連休二日目、映画二本見るなど

 
 スマホフリック入力で、腕が筋肉痛を起こしてしまった不器用な俺は、無線キーボードを購入するべく、新宿に遠征することにした。
 ついでに、映画を二本見ることにした。「シン・ゴジラ」と「君の名は。」である。今さらであるが見ないにこしたことはない。
 

 
 向かった映画館は定番の新宿バルト9。ミーハーな俺である。
 開場時間の朝8時に間に合うべく、登戸駅からわざわざラッシュの小田急に乗って新宿駅に行く。遊びだから荷物も軽いし、今の俺にはスマホがある。小田急ラッシュ恐るるに足らずである。
 バルト9で、当日券を二枚購入する。どちらも前列6番目の真ん中の席。もっとも見やすい位置である。
 「君の名は。」は、8時50分、「シン・ゴジラ」は12時25分からの上映開始のものだ。
 
 とりあえず、横の喫茶店ヴェローチェで、コーヒーとサンドウィッチを腹に入れたあと、いざ映画鑑賞。
 バルト9といえば、エレベーターから見える高校の屋上プールである。これを見ると、ああそういやあったっけな、と感慨深い気持ちになる。
 

 
 シアターに入る。客は20人〜25人といったところか。若者向けの内容なのだから、平日朝がガラガラなのは想定内。俺のような30代男性オッサンが一人で見に来ても居心地が悪くはならない。朝の小田急ラッシュ乗って来たかいがあったってものだ。
 俺のように映画が非日常な人間にとっては、開始前の予告編も興味深いはずなのだが、今回はどうもそそられる予告編がなかった。今日見に来た二本だけ押さえておけば、今年の映画はオッケーみたいな感じである。まあ、映画をろくに見ない俺に、映画界のことをとやかく言う権利はないけれど。
 
 さて、本編の感想である。もちろん、ネタバレは禁止で。
 内容は「ザ・切ないラブストーリー」というもの。高校生がカップルで見るのに最適化された内容である。見たあとは、キスだけではなく、おっぱいぐらいは触らせてくれると思う。
 ということで、俺のような30代オッサンが泣いたら恥ずかしい内容なのだが、中盤あたりから前に座っていた40代オッサンがボロボロ泣きじゃくり始めたのだ。具体的にいうと、主人公男子が○を飲むあたりである。
「おいおいオッサン、物語はこれからだろが。エンディングまで泣くんじゃない」と俺は言いたかったが、オッサンが泣きじゃくる理由もわかるので、あたたかい目で見守った。だからこそ、我々は平日朝一番にこんな映画を見ているのだ。
 物語の舞台になっているのは、すでに宣伝でおなじみだが、飛騨高山と東京である。新宿バルト9もしっかりと映画で出てくる。
 実は川崎市登戸に住んでいる俺にとって、もよりの映画館は新百合ヶ丘となるのだが、どうせ新宿が出てくるだろうからと、俺はわざわざバルト9に行ったのである。何度もいうが、俺はミーハーなオッサンなのだ。
 さて、物語にティアマトという名前が出てきたので、俺にはタイムリーだった。何がタイムリーなのかというと、ティアマトというのはバビロンなどの神話に出てくる女神の名前だからだ。旧約聖書ヤハウェよりは成立が古い神である。ちなみにバビロンのことを古代ヘブライ人はバベルといっていた。バベルの塔は、ティアマトを殺したバビロンの都市神マルドゥークをあがめた建物だったのだ。ユダヤ教の成立過程を追うなかでバビロン神話を抜きにして語ることはできず、ティアマトが旧約聖書の創世記に与えた影響というのはなかなか面白いのだが、長くなるので別の記事で。
 ともあれ、ティアマトがバビロン神話でどう描かれているかわかっていれば、かなりのネタバレになる。だから、俺は前の席のオッサンのように中盤で泣きじゃくるようなことはなかったわけだ。

 この映画、伏線がきれいに回収されていて無駄のない展開であり、感動できると思うが、スマホ関連の甘さがある。
 ちなみに、この部分は漫画版では微妙に修正されていて、納得できる内容となっている。新宿から帰ってネットカフェでこの記事を書くついでに読んでみたが、非常によくできたコミカライズだと思う。映画の映像美にはとてもかなわないが「あの設定はどう考えてもおかしい」と思っている人は、ぜひとも漫画版で補完してほしい。
 ただ、デジタルの日記が文字化けしていくという演出は面白かった。まあ、この映画のターゲットである高校生は文字化けを知っているかどうか知らないけど。今のブラウザはとても優秀ですからね。
 あと、「ハウルの動く城」を思い出した。なんとなくね。物語の定番の展開といっちゃそうなんだけど。
 
 さて、納得のエンディングのあと、余韻にひたりながらスマホで感想を書こうとしたのだが、フリック入力でストレスが限界を突破したので、無線キーボードを買うことにした。バルト9から一番近い家電量販店といえば、ビックロである。なぜかビックカメラユニクロがひとつになったビックロである。
 そこで俺が買ったのは、下の折り畳みキーボード。約6000円である。
 

 
 スマホ用のスタンドもついているのが良い、と思ったが、そんなものは100円均一ショップで購入すればすむ話。どうも、この連休の俺は金銭感覚が欠如している。
 
 そして、そのキーボードの機能を試す間もなく、次の「シン・ゴジラ」の上映時間がせまっている。
 とりあえず、近くの「天丼てんや」で、秋天丼と小そばセットを食べたあと、再びバルト9へ。
 
