ニワカがAKB商法のルーツを探る
2016年、オリコン年間シングルチャートTOP10のうち、7曲をAKB48等の秋元康プロデュースアイドルが占めた。
この結果に「握手券」等の特典で複数買いさせる『AKB商法』を批判するのは簡単なことだ。
ところで、最近『推し武道』(推しが武道館いってくれたら死ぬ)という漫画を読んだ。
この『推し武道』は地方アイドルを題材にしたオタク肯定漫画なのだが、これが大変面白い。
・アイドルオタク漫画『推し武道』が面白い - esu-kei_text
そこでアイドル文化に興味を持ち、「AKB48商法」のルーツについて色々調べたのがこの記事である。
ちなみに、僕はAKB48の曲を3曲(会いたかった・ヘビロテ・恋チュン)しか知らなかったニワカなので、どうぞ古参オタの人は上から目線でご覧いただきたい。
【目次】
(1) 秋元康は「握手会」の存在すら知らなかった?
(2) 複数買いが常態化したソフマップイベント
(3) 地下アイドルの聖地『ライブインマジック』
(4) 落選組『モーニング娘。』人気が生んだ単推し文化
(5) 下着だらけのAKB48『ヘビロテ』PVは女性監督
(6) オタクの理想「恋愛禁止条例」の是非は
(7) 生き残った地方アイドル『ひめキュン』
(1) 秋元康は「握手会」の存在すら知らなかった?
↑2009〜16年までのオリコン年間シングルランキング(クリックで拡大)
2010年以降、AKB48をはじめとした秋元康プロデュースのアイドルグループが、シングルCD年間売上の大半を占めるようになった。
理由は「握手券」や「投票券」などの特典をつけてシングルCDを売り出しているからで、これらは「AKB商法」と呼ばれ、批判されることが多い。
しかし、この「AKB商法」は秋元康が考案したものではないことを当時のスタッフは語っている。
秋元(康)さんは"握手会"なんて言葉も知らなかったと思いますね。握手のためにCDを100枚買うなんてスタッフもレコード会社も想像だにしたことがなかったと思いますよ。1人で2枚買うことすらも考えてなかったかのではないですかね。
こう述懐するのは、岩崎夏海。
AKB48が誕生した2005年から2007年までAP(アシスタントプロデューサー)をつとめていた彼は、『もしドラ』(もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの以下略)の作者として知られる。
僕は『もしドラ』を読んで「なんでこんな本がベストセラーになるんだ?」と首をかしげたものだが、AKB48創成期にたずさわっていた人が書いたと知って納得したものだ。
『もしドラ』が売れたのは大々的に宣伝したからで、それはAKB48が売れるまでの一番厳しい時期にがんばった作者に対する、秋元康らの感謝のようなものだろう。
AKB48は「いつでも会いに行ける専用劇場アイドル」という旗印のもとに作られた。
専用劇場の定数は250人。
ステージと客席の距離の近さを売りにしたアイドルグループだった。
ただし、ステージを出て客と握手することまで、秋元康が想定していたかどうか。
↑AKB48劇場があるドン・キホーテ秋葉原店
2005年12月8日のAKB48劇場での初公演、一般客はたった7名だった(Wikipedia等より)
「秋葉原のオタクはチョロい」と考えていたであろう当時のスタッフは、厳しい現実を突きつけられたといっていい。
「このままではAKB48プロジェクトは失敗する」という危機感を抱いたのか、秋元康みずからが客に意見を聞くこともあったという。
アイドルオタクは基本的にシャイなので、秋元康に面と向かって要望を訴えることはできなかっただろう。
でも、オタクはブログや匿名掲示板でそのことを語らずにいられなかったのだ。
「秋元自身が来ているということは、どうやらこのプロジェクト本気だぞ」と。
AKB48握手会の始まりはトラブルがもたらした苦肉の策だった。
