被災地で叫ばれる「二重住民登録」の可能性 ― 今井照『自治体再建』(評価・B)

 

 

住民への避難は、国よりも県よりも市町村が先に指示を出した。
原発避難の実例から、基礎自治体(市町村)のあり方を問う。
 

 被災地の自治体の財政危機が深刻化している。
 例えば、税収が1%に満たない自治体が福島・岩手県内に5市町村あるという。
 震災特需といわれる補助金によるインフラ整備も負の遺産になることが心配される。岩手県大槌町の試算によれば、復興事業のインフラ整備が一斉に老朽化する2045年に、年間45億円かかるという。これは平常時の町予算の9割近い。
 原発避難者を多数抱える福島県相馬市では、今年度中に室内プールを新設する計画だ。放射性物質のために外で遊べない子供たちのためにと、事業費約17億円は国などが全額補助する。しかし、その維持費には年間数千万円かかる。
 

 東日本大震災は、原発避難という新たな社会問題をもたらした。帰還の目処は立っておらず、避難は数十年に及ぶと予想される。
 これら避難民に、国は「帰還」か「移住」かという選択肢を迫っているように見える。たしかに、財政を考えるならば、それぞれ立場をはっきりしてもらったほうが、今後の政策を打ち出しやすいであろう。
 しかし、本書の著者は第三の選択肢である「二重住民登録」を主張する。そして、その根拠を震災当時の各自治体の行動を具体的に示すことで明らかにしようとする。
 

 例えば「打撃を受けた市町村を合併させ、強い財政基盤を持つ自治体を作れば、日本社会を中央集権から分権型にするチャンスになる」という意見は多い。しかし、これは現場を知らない者の弁にすぎない。
 具体的にいえば、住民への避難勧告は、国の指示よりも早い段階で各市町村が独自に出したケースがほとんどだった。もし、国や県の指示を待っていれば、避難者の健康被害はもっと深刻なものになっていただろう。だから、平成の大合併といわれる市町村合併が防災時に空洞化をもたらしている声もあがっている。
 震災直後、住民たちは市町村といった基礎自治体を頼りに行動した。その経緯を知っても「避難先に住民票を移せ」と迫ることはできるだろうか。
 

 

 震災避難の長期化は、国民に疲労しているのは事実だろう。だが、いつまでも先延ばしにすることはできないはずだ。原発再稼働についても、予算の問題はあるだろうが、それならば福島第一原発の事故は「人災」であるとして、責任所在を明確にするべきであろう。もし、その理由が「天災」ならば、絶対に再稼働すべきではない。
 

 本書の内容に、被災者でない僕には力強くうなずくことはできない。何よりも財政上の問題を考えてしまう。ただ、震災を通して見える市町村の役割については、原発から離れたところに暮らす住民も無視してはならないことだろう。
 これらは非常に難しい問題で、本書を読むことは、単純に答えを出すことをためらわせる結果をもたらすだけかもしれない。ただ「二重住民登録」を求める被災者の声は決して無視してはならないはずだ。現地調査にもとづく具体例に富んだ本書は、震災から目をそむけることができない現実を教えてくれる。評価はB。