【あの花 二次創作】ビフォア・ザ・超平和バスターズ

 
 

 
 
 このエントリは、アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(略称『あの花』)の二次創作小説です。
 
 「超平和バスターズ」を結成した六人が、どのような経緯で秘密基地に集うようになったのかを想像して、作ったストーリーです。
 
 岡田麿里による小説版のことは無視しています。公式と異なる設定を多用していることをご了承ください。
 

 

 




 

 
 あの日、めんまのことを好きかとたずねられたオレは、思わず逆上してしまった。
 そして、とても、ひどいことを言った。
 
 それを聞いて、オレはめんまが怒るか泣きだすかと思ってたんだ。
 でも、めんまはきまり悪そうに、あいそ笑いをするだけだった。
 オレはそんな笑い方をするめんまがきらいで、それ以上に、そんな笑い方をさせた自分のことがゆるせなくて、その場をにげだすように走りだした。
 めんまにあんな笑顔をさせないために、オレは友だちになったはずなのに。
 そう、これはオレたちが秘密基地にあつまって、「超平和バスターズ」なんてグループを結成する、ちょっと前の話だ。
 
     *
 
 
 その年、オレたち六人は同じクラスだった。
 これは奇跡でもなんでもなくて、一学期の始業式のときには、まだ、オレたちは友だち同士ではなかったんだ。
 ただのクラスメイト。それがオレたちの出発点だった。
 そんな新しいクラスの雰囲気に、オレはなじめなかった。気に入らなかった、といっていい。
 なぜなら、ゆきあつがいたからだ。
 オレたちがのちに、ゆきあつとよぶことになる松雪集という男子のことを、オレは同じクラスになるまえから知っていた。成績優秀でスポーツ万能。苦手なものがほとんどなく、大人たちから信用されている優等生。将来大物になりそうな子ナンバー1。とにかく目立つやつで、特別なオーラが出ている男子だった。
 そんな松雪集というクラスメイトをオレは毛嫌いしていた。ゆきあつのほうも、オレと仲良くなろうとはしなかった。ゆきあつはクラスの委員長になって、オレは外れ者になった。前のクラスではそれなりの人気者だったオレにとって、実に不愉快な毎日になったというわけだ。
 しばらくして、本間という女子が、クラスでからかわれるようになった。本間芽衣子、つまり、めんまは、母さんが外国人で、だから、めんまはハーフだったわけなんだけど、その母親ゆずりの色白さを「ユーレイ女」とバカにされるようになったわけだ。
 そのきっかけは、クラスの誰もが知っていた。ゆきあつだ。
 ゆきあつが「本間ってユーレイみたいだよな」と、みんなに聞こえるように口にしたのが、すべての始まりだったんだ。
 ゆきあつは大人たちから一目置かれていた。先生も、ゆきあつの言うことならば、たいてい信じた。そういう大人たちのひいきに、子供はとても敏感だ。だから、ゆきあつがめんまをユーレイあつかいしたということは、ほかのクラスメイトにそうしてかまわないと思わせるものがあったわけだ。
 オレはそんなバカなことはしなかった。他の男子と一緒に、めんまのことをからかったことは、一度もない。
 でも、そんなめんまを助けようともしなかった。
 なぜなら、めんまは「ユーレイ女」とバカにされても、へらへら笑ってるだけだったからだ。もし、めんまが泣きだしたり、怒ったりしたのならば、オレだって正義感にかられて何かをしたかもしれない。でも、めんまは笑ってばかりで、それに反抗することはなかったんだ。
 だから、これはイジメじゃない、とオレは言い聞かせていた。
 そうは思っても、そんなクラスの雰囲気がオレはイヤでイヤでたまらなかった。オレは恥ずかしながら、正義の味方にあこがれていた。低学年の頃は、カメラを向けられると、必ず「へんしん!」のポーズをとっていたぐらいだ。
 そんなオレだから、自分はたとえ一人になっても弱い者イジメはしないと決意していた。これは、たぶん、オレの両親のおかげだと思う。父さんも母さんも、オレをほかのやつと比べようとはせずに、いつだって、オレの言い分に耳をかたむけてくれた。オレが正義の味方になりたい、と言ってもバカにはしない、そんな大人だった。
 オレは何度も考えた。もし、ゆきあつが何とかすれば、この空気は変わるはずだと。ゆきあつが「本間さんのことをからかうな」とさえ言えば、クラスメイトがめんまのことを「ユーレイ女」とバカにすることはなくなるだろう。
 けっして、ゆきあつはめんまをからかう集団に入っていたわけではない。ゆきあつがめんまについて口にしたのは、あの一言だけだったと思う。でも、クラスの誰もが、めんまをからかって許されるのは、ゆきあつのせいだと感じていたはずだ。良くも悪くも存在感があるやつなんだ、ゆきあつってやつは。
 そう考えたものの、オレはゆきあつに対して何も言うことはなかった。面倒なことになりそうだったし、へらへら笑ってばかりのめんまが、そんなに傷ついていないと思いこんでいたからだ。
 
