日本だけが成功している低燃費技術 ― 「はやぶさ」のイオンエンジンと「イカロス」のソーラーセイル

 

image
NASA撮影:「はやぶさ」大気圏再突入映像
http://www.youtube.com/watch?v=gfYA4f-AIL0
 6月13日の小惑星探査機「はやぶさ」の帰還は、ネットだけではなくメディアも大きく取り上げて話題になった。
 それは、現閣僚も同じであるらしい。
 事業仕分けの「てのひら返し」発言が、続々と発表されている。
 
http://www.jiji.com/jc/zc?key=%c0%ee%c3%bc&k=201006/2010061500420
 
 「はやぶさ」後継機については、目標としている小惑星の軌道上、2014年までに打上げないと、試料採取(サンプルリターン)をすることは不可能となる。
 せっかくの「はやぶさ」の偉業をつなげることはできなくなる。
 
http://www.jiji.com/jc/zc?key=%a4%cf%a4%e4%a4%d6%a4%b52&k=201001/2010010700924
 
 予算が確保さえすれば、その人材や技術は温存される。
 実績のない欧米よりも3分の1という低予算で、更なる実績を積み重ねることができる。
 
 財務省主計局に牛耳られている、つまり、科学技術への理解が乏しいとされる、民主党政権の「事業仕分け」の実態については、これまでにも多くの批判があった。
 この「はやぶさ」帰還を機に、そのようなパフォーマンス任せの国家運営の脆さに、現閣僚とそれを支持する人々が考えを改めれば好ましいのだが。
 
 
 6月13日の「はやぶさ」帰還については、前日になってその事実を知りながらも、感動したという人々の声が少なくなかった。
 これは喜ぶべきことであろう。
 問題は、それを一過性のブームに終わらせないことである。
 
 小惑星探査機「はやぶさ」が果たした実績は数多いが、その一つがイオンエンジンの信頼性の高さを証明したことだろう。
 
http://www.asahi.com/science/update/0614/TKY201006140545.html
 
 「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジンは、NECが開発したものである。
 7年前に打上げられた「はやぶさ」は、通信途絶・電源切断・リアクションホイール故障など、様々なトラブルに見舞われたものの、再突入カプセル投下に至るまで、そのミッションを着実に遂行した。
 それを可能としたのが、少量のキセノンガスでの推進が可能であるイオンエンジンだからこそである。
(もちろん、イオンエンジン1基での運転を可能とした「はやぶさ」プロジェクトチームの知恵と技術があったからでもあるが)
 
 そして、現在、宇宙には、そのイオンエンジンよりもさらに低燃費で推進する「ソーラーセイル」による実証機が航行中である。
 
 
jpg
小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」 - YouTube
 
 
 それが、宇宙ヨットとも呼ばれる、ソーラー電力セイル実証機「イカロス」だ。
 JAXAでは、この「イカロス」を擬人化したツイッターを絶賛運営中であるので、興味のある方は、ぜひともフォローを。
 
 
イカロス君のTwitter
http://twitter.com/ikaroskun
 
 この「イカロス」の運用成功に注目しているのは、日本よりも、むしろ米国かもしれない。
 イカロス」の先端マスには15万人のメッセージプレートがつけられていたが、実はそのうちの半数以上の9万人分は米国惑星協会によるものなのだ。
 
 米国NASAでは、このソーラーセイルを実現するべく、2001年と2005年に試作機「コスモス」を打ち上げたものの、いずれも軌道に乗れずに失敗している。
 この5月21日に打上げられた「H2Aロケット17号機」にて、金星探査機「あかつき」とともに、「イカロス」は予定通りの軌道に分離できたのだが、それは米国NASAには達成できなかった快挙なのである。
 
 ソーラーセイル実証機「イカロス」に、米国惑星協会が期待している理由は、この「ソーラーセイル」が、「はやぶさ」の七年間の運用を可能にした「イオンエンジン」よりも、さらに低燃費で運用できる新技術だからだ。
 
 
jpg
画像引用元:http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_cam/j/03.html
 
