宮部みゆき『R.P.G.』(評価・B-)

 
分量は長編、展開は短編という異色ミステリー。オチを知れば「納得」の展開ではある。
 

R.P.G. (集英社文庫)

R.P.G. (集英社文庫)

 
 タイトルだけでファンタジー小説だと期待して買ったが、中身は現代日本ミステリーである。同作者の『ブレイブ・ストーリー』と勘違いしたのである。
 これは、表紙裏のあらすじを読まずに購入した僕の軽率さが悪いのだが、今後も僕は前情報を知らずに読もうと考えている。そのほうが、はるかに楽しめるからだ。
 
 
 しかし、今作については「どのように書かれたか」を知る必要があるだろう。
 今作は、作者はじめての「文庫書き下ろし長編ミステリー」である。
 すでに、力量は認められている作者のこと、ただの「長編ミステリー」にはする予定はなかった。
 ゆえに、実験作であるし、野心作である。
 
 具体的にいうと、分量は長編だが、話の展開は短編なのだ。
 かといって、内容が薄っぺらいのではない。ここぞとばかり、事件の背景にある、様々な情報を詳細に書いている。
 事件現場の状況から、捜査本部の成り立ちに至るまで、警察組織に精通した者でなければ書けない綿密な描写が続く。推理小説を書くうえでは参考になると思う。
 
 ただし、主要人物の二人の刑事は、作者の他作品で活躍した人物を使い回ししている。そのことに気づかずに読むと、シリーズものに迷い込んだという戸惑いで、冒頭の数ページで手がとまってしまうだろう。
 また、その二人の男女は若くない。なにしろ、冒頭のシーンが「15年ぶりの再会」である。他の推理小説にある鮮やかさや華やかさには欠けた、地味な刑事なのだ。
 
 そして、その展開も地味である。瑣末なことも綿密に描写しているせいで、真理への糸が見えにくく、読者はストレスが溜まる。「肝心の展開はちっとも進まないじゃないか」と感じる。それでも、僕が読み進めたのは、細部まできちんと描く作者の力量によるものだろう。
 
 タイトルの「R.P.G.」は、そのまま「ロールプレイングゲーム」の略語である。
 「ゲーム」は余計ではなかったかと感じる。どうもタイトルありき、企画ありきで書き進めた実験作という印象がぬぐえない。
 
 最後まで読めば、「納得」の展開ではある。
 もしかすると、読者にストレスを溜めさせることも、作者の狙い通りではないか、と読み終えたあとでは感じてしまう。
 具体的に書くと種明かしになるのだが、読者にとって不快な行為を主役の刑事がしているのには、ちゃんと理由があるということだ。
 読者にとって「不快」よりも「違和感」程度にとどめておいたほうが賢いやり方だろうが、だからこそ、犯人が明らかになったときの爽快感はある。
 まあ、このストレスのために、読み進めることをあきらめる読者が出てくるのではないか、というリスクがあるので、オススメできる手法ではない。
 
 宮部みゆきという作家を読むにあたって、最初に今作を選んだのは失敗だった。円熟した作者だからこそ試すことのできる、きわめて実験色のこい異色作であるからだ。
 ただし、そんな作品だからこそ、作者の力量を感じることができる。
 ゆえに、評価はB-とした。
 
 他の作品なら軽くすませるであろう事柄を、今作では徹底して詳細に描いている。それは、短編の展開を長編サイズにするための分量稼ぎではあるものの、その綿密な描写は、推理小説作家がどこまで設定してミステリーを書いているのかを知るきっかけにはなるだろう。推理小説愛好家ならば、異色作として楽しめるはずだ。