。
そして、藤子Fミュージアムを出たら、それを買ってもらったことすら忘れてしまうのが子供である。
なんと罪深きアイテムであることか。
(8) 子供にまぎれてF全集を読みあさる
ここまでの体験記を読んで「男一人で来て惨めでしたね(笑)」と哀れみの目を向けられそうだが、僕には1000円払っても損はしないという確信があった。
それがこの、まんがコーナーの存在である。
どこの漫画喫茶にもない、藤子F全集115巻が自由に読めるのだ。
これを読むだけでも1000円払う価値はあると。
ところが、1月4日の藤子Fミュージアムはご覧の有様である。
子供たちに占拠されて、座る場所すら見つからない。
それでも、僕はたくましく(大人げなく)本棚をあさる。
↑マイナーな作品も完備
そして、僕が手にとったのは「UTOPIA」。
藤子Fと藤子Aが合作で描いた、最初の単行本作品である。
「まんが道」で知ってから、一度は通して読んでみたいと思っていたのだ。
座る場所をなんとか確保し、僕は読みあさる。
この「UTOPIA」、はっきりいって、わかりにくい作品である。
物語の展開もとりとめがない。
手塚治虫の初期SF三部作の影響を強く受けているが、それに比べるとページ数が少ないせいか、読んだ感想は「んん?」というものだった。
ただし、これを読んだ人は思うはずだ。
「この作者の別の作品を読みたい」と。
荒削りな分、将来性がとてつもない。
「UTOPIA」はそんな作品であった。
続いて、初期読切作品などを読みあさる。
当時のマンガ雑誌には、別冊がついているものが多かった。
別冊の読切作品で、他雑誌との差をつけ、子供の購買意欲をあおったのだ。
藤子不二雄はそんな別冊の常連作家だった。
もっとも印象的だったのは、藤子Aが「まんが道」でもネタにした「雲の国のミカド」。
これはAとFの競作という形で、互いに別々の読切作品を描いたというエピソードが「まんが道」で語られている。
そのとき、Aはこの「雲の国のミカド」を読んで、その才能に嫉妬したという。
たしかに、読んでみたらすこぶる面白い。
Aが嫉妬するのも納得である。
ただし藤子Fの読切作品は、「うまくまとまってる」話ばかりではない。
「えー、ここで終わりかよ」という読切が少なくない。
だが、それが子供心に藤子不二雄という名前を刻み込ませたのだ。
「オバケのQ太郎」まで代表作のない人気マンガ家といわれていたのは、印象に残る読切作品を数多く残してきたからだ。
ぜひとも、F全集を読む機会があれば、初期読切も読んでみるといいだろう。
こうして、僕は17時近くまで、ひたすら子供たちにまじって、読切作品を読んでいた。
藤子Fミュージアムの主役は子供。
我々大人は子供のジャマにならないように、こっそりとマニアックな傑作を読むべきである。
(9) 売店と星野源と明かされた真実
まんがコーナーで藤子Fの読切作品を読んで僕は満足した。
あとは売店を通って出口に行くだけである。
ところが、僕は見つけてしまったのだ。
雑誌コーナーに、星野源の表紙を。
なぜに星野源、と手にとってみると、どうやら彼は藤子F作品のファンらしい。
よくある話である。
別段興味はなかったが、一冊だけ「見本」として中が読めるようになっていた。
どれどれ、星野源がどんなことを言ってるのやら、と気軽なノリで目を通す。
そのとき、僕は知ったのだ。
藤子Fの隠されたオブジェの数々を。
記事ではすでに紹介したとおり、藤子Fミュージアムには、一見しただけではわからないオブジェが数多くひそんでいる。
そのヒントは一切記されていない。
知る人ぞ知る、というものだ。
その最大の秘密が「ツチノコ」である。
↑公式ブログより借用(実在する)
ツチノコを見つけたかどうか?
それが、藤子Fミュージアム素人と玄人の最大の違いだったのだ。
僕はいても立ってもいられなくなった。
何しろ、先日、日本民家園に行ったときに、スタンプラリーを制覇した僕である。
↑日本民家園のスタンプラリー
こういうものはすべて見つけないと気がすまない性格なのだ。
僕はあわてて、屋上の「はらっぱ」に行った。
17時すぎになって。
(10) 閉館間際に原っぱをうろつく不審者(俺)
1月の17時となると、日は暮れてしまっている。
レア度☆☆の「ころばしや」は見つけることができたが、この暗さではレア度☆☆☆のオブジェの数々、そして、その最たる「ツチノコ」を発見することなどできなかった。
しかし、それ以上の喜びがあった。
夜の「はらっぱ」の美しさである。
しかも、客数が少なくなる。
17時――それは子供たちは家に帰らなければならない時間。
だから、17時をすぎると、藤子Fミュージアムの客はゴッソリいなくなるのだ。
↑昼間は子供たちでにぎわう「きれいなジャイアン」像も
↑17時をすぎたら、ジャイアン放題
展示室だって、自由に見られる。
藤子Fミュージアムの最大のお宝といえば、AとFが作った雑誌「少太陽」だろうが、17時以降になるとじっくり読むことができる。
しかし、僕はあせっていた。
どうしても、ツチノコを見つけたかったのだ。
そのせいで、ミュージアムカフェのラテアートを頼むこともできなかった。
↑http://fujiko-museum.com/cafe/
カフェのラストオーダーは17時30分。
その時刻になると客は少なくなり、男一人の僕も浮いた存在ではなくなる。
だから、頼むべきだった。
タケコプターヘアバンドは買わずとも、ラテアートは注文すべきだった、と僕は今でも後悔している。
(11) 藤子Fミュージアムで楽しむ5つのポイント
こうして、閉館間際まで藤子Fミュージアムを楽しんだ僕であった。
藤子Fミュージアムは、フツーに見るだけでは所要時間2時間弱といったところだ。
しかし、細部にかなりのこだわりがあり、それを見つけるだけでも飽きない。
まんがコーナーにはF全集があり、いくらでも時間はつぶせる。
そして、日没以降の「はらっぱ」も見ておかないともったいない。
とりあえず、僕のアドバイスは次の五つ。
一つ、絶対に晴天に行け(チケットを早めに買うな)
二つ、コピーロボットに注意せよ
三つ、ツチノコを探せ
四つ、ラテアートを頼め
五つ、男一人で行きたいなら平日に行け
最初のエントランスホールでのオブジェなど、一度しかチャンスのないものもある。
見逃したくないならば、気合を入れて挑むべきミュージアムである。
そして、あなたのまわりに「藤子Fミュージアムに行った」と自慢する連中がいたら、こうたずねるがいい。
「ところで君は、ツチノコを見つけたのかい?」