アイドルオタク漫画『推し武道』が面白い

 

 
 アイドルオタクを主人公にしたマンガ『推し武道』(推しが武道館いってくれたら死ぬ)が大変面白い。
 これまでAKB48の楽曲を3曲しか知らず、「CDを複数買いするなんて常識外れ」と思っていた僕が、このマンガを読んだおかげで、下の記事を書いてしまったぐらいだ。
ニワカがAKB商法のルーツを探る - esu-kei_text
 
 この『推し武道』、『このマンガがすごい!2017(宝島社)』にてオトコ編「第12位」に選ばれている。
 マイナー雑誌「月刊コミックリュウ」(徳間書店)で連載中、2巻が2016年10月に発行されたばかり、さらには少女マンガ風の絵柄であることを考えると、この順位は上出来ではないか。
 知る人ぞ知る話題作なのだ。
 
 公式サイト(http://www.comic-ryu.jp/_oshi/comic/01.html)で第1話が試し読みできるほか、1巻はKindle読み放題の対象商品になっている。
 
 第1話だけ読むと「地下アイドルと女性オタクの禁断の百合(同性愛)」マンガと感じるかもしれないが、本作の面白さはそこにあらず。
 「むくわれないアイドルオタク活動に全身全霊を注ぐTO(トップオタ)に共感できること」が本作最大の魅力なのだ。
 僕のように、複数買いするアイドルオタクをバカにしていた人にこそ、このマンガは楽しめるだろう。
 
 また、本作に出てくる「岡山ローカル地下アイドル七人組」グループChamJamのメンバー設定がよく練られている。
 ぜひとも、推し(メンバー)を誰か一人定めて読んでほしい。
 「単推し」して読めば、このマンガの魅力はさらに増すはずだ。
 ちなみに、僕は横田文(あーや)推しである。
 
 以下、ネタバレしない程度に『推し武道』の魅力を紹介しよう。
 
 【目次】
(1) 報われないアイドルオタクたちの名言の数々
(2) 岡山地下アイドルChamJamメンバー紹介
(3) なぜ俺はあーや推しなのか
(4) 最新号を読んで『推し武道』の飛躍を確信する
 
 

(1) 報われないアイドルオタクたちの名言の数々

 

↑記事で引用した画像はkindle電子書籍版(購入済)
 
 この『推し武道』の特徴はドルオタことアイドルオタクたちが主役であることだ。
 

 
 まずは主人公のえりぴよ。
 岡山のローカル地下アイドル『ChamJam』の後列組である市井舞菜のTO(トップオタ)であり、自身のすべてを舞菜に捧げる女性オタクである。
 

↑普段はパン工場のラインで働いているフリーター
 
 初読時の僕は「女性ドルオタなんているのか?」と首をかしげたものだが、調べてみるとかなり多いことがわかった。
 例えば、AKB48の『ヘビロテ』PVを作ったのは、蜷川実花という有名な女性監督で、彼女はAKB48がメジャーデビューする前の2006年夏からAKB劇場に通っていた古参オタである。
 最近の「ハロー!プロジェクト」コンサートは女性客が4割近くにのぼっているという情報もある。
 考えてみれば「かわいい女の子」を具現化したアイドルに、女性ファンがいないはずがないのだ。
 
 さて、自分の推しメンバーを応援するために、着る服すら売り払い、ジャージ姿でライブに通いつめる「女を捨てたドルオタ」えりぴよの言動の数々が、本作最大の読みどころといえるだろう。
 

 
 第一話目の「舞菜は私がいなくても何も思わないだろうけど、私の人生には舞菜の1分1秒が必要なんです!」はその代表例。
 基本的にアイドルオタクは自虐的であるが、この清々しいまでの開き直りが、えりぴよの魅力である。
 

 
 タイトルの「(自分の)推し(メンバー)が武道館いってくれたら死ぬ」も、えりぴよの発言を元にしたもの。
 「行ってくれなかったら死ぬ」という脅迫ではなく、「行ってくれたら死ぬ」という見返りのなさこそが、オタク愛である。
 