     *
 
 きっかけは、予想外の男子がもたらした。ぽっぽだ。
 帰りの会で、ぽっぽが手をあげたとき、クラスの誰もがおどろいていた。ぽっぽ、つまり、久川鉄道という男子のことを、それまでのオレは、みんなと同じようにバカにしきっていた。
 たとえば、五月の遠足のとき、弁当の時間に、ぽっぽは女子の前でズボンをおろし、ケツを見せて、大パニックをひきおこしたことがある。
 そのときのオレの気持ちは、怒り半分あきれ半分といったところだ。そこまで自分を捨てられる久川って男子のことを、つくづくバカだとあきれながら、わざわざ遠足でそういうことをする神経が信じられなかった。
 でも、ぽっぽは、オレが思っていたような、バカなやつではなかった。
 その帰りの会、ぽっぽが手をあげたのを見て、先生も不思議そうな目で見ていた。やがて、ためらいがちに、ぽっぽにたずねる。
「久川くん、何かあるのですか?」
 そのとき、オレは見た。ぽっぽの体はふるえているのを。
 だいたい、ぽっぽは授業中でも手をあげるようなやつではない。ぽっぽをあてたところで、授業の進行のジャマになるだけだった。そういうのは、成績のいい、ゆきあつとかつるこに任せればよかった。そうすれば、万事うまくいくのだ。
 それでも、ぽっぽは、いきおいよく立ちあがった。そして、はっきりとこう言った。
「先生、本間さんをいじめている子がいるので、なんとかしたらいいと思います」
 オレは耳をうたがった。まさか、久川みたいなバカな男子がそんなことを言いだすとは、オレにはとても信じられなかった。
 先生は言う。「それは本当ですか? 誰が本間さんをいじめているのですか?」
 ぽっぽはそれから、うつむきながらも、はっきりと一人の男子を指さした。このクラスの委員長であり、先生の信用を一身にあびている松雪集という男子に向けて。
「松雪くんが、本間さんをいじめています。なんとかしてください」
 なんで、ぽっぽがそんなことを言うのか、そのときのオレにはさっぱりわからなかった。
 そんなぽっぽの言葉に、クラスはざわつく。
「そうなのですか? 松雪くん」
 先生の声がひびく。ゆきあつは、立ちあがろうとしたものの、なかなかその質問に答えようとはしなかった。仲良くなってからわかったことなんだけど、ゆきあつってやつは、いつもえらそうにしているけど、こういう不意打ちには弱いところがある。オレはすぐに「ちがう」と否定するかと思っていたのに、ゆきあつの沈黙は実に長かった。
「先生」
 そのとき、手をあげた女子がいる。つるこ、つまり、鶴見知利子だ。
 クラスの副委員長になったつるこは、ゆきあつの後ろをついていることが多くて、クラスメイトのなかには「金魚のフン」とよんでいるやつもいた。
 そんなつるこの挙手に、クラス中の視点があつまる。
「鶴見さん、なんですか?」
「先生、わたしは、久川くんがウソをついていると思います」
 はっきりと、つるこはそう言った。
 クラスメイトは誰もがわかっていたはずだ。めんまがからかわれているのは、ゆきあつが原因であることに。ただ、オレのように、ほとんどのやつが、それはイジメではないと信じていたはずだ。本間はへらへら笑ってるだけで、それに傷ついてないじゃないかと。
 イジメっていうのは、もっとキツイもので、クラスメイトから誰も口をきかれなかったり、死のうと思いこむまで追いつめられるような、深刻なものであるはずだった。
 まあ、給食のときに、めんまの机には、先生に気づかれない程度に、いつも数センチあけられていて、誰も机をあわせなかったりしなかったんだけれど、それでも、オレたちはそれがイジメではないと思っていた。
「わたしは、松雪くんが、本間さんをいじめていたところを見たことがありません」
 つるこはさらに言葉をつづける。
「先生、久川くんに、いつ、松雪くんがそんなことをしたのかをたずねてみてください」
 つるこの発言に、ぽっぽの顔はどんどん青ざめていく。そう、ゆきあつは直接手をくだしているわけではないのだ。イジメというからには、証拠がなければならない。
 ぽっぽはそこまで考えるようなやつではなかった。
「あの、その……」
「久川くん、言えないのですか?」
「先生、その」
「久川くん!」
 ぽっぽは泣きそうな顔をしていた。オレはそんなぽっぽの表情をまともに見ることができなかった。そうとも、ぽっぽはまちがっていない。でも、こういうことは、先生に告げ口すべきことじゃなかった。子供のことは、子供でしか解決できないことがある。
 ぽっぽの沈黙は、それがウソであることを先生に思わせるようなものだった。でも、それだけで終わらせるような、甘いつるこではなかった。
「先生、本間さんにもきいてみたらどうでしょうか? 松雪くんにいじめられていたかどうか」
 ひどい、と思った。でも、そんなつるこの提案に、先生は納得してしまったらしい。
「そうですね。では、本間さん。あなたが松雪くんにいじめられたというのは、本当ですか?」
 めんまはゆっくりと立ちあがる。クラス中の視線がめんまにあつまる。まるで、さらし者じゃないか、とオレはいたたまれない気持ちになる。
「そんなことはない、です」
「そうですか。では、イジメはないのですね」
「……はい」
 そして、なぜか、めんまはあの気持ち悪いあいそ笑いをしながら、席にすわった。その顔を見ると、オレには胸にズシリとくるものがあった。そうだ、この本間って女子が傷ついていないなんて、そんなことあるはずないじゃないか。ユーレイ、ユーレイとバカにされて、誰も味方をしてくれなくて、だから、あいそ笑いをするしかなかったんだ。
 それでも、場はおさまりつつあるようだ。先生は自分のクラスでイジメがないことに満足し、クラスメイトは自分たちがからかったことをしかられないことで満足しているようだった。
「では、先生」
 つるこはそれでも口をとめない。
「久川くんは、ウソをいって、松雪くんを傷つけました。あやまらなければならないと思います」
 ふざけるな! オレはそう言って、立ちあがるべきだったのだ。言葉だけを追いかけたのならば、つるこはまちがってはいないのかもしれない。でも、クラスメイトは誰もがわかっていたはずだ。正しいのは、ぽっぽのほうで、ごまかしているのが、つるこのほうだって。
「うん、……そうですね」
 さすがに先生も、このつるこの提案には、気がひけているようだった。しかし、それは実にもっともらしいことだった。だから、先生は言った。
「久川くん、松雪くんにあやまってください」
 オレはもう誰も見ることができなかった。体中が熱くなっていた。こんなことがゆるされていいのか。そりゃ、ぽっぽだって、めんまだって、そのときは友達でも何でもなかったわけだけど、それをだまって聞いている自分に、とてもたえられなくなったんだ。正義の味方にあこがれて、いつも「へんしん!」ポーズをとっていたオレにとって。
 できれば、耳をふさぎたかった。だけど、オレはぽっぽが泣きながらも、こういうのをはっきりと聞いた。
「ごめんなさい……松雪くん」
 ぽっぽの告発は、あまりにもみじめな失敗に終わった。
 そして、そのむくいは、当然のことながら、放課後に待っていたのだ。
 