 
 この6月13日の帰還まで、小惑星探査機「はやぶさ」の偉業を知らなかった人も、そのニュースに感動したのならば、それを契機に、日本の宇宙開発にもっと興味を持ってほしい。
 そして、「はやぶさ」の成功の前には、火星探査機「のぞみ」の失敗があったように、そのプロジェクトは一朝一夕で成り立つものではない。
 人材と技術の育成が未来につながる科学技術について、正しい理解を持つべきときだと思う。
 
 「はやぶさ」帰還から一夜明けて、まるでそれまでの政策方針を否定するような、現閣僚の調子のいい発言に呆れた人は多いだろう。
 しかし、それは政治家だけの話ではない。
 「イカロス」のメッセージプレートの半数以上が米国惑星協会からよせられたように、これまで、僕を含め、日本人は宇宙開発への理解に乏しかったのではないだろうか。
 現閣僚のおめでたい発言は、宇宙開発の可能性を知らなかった我々の民意を反映していたといえないだろうか。
 
 小惑星探査機「はやぶさ」の帰還、ソーラーセイル実証機「イカロス」の帆展開成功など、日本の宇宙開発技術は、欧米にはない実績を打ち立てている。
 そして、有人飛行についても、ソユーズ亜種で実現した中国に対して、日本は「HTV」という補給宇宙機の発展形をもって、それを実現しようとしている。
 
 技術者ではない僕には、情緒的に訴えることができないが、ほとんどの人が僕と同じように宇宙開発技術を科学的に説明することは難しいはずだ。
 しかし、そんな素人による世論を喚起によって、これまで育んだプロジェクトをご破算にさせることは避けられると思う。
 ぜひとも、「はやぶさ」帰還の感動を、それだけで終わらせないようにしてほしい。
 
 
【関連エントリ】
 
「はやぶさ」最後のミッションがもたらしたもの ― 今後の宇宙開発と有人飛行の可能性
 「はやぶさ」再突入カプセル着陸の成功と、それにともなう「HTV」による有人飛行開発の可能性を紹介
 
日本・欧州・米国による、新たな「宇宙補給輸送機」開発競争
 今年をもって運用を終了するスペースシャトル以降の、宇宙機開発競争について紹介
 
有人宇宙飛行の現状と、日本の宇宙開発の可能性
 無人宇宙輸送機「HTV」を活用した、JAXA(日本)の有人宇宙飛行プロジェクトを紹介
 
【6月2日】明日、コスプレ飛行士・野口さん、半年ぶりに地球に帰還!
 ヤマトTシャツを着たり、「ひとり羽子板」にはげんだり、「スペース・ツイッター・キング」となった、宇宙飛行士野口さんの半年に及ぶ宇宙滞在を紹介
 
ミク、宇宙へ! 「超電磁P」の打上げ現場レポート動画【ヘッドフォン推奨】
 「超電磁P」による、H2Aロケット17号機の打上げ現場レポート動画と、ニコニコ技術部が本気で実現に動いている「相乗り小型衛星」プロジェクト「SOMESAT」の紹介
 
人類初の快挙へ ー 宇宙ヨット「イカロス」の「くぱぁ」
 第二次展開に成功した、ソーラーセイル実証機「イカロス」の紹介
 
【萌え酒】「はやぶさ迎え酒」と4コママンガ「はやぶささん」
 小惑星探査機「はやぶさ」の帰還迎え酒や、4コママンガの紹介
 
【ニコ動生放送】あかつき(ミク搭載)、イカロス君を載せたH2Aロケット、打ち上げ成功!
 5月21日に打上げられた、H2Aロケット17号機のニコニコ生放送の様子を紹介
 
初音ミク、金星へ ― 「あかつき」、「はやぶさ」、宇宙のロマン ー ニコニコ技術部員たち(7)
 「ミク宇宙進出」プロジェクトや、実物大「はやぶさ」を製作した「YuyaP」の動画を紹介