 そんなえりぴよの推す市井舞菜は岡山の地下アイドルの後列組である。
 だから、握手券を買い占めることが、フリーターのえりぴよにもできるわけだ。
 

 
 では、そんな熱心な自分推しのえりぴよに対してのアイドル舞菜の対応は――
 

 
 塩(しょっぱい)対応である。
 アイドルとはいえ、舞菜は17歳の女子高生。
 さらに、ローカル地下アイドルChamJam内でも下位人気に甘んじている人見知り。
 自分への応援に全身全霊を尽くすえりぴよにはどう対応していいのかわからないのだ。
 
 それでも、えりぴよはくじけない。
 

 
「大丈夫…わたしは間違ってない…舞菜がどれほどわたしに興味がなくてもわたしは舞菜のことが好き…」(第4話)
 

 
「だってほら舞菜は生きてることがわたしへのファンサ(ービス)だから」(第9話)
 

「お金がない…でも舞菜が最下位になるほうがもっとつらい」(第8話)
 
 この名言の数々は、自分のすべてを推しアイドルに捧げているオタクのみがたどり着く境地であろう。
 
 そして、えりぴよはアブない人ではない。
 

 
 見よ、最前列で舞菜を見つめるえりぴよの真摯な眼差しを!
(ちなみに、左でニヤけているオッサンが、後述する「くまさ」さん)
 
 何の見返りも求めず全身全霊をかけて自分の推しである舞菜を応援するえりぴよの姿には、不覚にも感動する人が多いはずだ。
 
 また、岡山のローカル地下アイドルゆえに、アイドルとオタクが電車で遭遇することもある。
 

 
 そんなときに、えりぴよは――
 

 
 あわてて車両を替えるのである。
 あくまでも、プライベートには立ち入らないオタクの鑑なのだ。
 
 なお「アイドルと同じ車両に乗ってはいけない」というのは、ジャニーズオタク用語でいう「ヤラカシ」のひとつらしい。
 アイドルオタクの中でも歴史の長いジャニーズオタクの間では、数多くのトラブルがあり、それゆえに様々なルールが設けられている。
 ジャニオタといえば常識外れな行動が目立つと感じている人は、これら「ヤラカシ一覧」を調べてみるといい。
 大部分のオタクがこれらのルールにしたがって動いているからこそ、過激なファン行為が批判されるのだ。
 
 そんなTO(トップオタ)であるえりぴよに、舞菜のほうも好意をいだいているのだが、立場が違うためにそれを伝えられない。
 えりぴよは舞菜に嫌われてしまったのはどうしようもないとあきらめている。
 そのためか、わざわざ握手券を買い占めて、時間はたっぷりあるのに関わらず、
 

 
 脈をはかったり(第6話)
 

 
 謎の男装であらわれたり(第5話)
 

 
 肝心の2ショットチェキで恥ずかしくなって離れちゃったりする(第1話)
 
 なお公式サイトの『推し武道』のイメージ画像は、えりぴよと舞菜のラブラブ2ショットなのだが、本編にそんなものはない。
 FF7の「エアリスと飛空艇」ぐらい、実現不能なイメージ画像なのだ。
 

↑えりぴよの2ショットチェキの理想と現実
 
 と、舞菜との接触はギクシャクしながらも、えりぴよはオタク活動をやめることはない。
 

 
 舞菜の写真に囲まれた部屋で幸せを実感するえりぴよ(第3話)
 
 完全に人として間違っているが、充実感にあふれた毎日を送っているえりぴよに「アイドルオタクも悪いもんじゃない」と考えを改める人もいるのではないか。
 
 そんなえりぴよが行動をともにしているオタクが、ChamJamのリーダー五十嵐れお推しである「くまささん」
 

 
 第1話では若めに描かれていたが、回を追うごとにオッサン化してしまった。
 
 彼の推す五十嵐れおは、市井舞菜とは正反対の一番人気でリーダーでセンター。
 ChamJamの顔といっていい五十嵐れおのTO(トップオタ)が、このくまささんなのだ。
 そんなくまささんもえりぴよと同じくフリーター。
 