     *
 
 「さよなら」の号令のあと、ぽっぽは逃げるように教室から出ていった。オレはその小さな背中を見おくることしかできなかった。本当に、これでいいのか、と思いながら。
 やがて、先生がいなくなると同時に、数人の男子がなにやら打ちあわせをはじめる。そして、一気に走りだした。
 とても、イヤな予感がいた。そこに、ゆきあつの姿がなかったとしても。
 帰り道の途中にある神社の境内で、ぽっぽはクラスの男子にかこまれていた。
「なんで、あんなこと言ったんだよ」
「おまえ、松雪くんだけじゃなくて、おれたちも悪者にしたかったんだろ」
 ぽっぽは何も言えずにうつむいたままだ。
 けっして、ぽっぽを寄ってたかって、なぐったりけったりしているわけではない。子供はそこまでバカじゃない。もし、大人に注意されたとしても、言いのがれできるように予防線を張りながら、彼らはぽっぽを追いつめていたのだ。
「だいたい、なんで、おまえが、あのユーレイの味方するんだよ」
「おまえだって、おれたちといっしょに、ユーレイ女をバカにしてたよな?」
「あー、もしかして、あんなユーレイ女のこと、おまえ好きなのか?」
「ち、ちがう」と、ぽっぽは初めて口をはさむ。
「じゃあ、おまえ、前のときみたいに、ユーレイ女にケツ出してみろよ」
「そうだよな。それがおまえの愛情表現なんだからな」
「おかげで、おまえは女子から毛虫みたいにきらわれてるけどな」
 そして、彼らはいっせいに笑う。その笑い声を聞いたとき、オレはようやくすべてがわかったのだ。
 ぽっぽは誰かに、自分の好きな女子のことを相談したのだろう。でも、その秘密はたちまち知れわたり、彼らはぽっぽに、その女子にバカなことをするように強制したのだ。
 あのケツ出し事件は、ぽっぽがバカだからやったんじゃない。そうやるように仕向けられたものなのだ。そして、その結果、ぽっぽは女子からまったく相手にされなくなっている。
 そんなぽっぽには、めんまの心の苦しみがわかったのだろう。めんまが泣いたり怒ったりせず、あの気持ち悪いあいそ笑いしかできない理由を。それを何とかしてやめさせたかったのだ。だから、帰りの会で手をあげたのだ。
 それで、ぽっぽはすべてがうまくいくとは期待していなかったはずだ。ただ、ぽっぽは自分が標的になってもかまわないと思っていたのだろう。自分はバカにされているのには慣れている。でも、めんまは女の子なのだ。それだけは何とかやめさせなければ、と決意して、あんなことを言ったのだ。
 たいしたやつだ、と思った。オレなんかより、ずっと、すごいやつだったのだ。久川鉄道って男子は。
 オレだって、何とかしたいと考えていた。本間って女の子が、ユーレイとからかわれて、それに苦しんでいないはずがなかったのだ。でも、オレはそこまで考えまいとしていた。あのあいそ笑いの奥にある苦しみから、ずっと目をそむけていた。
 それはおくびょう者の考えだった。もし、このとき、正義のヒーローがあらわれたならば、仲間にえらぶのは、オレじゃなくて、ぽっぽだっただろう。オレは正義の味方失格だった。
「いや、ケツ出しだけじゃ足りないな。あんなこと言ったんだから」
「そうだ。今度はフルチンがいいや」
「そうそう、おれたちと友だちにもどりたかったら、それぐらいのことはしろよな」
 友だち、か。小学生になったばかりのときは、クラスのみんなは友だちだと思っていたときもあった。でも、クラスメイトと友だちはやっぱりちがう。