2005年12月16日、舞台装置が故障し公演が中止になったために急遽行われたのが、最初の「握手会」だったのだ。
(ちなみに、当時の観客数はおよそ50人)
そんなハプニングで始まった「握手会」のウケが良かったという。
先に引用したインタビューで『もしドラ』作者は語る。
握手会がこれほど受けるとは実は思っていなかったんですよ。開催しているうちにファンの受けがいいというのが分かって、握手会の役割が強まっていったんですね。
そのようなオタクの声を拾い上げるのが後の『もしドラ』作者である岩崎夏海の役目だった。
といっても、彼は現場で聞きこみをしたわけではない。
何度もいうが、アイドルオタクはシャイなので、実際に声をかけたところでロクな返事が戻ってこないものだ。
(シャイじゃないとオタクなんかやってない)
ところが、彼らはインターネットの世界では雄弁になる。
それをまとめて秋元康に伝えていたのが、『もしドラ』作者だったのだ。
特に僕は、ネットに強かったので、ファンの公演の感想やリアクションを、ブログや2ちゃんねるにどんなことを書いているかをリサーチして伝えていました。
AKB48が生まれた2005年、秋葉原では独自のオタク文化が育っていた。
秋元康はそれが目当てで、自身のプロデュースする劇場型アイドルを秋葉原拠点としたものの、オタク文化にはとことん無知だった。
それは当時のスタッフも同じこと。
だから、彼らはアイドルオタクの声に耳を傾けたのである。
初回公演一般客7名という厳しい現実が、彼らをそうさせたのだ。
こうして「1人で2枚買うことすらも考えてなかった」AKB48運営は、複数買いを前提とする秋葉原イベントから多くを学び、それを実践していった。
よく、初期のAKB48運営は素人集団だったといわれるが、素人ゆえのフットワークの軽さもある。
「AKB商法」は秋葉原で行われているオタク向けイベントの模倣から始まったのだ。
では、複数買いを前提とするオタク向けイベントはどのようなものか、具体的に説明していこう。
(2) 複数買いが常態化したソフマップイベント
↑ソフマップイベント会場(公式サイトより)
青白のソフマップ壁の前でグラビアアイドルがポーズを撮る。
この「ソフマップイベント」の写真をネットで目にした人は多いだろう。
では、このソフマップイベントにはどうやったら参加できるのか。
そして何が行われているのかを知っている人はどれぐらいいるだろうか。
↑イベント会場があるアミューズメント館
ソフマップイベントに参加するためには、ソフマップで売られている対象商品の「参加券」が必要となる。
この参加券がなければ、8Fで開催されるイベントに行くことはできない。
イベントでは、グラビアアイドルのトークショウや歌唱披露があったりするが、秋葉原オタクにとっては、そんなものは余興にすぎない。
イベントの目的は、その後の撮影タイムにある。
たいていのグラビアアイドルは水着姿でそれに応じる。
撮影タイムでは、アイドルの水着姿を自分のカメラで撮ることができるのだ。
オタクにとってこれほどの喜びは他にない。
だから、ソフマップイベントに参加するオタクは、一眼レフカメラ持参が普通であった。
(最近はスマホのカメラの性能が上がったため、スマホで撮影する参加者も多くなったと聞く)
だが、それだけでは満足できないオタクが出てきた。
自分の撮影するカメラでは、グラビアアイドルと自分との2ショットが撮れない。
その願望を満たすために生まれたのが「2ショットチェキ」である。
「チェキ」というのは、インスタントカメラの商標のこと。
wikipedia:インスタントカメラ・チェキ
↑チェキ(左)と2ショットチェキ例(『推し武道』より)
このチェキは写真がすぐ現像される簡便さのために、アイドルイベントでは多用されるようになった。
複製できない一度きりの写真であることから、シャイなオタク側も写されることに抵抗がなかった。
多くのソフマップイベントでは、参加券2枚の入場者には、撮影時間の延長と「2ショットチェキ」の特典をつけている。