 
 アイドルオタク活動のために会社を辞めたくまささんは、社会的に見れば人生の落伍者だろう。
 
 それでも、くまささんには五十嵐れおに果たすべき約束があったのだ。
 

 
 ニヤケ面の2ショットチェキをのぞけばカッコよすぎる場面(第7話)
 
 ドルオタ歴の長いくまささんは女オタとの付き合いもそつなくこなす。
 

 
 ただし、彼がえりぴよと行動をともにするのは、女性だからというのではなく、熱きドルオタ魂に共感しているからだろう。
 
 岡山の地下アイドルにすぎない「ChamJam」において、この二人の必死すぎるTO(トップオタ)は浮いているといっても過言ではない。
 

 
 その雰囲気がもう一人のオタク、基(もとい)くんの視点で語られている。
 彼はニワカオタクであり、リア恋勢である。
 

 
 自分の推しメンバーである松山空音との結婚を夢見るフリーターなのだ。
 彼は「複数買いなんて常識外れ」と考えていた一般人だが、空音の握手会での神(すばらしい)対応にメロメロになってしまう。
 空音のためにCDを積む(複数買いする)だけでなく、服装も空音のメン(バー)カラーである青にしたり、生活をどんどん空音中心にしてしまう。
 
 そんな基くんに対して先輩オタ二人は――
 

 
 あまり助けにならなかったりする。
 これは後輩イジメではなく「他人の推しメンバーに興味がない」というアイドルオタクの行動原理を示したもの。
 

↑浮かれるえりぴよに棒読みで答えるくまささん。
 
 ドルオタ視点で描かれた『推し武道』を読めば、少なくとも「世の中はつまらない」わけでも「生きがいがない」わけでもないことがわかるはずだ。
 実際にドルオタになるかどうかは置いといて。
 

(2) 岡山地下アイドルChamJamメンバー紹介

 

↑運営批判はドルオタの日常
 
 本作のアイドル「ChamJam」は岡山県を中心に活動するローカル地下アイドルグループである。
 そのせいか、運営スタッフの存在感がほとんどない。
 アイドル自身の自主性にゆだねられている部分が大きいのだ。
 

↑もちろん、オタクのプレゼントはスタッフが事前チェックしてるけど
 
 未成年アイドルの保護者だけでなく、芸能プロダクションの社長や担当マネージャーすら出てこないアイドル漫画。
 それを「リアリティが乏しい」と批判するのは簡単なこと。
 ただし、マイナーなローカル地下アイドルを題材にしているからこそ、スタッフよりもアイドルが主体である物語が許されているのではないか。
 
 そして「ChamJam」にはマネージャー代わりになりうる芸歴の長い年長リーダーがいるのだ。
(以下、公式PVから引用)
 

 
 それが、不動のセンター五十嵐れお(ピンク)
 彼女は以前、インディーズのアイドルグループに属していた。
 このChamJamは、そんな五十嵐れおにラストチャンスを与えるべく作られたといえる。
 
 本編では明かされないが、各単行本には七人のメンバーのプロフィールが掲載されている。
 そこから年齢を列記すると――
 
前列組:五十嵐れお(22) 松山空音(18) 伯方眞妃(19)
後列組:水守ゆめ莉(18) 寺本優佳(16) 横田文(18) 市井舞菜(17)
 