 そして、友だち関係というのは、けっして見返りを求めることじゃない。ひとりぼっちになりたくないとか、いじめられたくないとか、そのための友だちっていうのは、まやかしみたいなものだ。
 そう、たとえ、そいつが悪者になっても信じてやる。クラス中が敵になったとしても味方になる。それが、友だちじゃないのか。
 追いつめられたぽっぽが、何かをふりしぼるように口を動かしたとき、オレはかけだしていた。
「やめろ、おまえら!」
 オレはぽっぽの前に立つ。そんなオレの姿に誰もがおどろいていた。
「な、なんだよ、宿海」
 彼らの一人がそう口にする。
「だから、久川のことをいじめるのは、やめろ」
 オレはそんなことを言ったと思う。でも、彼らにそんな言葉は通じない。
「ちがうって、イジメじゃないって」
「そうだよ、宿海は知らねーかもしれないけど、おれたち仲いいんだよ。そうだよな、久川?」
「ちがう!」
 オレは逆上して、大声を出していた。
「おまえらよりも、オレのほうが、ずっと、久川と友だちなんだからな!」
 そんなオレの叫びに、彼らは面食らったようだった。
「……や、宿海くん」
 ぽっぽだって、信じられない目でオレを見ている。でも、オレはもう後にはひかなかった。
「だから、おまえらは久川からはなれろ」
「チッ」
 やがて、彼らの一人が舌打ちをする。
「そうか、おまえ、こんなケツ出し野郎と友だちなのか、へー」
「まあ、仲良くやれよ。久川はバカだけどな」
 そんな捨てゼリフを残して、彼らはぽつぽつとオレたちから離れていく。
「あの、宿海くん、ごめん」
 ふたりきりになって、ぽっぽはそんなことを言った。
「あやまるのはオレのほうだって。ずっと、おまえのことを誤解していたよ。ごめん、久川」
 そう、ぽっぽは、オレよりもずっとえらいやつなのだ。そんなぽっぽの勇気に比べれば、オレがやったことなんて、ちっぽけなことだと思う。
「ぽっぽって呼んで」
 そんなオレに、友だちになったばかりの男子はそう告げた。
「おれ、ずっとそう呼んでほしかったんだ、友だちに」
「ああ、そうだな。オレたち友だちだもんな。よろしく、ぽっぽ」
 興奮状態だったためか、そんなあだ名を、オレは素直に受け入れた。
「じゃあ、宿海くんのことは、なんと呼べばいい?」
 そうだ、友だちなんだから、君づけっていうのは、おかしいよな。でも、オレのあだ名なんて、過去に一つしかなかった。
「じんたん、で」
「じんたん?」
「そう呼んでくれていた幼なじみがいたんだ。今じゃ、ぜんぜん仲良くないんだけど」
「じゃあ、その子のぶんまで、おれが仲良くなるよ! よろしく、じんたん」
「ああ」
 その幼なじみが同じクラスにいることを、オレはぽっぽに話そうとしなかった。でも、ぽっぽにはそんなことを気にする余裕はなかったようだ。
 仲良くなってからわかったんだけど、ぽっぽはかなりあきっぽい性格だった。たとえば、好きな女子についてもそうで、オレに打ち明けた一ヶ月後には、そのことすら忘れている始末で。
 だから、学校の成績も良くなかったけれど、そのぶん、一つのことに集中すると、それをとことんつきつめる性格だったのだ。
 たぶん、このとき、オレと友だちになったということが、ぽっぽにとって最優先事項で、それ以外のことは、わりとどうでもいいみたいだった。
 それは、オレには悪いことではなかった。なぜなら、オレだって正義の味方に本気であこがれる、単純でバカな男子だったからだ。
 