さらに、3枚だと私物にアイドルが直接サインしてくれるようになる。
参加券1枚だけでもイベントを楽しむことができるというスタンスだが、2枚3枚あればさらに特典がつくというのが、ソフマップイベントの特徴だ。
問題は、この参加券がつく「対象商品」である。
もともと、ソフマップイベントに参加するグラビアアイドルは、デビューしてから複数枚DVDを出しているベテランが多かった。
デビュー間もない子に、水着姿で客に撮影させるというのはリスクが大きい。
そのため、参加券を同封する対象商品には、そのアイドルが出演しているDVDすべてが対象となっていた。
2ショットチェキは新作だけじゃなく旧作も買ってくれた客へのサービスだったのだ。
しかし、考えてみればわかる。
イベントに行くような熱心なオタクは過去作をすでに入手済みであることを。
だから、2ショットチェキ等の特典を受けるためには、自分が持っているDVDをさらに買うしかないのだ。
そして、グラビアアイドルを売り出す芸能事務所にとっても、旧作よりも新作が売れたほうが都合がいい。
新作の初動売上こそが、グラビアアイドルのステータスとなるからだ。
これらの思惑が一致したのか、最近のソフマップイベントの対象商品は新作一作のみとなっている。
もし、2ショットチェキや私物サインなどの特典を得るためには、複数買いしなければならなくなったのだ。
さて、古参秋葉原オタクの人はこう言うだろう。
「ソフマップでイベントが始まったのは2007年からだ」と。
AKB48が誕生したのは2005年、ソフマップイベントよりも前の話である。
しかし、同じようなイベントが2007年以前は「ヤマギワソフト」や「石丸電気」で開催されていたのだ。
↑今は無きヤマギワソフト(左)と石丸電気【Wikipediaより】
また、イベントが行われていたのはDVDだけではない。
アイドル写真集が発売されたときに行われていた「サイン会」。
こちらのほうが握手会のルーツに近い。
サイン会とは、そもそも対象商品を買うと、アイドルがその本にサインをして、ついでに握手をしてくれるイベントである。
そのときに、客は声をかけたりプレゼントを渡すことができた。
しかし、長時間の会話を許すほど、サイン会は甘くない。
他の客の迷惑になる遅延行為はマナー違反である。
そこで、熱心なオタクは何度も対象商品を購入し、握手をしに行ったのだ。
オタク用語でいう「ループ」である。
そのうち、サインよりも握手の時間が多いほうがオタクが喜ぶということで、サイン本は事前に準備しておくのが当たり前になった。
ついでに、わざわざ対象商品をイベント会場で買わせるのは効率が悪いので、サイン本に「参加券」を同封させたイベント限定商品を準備するようになった。
(今ではDVDイベントでも、サイン入りジャケットを事前準備するのが当たり前になっている)
その結果、参加券を複数枚出すことによって、より長い時間アイドルと握手したり話がすることが許されるようになった。
「サイン会」であったはずが「握手会」になってしまったのである。
(ちなみに、プレゼントは本人ではなくスタッフに渡すのが一般的になっているので注意)
↑サイン会がよく開催される「書泉ブックタワー」
このように「複数買い」という常識外れな行為が、秋葉原等で行われるイベントでは常態化してしまった。
AKB48スタッフはこれらの文化を知らなかったし、「複数買いが当たり前」と宣伝することはなかった。
(もともとAKB48の人気投票はライブ後のアンケートにすぎなかった)
このような歴史を知らずに「オタクはチョロい」と考えて商売しようとすれば痛い目にあうだろう。
(3) 地下アイドルの聖地『ライブインマジック』
↑旧『四谷ライブインマジック』
(2016年10月にハニーバーストと改名)
AKB48は「地下アイドル」の成功例といわれる。
漫画『推し武道』は地下アイドルのオタクを題材としている。
