エロゲ『恋と選挙とチョコレート』のアニメ化は成功するか?

 
 

 
 エロゲ特有の謎デザイン制服で知られる『恋と選挙とチョコレート』のアニメ化情報が、少しずつ明らかになっている。
 
「恋と選挙とチョコレート」 公式サイト
 
 ヒロイン五人の声優は、すべて入れ替えるようだ。
 ゲームの声優は、それぞれ好演していただけに、残念である。
 大人の事情というものだろう。
(……と思ったら、別名義だけど同一人物だったりする人もいるみたいだ)
 
 さて、ネット世論を調べてみると、今作のシナリオの評価が低いことに驚いた。
 2chのベストエロゲ投票での今作の結果は次の通り。
(参考程度に1〜3位の得点も併記する)
 
引用:http://www18.atwiki.jp/2chbesteroge/pages/14.html

順位 タイトル
34 恋と選挙とチョコレート 1 5 12 4 0 0 20
1 素晴らしき日々 〜不連続存在〜 114 26 20 62 1 0 262
2 黄昏のシンセミア 62 55 15 22 4 10 193
3 戦女神VERITA 30 25 9 3 3 85 183

 
*点数の各要素は、次の通り。
S シナリオ(Scenario)
C キャラクター、声(Character,voice)
G 絵、演出(Graphic,effect)
M 音楽(Music)
H エロ(H・Scene)
P ゲーム性(Playability)
 
 
 シナリオが悪いエロゲをアニメ化するはずがなく、これはたぶん「シナリオの展開」が気に入らなかったのではないかと思う。
 
 今作の最大の特長は「選挙」パートにあり、次が「チョコレート」パートである。
 ところが、その「選挙」パートの敷居を下げるためか、はたまたエロゲという様式のなせるわざか、日常パートが非常に退屈なのである。
 この作品にしかない面白さにたどり着くまでが長すぎるのだ。
 もし、アニメもゲームと同じ展開だと、「選挙」に至るまでに、ほとんどの人は視聴をやめるだろう。
 
 今作の「選挙」の描き方は新鮮である。
 もともと、「選挙」と「恋愛」の相性は良い。それは、かわぐちかいじの漫画『イーグル』を読めばわかるだろう。
 

イーグル (1) (ビッグコミックス)

イーグル (1) (ビッグコミックス)

 
 しかし、米国の民主主義が素晴らしいという賛美が鼻につく『イーグル』と違い、『恋と選挙とチョコレート』には思想的な押し付けは感じられない。
 また、「エロゲで選挙を取り入れた」という斬新さだけで人々の注目を集めたわけではない。
 
 今作の最大の功績は、これまで「おっさんくさい」というイメージの強い「選挙活動」を、バンド活動のような「やりがいのある」ものとして描くことに成功していることだ
 やってることは、「署名集め」「後援会結成」「ビラ配り」「辻立ち演説」と、かなりドブ板戦術なのだが、キャラの配置が良いせいで、それぞれの活動に説得力があるのだ。
 選挙活動に励む登場人物たちを、僕は正直うらやましいと思ったものだ。
 そういう物語は、この国には、ほとんどない。
 
 例えば、アイドルグループがプロモーションしている「選挙」は、「人気投票」にすぎず、本来は「選挙」という用語は使うべきではない。
 そんな誤用がまかり通っているのは、我々が「選挙」について、無知すぎるからだ。
 それどころか、我々は選挙にあまり関わりたくないとすら思っている。
 よく知らないのに、卑怯なことをしなければ選挙に勝てないという偏見を抱いている。
 その結果が政治家不信であり、政治不信である。
 日本の政治不信は、選挙不信といっていい。
 
 恋と選挙とチョコレート』というエロゲは、そんな「選挙不信」の目を覚ます可能性がある貴重な物語なのだ。
 そのために、アニメの展開には気をつかってもらいたいのだ。
 
 なお、僕がアニメ12話の脚本をするならば、こんなタイトルになるだろうか。
 

第1話 ようこそ、ショッケンへ!
第2話 気になる、ケートク生
第3話 部長は、チョコがお嫌い?
第4話 未来は俺に託された!
第5話 当選ラインは10%!
第6話 人事尽くして天命を待つ!
第7話 ショッケンの選挙合宿!
第8話 自分を信じて!
第9話 恋と選挙とチョコレート
第10話 天下分け目の討論会!
第11話 みんなの思いを背に受けて!
第12話 俺たちの未来はこれからだ!

 
 基本的には、メインの千里ルートだが、衣更ルートの第三週ショッケン仲間割れはあったほうが良いと考える。
 僕の構想では、それが第8話となる。
 
 いずれにせよ、アニメ成功の最大のポイントは、選挙告示までいかに引っ張っていくかであろう。
 個人的には、第1話で、つまり、未散が入部した日に、東雲皐月の部室視察を入れるべきだと思う。
 エロゲシナリオの不満の一つは「住吉千里 VS 東雲皐月」という対立構図が、それほど描かれなかったことだ。
 

↑千里のグチは、うんざりするぐらい出してもいいと思う
 
 あと、今作のキーパーソンは、ASPの汐浜陽高である。
 

↑陽高をうまく描けているかどうかが、アニメ成功の鍵
 
 エロゲシナリオでは、社会風刺が単純すぎて、なかなか興味をひきつけることができなかった。
 陽高に興味を持てたのは、予備選挙の開票日以降という人がほとんどではないだろうか。
 ASPの現政権の不祥事を暴いたという自負が、どんな誘導尋問をもたらしたのか。
 それはもうちょっと巧妙に描くべきであったと思う。
 
 また、メインヒロインである住吉千里をもっと悪く描くべきだと考える。
 僕の好きなイベントの一つが、美冬と裕樹との、内輪メンバーでカラオケに行ったときのもの。
 ここで千里は当然のように、自分一人で歌い続ける。
 

↑このイベントが、美冬ルートのみというのが不可解である
 
 エロゲシナリオでは、あまり「千里の暴走」という個性が描かれていなかった。
 だから、初プレイでほとんどの人は「なんで千里じゃなくて、裕樹が立候補するんだよ」と思ったはずだ。
 それは、千里の欠点が読み手に伝わらなかったからだ。
 
 住吉千里という子は、クラスではケートク差別をなくしたり、1コ年上の美冬と友情を築いたり、ショッケンでは部長としてふるまったりと、顔が見える狭い世界では力を発揮するけど、学園全体の支持を得るような「強さ」はない。
 だから、次期会長有力候補、東雲皐月にはまるで歯が立たないのだ。
 ただ、独特の嗅覚で、現会長の本質や、皐月のもろさも察知することができる。
 
 「チョコ嫌い」だけではなく、そういう千里の個性を、アニメではきちんと打ち出してほしいと願っている。
 そうでなければ、多くのアニメのように、この作品は埋没してしまうだけに終わるだろう。