     *
 
「本間さんのことを、何とかしなくちゃいけないと思うんだ」
 休み時間、ぽっぽはオレにそう話しかける。
 翌日、クラスの空気は一変していた。オレとぽっぽは、クラスの連中から完全に無視されたようだった。
 それはそれで、オレには困ったことで、その状況を早く何とかしなくちゃいけないと考えていた。
 それなのに、ぽっぽはめんまのことが一番気になるという。
 クラスメイトは、めんまのことをからかわなくなった。オレやぽっぽが、また何か言いだすのではないかとおそれているようだった。
 だから、誰もめんまに話しかけなくなった。それはどこからどう見ても仲間はずれであって、事態はさらに悪化しているとしか思えなかった。
「ねえ、じんたん。それを解決する方法があるんだけど」
「へえ、ぽっぽ。言ってみろよ」
「本間さんと友だちになればいいんじゃないかな!」
 ぷっ、とオレは吹きだした。
「なんで、あんな女と友だちにならなくちゃいけないんだよ」
「だって、そうしたら、本間さんは仲間はずれじゃなくなるし」
 いや、友だちっていうのは、そんなに簡単になるものじゃないだろ、とオレは思った。ぽっぽと友だちになるっていうのも、オレにとっては一大決心だったんだ。それは、ぽっぽのことをすごいやつと見直したからであって、同情はしてるけど得体の知れない女子相手とは、わけがちがうのだ。
「なあ、ぽっぽ。昨日のやり方はまちがっていたと思う」
「うん、それは反省している」
「ああいうことで、先生をたよっちゃいけない。あくまでも、子供同士で解決しなくちゃいけないことなんだ」
「さすが、じんたん。いいこという!」
 ぽっぽは素直に感心している。その単純さにあきれながら、オレは考える。
 つまり、すべての元凶は、ゆきあつにあるのだ。ゆきあつが、みんなの前でひとこと「本間芽衣子のことを、からかったり仲間はずれにするのはやめろ」と言えば、今の状況は変わるはずなのだ。
「わかった。松雪集と決闘する」
「へ?」
 さすがのぽっぽも、この思いつきにはおどろいたようだった。
「それって、まさか、松雪くんとケンカするってこと?」
「それ以外に、方法がないんだ」
「で、でも」
 ぽっぽはとまどいながら、こう言う。
「じんたん、松雪くんに勝てると思ってるの?」
「ああ」
 オレは力強い口調で言った。
「オレには奥の手がある」
「すごい、じんたん! 正義の味方みたい」
 そう、テレビで見る正義の味方には、いつも奥の手というものがあった。それは、正義は悪に負けてはいけない、という子供の幻想を守るためのご都合主義にすぎなかったわけだけど、オレはぽっぽに対してはそう言うしかなかったのだ。
 
