「はやぶさ」最後のミッションがもたらしたもの ― 今後の宇宙開発と有人飛行の可能性

 

 
 2010年6月13日、小惑星探査機「はやぶさ」は地球に帰還。7年間にわたる運用は終了した。
 
 「はやぶさ」のプロジェクトマネージャーである川口淳一郎教授は、12年前に打上げられた火星探査機「のぞみ」にも大きく関わっている。
 1998年に打上げられた火星探査機「のぞみ」は、2003年7月9日に電波が途絶えた。
 関係者の懸命な努力にも関わらず、12月9日まで通信は回復せず、志半ばにしてその運用は終了された。
探査機「のぞみ」 ― ニコニコ大百科
 
 「のぞみ」打上げから数えても、12年。
 「はやぶさ」の帰還は、関係者たちの努力が報われた最高の晴れ舞台だった。
 ニコニコ動画による生放送では、総来場者数が20万人を突破。「見ることができない!」というユーザの声が相次いだのは、喜ぶべきことかもしれない。
 ぜひとも、今度からは、地上波でこのような快挙を生中継してほしいものである。
 
 ラストショットといい、大気圏に燃え尽きる光といい、「はやぶさ」はフィクションでは描くことのできないドラマをもたらした。
 この「はやぶさ」帰還を契機に、一人でも多くの少年たちが宇宙へのロマンを抱いてほしいと思う。
 
 

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小惑星探査機 『はやぶさ
ニコニコ大百科より転載
 現段階では、再突入カプセルの中身は明らかにされていない。
 僕の知人はサンプルリターン、つまり、小惑星イトカワから試料を持ち帰ったことを前提として話していたが、それは本日6月14日以降の報告がなければ確かではない。
 もし、試料が含まれていたならば、地球と月以外の天体の物質を持ち合わせていない人類にとっては初の快挙となるが、そうでなくとも、「はやぶさ」ミッションは数多くの成果をもたらした。
 
 その一つが、再突入カプセルが、予定位置の誤差1キロ以内への着地に成功したことだ。
 ビーコン受信の知らせからわずか数分後、ヘリコプターの目視により、カプセル位置は確認された。
 七年前に打上げられた「はやぶさ」の高い技術力が証明されたことになる。
 
 このことは、2009年に実証が成功した宇宙補給機「HTV」の開発促進にもつながるはずだ。
 
 以前の記事で書いたが、今年の2010年をもって、スペースシャトルは運用を終了する。
 その後継をめぐり、日欧米で開発競争が繰り広げられているのだ。
日本・欧州・米国による、新たな「宇宙補給輸送機」開発競争 - esu-kei_text
 
 米国のスペースシャトル後継となるはずの「ドラゴン宇宙船」は、未だに実証を行っていない段階である。
 この、6月5日に打上げられたファルコン9ロケット初号機は、「ドラゴン宇宙船」の模型を搭載しただけのものにすぎない。
http://www.sorae.jp/030807/3926.html
 
 今年夏から「ドラゴン宇宙船」は実証を開始するというが、いくら資金が豊富でも、人材が育成しないとミッションは成功しない。
 小惑星探査機「はやぶさ」の偉業も、火星探査機「のぞみ」の経験があったからこそ成功したといえる。
 スペースX社が開発した「ドラゴン宇宙船」の信用度は、まだまだ未知数なのだ。
 2011年から実用開始というプランは、かなり無理をしていると思う。
(個人的に、米国の商業軌道輸送サービス「COTS計画」という手法には、懐疑的である)
COTS計画 ― Wikipedia
 
 スペースシャトル運用終了後の、国際宇宙ステーション(ISS)への補給手段は、次の通り。
 

開発  名称  種別  積載量  運用 
 FSA(ロシア)   ソユーズ宇宙船   有人宇宙船   乗員三名(手荷物は60kgまで)   1967- 
 FSA(ロシア)   プログレス補給船   使い捨て無人輸送船   2.2トン   1978 - 
 ESA(欧州)   欧州補給機(ATV)   使い捨て無人補給機   7.7トン   2008 
 JAXA(日本)   HTV   使い捨て無人補給機   6トン   2009 
 スペースX社(米国)   ドラゴン宇宙船   有人宇宙船(予定)   6トン   2010(予定) 

 
 JAXAはすでにHTVの実証に成功。今年度冬には、二度目の実証機打上げを予定している。
 世界に名だたる「アリアン」ロケットを持つESA(欧州)は、たびかさなる順延ののち、今年に二度目の実証打上げを予定。ギリシャ通貨危機の影響もあってか、寄り合い所帯ならではの実行力の弱さを見せている。
 そして、米国のスペースX社による「ドラゴン宇宙船」は、まだ実証を開始していない状況なのだ。
 
