庵野と山賀と蒼きウル

 
 庵野個人が古巣を訴えたんじゃなくて、庵野代表取締役をしている株式会社カラーが、庵野が所属していた株式会社ガイナックスを訴えたんだぞ、そこんところヨロシク!
 と、公式サイトで書かれていたので、前のブログ記事は「庵野率いる株式会社カラーが古巣を提訴した」とタイトルを変えるべきであろう。
 
 さて、庵野のネームバリューがスゴすぎて、現ガイナックス社長の山賀の話題をする人はほとんどいない。まあ、僕も島本和彦の『アオイホノオ』を読んで知ったニワカなんだけれども。
 
 「実際のところ、庵野は山賀のことをどう思ってんのよ?」というのは、庵野公式サイトの長ったらしい自己紹介を読んでみるのが手っ取り早い。
 
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庵野秀明 個人履歴 | 株式会社カラー
 
 どう考えても庵野自身が書いたとしか考えられない紹介文である。
 
 その一部を抜粋してみる。
 

オネアミスの翼王立宇宙軍」公開後、ガイナックスから少し離れ、主に仲間が増えて引っ越したスタジオ・グラビトンにて仕事をする。が、監督不在のまま停滞していたビデオ用企画「トップをねらえ!」の第2話の脚本(山賀博之作)をたまたま読んで感涙。悩んだ挙句、監督立候補を決意。

 
 「マクロス」や「ナウシカ」に参加して、若手アニメーターの代表格となっていた庵野は、気心の知れた連中と「スタジオ・グラビトン」を結成していた。
 そんな庵野ガイナックスに引き戻したのは「トップをねらえ!」第2話の脚本なのである。
 「トップをねらえ!」の脚本名義は岡田斗司夫だが、庵野は山賀が書いたことを強調するばかりか、「感涙」という描写までつけている。
 山賀の脚本が、庵野ガイナックスに戻したといっていい。
 
 その後、庵野は「ナディア」の総監督をつとめたあと、
 

1991年、(ナディア)放映終了後も前作品を引きずり、次回作に移れない何も出来ない日々が続く。各種企画を自他混合で次々と立ち上げるものの、立ち消え、意図的消滅等の日々が続く。その中でようやく形となり、作画作業まで進んでいた劇場用映画「蒼きウル」のやむない凍結で、ひたすら焦燥感だけが空回りした日々が終わる。

 
 ここで「蒼きウル」というタイトルが出てくる。今もガイナックスの公式サイトで制作中と書かれている作品である。
 この「蒼きウル」、山賀脚本・庵野監督、そしてキャラクターデザイン貞本義行でプロジェクトが進んでいたのだが予算の都合で凍結してしまったのだ。
 
 そして、
 

(蒼きウル)凍結決定の前後、たまたま別件で久しぶりに声をかけてきた大月氏スターチャイルド大月俊倫)と、オリジナル原作によるTVアニメの必要性で意見が一致。彼の「何でもいいから企画を持ってきたら通すよ」の一言から始まり、TVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」('95)を監督。

 
 つまり「蒼きウル」は、ナディアとエヴァの間に持ち上がった幻のプロジェクトなのである。
 
 ちなみに、この「蒼きウル」、これまで三度、プロジェクトが立ち上がっている。
 
 1992年、「恐ろしく弁が立つ口だけ野郎」ことオタキング岡田斗司夫ガイナックスを退社した記念に、山賀・庵野らは劇場用アニメを制作することに決め「蒼きウル」制作プロジェクトを立ち上げる。原作・脚本は山賀、監督は庵野で構想を練ったものの、予算がとても間に合わずプロジェクトは凍結。その後、庵野スターチャイルドの大月の協力を得て「新世紀エヴァンゲリオン」を作ることになる。
 
 1997年、エヴァの成功後、ふたたび「蒼きウル」制作プロジェクトが持ち上がる。しかし、エヴァで燃え尽きた庵野は監督を拒否。結局、監督をも山賀がすることになって再開するものの、プロジェクトはまたもや凍結することになってしまった。そして「凍結資料集」なんてものを出してしまう。
 

蒼きウル 凍結資料集

蒼きウル 凍結資料集

(参考:「蒼きウル 凍結資料集」を手に入れた - シン・さめたパスタとぬるいコーラ
 
 2013年に「蒼きウル」制作再開が発表される。2014年にパイロットフィルムを公開すると宣言したもの音沙汰はなく現在に至る。
 
 以上、蒼きウル - Wikipediaより抜粋してみた。
 
 庵野公式サイトの自己紹介文を見れば、庵野が山賀の才能を誰よりも認めていることがわかるだろう。
 また、「蒼きウル」が庵野に監督を引き受けようと決意するに足るプロジェクトだったことも。
(その後のガイナックスのオリジナル「グレンラガン」は、庵野・山賀と同期だった三人組の一人赤井主導の作品)
 
 そして、この「蒼きウル」というコンテンツがあるからこそ、ガイナックスは死んでいない、と錯覚させるものが、山賀だけでなく庵野にもあったのではないかと、今回のニュースを見て感じられたのだ。
 
 果たして、今回の提訴がどのような決着を見るのだろうか? そして「蒼きウル」は彼らの望む形で我々に公開されるときがくるのだろうか?