 上映時間ギリギリにシアターに入ると、俺の席には60代ぐらいの年配男性が座っていた。席の番号が左に書いていると説明して席を移ってもらったのだが、もしやチケットを買ってないのでは、と疑惑をいだいてしまった。それは、連れの女性が来たことで、すぐに晴らされたけど。あまり人を疑うのは良くない。この人は年配のゴジラの歴史を知っていて、夫婦でともに映画鑑賞できるような人生の成功者である。俺みたいな30代独身男性とは違うのである。
 まあ、そんないざこざのせいで、どれぐらいの観客がいるか確かめる余裕はなかった。まあ、30〜50人ぐらいだと思う。
 
 で、この「シン・ゴジラ」、めちゃくちゃ面白かった。どれぐらい面白かったのかというと、サイフを落としたのに気づかないまま、シアターを出たぐらいである。
 見終わったあと、興奮に包まれながら、スマホの電源を開くと、会社のほうから電話があったので明日の打ち合わせをした。そのときにサイフがないことに気づき、俺は顔面蒼白になった。この連休はスマホを現金一括払いで買ったり、映画二本を見たり、無線キーボードを買ったりと、かなり浪費しているとはいえ、サイフを無くすことは想定していない。なにしろ、免許証も保険証もキャッシュカードもsuicaも入っているのだ。スマホだけではどうしようもない状況である。
 あわてて受付に行き説明すると、なんと元に戻ってきた。一円も減ることなく、である。「まだまだこの国も捨てたもんじゃないな」と劇中の台詞が頭をよぎったが、そんな上から目線な発言ができるはずもなく、俺は涙目で「ありがとうございますありがとうございます」を連呼するしかなかった。ありがとう、バルト9の人、今度見たい映画も新百合ヶ丘ではなくバルト9に行くと、ここで宣言しておこう。
 
 さて、あらためて「シン・ゴジラ」の感想を。
 ちょっと前にネットで流行したレスに「めっちゃ早口で言ってそう」というのがある。俺がこれがすごく嫌いで、なぜかといえば、長文レスが大好きな俺はまちがいなく、その一言で煽られるのが目に見えているからだ。そうすると、かつての俺なら間違いなく暴走して被害を拡大させてしまう。
 で、この「シン・ゴジラ」、最初は「めっちゃ早口で言ってそう」な人が変人としてきわだっている。ところが、危機的状況が明らかになるにつれて、どんどんみんな早口になるのだ。はっきりいって字幕無しでは、とても追いつかない情報量なのだが、これが見ている分には緊迫感が出ていて良い。
 子供向けの内容ではない、とよく言われる今作だが、大人でも一度見てすべてを理解できるものではない。だから、リピーターが続出しているといわれているのだが、その臨場感が味わえるだけでも良い。
 とにかく、序盤は、一部の登場人物があせっているだけで、のんきな政策会議が続けられている。口の重い総理大臣、大臣に紙を差し出す官僚の動き、役に立たない有識者会議などのコミカルさは見ていて楽しい。
 ただ、今作の特徴は「無能がいない」ということだ。口の重い総理大臣も、最高責任者であるがゆえの重さであることが、観客にも伝わる筋立てになっている。御用学者が無能に見えるのも「専門家頼みの政治」というのは、いつの時代もうまくいかないものだからだ。そもそも、自説を簡単に曲げるのは学者ではない。学者にもっとも大事なのは忍耐であって、政治家の得意な妥協ではないのだ。理想を追うのが学者であって、現実を見るのが政治家である。
 
 ネタ的には、武蔵小杉が序盤の防衛ラインになっているのが面白かった。タワーマンションが建ち並ぶ武蔵小杉だが、結局は川崎市であって東京都ではないのである。あの映画を見て、一時的に武蔵小杉に住むのは控えようと考えた人もいるのではないか。まあ、中盤以降は東京が破壊されるんだけれど。
 あと、最後の作戦の第二小隊長は偉いと思う。死を覚悟して作戦を遂行する彼こそが真の英雄であろう。
 この作品、基本的には政治家サイドで語られているのだが、ほんのわずかな描写も抜かりなく、命をかけて国を守ろうとする(言い方を変えれば街を守ろうとする)大人たちの生きざまを描いている。
 
 だから、やはり、この映画は子供向けにも見てほしいという思いがこめられているはずなのだ。「政治家なんてダメだ」とぼやいている若者に、いざとなれば大人たちが死ぬ気でやることをこの映画で伝えることができるはずだ。
 まあ、浪費しすぎたおかげで、俺がこの映画をもう一度見ることはないと思うけど、ぜひとも映画館で見てほしい。
 
 ということで、上映後も興奮がやまず、サイフに落としたのも気づかず、涙目になったもののバルト9の店員さんのおかげで無事帰ることができたのだが、どうせ家に戻ったらなにもしないので、ネットカフェに入って、この記事を書いている。
 「君の名は。」の漫画版が置いてあったし、キーボードの試し打ちもしてみたかったし。
 
 これから小説もスマホで書いてみようと思ったのだが、やはりキーボード無しでは難しい。あの両手で書くというのが大事なのだ。両方の脳が活性化されるのが、たぶんいい感じなのだ。
 変換はgoogle日本語入力を使えば何とかなるし。
 こうしてみると、ガラケータブレットこそが至高ではないかという気がしてみないでもないが、せっかくなのでAndroidを堪能するためにも、スマホ+キーボードでの文章書きをしばらくしてみようと思う。