僕は友達が少ない ダークネス(5)

 
 
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     (5)
 
「おい、マリア。いつからそこにいたんだ!」
 俺はたまらずにそう叫ぶ。
 マリアが部室に入ったことを目撃していないということは、理科と話す前からこの部屋にいたわけで、そうするとヤバイ発言を俺は連発してきたことになる。いちじるしく一般常識に欠けたところのあるこの幼女シスターだが、いちおう10歳の女の子であって、そんな幼女の前でオナニートークをしてきた俺は、性犯罪者として断罪されても文句はいえない。
「もちろん、ワタシはずっとここにいたのだ」
「でも、理科がここにいたときは、ずっと黙ってたじゃないか」
「そうそう、理科からオレンジジュースをもらったのだ。それを飲んだら、急に眠くなったから、しばらく寝てた!」
 屈託のない笑顔で話しかけるマリア。まさか、そのジュースに睡眠薬を入れられていたとは想像だにしていないようだ。
 それにしても理科のやつ、マリアを邪魔者あつかいして、そんなことをしていたのか。あらためて、その恐ろしさを実感する。
「なあ、お兄ちゃんもそう思わないか。幸村は汚いって!」
「あ、ああ」
 俺は幸村とマリアを交互に見つめる。
 マリアは立場的には「先生」なのだが、性的知識はほとんどないはずだ。だから、ここで幸村を肯定したとなれば、マリアはその行為を正しいと思ってしまうかもしれない。これは危険だ。まだ10歳の女の子がそういうことを知ってしまうと、将来が粉々にくだかれてしまうのではないか。ていうか、まちがいなく、彼女のお目付け役である高山ケイトにぶち殺される。
「……そうだな、マリアの言うとおりだな」
 だから、俺はそう答える。その言葉を聞いて、幸村の顔は青ざめる。
「わ、わたくしは、おとこになりたかったばかりに、おなにーにいそしんでしまい、あにきにけいべつされてしまうとは……」
 いや軽蔑じゃないんだ、幸村。女子はともかく、男子でそれをしないやつはいないわけで、でも、マリアの手前、そんな真実はとても言えないから、これは成り行き上仕方のないことで……。
「わたくしにも、恥があります。このひみつが知られてしまったからには、もののふらしく腹をきって」
 そう言って涙目で部室を出て行く幸村。俺は引きとめようと思ったが、それよりもマリアの性教育が大事のはずで、だから、幸村を見放すことしかできなかった。
「お兄ちゃん、ワタシはおまたをさわったりしない良い子だぞっ!」
 そんなマリアの純真無垢な笑顔を見ると、ついつい俺の頬をゆるむ。理科のおかげで、すっかりと危険な話題に満ちていた部室だが、幼女の天然なまなざしが、その雰囲気を打ち消してくれたようだ。幸村には申し訳ないが、異常事態を脱したことに、俺は安心する。
 頭をなでてやると、マリアは俺に抱きついてきた。俺の妹も小学生のときは、こんなふうに無邪気な態度を見せていたものだ。こういう子供らしさっていうのは、よどみきった俺の心を癒してくれる。
「へへへ、お兄ちゃん、お兄ちゃん」
 そう言いながら、マリアは俺の足にまたがって、体を揺らしてくる。誰も部室にいないせいか、いつもよりもマリアの行動は積極的だった。
 というか、これ……?
 俺の中に、忘れかけた記憶がよみがえってくる。そう、俺の妹の小鳩が小学六年のとき、抱きついてきたあとで見せた妙な動き。その感触に似ている。まるで、体のとある部分をこすりつけるような。
「お兄ちゃん、幸村の言ってた『おなにー』って、おまたをさわることだよな?」
「あ、ああ……」
 マリアは俺の足の上で、わずかなひねりをくわえながら体をゆさぶってる。
「お兄ちゃんは、おなにーしている子は嫌いなのだ! だから、おなにーをしてないワタシのことが好きなのだ!」
「あ、ああ」
「あはははっ! お兄ちゃん、お兄ちゃんっ!!」
 そう連呼しながら、マリアはさらに力をこめて腰をふる。色白なマリアの頬がほんのり赤く染まってきている。その笑い方もいつもとちがって、何かに興奮しているような……。
 これヤバイよね? 明らかにヤバイよね? 絶対にこれ、理科がやってたことと変わらないよね?
「あほー! あほー!」
 そのとき、騒々しく扉が開き、ゴスロリ服を着た女の子があらわれた。言うまでもなく、俺の妹、羽瀬川小鳩である。
「なんだ、うんこ吸血鬼。お兄ちゃんはワタシのものだ!」
「うぅ、あんちゃん相手にそんなことするなんて……子供だと思ってたのに」
「ワタシは良い子だから、お兄ちゃんに抱きついてもいいのだ」
 誇らしげにそんなことを言うマリアに、小鳩は驚くべきことを口にした。
「あんだのパンツは何色じゃ!」  
 
 
僕は友達が少ない ダークネス(6)