この「地下アイドル」という言葉の由来を知っている人はどれぐらいいるだろうか。
今では「地下アイドル」は「インディーズ系アイドル」と同義で使われることが多い。
常設会場(PARMS)を持ち、「仮面女子」などが所属する『アリスプロジェクト』がその代表例だ。
↑JR秋葉原駅電気街口にある仮面女子の広告
「仮面女子」といいながら、ホラー要素はとっかかりだけで、仮面を脱いだ素顔はポップでキュートな正統派アイドルである。
メジャーレーベルからの誘いをかたくなにこだわるなど、「仮面女子」は秋葉原が持っていた「怪しいけど楽しそう」なイメージを売りにして、話題を集めているのだ。
しかし、もともと「地下アイドル」の「地下」はインディーズを意味する言葉ではなかった。
「地下アイドル」と呼ぶ理由は、彼女たちが地下のライブハウスを中心に活動していたからである。
ライブハウスは防音上の理由で、そのほとんどが地下に作られているものだ。
↑地下ライブハウスに並ぶオタクたち(イメージ画像)
1980年代の「いかすバンド天国」に代表されるバンドブームの結果、全国各地に多くのライブハウスが作られた。
(たいていのライブハウスは1ドリンク制となっているが、これは店の売上を増やすための慣例)
バンドブームがすたれるにつれて、ライブハウス側はバンドでなくても誰でもいいからスケジュールを埋めてほしいと考えるようになる。
店にとってはバンドだろうがアイドルだろうが同じこと。
しかし、それを許さないのがアイドルオタクだ。
インディーズバンドの追っかけとアイドルオタクは正反対に位置するといっていい。
いくら好きなアイドルが出ているとわかっていても、ライブハウスに行くのは抵抗を感じるオタクがほとんどだった。
ところが、ライブハウスでしか活動の場を見出せなかったアイドルが出てきた。
その一人が宍戸留美。
・wikipedia:宍戸留美
所属事務所の課すバラエティーアイドルへの方針転換を拒否した結果、彼女は仕事が与えられなくなって(干されて)しまう。
結果、事務所をやめてフリーとなった宍戸留美が活動の場を求めたのが「声優」であり「地下ライブハウス」だった。
このようなインディーズ活動は世間で認知されず「宍戸留美死亡説」もささやかれていたぐらいだが、彼女の地道な活動はファンを感動させ、それを見た関係者も彼女の才能に改めて感心した。
たとえ大手事務所に属さなくても、ファンの前で歌うことができる。
それを証明したアイドルが宍戸留美なのだ。
当時のアイドルファンの多くはライブハウスに向かうことに抵抗があっただろう。
しかし、宍戸留美が事務所から干されたことは誰もが知っていた。
彼女を応援するためには、地下のライブハウスに行くしかない。
こうして、ライブハウスに行くアイドルオタクが出てくるようになる。
もちろん、それぞれのライブハウスには特色があって、店側がアイドルに寛容であるかどうかが、アイドルオタクにとっては重要だった。
「所詮はアイドル」と見くびっているライブハウスには、アイドルオタクは絶対に入りたくなかったのである。
そんなアイドルオタクにとって聖地となった地下ライブハウスの一つが『四谷ライブインマジック』。
(2016年10月に四谷ハニーバーストと改称)
理由は、この店を作った牧田和男が、本田美奈子のプロデューサーだったからだ。
80年代アイドルで中森明菜と並び歌唱力を高く評価されていた本田美奈子は、アイドルに興味を持つ者なら誰もが知っていたビッグネームである。
この『ライブインマジック』では本田美奈子のファンクラブの集いが定期的に開催され、ファンを大事にするそのイベントは、アイドルオタクの語りぐさとなった。
『四谷ライブインマジック』はアイドルオタクが聖地として讃えるに足る理由があったのだ。
こうして、地下にあるライブハウスでの活動を中心とした「地下アイドル」という文化が形成された。
しかし、それはテレビ局にコネのない弱小事務所でも「アイドル活動ができる」という口実を与えることにもなる。
