映像の魔術師ミシェル・ゴンドリーのアナログ手法

 
 カッコいい、とか、洗練されたもの、とか、人々に驚きを与えるもの、として、真っ先に思い浮かぶのが、手品だ。
 
 手品に驚いた我々は、そのトリックを知りたいと思う。インターネットでは、手品の種明かしの多くが公開されている。我々はそれを知り、納得する。しかし、納得しただけでは、手品師が我々に与えたような、驚きをもたらすことはできない。
 
 映像の世界でマジシャンといえば、ミシェル・ゴンドリーだろう。このフランス人作家の作品は、Youtubeでも見ることができる。
 
 有名なものが、カイリー・ミノーグの次のPV。
 

 
 この不思議なPVはいったいどのように作られたのだろうか。
 実は、ミシェル・ゴンドリー自身が種明かしをしている動画があるのだ。
 
 

 
 ニコニコ動画のコメントで、かなり日本語訳されているので、内容を追うことはできるだろう。
 
 これを見て、モーションカメラという技術の凄さにばかり心を奪われるかもしれない。しかし、大事なのは、このPVをはじめて見たときに、あなたが抱いた「驚き」である。
 この映像作品の魅力は、ミシェル・ゴンドリーの、発想力と実行力に帰結するといっていいだろう。
 
 そんなミシェル・ゴンドリーの最高傑作と称されているのが次のPV。
 映像に興味がある人ならば、必ずや目にしたことがあるであろう、ケミカル・ブラザーズの「Star Guitar」のPVである。
 
 

 
 
 もしかすると、何が凄いのかわからない人がいるかもしれない。
 そんな人は、下のパロディーPVをご覧になれば良い。
 

 
 いかにもニコニコ動画らしいMADである。
 このパロディー作者の制作日誌は、動画作成に興味がある人ならば楽しめる内容なので、一読してみることをオススメする。
 
魔力絶対零度― 【ネギカル・シスターズ】スター・'ね' ギター (Oden Mix.)制作日誌
 
 
 それでは、オリジナルのミシェル・ゴンドリーのメイキング動画をご覧いただこう。
 

 
 これを見て、どう思っただろうか。
 「こんなことが知りたいわけじゃない」と感じる人が多いかもしれない。
 「わざわざ手作業でコンテを描いたのか。すごい忍耐力だな」と思われる人もいるかもしれない。
 
 
 僕は、この二つのミシェル・ゴンドリーの解説動画の中に、ある共通点を見つけた。
 
 それは、両方とも、ミシェル・ゴンドリーが「方眼紙」を使って紹介していることだ。
 これはとても重要なポイントであると思う。
 
 
 このほかにも、ミシェル・ゴンドリーは世界の人々に驚きを与えたPVを数多く制作している。
 
 

 

 
 相当な手間がかかったんだろうな、と心配してしまうほどだが、初めて見た人に、常に新鮮な驚きを与えてきたのが、ミシェル・ゴンドリーの映像作品である。
 
 小学生でもわかる、彼の映像の「凄さ」は、常に新たな発想とそれを実現する能力から生まれた。
 
 最近の、ニコニコ動画のランキングを見ればわかるように、多くの人は、えてして「オリジナリティよりもクオリティ」を求めたがる。ただ、それでは、何も知らない人々に、新鮮な驚きを与えることなどできはしない。
 
 そんな常にオリジナリティを追求する映像作家であるミシェル・ゴンドリーの創作活動のヒントが「方眼紙」であると僕は思うのだ。
 
 発想を思いつくことならば誰でもできる。しかし、それを形にしないと他人には評価されない。「天才」と呼ばれる人たちは、頭の中のアイディアを、いかに形にするべきか、というところに長けている。
 
 発想を実際に形にすることは、多くの困難がともなう。文章でもそうだ。小説を書きはじめるときに、作者は「新鮮な驚き」をもたらすことを期待して書き始めるが、完成作品でその狙いを届けることは難しい。
 
 僕の場合は、ノートに書くことが多い。携帯のメモ機能を使っている人が多いかもしれないが、ただ「文字」だけの情報では、思考を整理することは難しい。○で囲んだり、矢印を引っ張ったり、言葉を追記したりするのは、デジタルよりもアナログのほうがやりやすい。
 
 映像作家として、世界中の敬意を浴びているミシェル・ゴンドリーが「方眼紙」にこだわっているのは、そのことを教えてくれているのではないだろうか。
 
 ミシェル・ゴンドリーの作品を見ると、クオリティの高さにばかり目を奪われてしまうかもしれないが、製作作業の労苦の中でも、みずからの「発想」という軸からぶれなかったことにこそ、注目すべきである。
 
 柔軟な発想力だけでは、人々に感動を与えることはできない。それを形に置き換える技術を身につけてこそ、その人の才能が認められるのである。
 これは別に、映像や芸術に限ったことではなく。
 
【追記】
 

 
 パロディ作品ばかりが人気があるアマチュア動画だが、面白い動画だってある。
 この動画は、特に海外で評判になったが、写真を並べるという手法だけでなく、予期せぬ展開の数々が驚きをもたらした作品。
 
 Youtubeなどをきっかけに、こういう映像作品が、どんどん身近に味わえるのは素晴らしいことですね。