僕達の友情は儚い(7)「ただし、わらわの目の前でな!」

 
※この作品は、ライトノベル僕は友達が少ない10』の続きを書いた二次創作小説です。

 
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     (7)
 
「まず、小鳩さんのことです」
「そうよ! 小鳩ちゃんよ!」
 理科の出した名前に、星奈は即座に反応する。
「あたしったら、大事なことを忘れてたわっ! もう今となっては小鳩ちゃんと結婚するしかっ!」
「おい肉、錯乱するのは仕方ないが、煌(すめらぎ)に手を出したら私が許さんぞ!」
「で、でも……小鳩ちゃんまで失ったら、あたしはもう、どうしたらいいの?」
「おい理科、なぜパンドラの箱を開ける必要があるのだ?」
 夜空は理科をにらみながら、
「だいたい、この変態肉と小鷹が結婚したとしても、煌がコイツになつくことは120%ありえないではないか?」
「もちろんです。仮に星奈先輩が義理の姉になったとしても、小鳩さんに『お姉ちゃん』と呼ばれる可能性は、未来永劫、微粒子レベルですら存在しません」
「そ、そこまで言うの?」
「だからこそ、なのです。星奈先輩はこう考えるのです。『こうなったら、自分で小鳩ちゃんを作るしかない』と!」
「まさか、等身大の人形を作るとか? そんな作り物でこのあたしが満足するはずが……」
「いいえ、もっと原始的なやり方ですよ。自分で産めばいいんです。かぎりなく小鳩さんのDNAに近い存在をっ!」
「オウフ! その発想はなかったわ! 理科、あんたはやっぱり天才よっ!」
「……残念ながらもう手遅れだぞ、肉」
 たまらず夜空はつぶやいてみせるが、星奈には聞こえていないみたいだった。
「だけど、うちのパパはそんなことを許さないと思うのよね。高校卒業してから結婚するまで、やっぱりそういうことは……」
「星奈先輩、あの理事長がそんなこと言えるわけないですよ」
「理科よ、あの理事長だからこそ、ではないのか?」と夜空がわりこんで、
「あの人、そういうことにはキッチリしてそうだぞ。ましてや一人娘に対しては不純な交遊を許さないのが世の父親ではないか」
「だって柏崎家の家令のステラさんって理事長の――」
「す、ストップ!」
 星奈がわざわざ手を挙げて、理科の言葉をさえぎる。
「理科、それは家庭の事情だから! っていうか、なんで理科が知ってるの?」
「いやね、怪しいと思ったんですよ。どうしてあんな外国の若い女性が家令なんかしているのかって。だから、ネットでいろいろ調べた結果、かぎりなくクロに近い憶測が出てきたわけで」
「……憶測だったの?」
「はい、理科は天才ですから」
「……肉よ、私は聞かなかったことにするから、そろそろこういう話は……」
「夜空は黙ってて! ほら理科、つづき!」
「あ、はい」
 夜空の気持ちはわかるが、熱心な聞き手を前に口を止める理科ではなかった。
「あと、星奈先輩は小鷹にこう言ったそうじゃないですか。将来のことは特に決めていない、と」
「そ、そんなことも、小鷹はあんたに話してたわけ?」
「はい、友達ですから。……で、それを聞いた理科としては、これはもう待ったなしじゃないかと、高校卒業するまで待てないんじゃないかと思ったわけです。付き合い始めてからすぐにズッコンバッコンというのは、そういう理由です」
「……うぅ、悔しいけど納得だわ。あたしはもっと貞淑な奥さんになろうとしたんだけど」
「こうして、あっという間に星奈先輩は妊娠しちゃうわけですよ。そうなると、ひとつの問題が出てくるわけです。――それは、小鷹の性欲処理という問題です」
「理科よ、そこまで考えていたのか……」
 夜空はあきれながらつぶやく。
「ええ。そのとき、星奈先輩が相談するのがこの天才発明少女、志熊理科なのですよ。星奈先輩としては、自分が妊娠している間に小鷹に浮気されてはたまらないので、理科に何か便利な道具がないかたずねるわけです。そこで理科は平伏して答えるのです。『残念ながら奥様。旦那様は奥様の素晴らしい肉肌を知っている身。そのような殿方を満足させる道具など、この世のどこにもございませぬ』と」
「や、やだぁ……奥様って」
「……なんだ、その設定は」
「おや? 夜空先輩なら共感していただけると思ったのですが」
 理科は夜空に首をかしげてみせる。
「……共感もなにも、どこに向かってるんだ、この妄想は」
「まあまあ最後まで聞いてくださいよ夜空先輩。で、そんな理科に星奈先輩は言うわけですよ。『ならば仕方ない。おぬしの貧相な身体で小鷹をなぐさめてやるが良い。ただし、わらわの目の前でな!』と」
「あ、あたしは『わらわ』とか言わないし」
「とにかく! こうして哀れな僕は、星奈先輩の見ている前で、小鷹を相手に破瓜の血を散らすわけですよ! 小鷹は星奈先輩のことを気にしてまったく前戯をせずに挿入しやがるし、星奈先輩は余計な口を挟んでくるし。……僕は痛いと叫ぶことすら許されず、星奈先輩相手と同じ速度のピストン運動を処女の身体で受けとめなければならないわけですよ! ああ、かわいそうな僕のロストバージン!」
 そして、理科は高らかに叫んだ。
「こういう妄想で僕はオナニーしてたんだよっ!!」
 しばらくの沈黙のあと、先輩二人はぽつりと言葉を出す。
「…………理科、あんたって、夜空よりも自虐的というか」と星奈。
