BOOWY再結成の可能性 ―氷室と布袋のチャリティー・コンサート

 
 今年の震災が起こる前、すでに氷室と布袋は、それぞれのやり方で、BOOWY時代の代表曲を披露していた。
 
 氷室は馴染みのバンドメンバーと入念なリハーサルを重ねて、聴衆が過去の伝説から幻滅しないライブパフォーマンスを見せた。
 

氷室京介 - ONLY YOU
 
 一方の布袋は豪華なゲストメンバーによる共演で、過去の代表曲を新しいコンセプトで表現していた。
 

布袋寅泰 - BAD FEELING
with 中村達也(BLANKY JET CITY)、TAKUYA(JUDY AND MARY)、森岡賢(SOFT BALLET)、スティーヴ エトウ
 
 よく、氷室と布袋は仲が悪いと言われるが、人間関係というよりも、それぞれのミュージシャンとしての美学が異なることが、BOOWY再結成の最大の障害となっていたのだ。
 
 震災のあと、氷室は、6月11日に行われる予定だった自身のアニバーサリー・コンサートを、急きょ、全曲BOOWY時代の楽曲によるチャリティー・コンサートに変更した。
 
 そのことは「あまりメンバー(特に布袋)の気持ちを考えたものではなかった」と、彼自身、TV番組のインタビューで打ち明けている。
 
 

http://www.nicovideo.jp/watch/sm14392412
 
 
 氷室からすれば、3月11日の震災からの三ヶ月間で、BOOWYの再結成ができるとは到底思えなかったはずだ。
 かつて同じバンドだった布袋とは、その表現の方向性は大きく異なっている。そして、氷室は自身が主導権を握るからこそ、聴衆を酔わせることができると考えるミュージシャンだった。
 BOOWYの偉大さを彼は知っている。それに勝るパフォーマンスをするためには、付け焼刃では幻滅させるだけだと、彼は思っていたのだ。
 
 それぞれ、四人で演奏する限界を知ったからこそ、解散に踏み切ったものであり、自身の音楽性を追求することが、氷室にとって、布袋にとって、バンドメンバーへの返答だった。
 その時計の針を戻すことは、氷室にとっては不自然なものであり、ミュージシャンとして許されざる姿勢と思っていたのではないか。
 
 こうして、氷室のチャリティー・コンサートが発表されて、布袋は複雑なコメントを自身のTwitterで発表する。氷室はそれを読んで、少し迷ったかもしれない。ただ、聴衆を満足させるパフォーマンスのためには、自身が主導権をにぎり、なじみのバンドメンバーでなければ難しいとも、彼は考えていたはずだ。
 そして、おそらく、布袋もそういう氷室のアーティストとしての信念は理解していたはずだ。
 
 ところが、こんな二人の間に、新たな人物があらわれる。
 吉川晃司である。
 
 BOOWY解散後、布袋は「GUITARHYTHM」という意欲的なアルバムを発表した。
 四人の固定メンバーから解き放たれた彼は、デジタル志向をより高め、ポップとロックの同居した優れたソロアルバムを発表した。
 何しろ、この「GUITARHYTHM」は、全曲映像化されたビデオが発売されたぐらいなのだ。
 そんな布袋の自信作は、しかし、ファンには素直に受けとめられなかった。「やはり、ボーカルが布袋では……」「氷室に比べると……」という感想が多を占め、そのアルバムの魅力自体が評価されることはなかったのだ。
 
 実は、吉川とCOMPLEXというユニットを結成したあと、布袋はソロ時代の曲を吉川に歌わせている。
 

・COMPLEX - GLORIOUS DAYS
 
 COMPLEXは二年ほどの短期間のユニットだが、初期の頃は、このような試みをしていたのだ。
 まあ、あまり良い出来だとはいえない。存在感はあるが、決して、吉川は器用なボーカリストではないからだ。
 
 その吉川とのユニットCOMPLEXは失敗だったと布袋はよく語っていたが、それは一つの諦めを意味していた。
「氷室や吉川以上のボーカルなんていない。だから、自分でやるしかない」
 その頃、布袋は吉川に対して批判的なコメントを出すこともあったが、そのタレント性を否定することはなかった。
 
 改めてCOMPLEXのライブを見てみると、吉川のパフォーマーとしての器の大きさを知ることができる。
 

・Complex - PROPAGANDA
 
 しかし、吉川晃司という人は、ミュージシャンである以上に、そのタレント性を愛されている。暴行事件を起こしたときだって、その理由が「尾崎豊の形見のギターを汚された」というものである。人間味あふれる男で、ゆえに、氷室や布袋とも仲のいい友人だったのだ。
 そんな吉川からすれば「布袋がかわいそうだ」と思ったのだろう。氷室のように「付け焼刃で過去の自分には打ち勝てない」と計算することなく、「じゃあ、俺たちもやればいいじゃん!」と即座に考えたに違いない。こういうところが、吉川のたまらない魅力なのである。
(なので、吉川の言ってることは、あまり鵜呑みにしてはならない。とにかく、自分の友達を立てるヤツなのだ)
 
 こうして、COMPLEXが再結成したことを、氷室は驚いたに違いない。
 
 さて、6月11日12日の氷室のチャリティー・コンサートは成功に終わった。
 そこで、彼は改めて、50歳という自分の年齢を感じ取ったと思う。
 決して、それは老いの自覚だけではない。50歳になっても、BOOWYの曲を演奏することで、若返っていく自分を、彼は知ったはずなのだ。
 そして、そういうことがいつまでも続けられないことも。
 
 COMPLEXのコンサートのあと、僕はBOOWY再結成があるんじゃないかと思う。
 氷室と布袋の音楽志向のへだたりは大きいし、氷室はほとんどの曲を自分で歌詞を書かないようになっている。二人が新たな曲を共作することは難しいかもしれない。
 ただ、氷室のチャリティー・コンサート発表から、COMPLEX再結成に至るまでの動き、そして、氷室のパフォーマンスを見るにつけ、このチャンスを二人が逃すはずがないと思うのだ。
 おそらく、松井や高橋は、そんな二人が呼びかけたら、それについてくるはずだ。
 
 できれば、僕は21世紀のBOOWYの新曲を聴いてみたい。
 氷室と布袋という、ソロミュージシャンとしても成功してきた二人が、どんな曲を作り出すのか、ぜひとも見てみたい。
 そうすりゃ、我々も「BOOWYをリアルタイムで知ってるぜ」なんてのたまうオッサンたちを見返すことができるわけだし。