ライブハウスで歌わせておけば、アイドルを夢見る女の子を、自分の作った弱小事務所に縛りつけることができる。
「地下アイドル」の歴史は、弱小事務所によって女の子が利用されるという悲劇をも生むことになった。
さて、秋元康が「劇場アイドル」というコンセプトのもとに「AKB48」を作ったとき、これら地下アイドルの歴史をどれほど知っていたかはわからない。
ただ、日本のバンド文化を考えると、地下ライブハウスは多くのミュージシャンを生み出した功績がある。
インディーズバンドの収入源はチケット代だけではなく、その後の物販が大きい。
ライブに感動した客は争って、自主制作盤だけでなくグッズをも購入する。
そして、オリジナルグッズを身に着けてライブを見ることが、ファンの間でステータスとなっていく。
このインディーズバンドの文化をアイドルに適用するのは難しいことではない。
テレビ局の力を借りずとも、大口スポンサーの顔色を伺わずとも、ライブハウスという箱があれば、アイドル活動ができるのだ。
もちろん、それが成功するのは時間がかかる。
秋葉原ドン・キホーテ8階という好立地であったAKB48劇場でも、初回公演の一般客がわずか7名だった。
当時のAKB48劇場のチケットは1000円。
(2017年1月現在は3100円)
1000円で、前田敦子・高橋みなみ・小嶋陽菜・板野友美・中西里菜(やまぐちりこ)らを間近で見ることができたのだから、今にして思えばかなりオトクだっただろう。
しかし、一年目は客席250人を埋めることさえ困難だった。
中西里菜(やまぐちりこ)をはじめ、少なからずのAKB48オープニングメンバーが一年たたずして去ったのは、AKB48に将来性が感じられなかったためだろう。
それでも、AKB48のメンバーが増え続けたのは、アイドル志望の女の子が後をたたなかったからである。
それを知るためには、『モーニング娘。』をはじめとした「ハロー!プロジェクト」について語らなければならないだろう。
(4) 落選組『モーニング娘。』人気が生んだ単推し文化
1998年に「モーニングコーヒー」でデビューした『モーニング娘。』が、アイドル文化に与えた影響は大きい。
特に「推(お)し」などのオタク用語の多くは、モーニング娘から生まれたといっていい。
例えば、次のような会話。
「おまえ、どのアイドルが好き?」
「モーニング娘」
「はぁ? どのアイドルが好きかってきいてるんだよ!」
「だから、モーむすだって」
「だれ推しなんだって言ってんだろ! おまえDDかよ」
「なんだよ、DDって」
「おまえみたいな、『誰でも大好きな』ニワカのことだよ」
「いや、モーむすのみんな、かわいいし。誰か一番かといわれても……」
「ふん、推しメンもいないヤツがファン気取るんじゃねえよ!」
DDというのは「誰でも大好き」の意味で、アイドルオタクの間では主に蔑称として使われる。
「推しメン」とは、自分がひいきにしているメンバーのこと。
なお、ひいきにしてるアイドルが変わることを「推し変」といったりする。
(ちなみに、女性ファンが多いジャニーズの場合は「○○担当」略して「○○担」といわれる)
このような「単推し」が流行した理由は、モーニング娘などの「ハロー!プロジェクト」が大人数となり、メンバーの入れ替わりが激しくなったせいもある。
「モーニング娘が好き」といっても、どの時代のモーニング娘が好きなのかわからない。
だから「モーニング娘の誰が好きか」を答えられない者は、ファン扱いされなくなったのである。
「モーニング娘」は応援するアイドルの雛型ともいわれる。
もともと彼女たちはオーディション落選組を寄せ集めて作られたグループだった。
TVが今より強い影響力を持っていた1997年。
公開オーディション番組「ASAYAN」で、シャ乱Qのつんくによる「女性ロックボーカル」募集オーディションが行われた。
そこで、惜しくも次点となった五人をまとめたのが「モーニング娘」なのだ。
・wikipedia:モーニング娘。の歴史