 宇宙補給機開発競争において、JAXAはようやく、欧州や米国と対等に開発できるポジションに達したといえる。
 

H-II Transfer Vehicle~日本初 宇宙ステーション補給機HTVプロジェクトの軌跡 - YouTube
 

 
 小惑星探査機「はやぶさ」のミッションの成功は、JAXAの宇宙開発技術の信頼性の高さを、世界に証明した。
 現時点では、HTVは使い捨てロケットであるが、もしかすると、予定よりも早い段階で、「大気圏再突入カプセル」を搭載し、地球にも荷物を届けることができる、次世代型HTVの実証が開始されるかもしれない。
 
 HTVは将来的に「有人宇宙飛行船」となることが予定されている。
 まずは、HTVの「再突入カプセル」の運用から始めなければならないだろう。物質の輸送が成功すれば、やがて、有人飛行の可能性が出てくるということだ。
 ソユーズ亜種による「有人宇宙飛行」を中国は実現しているが、日本は独自技術をもって「有人宇宙飛行」を達成できるポジションにいるのだ。
 
 なかには、JAXAの宇宙開発の高い信用性を、軍事技術に転用することを心配する声があるかもしれない。
 それは日本人が発言すべきことではないだろう。世界では脅威を感じる人が出てくるかもしれないが。
 その結果として、技術が「抑止力」となれば良いと思う。
 例えば、宇宙開発を軍事技術転用ととらえている中国からすれば、今回の「はやぶさ」ミッションの成果は驚くべきことであるはずだ。
 
(個人的には、一人でも多くの人が「はやぶさ」の偉業を知ることは、世界有数の軍事力が結集する東アジアに平和をもたらすきっかけになるとすら考えている)
 
 
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ソーラーセイル実証機 『イカロス』
 「はやぶさ」の7年間にわたるオペレーションは終了した。
 だが、5月21日に打上げられた、ソーラーセイル実証機「イカロス」は、現在も運用中である。第二次展開に成功し、世界初の「ソーラーセイル型宇宙機」として歴史に名を残すことになるだろう。
 同じH2Aロケット17号機で打上げられた、金星探査機「あかつき」も、金星を目指して航行中である。
 「あかつき」は金星気象衛星と表現したほうがいいだろう。小惑星探査機「はやぶさ」とは目的が大きく異なるが、その観測結果は、新たな技術の発展に大きく寄与するはずだ。
 
 そして、今年8月2日には、H2Aロケット18号機にて、準天頂衛星初号機「みちびき」が打上げられる。
準天頂衛星初号機「みちびき」 ― Wikipedia
 
 これは、カーナビやケータイについているGPSを当然のように利用する我々の生活に密接した人工衛星である。
 「みちびき」の運用に成功すれば、これまでの人工衛星よりも短時間で受信できるだけでなく、測位できる場所や時間帯が従来以上に広がると期待されている。
 決して、夢やロマンだけではなく、我々の生活を豊かにするべく、宇宙開発は続けられているのだ。
 
 
 「はやぶさ」帰還というニュースは、多くの人々を感動させた。
 これを機に、日本の宇宙開発の現状を理解した人もいるはずだ。
 できれば、今後も宇宙開発に対する興味は失わないでほしいと思う。
 
 ニコニコ技術部では相乗り小型衛星の搭載を目指した「SOMESAT」というプロジェクトを実行中だ。
 ニコニコ生放送にも出演した「超電磁P」が中心となって、「ネギ振りミク」を搭載した小型衛星を打ち上げるという、ムダに壮大な計画だが、実現に向けて、着々とプロジェクトは進行している。
ミク、宇宙へ! 「超電磁P」の打上げ現場レポート動画【ヘッドフォン推奨】 - esu-kei_text
 
 今後、日本が宇宙開発のリーダーとなるためには、国民の一人ひとりが、宇宙開発への理解を持つことが大切である。
 ぜひとも、一人でも多くの人に、作られた物語だけではなく、目の前に広がる空の彼方に思いをはせてほしいと願っている。
 
 
【関連リンク】
 
総まとめ:お帰りなさい、はやぶさ! - ITmedia NEWS
 小惑星探査機「はやぶさ」の情報がまとめられたページ。
 
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 川口淳一郎プロジェクトマネージャーによる、「はやぶさ」帰還に対するコメント。必読です。
 
 
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