     *
 
 もちろん、奥の手なんてあるはずなかった。
 ゆきあつの靴箱に「果たし状」を入れたあと、オレは「明日の準備のため」と、ぽっぽと別れて、家に直行した。
 自分の部屋に入って考える。あのスポーツ万能・成績優秀の松雪集という男子に勝てる方法はあるのか、と。
 そんなオレにも心強い味方がいた。その助けを借りるべく、夕食のあとにこう言った。
「父さん、大事な話がある」
 当時、オヤジのことを、オレは父さんと呼んでいたと思う。
 オレのオヤジは、ものわかりのいいオヤジだった。近所のおばさん連中への腰も低くて、だから、なかなか人気者だった。
 でも、オレはそんなオヤジの姿があまり好きではなかった。ペコペコ頭をさげるオヤジよりも、だまって俺についてこい、と背中を見せつけるオヤジのほうが、オレの好みだったのだ。
 一度、オレは母さんに、そのことで不満をもらしたことがある。すると、母さんはこう言った。
「今じゃ、信じられないかもしれないけど、父さんって昔、とってもワルだったのよ。ケンカじゃ負けなしで、同級生だけじゃなくて、大人からもおそれられてたぐらいで。でも、母さんと結婚して、仁太ができて、それから、他人を思いやる、やさしい人になったのよ」
 オレはおろかにも、そんな母さんの言葉を信じてしまった。
 だから、ゆきあつと決闘するときめたとき、オヤジの助言をたのみにしていたのだ。元不良のオヤジになら、松雪集みたいなやつ相手のケンカでも、勝つ方法を知っているはずだと。
 母さんが出ていって、居間にオヤジとふたりきりになったとたん、オレは土下座した。
「父さん、お願いがあるんだ!」
「な、なんだよ、仁太くん」
 オヤジはそんなオレの態度におおいにとまどっているみたいだったが、オレは気にせずにつづける。
「ケンカに勝てるやりかたを教えてほしいんだ」
「ケンカ?」
「うん、絶対に負けられない戦いがあるんだ」
 そう、明日のゆきあつとの決闘で、オレが負けてしまえば、ぽっぽの勇気はムダになってしまう。正義はみとめられず、めんまを仲間はずれにするクラスの雰囲気が変わることはない。
「絶対に負けられないって、そんなことあるのかな?」
「ある!」
 オヤジのやわらかい口調に、オレは力強く答える。
「勝つためなら、どんな卑怯な手を使ってもいいんだ。負けてしまえば、オレはすべてを失ってしまうんだ」
 そんな小学生とは思えない鬼気せまる言葉に、オヤジはほほえんだだけだった。
「卑怯なやりかたで勝つのは、良くないよ」
「だって、そうしなくちゃ勝てないぐらい、相手は強いんだよ」
「でも、仁太くんは自分の信じる正義のために、ケンカするんだろ?」
「うん」
「だったら、卑怯なやりかたをするのは、いけないんじゃないかな」
「だって……」
 オヤジの言葉はやさしかったけれど、それはとてつもなく正論だった。
「ねえ、仁太くん。人間は本音を出さないとわかりあえないことがあるよね」
「うん」
 オヤジが話題をそらしたことに首をかしげながら、オレはうなずく。
「仁太くんがケンカするっていうのは、その本音を見せたいからだと思うんだ」
「……そうかもしれない」
「だったら、卑怯なやりかたはするべきじゃないよ。それに、仁太くんだって、その相手の子に負けないぐらい、りっぱなものがあるんじゃないかな」
 オヤジは居間の壁を見まわした。そこには、オレの賞状がかざられていた。校内マラソンのときのものだ。そうだ、たしか、そのマラソンで、オレはゆきあつに勝ったんだ。
「母さんは絶対に怒るだろうけどね。ケンカしようとする仁太くんを止めないなんて。母さんは母さんで、仁太くんのことを大切にしてるからさ」
「うん」
「でも、父さんには、仁太くんが本音をぶつけたい気持ちがわかるから。だから、勝っても負けてもいいと思うんだ。本気になれば、きっと相手だってわかってくれるはずだよ。仁太くんの本当の思いに」
「わかった」
 オレは立ちあがる。砂で目つぶししようとか、そんなことを考えていたオレは、とてもバカだったんだ。強い相手だからこそ、正々堂々と戦うしかないじゃないか。
「ありがとう、父さん」
 そして、オレは来たるべき決闘にそなえることにした。とにかく、最初は逃げまくろう。オレのとりえは持久力なんだから。そして、ゆきあつが疲れたときに、トドメをさせばいい。オレは、布団の中に丸まりながら、そう単純に考えた。
 