 れおはダントツ最年長である。
 ChamJamの平均年齢は19歳というが、二十歳をこえているのは五十嵐れおなのだ。
 

↑れおのプロフィール
 
 22歳というのは地下アイドルとしては、後がない年齢といえるだろう。
 グループ内では不動の一番人気のセンターとはいえ、かなりの「崖っぷち」アイドルなのだ。
 
 そんな彼女に求められているのは、センターで歌って踊るだけではない。
 他のメンバーは素人ばかり彼女らにアイドル哲学を植えつけるのも、れおの役目なのだ。
 

↑特定のファンと恋愛するのは他のファンへの裏切り行為だと断言するアイドルの鑑
 
 れおはアイドルは恋愛をしてはならないという教えを忠実に守り、それをメンバーに言い聞かせている。
 ChamJam以前のインディーズグループで、れおは下位人気だったが、それは恋愛を知らないゆえの色気の無さにあったのかもしれない。
 ただ、マジメにアイドルをしている五十嵐れおに共感したスタッフがいたから、新たに彼女を中心としたグループが作られたのだろう。
 こうして「ChamJam」では恋愛禁止がメンバーに課せられているのである。
 
 さて、グループ内ではお姉さんだが、外部イベントでは不安になったりと、五十嵐れおという女の子はけっして強くない。
 

↑名前のわりに外部イベントに弱いれお
 
 そんな彼女を支えてくれたのが、くまささんなどの古参オタである。
 

↑れお生誕祭イベントより
 
 こんなオッサンの相手をするなんて、アイドル稼業も大変だな、と同情する人がいるだろう。
 でも、れおはそう感じないはずだ。
 
 というのは、くまささんのような熱心なオタクがいなければ、五十嵐れおにChamJamというラストチャンスは与えられなかったからだ。
 だから、れおはずっと応援してくれたくまささんのためにも、アイドルで成功することを胸に期しているのだ。
 

↑出待ちをしているオタクたちにも元気にあいさつするのが正しいアイドル
 
 地下アイドルならではの、オタとの絆が語られる五十嵐れおのエピソードを読むと、思わず「俺もドルオタになろうかな」と考える人も出てくるのではないか。
 一番人気であるのもうなずける、オタクの理想のアイドルである。
 

 
 次に、二番人気の松山空音(ブルー)
(ただし、とある事件がきっかけで、彼女の人気は急落する)
 
 ニワカな基(もとい)くんを立派なドルオタに代えたのは、握手会での空音の神対応にある。
 

 
 ファンをトリコにする空音の対応は、多くのリア恋勢を生むことになる。
 ただし、この空音の対応は、男性経験の豊富さによるものではなく、れおのアイドル哲学から学んだもの。
 ファンが喜ぶにはどうするべきかを空音なりに考えた結果であり、男にちやほやされたい病にかかっているのではないのだ。
 

↑れおへの心酔を率直に告白する空音
 
 また、外部イベントに弱いれおと違って、空音はアドリブが強い。
 このため、れおに次いでMCを任されることが多いが、話題の変え方が強引すぎると野次られることもある(主に優佳に)
 

 
 3人目の前列組メンバーが、セクシーイエローの伯方眞妃(Fカップ

 ChamJamでこの眞妃がセクシー担当を引き受けているからこそ、清純派アイドルであり続けたい五十嵐れおの負担が減っている。
 その貢献度は高く評価しなければなるまい。
 

 
 第3話扉絵のメンバーの水着姿を見れば、眞妃の必要性がわかるだろう。
 れおのお子様水着が許されるのは、眞妃のセクシービキニのおかげなのだ。
 

 
 その眞妃と仲が良いのが、おっとりパープルの水守ゆめ莉。
 彼女はメンバー随一のダンスの達人である。
 もしかすると、ゆめ莉と眞妃は、五十嵐れおとは違った形でアイドル活動をしていたのかもしれない。
 

 
 そんな二人はただならぬ仲である。
 どういう仲であるかは二巻の人気投票のエピソードを見ればわかる。
 眞妃×ゆめ莉か、ゆめ莉×眞妃かは読み手の想像次第(僕はゆめ眞妃派)
 
