ドアーズを聴く ―60年代の米国西海岸バンド

 「ゲバラ日記」を読みながら、ふとドアーズが聴きたくなった。これは「地獄の黙示録」という映画のせいに違いない。

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 この映画で効果的に使われているのが、ドアーズの楽曲である。
 「地獄の黙示録」は、ベトナム戦争を取り上げた映画であるが、「ゲバラ日記」は南米ボリビアのゲリラ戦をつづった書なので、この連想はそれほど見当違いではないだろう。

 ドアーズは、1960年代を代表する米国のロックバンドのひとつである。デビューアルバムから、野心と挑戦に満ちあふれた画期的な高い音楽を確立し、たちまち米国トップクラスのバンドとなった。
 デビュー曲「Break on through」は、ご存じの方もいるかもしれない。


The Doors - Break On Through - YouTube


 歌詞はこんな感じである。

夜は昼をぶち壊し、昼は夜をぶったぎる 逃げろ 隠れろ
向こう側に突き抜けろ! 向こう側に突き抜けろ!

 こうして、1967年にデビューしたドアーズだが、ボーカルであるジム・モリソンの奇行もあり、ずいぶん浮き沈みの激しい活動を続けた。1970年のライブでは、栄光あるデビューシングルがこんなバージョンになっている。


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 最初に「dead cats, dead rats song」と呼ばれる即興曲が歌われている。歌詞の内容を要約すると「猫の死体、ネズミの死体、くそったれ!」となる。意識の突破を高らかに叫ぶデビューシングルが、作者みずからの手で哀れなぐらい汚されている。そのとき、ジム・モリソンは酒でぶくぶく太り、ヒゲを生やして、二十代というのに仙人みたいな外見になっている。
 肝心の「Break on through」の連呼もキーを上げない。初めて聴いたときは「くそったれ」と言いたいのはこちらのほうだ、と思ったものだ。なんとも、投げやりな印象を受けたものである。
 しかし、今の僕はこちらのライブバージョンのほうが好きだ。


 ドアーズの中で一番好きな曲は「L.A.Woman」である。


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 7分をこえる曲だが、この一曲だけで宇宙を形成できる底知れぬ魅力がある。


 ブルース路線に転向したときの代表曲「Roadhouse Blues」もいい。


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 こういう単純コード進行の曲こそ、それぞれのバンドの特色が如実に出てくると思う。


 しかし、ドアーズの音楽性を知るためには「When The Music's Over」を抜きには語れない。2nd アルバムの最後をかざる10分以上の大作である。


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 ドアーズというバンドは、ジム・モリソンの恐怖詩をいかに表現するかを、音楽性の主題に置いていた。ポエトリー・リーディングによる演劇性を取り入れたバンドといえるだろう。
 ドアーズらしさといえば「世界で一番目立とうとしないギタリスト」ロビー・クリーガーのポジショニング。ベーシストがいないドアーズは、彼がバンドの音のバランスを保っていたといえる。
 それにしても、この曲の「our fair sister」をナイフで切り裂くという暴力的なフレーズから「I hear a very gentle sound(とても優しい音が聞こえる)」の沈黙は、ドアーズにしか出せない音楽世界だろう。ここのドラムの単発的な連打が好きで、何度も何度もリピートしたくなる。
 なお、この部分は村上龍の「限りなく透明に近いブルー」内で引用されているので、ご存じの方もいるかもしれない。


 ドアーズは数多くの優れたカバーも発表している。そのひとつが「グローリア」


Youtube ―The Doors, Gloria(Short Edited Version)


 「グローリア」のオリジナルバージョンは、ヴァン・モリソンのTHEM時代の代表曲で、正統派R&Rである。


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 聞き比べると、ドアーズというバンドの特殊性がわかるだろう。ジム・モリソンにより肉体化された「グローリア」はオリジナルバージョンとは似ても似つかぬ、何とも卑猥な曲に成り下がっている。



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 そんなドアーズのジム・モリソン在籍時の最後のアルバム「L.A.Woman」のラストナンバはが予言に満ちたフレーズを持つ「Riders On The Storm」。間奏のオルガンの美しさはこの世のものだとは思えぬ絶品である。

 このアルバムを残し、パリに旅立ったジム・モリソンは謎の死をとげる。残されたメンバーは、生前に録音していたジム・モリソンの詩の朗読に伴奏をつけて曲にしてしまった。


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 「Riders On The Storm」のサウンドが好きな人なら、この曲も気に入るに違いない。


 ジム・モリソンの恐怖詩は、今では「中2病」と言われるかもしれないが、時々、聴きたくてたまらなくなるときがある。村上春樹は「ジム・モリソンは本質的には扇動者であった」と語る。彼を詩人として捉えることは正しい認識ではないだろう。彼の肉声から放たれた、挑発的、扇動的な言葉の数々は、生命を持ち、人の心を激しくえぐりつける。
 ファーストアルバムの最後を飾る10分をこえる大作(ドアーズには実に多くの大作があるが)「ジ・エンド」は、大学時代に何かを得ようと必死だった季節が思い起こされる。
ジム・モリソンは語る。

終わりのときがきた 素晴らしき友よ
終わりのときがきた 我が愛すべき友よ
君は解放される
だが 君は私にもう追いつけないだろう
我々が死のうとした夜も 終わりのときがきた
This is the end.


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【おまけ】

ドアーズのカバーバージョンで気に入ったのが「Poddighe」なるバンド。イタリア人ゆえに英語が怪しかったりする箇所もあったりするが、日本人のカタコト英語よりは説得力ありそうである。


The Doors - Break on Through (Poddighe Acoustic Version) - YouTube

「Break on through」をアコースティックで歌おうとするその発想がすごい。


The Doors - L.A. Woman [Poddighe Version] - YouTube

「L.A. Woman」をスリーピースで実現してしまった演奏能力の見事さに感動した。


【参考リンク】