     *
 
 勝敗は一瞬でついた。総合格闘技の試合だったら、十秒たたないうちに、ゴングが鳴りひびき、テレビ放映が終わっていたにちがいない。
 「果たし状」を入れた翌日、ゆきあつはオレに一言いった。
「本気なのか?」
 オレは答えた。「ああ」
 なぜ、決闘しなければならないのか。そんな理由を、ゆきあつがたずねることはなかった。ゆきあつだってわかっているのだ。オレがぽっぽと友だちになった時点で、この戦いはさけられないものであることに。
 そして、放課後。オレたちは約束の公園に向かう。つきそいはそれぞれ一人ずつ。オレにはぽっぽ。そして、ゆきあつにはつるこ。
「なんで、鶴見を連れてくるんだよ」
 ぽっぽは彼女の姿を見て、不服そうにゆきあつに言う。
「だって、手出し無用なんだろ。女子のほうがいいと思わないか。まあ、おまえらは二人がかりでくるかもしれないけど」
「そんなことはしない!」
 オレはそんなゆきあつの挑発にのりながらも、彼のことを見なおした。
 ゆきあつはたしかに悪いやつだ。クラスメイトがめんまをからかうきっかけをつくり、それをだまって見るだけだった。でも、オレとの決闘で、ほかの連中をぞろぞろ連れてくるような卑怯なやつではない。とことんプライドが高くて、だからこそ、クラスで存在感をはなっているのが、松雪集という男子の厄介なところなのだ。
 こうして、オレののぞむ決闘の舞台はととのった。ところが、オレはゆきあつのことを完全になめていたのだ。
 開始早々、ゆきあつはオレにタックルをしかけてきた。あとで聞いた話だけど、レスリングの入門書を買って、夜おそくまでその特訓をしていたと言う。マラソン大会の賞状をニヤニヤ見つめて、持久戦に持ちこめば勝てる、と考えていただけのオレは甘かったのだ。
 そして、ゆきあつはオレに馬乗りになった。勝負の決着は、わずか数秒でついてしまった。
 まもなく、オレの視界がくらんだ。ゆきあつは本気でオレをなぐりはじめたのだ。
 目の前にはゆきあつの顔があったが、まぶたがやけどしそうなほど熱くなって、まともに見ることができない。ああ、オレは泣いているんだ、と思った。
「まいったと言え! まいったと言え!」
 そう叫びながら、ゆきあつはなぐりつづけていた。痛みがマヒするというのは、どうやらウソみたいで、目だけではなく、鼻からも口からも、たえまなく熱いものがこぼれていた。
 そのとき、ぽっぽはどんな表情をしていたのだろう。あとで聞いたら、こんなことを言っていた。
「助けに行こうと思ったんだ。でも、そうしたら負けになるから、じっと我慢してたんだよ、必死で」
 まったく何を期待していたのだろう。空から隕石が降ってきて、それが直撃するぐらいしか、逆転する可能性はない状況だった。
「まいったと言え! まいったと言え!」
 ゆきあつの声が聞こえる。痛みはとまらない。それでも、オレはまいったと言うつもりはなかった。もはや、勝ち負けなんてものは関係なかった。
 オヤジは言った。本音でぶつかりたいからケンカするんだろ? 開始数秒で決着がついたこの決闘で、オレが本気を見せるならば、気絶するまで敗北をみとめないことしかなかったのだ。だから、オレは絶対に何も言うまいと思っていた。
 気の遠くなるような痛みのなかで、ただひとつゆずれない「まいったと言わない」という気持ちのまま、どれぐらいたっただろう。気づけば、ゆきあつの手はとまっていた。肩をゆらしながら、必死で息をととのえている。
 そうだ、あのマラソン大会のとき、オレがゆきあつに勝つことができたのは、最後の最後まであきらめなかったからだ。それは、ゆきあつにはなくて、オレにあるもので、それは。
「うおおお!」
 そんなよくわからないおたけびとともに、すきをついて、オレはゆきあつになぐりかかった。それは、あまりにも見事に、ゆきあつの鼻を直撃した。ゆきあつの体は放物線を描いて、オレの足にのしかかるように倒れる。
 あまりにも痛みがひどかったせいが、殴ったという感触がうまくつかめなかった。でも、目の前のゆきあつは、さっきまでの威勢がウソのように倒れている。鼻から血が出ていた。
 もちろん、ここで手をやめるオレではない。よろめきながらも、ゆきあつの腹にまたがろうとなる。まさかの形勢逆転だ。子供のケンカは、相手が「まいった」と言うまで勝敗はつかない。まだ、オレは負けてはいない。
「やめて!」
 そのとき、オレとゆきあつの間にわりこんだやつがいた。つるこだ。
「ちょっと待てよ。手出し無用と言ったじゃんか」
 そんなつるこに、ぽっぽもかけよってくる。オレも何か言いたかった。すでに口が切れて、言葉になるかどうかわからなかったけど、まだ決闘は終わってないはずで、だからつるこがわりこむことはゆるされないことだった。
 でも、つるこはそんなことにひるむような女子ではない。つるこは手ににぎっていたものを、オレたちに見せつける。ケータイ電話だ。
「センセイ、呼ぶから」
 その言語にいつわりはなかった。すでに番号は用意してあったのだろう。着信のボタンを押しただけで、つながっているようだ。ぽっぽはそれを取りあげようとするが、つるこは必死でかわす。
「あの、ケンカなんです。いそいできてください。タイヘンなんです!」
 それは、オレとぽっぽにとっては、最悪の事態だった。大人たちにわりこまれたら、どういうことになるか。それは、あの帰りの会で証明ずみだ。何しろ相手は、ゆきあつとつるこのクラス委員コンビなのだ。
「やばい、じんたん、逃げるぞ!」
 そして、ぽっぽはオレを引きずるように逃げはじめる。オレはそれにしたがいながら思った。結局、この決闘はどうなったのか。オレは勝ったのか、と。
 