 さて、この四人が前期加入メンバー。
 四人組時代に、れおと空音の師弟コンビ、眞妃とゆめ莉のレズコンビは成立していたのだ。
 

↑第11話の回想シーン
 
 以下が後期加入した年少三人組である。
 

 
 寺本優佳(エンジェルホワイト)は後列組でもっとも人気がある。
 メンバー最年少で天然系だが、誰からも愛されている良い子である。
 「センターを目指す」と公言しているが、そのためにこざかしいことはしない。
 次に紹介する横田文とは大違いである。
 

 
 そして、ちっちゃなグリーン横田文(あーや)
 メンバーで一番背が低いが最年少ではなく18歳。
 優佳や舞菜よりも年上なのだ。
 

 
 文(あーや)はアイドルになって有名になるという熱意が強く、やるからにはトップをねらうという野心がダダ漏れであるために、ファン人気は舞菜とともに下位に甘んじている。
 要するに、必死すぎて可愛げがないのだが、自分でもそれがわかってないところが文(あーや)の困ったところ。
 この『推し武道』で、もっともアンチが多いメンバーであると思われる。
 

 
 最後に、えりぴよが推している市井舞菜(サーモンピンク)
 彼女に関しては、本編のヒロインなのでわざわざここで紹介しなくてもいいや。
 
 もしかすると、彼女たち七人にはそれぞれ実在のアイドルモデルがいるのかもしれないが、アイドル文化にくわしくない僕にはわからない。
 ただ、七人の性格分けは連載当初からはっきりとしている。
 
 例えば、先に紹介した水着グラビアとレッスン風景の画像を並べただけでも、きちんと性格づけされているのがわかるだろう。
 


↑第3話と第10話より
 
 さらに、単行本のカバーを外した表紙にはChamJamブログが載っている。
 

↑項目すべてをイチイチ解説したくなるぐらい入念に作られた架空ブログ。
 
 この『推し武道』の魅力は、えりぴよやくまささんなどのドルオタ魂を楽しめることだが、さらに深く楽しむには、ChamJam7人から自分の推しメンバーを決めて読むことだ。
 もし、自分が作中のオタだったら、誰を推すだろうと想像すると、より楽しめるだろう。
 

(3) なぜ俺はあーや推しなのか

 

 
 さて、僕の『推し武道』での推しメンバーは横田文(あーや)である。
 人気投票で自分が一位になるのに必死で、メンバー(優佳)の「もっと肩の力抜こうよ〜」というアドバイスに、マジレスで返してしまう困ったちゃんである。
 
 この文(あーや)の残念なところは、単行本裏の架空ブログの投稿記事数に注目すればわかる。
 

 
 リーダーのれおが多いのは当然。
 れおを尊敬する空音もがんばっている。
 優佳が少ないのは面倒くさがりだから仕方ない。
 問題は、文(あーや)の投稿数が多すぎることだ。
 

 
 さらに、投稿記事のタイトルを見てみれば、その理由がはっきりする。
 文(あーや)は自分に関係ないイベントでも、勝手に広報役を買って出て、隙あらば自分語りをしているのだ。
 
 さらに、文(あーや)は地下アイドル活動だけではなく、メイドカフェでバイトもしている。
 「愛されたガール」である。
 

 
 そこで、文(あーや)は親しくなった客にChamJamのライブに勧誘している。
 自分の夢であったアイドル活動が夢で終わらないように、彼女は必死で営業活動をしているのだ。
 まわりがドン引きするぐらい。
 
 そんな文(あーや)の無自覚な痛々しさが如実に記されているのがこちら。
 

 
 優佳とのプロフィール比較である。
 
 各項目を拡大してみると、とある事実に気づくだろう。
 

 
 文(あーや)は優佳と仲が良いと思っているが、優佳はそれほど思ってないのだ。
 そもそも、優佳はメンバー全員に愛されていて、空音に勉強を教えてもらったり、舞菜と初詣に行ったりしている。
 その親しみの良さを文(あーや)は勘違いしているのである。
 
