僕は友達が少ない ダークネス(7)【完結】

 
 
初めから読む
 
 




 
     (7)
 
 妹と二人で暮らすと、様々な問題が起こる。生理用品もその一つだ。
 小鳩は中二だが小学生とまちがえられるほど体は成長していない。でも、生理は重いらしく、その期間以外でも、つけていないと落ち着かないと言った。
 俺はそんな小鳩の言葉を素直に信じた。いわば、それは必要経費であって、ケチるものではないと思ったのだ。本来ならば、相談できるはずの母親がいないことに、後ろめたさを持ってほしくないという気持ちもあった。俺はそう考えて、小鳩の言うとおりに、生理用品のお金を出していた。
「あ、あんちゃん。これは……」
 なぜかしどろもどろになっている小鳩に、理科は話しかける。
「小鳩さん。うろたえなくてもいいのですよ。女の子はみんなオナニストなのです」
「だから、理科は口をはさむなって」
「でも、男の子は愚かにも白のパンツを求めているのです。パンツは汚れるものなのに、白のパンツでないと、たちまちビッチあつかいされてしまう。そのために、古来からさまざまなインナーが生み出されたのですが、やはり、フィット感といい、吸収力といい、ナプキンにまさるものはないのです。ちなみに、この理科もつけています」
「ちょっと、何を話してるんだよ、お前!」
「この髪型だったそうですよ。理科からすれば、髪の色を抜いたほうが、コーディネートの幅は広がると思いますし、いまどき黒髪ロングなんてあざといと思うのですが、何も知らない男連中は、そこに理想を見いだしてしまうのです。白パンツと黒髪ロングなんて、芸がないように見えて、下心まるだしだと思うんですけどねー。さっきの理科のように」
「な……」
 理科の言葉に俺は動揺してしまう。かの忌まわしき存在である清純派AV女優。その健気さに心奪われて「なんでこんな子が……」と、社会に怒りをおぼえて、ネットで検索したときに、すでに十本以上も出演しているベテラン女優であることを知り、あのうぶなしぐさは演技にすぎなかったと知ったときの絶望感。そんな性癖が理科に見透かされたようで、俺は焦る。
マリアさんも自由に先輩に抱きつけばいいのですよ。みずからの欲望に忠実であればいいのです。お望みならば、ナプキン差し上げますよ?」
「で、でも、ワタシは……」
「だいじょうぶですよ。先輩がそれを望んでいるのですから。ね?」
 そして、理科は俺にウィンクしてみせる。
「残念ながら、この変態プリンさんは、真性ロリコンですから」
「なんでそういう話になるんだよ!」
 あまりにも達観した理科の様子にとまどったせいか、俺はうまく反論できない。
ロリコンといってもいろんな種類がありまして、例えば『源氏物語』で光源氏が若紫をかっさらうようなことを、理科は真のロリコン行為とは思わないのですよ」
 そんなことを理科は話しつづける。
「真のロリコンは、なによりも年齢を重視するのです。光源氏のように、将来美人になることを見越して誘拐するのではなく、その瞬間の少女美を楽しむために誘拐するのです。だから、ロリコンである先輩は小鳩さんというかわいい妹さんがありながら、妙齢に達するとあっさりそれを見捨てて、マリアさんを愛するのです。嗚呼、なんという因果の持ち主なのでしょうか。将来は刑務所行き確定なのです」
「あ、あんちゃん……」
 やばい。こんな理科の妄言を、小鳩が本気で信じている。
「なあ、お兄ちゃんはロリコンなのか?」
 マリアも純真なまなざしでこんなことを言っている。
「ち、ちがう」
「じゃあ、ワタシのことが嫌いなのか?」
「い、いや、そうじゃない。そうじゃなくてだな……」
「つまり、うんこ吸血鬼よりもワタシのほうが好きなのだな! 幼女だから!」
「だ、だから……」
「あははー、マリアはお兄ちゃんのこと好きだぞ! たとえロリコンでも!」
 いや、マリアのことが好きだっていうのは、まだ子供だからであって、恋人とか愛情とか、そういうものではなくて、ただ、かつての小鳩が持っていた純真さがマリアにあるからなんだけど……。
 これってロリコンですか。ロリコンの言い分ですか?
 そんな騒ぎの中、俺のケータイが震えていた。俺は救いを求めるべく、抱きつこうとしたマリアからのがれて、それを確認する。夜空からのものだった。
 
タイトル 部室の現状報告
本文 部長としては、欠席したとはいえ、やはり、部室がどうなっているのかは気になるところなので、もう帰ったのならば仕方ないが、もし、そこにいるのならば、どういう状況になったかを部長に報告するのも、部員である小鷹の義務だと思うが、どうだろうか?
 
 じつに長ったらしい一文だが、俺は深く考えずにこう送った。
 
タイトル やっぱり
本文 夜空がいないと、この部はダメだ。できれば、明日からは来てくれ。
 
 その返信は戻ってこなかった。
 ただ、この悪夢のような一日は、夜空が部室に来るようになって、二度と繰り返されることがなかったことだけは、伝えておこう。
 
 
【終わり】
 
 
あとがきを読む