     *
 
 次の日、オレは学校に行った。ゆきあつは学校を休んだ。
 ぽっぽがオレを家に連れて行って、それを見た母さんは仰天し、さんざん説教された。そして、ゆきあつの拳に負けないぐらい痛い消毒をたっぷりぬられた。絆創膏だらけの顔のまま、翌朝は登校した。
 教室に入って、真っ先に見たのは、つるこの姿だった。つるこはきびしくオレをにらんでいた。なんで来たのよ、と言いたい気持ちをおさえるように。
 傷だらけのオレに話しかける者は誰もいなかった。ぽっぽをのぞいては。
「じんたん、だいじょうぶ?」
「ああ」
 クラスメイトはしばらくとまどっていた。でも、先生が来て、朝のあいさつを始めたときに、納得したようだった。
 学校に来た者と休んだ者。勝者が誰であるかを、彼らはその事実で認識したようだった。
 休み時間になって、そのざわめきが再開すると、調子のいい言葉が聞こえてきた。
「そこで、じんたんがクロスカウンターを決めて!」
 ぽっぽのやつだ。さっそく、昨日の決闘を、あからさまな脚色とともに、クラス中に言いふらすつもりらしい。
「ぽっぽ!」
 オレはそんなことにたえられずに、ぽっぽを大声で呼んだ。
「どうしたの、じんたん」
「あのな、ぽっぽ。昨日の話をするのは、やめろ」
「えー、なんで? じんたんカッコよかったじゃん。それに、じんたんが勝ったんだから……」
「勝っちゃいない」
 そうだ、ゆきあつは休んだだけで、オレに「まいった」と言っているわけじゃない。だから、あの決闘の勝敗はついていないのだ。
 それに、クラスの雰囲気が気に入らなかった。昨日までゆきあつをおそれていたのに、どうやら、オレがその立場になりそうだった。別に、オレはクラスの支配者になりたくて、ゆきあつと決闘したわけじゃなくて。
「あ、あの」
 そんなオレに声をかける女子がいた。ふりむくと、そこには、ほとんど話したことのない本間芽衣子の姿があった。
「おい、じんたん。本間さん、連れてきたぜ!」
 とまどうオレに、いいことしたつもりの得意げなぽっぽが言う。
 本間芽衣子は何か言いたそうにモジモジしている。どうやら、ぽっぽに、自分のために決闘したとふきこまれたらしい。
 でも、それはまちがいだ。とんでもないまちがいだ。オレは本間芽衣子を仲間はずれにするクラスの雰囲気がイヤになっただけで、ちょっとは同情しているけど、本間芽衣子に感謝されたいから決闘したわけじゃなくて。
「あのな、ぽっぽ。こいつは関係ないだろ」
「おい、じんたん。せっかく、傷だらけになって戦ったんだ。女神からの祝福ぐらいは」
「なんだよ女神って。オレは正義のために戦ったんだ。こんな女なんかのためじゃない!」
「そう、だよね」
 本間芽衣子は、あの気持ちの悪いあいそ笑いをうかべていた。
「ご、ごめん」
 いそいで立ちさる後ろ姿を見つめる。さらさらの長い髪。白いワンピースから見える細くしなやかな脚。そうだ、オレはこんなかわいい子のことを、ユーレイだと言うやつらが許せなかったんだ。オレからすれば、本間って子は、ユーレイなんかじゃなくて、どちらかというと、妖精とかそういう感じの……。
「おい、じんたん!」
 オレのぶっきらぼうな態度に、ぽっぽは怒っていた。
「じんたんは正義の味方じゃなかったのかよ! 正義の味方は女の子に優しくしなくちゃいけないんだぞ!」
「そりゃそうだけど」
 もし、クラスでのゆきあつの圧倒的存在感が、オレとの決闘でなくなったとしたら、本間芽衣子の立場は、オレにかかっているのかもしれない。今後も、オレがそれまでと同じように本間芽衣子に話しかけないとすれば、状況が変わることはないわけで。
「わかったよ、ぽっぽ」
 それから、オレは席についてうつむいている、本間芽衣子に近づいた。
「本間、オレと友だちにならないか?」
「へ?」
 その言語におどろいたのは、めんまだけではなかった。でも、オレはその視線を気にせずにつづける。
「ただし、オレと友だちになりたいのなら、気持ちの悪い、にへら笑いをするのはやめろ」
「にへら笑い?」
 それを聞いて、めんまはちょっとマジメな顔になったあと、ゆっくりと笑って見せる。それは、これまで見たことのなかった素敵な笑顔だった。
 ああ、こいつはこんなふうに笑えるんだ、と思った。
「それでいい。そういう笑いかたをするんだったら、友だちになってやる」
 あまりにも一方通行で不器用なオレの言葉に、本間芽衣子は真剣にうなずいた。
「うん、わかった」
「じんたん、やっぱり、めんまと友だちになりたかったんだ」
 そんなオレたちに、ぽっぽが近づいてくる。
めんま?」
「うん、友だちになったからには、あだ名で呼ばないと」
「あだ名って誰の?」
「本間さんのだよ。本間芽衣子だから、めんま。いいネーミングだろ?」
「はあ?」
 もしかして、こいつ、オレと本間芽衣子が友だちになることを見こして、すでにあだ名を用意していたというのか。
「ねえ、本間さん。めんまって、どう?」
「あたし、これから、めんまになるの?」
「ああ!」
「うん、それでいい!」
 オレのことを無視して、本間芽衣子は単純にそれを受け入れる。
「ちなみに、おれのことは、ぽっぽと呼んでくれよな、めんま。じんたんの友だちだったら、オレの友だちだからさ」
「わかった。よろしくね、じんたん、ぽっぽ」
 まるで茶番劇だった。
 だけど、ぽっぽはオレ以上にめんまのことを考えていたはずだ。みんなにからかわれても、泣きもせず、怒ることもせず、大人に相談せず、学校も休まずに、じっと耐えていためんまのことを、きっとぽっぽは信用していたのだと思う。
 こうして、オレは数日で友だちを二人ふやすことになった。ぽっぽとめんま。ともに、クラスメイトからバカにされたりからかわれていた子。でも、オレはそんな二人と仲良くなることに、抵抗はなかった。
 それは、ゆきあつの顔色をうかがいながら、誰かが苦しんでいるのをだまって見ているよりも、ずっとすばらしいことで、オレにとっては居心地のよいものだった。
 
 
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