「…………マゾすぎるだろ、お前」と夜空。
「いやね、僕はBL好きの腐女子ですから、オナニーのときにはあまり自分を出したりしないんです……でも、小鷹と会ってどうしようもないぐらいムラムラしたときは、こんな妄想で自分をなぐさめてました、はい」
「だからって、もっと都合のいい妄想にひたればいいのに……あ、あたしは、そういうことはあまり考えたりはしないんだけど」
 星奈は顔を赤らめながら言う。
「ちなみに、この妄想には続きがあるんですけどね。男の子ばっかり産まれて、肝心の女の子も黒髪だったりして、それでもあきらめずに孕み続ける星奈先輩と、気づけばビッグダディになった小鷹とか。義姉は嫌いだけど甥や姪には会いたい小鳩さんと、それに付きそっているうちに子供たちの家庭教師をつとめるようになる夜空先輩とか。……あと、幸村くんはステラさんの後を継いで柏崎家の家令になるという設定でした」
「……なんだかハッピーエンドになってる気がするのだが、肝心の自分が救われない未来予想図っていうのがな……ちょっと負け犬思考すぎやしないか、理科」
 そういう夜空に理科はチッチッと人差し指を振る。
「夜空先輩は腐女子という人種がわかっていませんね。BL方面ではありえない妄想ばかりしてますけど、自分が出てくるとなればそれなりのリアリティが必要となるのが、腐女子という生き物なのですよ」
「そうそう、そういう夜空は自虐モードのときに、どんな妄想をしてたのよ?」
 星奈は理科の妄想に気を良くしたのか、上機嫌で夜空に話しかける。
「肉よ、そういうのは口に出すものではないだろう」
「いいじゃんいいじゃん。理科も言ったんだし、ついでにあんたも言っちゃえば?」
「それより理科は夜空先輩にききたいことがあるんですけど」
「……せっかくいいところだったのに、なによ」
「だって、こういうときの夜空先輩って、絶対に口を割りませんから」
 理科はそう答えながら、星奈の陽気さが怖くなってくる。もしかすると、この後で自分の妄想も披露するつもりだったのだろうか。
 フラレ女子によるフラレた男子との幸福な家族計画――そんな痛々しい未来予想図を聞くことは理科には耐えられそうにない。
「ふっ……理科よ、イヤらしいことでなければ何でも答えるぞ」
「じゃあ、夜空先輩の復活についてたずねてもいいですか?」
「復活?」
 夜空は理科の言葉に首をかしげる
「そうよ夜空、その話、あたしもききたかったんだけど」
 星奈も乗り気になっている。
「私は別に死んだわけでも生き返ったわけでもないぞ?」
「夜空、復活っていっても、そういう神学的なことじゃなくて、今はあんたがだめっこ動物じゃなくなってることについてよ。そうよね、理科?」
「ええ、そうです」
 理科は星奈の言葉に意味ありげにうなずいてみせる。
「……それは心境の変化というやつだ」
 夜空は少し考えてそう答えたが、星奈は納得していなかった。
「まあ、夜空が復活したのは、生徒会の手伝いをするようになったせいだとは思うけど、それだけじゃ……」
「肉よ、何度も言うように、それはバカ子の勉強を見るついでなのだ。私が手伝わないと、それを口実にバカ子がサボるから仕方なく、だ」
「……でも、それだけじゃないよね? あたしは絶対に小鷹がからんでいると思うんだけど」
「ほう、何でそう思うんだ、肉」
 夜空は驚いて星奈を見る。
「だって、あんたのなかでは小鷹という男子の存在は大きかったじゃない? だけど、今のあんたはそれをふりきっている感じがするし……そのきっかけは、やっぱり小鷹本人と何かあったと思うのよね」
 事情を知る理科が口をはさまずとも、星奈は夜空を的確に追いつめていく。
 いつもケンカばかりしている二人だが、そんな意志の疎通が理科にはうらやましくもあった。
「そうだな……肉よ、そのことを話す前に伝えたいことがある」
 夜空は観念したかのようにため息をつく。
「今となっては遅いが……私は貴様を友達として認めたとき、貴様が小鷹といくらイチャイチャしようが憎むまいと決意したのだ。……その光景を見て嫉妬することはあっても、以前のように『貴様さえいなければ』という暴言は吐かないようにしよう、と」
「うん、わかってる。夜空は『友達になる』ということを軽々しく口にしないと思ってたから」
「だから肉よ、私はどんなことがあっても貴様の味方だ。友達とはそういうものだからな」
「…………あれ?」
 一人取り残されていた理科はうまくツッコミをいれられないまま頭をかしげる
「どうしたんだ、理科?」
「夜空先輩と星奈先輩って、友達になってたんですか?」
「なにをいまさら」と夜空。
「知らなかったの?」と星奈。
「だってさっきから暴言吐きまくってるじゃないですか、二人とも」
「それは……いつものクセだ」と夜空は開き直って、
「この肉を見ると、無性にそんな言葉が出てしまうのだから仕方ない。まあ、遠慮を抜きにして付き合えるのも友情のすばらしいところではないか」
「……親しき仲にも礼儀あり、という言葉もあるような気がするのですが」
「で、夜空、小鷹となにがあったの? その話、あたしは聞いてないんだけど」
「ああ、わかった」
 星奈にうなずいたあと、夜空はしゃべり始めた。
 
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