次点組であるために、デビュー当初から「崖っぷち」だった彼女たちは、5万枚売らないと即解散というミッションを課せられてしまう。
しかし、この企画に視聴者が盛り上がった。
彼女たちの歌手活動をもっと見たい、という視聴者は店に出向いてCDを買い、その存続に貢献したのだ。
それから「ASAYAN」では、1期から4期にわたるまで、モーニング娘を大々的に特集した。
オーディションだけではなく、メンバーに選ばれてからのレッスンの模様も放映された。
こうして、それぞれのメンバーに視聴者に感情移入させることに成功したのである。
しかし「ASAYAN」はオーディション番組。
「モーニング娘」の特集コーナーばかりでは、新たな才能を生み出すことはできない。
やがて、モー娘に関しては、メンバーの入れ替えぐらいしか放映されなくなった。
それに飽き足らないファンは「2ch」などの匿名掲示板につどって語り合ったのだ。
あまりの投稿数の多さに、芸能板から隔離した「狼板(通称)」が設置されたぐらいである。
そんなファンの熱意にこたえるためか、「モーニング娘」よりも大きな枠組みの「ハロー!プロジェクト」が始動し、ファンにも把握できないほどのメンバー構成になった。
「ハロプロ」多人数化によって単推し文化がどんどん進んでいったといっていい。
「ハロー!プロジェクト」の成功は、多くのアイドルオタクだけでなく、アイドル志望の女の子を生むようになった。
モー娘メンバーがアイドルから女優へステップアップしているのを見て「自分の夢をかなえるのはまずアイドルから」と考えるのが当たり前となったのだ。
そして「アイドルであるからにはファンであるアイドルオタクの相手もしなければならない」ということも常識となっていく。
ただし「ハロー!プロジェクト」運営とアイドルオタクの距離は近いものではなかった。
それを象徴するイベントが2007年7月7日に行われた、通称「大人の七夕祭り」である。
19,000円の日帰りバスツアー(ファンクラブ限定)の前日に、そのアイドルの妊娠が発覚。
アイドルオタクたちはツアーのバスで結婚が発表され、それを祝福するよう強制されたのだ。
それだけでもむごいが、貧相な食事と杜撰なイベント内容が明らかになるにつれ、ハロプロ運営への不信感は最大限に広がった。
→【衝撃】アイドル界最大の鬼畜事件がエグすぎてワロエナイ・・・ - NAVER まとめ
→飯田圭織とは (イイダカオリとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
当時、アキバ系地下アイドルとして、多少は売れていた「AKB48」運営サイドが、ライバルの悪評を利用しないはずはなく「我々はファンを大事にします」と主張し、握手会などのイベントを積極的に行うようになった。
ハロプロとの違いを明確に出すようになったわけだ。
やがて、両者は融合し、「ハロプロ」によって作られたアイドルオタク用語の多くは、AKB48でも流用されている。
グループを愛するDDよりも、メンバー一人を推しメンとしたほうが、アイドルオタク活動を楽しめるのは事実だろう。
しかし、それは過激なアンチ行動を生み出す。
自分の「推しメン」を応援したいがために、他のメンバーのマイナスになる噂を流すオタクが出てくるようになった。
そして、その噂を信じて、メンバーを罵倒するものも出てくる。
そんな過激なオタクのおかげでイベントが中止になることもあった。
「モーニング娘」以降のアイドルオタクは「単推し」が当たり前だといわれるが、自分の好きなグループを応援するためには、「まとめ役」が誰かを知る必要はあるだろう。
「運営のひいきだ!」と批判するばかりではなく、運営が推す理由を見きわめることも、アイドルオタクに求められるはずだ。
(5) 下着だらけの『ヘビロテ』PVは女性監督
漫画『推し武道』の主人公は、岡山の地下アイドルを応援する女性オタである。