 さらに第9話では、自費でCDを購入して、自分を投票しているのが、親しくない眞妃にすらバレている。
 そこまで必死なのに人気は下位。
 

↑第7話より(文は舞菜に次に低人気)
 
 この営業のむくわれない理由は、彼女がファンを自分の夢を実現するための道具ぐらいにしか見ていないからだ。
 
 例えば、先ほど引用した場面に、文(あーや)の答えも加えてみる。
 

 

 
 「ファンの人のことを好きになったことがある?」という舞菜の質問に「そんなこと考えたこともなかった」と軽く答える文(あーや)。
 れおの重みがある言葉とは雲泥の差だ。
 自分だけが可愛いと思っている文(あーや)の人気が出ないのは当然であろう。
 
 さらには、あるメンバーに悪質なデマが出たときに、文(あーや)だけがそれを信じて悪態をつく。
 

↑デマに流されやすい女
 
 外面ばかりを気にしている彼女はメンバーよりも噂を信じてしまうのだ。

 清純アイドル五十嵐れおの影響力が強いChamJamメンバーのなかで、文(あーや)だけがちょっとズレている。
 
 これは、俺が推さなければなるまい、と僕が感じるのは当然であろう。
 
 もし、僕が本当に『推し武道』の世界にいたとしたら、たぶん空音か優佳のオタになっていたと思うけど、それはそれ。
 物語を楽しむには、文(あーや)を応援したほうが面白いというのが、僕の読み方である。
  

(4) 最新号を読んで『推し武道』の飛躍を確信する

 
 さて、二巻まで読むと、文(あーや)が問題発言して、ChamJamから脱退する可能性もあるのではないかという心配を抱いてしまった僕は、最新号のコミックリュウを買ってしまった。
 

↑雑誌名が見にくいんだよ!
 
 探すのに苦労する表紙である。
 公式サイトで表紙を確認しないと見つけることすらできない人が多いだろう。
 
 さて、最新号の『推し武道』の掲載順はというと――
 

 
 なんと巻末である。
 これは連載終了フラグなのか? マイナーな月刊コミックリュウですら打ち切られるほどの低人気なのか?
 そう心配した僕であったが、
 

 
 一挙二話掲載でした(ニッコリ)
 
 その内容はというと、
 

 
 えりぴよはあいかわらず舞菜への愛を叫んでいたり、
 

 
 くまささんのキモさが進化していたり、
 

 
 空音に基(もとい)くんは相変わらずメロメロになれていたり、
 

 
 優佳の天然キャラが確立されていたり、
 

 
 文(あーや)は何かやらかした後だけど脱退していなかったり、
 
 と、納得の内容。
 コミックリュウを買って良かったと満足した僕である。
 
 この『推し武道』、発行が徳間書店ということで、単行本を探すのもままならないが、スマホ持っている人は、Kindle電子書籍で読むのも手だ。
  
 気に入れば単行本も買えばいいのである。
 
 この『推し武道』、2017年「このマンガがすごい」でオトコ編12位だった。
 マイナーな雑誌掲載、男性が敬遠しそうな少女マンガ画風で、この順位はなかなかスゴいと思う。
 今後はさらに順位を上げるかもしれない。
 
 それは、あたかも、作中の岡山ローカル地下アイドルであるChamJamが武道館を目指しているぐらい無謀なことだが、決して不可能ではないはずだ。
 そして、読者人気とともに、このマンガのスケールも上がるのではないかと思う。
 
 以前の記事で書いたように、2010年以降は、CDシングル売上のほとんどをアイドルグループが独占するようになった。
 そのことで「日本の音楽界は終わった」と嘆くのは早い。
 単に、アイドルオタクの数が増えただけである。
 少なくとも、ドルオタになってしまえば「世の中つまらない」とか「生きがいがほしい」とつぶやくことはなくなるだろう。
 
 そんな複数買いをするアイドルオタクの心理が知りたいと思った人は、ぜひともこの『推し武道』を読んでみることを僕は強くオススメする。