女性のアイドルオタクは果たして実在するのかどうか、疑問を感じる人は、下のPVをご覧いただきたい。
・【MV full】 ヘビーローテーション / AKB48 [公式] - YouTube
良識な人々から「過激だ」と批判された『ヘビーローテーション』のPVである。
AKB48メンバーが着ているのは水着ではなく下着。
同性愛を匂わせるシーンが満載で、オタクたちは「誰がここまでやれと言った」と頭をかかえたことだろう。
このPVの監督は蜷川実花、女性である。
彼女はメジャーデビュー前の2006年夏からAKB48劇場に通っていたというから、かなりの古参オタなのだ。
そして、女性監督だからこそ『ヘビロテ』の過激な演出は実現できたのだろう。
男性監督ではここまでは撮れまい。
そもそも、アイドルを目指す女の子が後をたたないように、アイドルのコンサートに行きたい女性は多いはずだ。
それが顕著に出ているのが、男性オタクが減ってきた2014年以降の「ハロプロ」である。
アイドルオタクの過激派を生む中心地であった「ハロプロ」コンサートには、最近女性ファンがどんどん増えているという。
明確な数字を出したソースは見つからなかったが、流行に敏感であるとされる女性ファンが、男性アイドルオタクが見放した(と思われている)「ハロプロ」コンサートにつどうようになったという事実は興味深い。
特に地方のコンサートでは女性が男性を上回る勢いであるという。
「握手会」をアピールポイントとして国民的アイドルにのしあがった「AKB48グループ」と、女性ファン向けサービスを打ち出してきた「ハロプロ」。
この両者が今後どのように進化していくのかは興味深いといえるだろう。
(6) オタクの理想「恋愛禁止条例」の是非は
この1月、「夢みるアドレセンス」メンバーが重大な規約違反による活動停止というニュースがアイドル業界をかけめぐった。
・夢みるアドレセンス 公式ブログ - 山田朱莉の活動に関するお知らせ - Powered by LINE
「夢アド」は2015年にメジャーデビュー。
オリコン最高位は4位という人気グループである。
このメンバーの規約違反というのが、ツイッターの裏アカウントが流出してしまったこと。
そこで判明したのが、次のようなツイート。
(1)彼氏との熱愛ツイート
(2)複数買いしているファンをバカにしたツイート
果たして、どちらが規約違反なのかはわからない。
アイドルオタクにとって、自分のひいきにしているアイドル(推しメン)に恋愛してほしくないというのは当然の心理だ。
しかし、芸能事務所などの運営サイドはどう考えているだろうか?
女の子は恋愛すれば綺麗になるのは科学で証明されている。
女性を美しくさせるには恋愛させるのが手っ取り早い。
ところが、この恋愛という感情は自発的なものである。
芸能事務所がどうにかなるものではない。
誰でも恋愛はしてしまうものだし、それを禁止してしまうと、最悪の場合、駆け落ちしてしまうこともありえる。
だから、オタク向けには「恋愛禁止条例」だの言っているが、バレなければどの芸能事務所も恋愛には寛容ではないかと思う。
むしろ、事務所側はメンバーの恋愛問題について、積極的にアドバイスをしているのではないだろうか。
恋愛しても仕事をきちんとすれば、プロではないか。
女性としては当たり前の恋愛を許容できないあたり、アイドルオタクが常識外れといわれても仕方ない。
アイドル稼業の人気の有無が恋人の有無に左右されるのは当然のことだし、「結婚した私を祝福して!」とオタクに強要するアイドルのご都合主義は批判されてもいいが、「アイドルは恋愛禁止です」と思いこませるのはどうか。
ちなみに、漫画『推し武道』によると、推しメンとリアルで付き合いたいオタクは「リア恋勢」と呼ばれるらしい。
「リア恋勢」の理想は、推しメンが自分と結婚するためにアイドルを引退することである。
たいていのアイドルオタクの理想は、推しメンと自分が付き合えないの仕方ないが、せめて恋人を作らないでくれというものだ。
個人的にアイドルが恋愛をするのは当たり前だと考えているし、恋愛を知らないアイドルには新規オタを寄せつける魅力がつくとは思えないが、「アイドルが恋愛をして何が悪い!」とアイドル本人が開き直るのは良くない。
自分個人の幸せを追求すればファンが悲しむ。それがアイドルの宿命なのだ。
アイドル稼業は、そんな危ういファン心理の上になりたっていることを忘れてはならない。
(7) 生き残った地方アイドル『ひめキュン』
↑公式STU48PVより
2016年10月10日、新しいAKB48グループが発表された。
「STU48」という。
何の略かといえば「瀬戸内」の略であるらしい。
これまで、特定都市の常設会場を本拠地としていたAKB48グループだが、このSTU48はちがう。
兵庫・岡山・広島・山口・香川・愛媛・徳島の七県を本拠地として、船でコンサートを行うというのだ。
兵庫県や徳島県を瀬戸内地方に含めるのは問題あると思うが、かなり画期的な試みといえるだろう。
オーディション募集開始は1月16日、活動開始は今夏を予定しているという。
はたして、入場料はどれぐらいだろうか。
2017年1月現在のAKB48チケットは3100円だが、船上コンサートという名目で、かなり高値のチケットになるのではないかと予想している。
このSTU48の出現に、中四国の地方アイドルたちは戦々恐々としているのかといえば、そんなことはない。
ほとんどのアイドルはすでに自滅している。
「ハロプロ」、そして「AKB48」の成功から、全国各地で様々なアイドルが生まれた。
その名称は「ローカルアイドル(略してロカドル)」「地方アイドル」「地元アイドル(略してジモドル)」「ご当地アイドル」と様々だ。
Wikipediaではその一覧が載っているが、大半のグループが単独記事すらない状況である。
・wikipedia:ローカルアイドル
(僕の地元の徳島県なんて単独記事を持つ地方アイドルが一つもない)
では、中四国の地方アイドルは全滅しているのか?
広島出身のPerfumeは除くとして、今も地方に拠点を構えながらメジャーデビューもしている中四国地方アイドルといえば、愛媛の「ひめキュンフルーツ缶」ぐらいしか見当たらない。
この「ひめキュン」はもともと8人組グループだった。
8人という数字は前列組と後列組に分かれることを意味する。
・ひめキュンフルーツ缶『恋愛エネルギー保存の法則』 - YouTube
(2011年のデビュー曲)
正統派アイドル路線で売り出したものの、人気メンバーと不人気メンバーの差が明らかに出る。
こうして、メンバーのモチベーションは失われていく。
結果、「ひめキュン」は2年目にして初代リーダーを含む三人が脱退するという事態を招いた。
残った五人はスタッフと何度も話し合いを重ねたらしい。
このままアイドル路線を続けても未来はないと。
そのためには、パフォーマンスだけはどのアイドルにも負けないだけの過酷なレッスンを積むしかないと。
残された五人はそれに同意した。
前列も後列もなく、立ち位置がコロコロ変わる新しい「ひめキュン」の始まりである。
・ひめキュンフルーツ缶 アイドル横丁夏祭り2016 1番地 - YouTube
この「ひめキュン」には愛媛県のみならずファンが生まれるようになる。
多くの地方民は自分の地元のアイドルグループがウヤムヤのうちに消滅したことが心の底では悔しかったのだ。
そんな彼らに「最強のご当地アイドル」と自称するようになった「ひめキュン」は輝いて見えたのかもしれない。
まだまだ全国知名度は低いとはいえ、メジャーレーベルとの契約に成功し、オリコン最高12位を記録するようになった。
愛媛だけではなく、東京でも単独ライブを行っているという。
2017年夏から活動予定のSTU48というプロジェクトに、自称「最強のご当地アイドル」であるを「ひめキュン」がどう立ち向かっていくのか。
そして「ひめキュン」ファンはどう対抗していくのか。
今夏以降の中四国のアイドルオタクの動向に注目である。