【あの花】ビフォア・ザ・超平和バスターズ(後)

 
 この記事は下書きです。
 木曜に最終回が放映されたら、いろいろわかることもあるでしょうし、その後でちゃんとした内容に書きなおす予定です。
 
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◆ 【あの花】ビフォア・ザ・超平和バスターズ(後)

 
 
 数日の間に、いろいろなことが起きて、オレには二人の友達ができた。
 ぽっぽと、女子のめんまと。
 でも、オレはぽっぽとは仲良くなったけど、めんまとは特に親しくなろうとは思わなかった。
 友達なんだから、めんまがからかわれたときは、オレとぽっぽはそれを止める。ただ、それだけの関係だった。
 オレはめんまに話を合わせようとはしなかったし、話をふろうともしなかった。
 そんな男子二人の会話を、めんまはただ聞いていた。もう、仲間はずれでなくなったのだから、女子同士で仲良くすればいいのに、とひそかに思ったものの、めんまは形式上はオレたちのグループにとどまりつづけていた。
 それは、オレにとってはちょっと困ったことだった。なぜなら、オレは男子と女子は仲良くなれないという確信をいだいていたからだ。
 それは、オレに幼なじみの女の子がいたからだ。
 その子と親しくなった原因は、母親の仲が良かったからだ。幼稚園の送迎で話している間に、オレの母さんと、その子の母親は意気投合したらしい。
 そして、おばさんは気前のいい人だった。オレと母さんは、何度もその子の家にお邪魔した。そこでは、大人は大人同士でぺちゃくちゃしゃべっていて、子供は子供同士で仲良くしろ、と言われた。
 こうして、オレは同じ年の女の子と、同じ部屋で遊ぶことになったのである。
 その子は、最初、人形遊びやままごとといった、女子特有の遊びをオレにすすめてきた。オレはにべもなく断った。男子は、魔法少女アニメなんて見てはならず、正義の特撮ヒーローを愛さなくてはいけないという偏見があった。
 だから、オレは女の子のマネごとなんてしたくなかった。
 その子が口ベタだったこともあり、遊びの主導権はオレがにぎるようになった。オレは好きなゲームを求め、その子は親にたのんでそれを手に入れた。オレが面白いマンガの話をすると、その子はそれを全巻そろえた。
 しかし、結局のところ、男子と女子では、決定的に何かがちがうのだ。対戦ゲームで、その子がオレに勝つようになれば、オレは不快になった。同じマンガであるはずなのに、その感想はまるでちがった。そのうち、オレはその子と仲良くなることをやめた。
 小学生にあがると、親は送迎しなくなる。だから、その子の家に遊びに行くことは、めっきり減った。その子とクラスが一緒になることはあっても、幼なじみという関係を口に出すことはなかった。その子とは、ただ、母親が仲が良いだけの間柄なのだ。
 そりゃ、その子がオレと仲良くなろうとがんばったことはわかってる。それを「合わない」と否定するオレのことを、ひどいヤツだ、何様だ、と思われても仕方ない。でも、だからこそ、オレは女子と仲良くなろうとはしなかったのだ。
 大人になれば、オレたちは結婚する。つまり、男と女で暮らすようになるということだ。でも、それは遠い未来のことであって、当時のオレにとって、もっとも大事なことは、男子と「ズガガガーン」という効果音を口にしながら、正義の味方を気取ることだったのだ。
 
 そんなわけで、ぽっぽが秘密基地を見つけたとき、めんまをその中に入れようとはオレはまったく考えていなかった。
 山を少しのぼったところにある、その山小屋は、かつて、山の管理人が住んでいたらしい。ぽっぽはおぼろげながら、そういう記憶があると言った。
 でも、オレとぽっぽがそこに行ったとき、人が住んでいる痕跡は綺麗サッパリなくなっていた。オレたちは大いに喜んだ。
「ぽっぽ。これはオレたちの秘密基地だ」
「秘密基地?」
「ああ、正義の味方の隠れ家のようなものだ。これは、オレたちだけの秘密だからな」
「うん、じんたん!」
 で、次の日、学校に用があって、後から秘密基地に向かったオレは、ぽっぽ以外の人影を見つけて、大いに叫んだ。
「ちょっと、ぽっぽ。なんで、コイツが……」
「だって、めんまもおれたちの友達じゃん」
「いや、でも、コイツは女子だから」
 そう言いながら、めんまの顔を見る。その表情は曇っていた。やばい。これは泣く兆候だ、と思った。
 オレはめんまと友達になるときに、二度と気持ち悪い愛想笑いをしてはならないと言った。めんまはそれを忠実に守った。しかし、あのにへら笑いは、感情を隠すために作られた、めんまの盾なのだった。
 それをなくしためんまは、ただの泣き虫になってしまった。たまに一緒に帰ったときも、オレが大声で何かを言うと、すぐに泣いてしまう。まあ、わんわん泣いて、大人たちにイジメと誤解されるようなことはなかったけれど、泣く女子ほど面倒なものはないわけで、それが、オレがめんまと距離を置くようになった理由の一つでもある。
 そんなめんまが、オレたちの秘密基地にいたのだ。どうやら、ぽっぽにとって、オレたちの秘密とは、めんまも含めた三人のものであるらしい。
 まあ、めんまの立場からすれば、ぽっぽに言われたということは、オレも歓迎していると思っていただろうから、オレのセリフに面食らうのは当然だ。ただ、オレとしても、昨日、布団の中で思い描いた秘密基地計画が、めんまという存在によって、粉々にうちくだかれるのは勘弁してほしかった。
「なんで? なんで、女子だったらいけないんだよ、じんたん」
 そんなオレに食い下がるぽっぽ。たいていは、オレの言うことを、無条件で賛同するヤツなのに、時にはやけにしつこくなることがある。
「だって、ここは正義の味方の隠れ家なんだぜ。それに、こんなヤツを連れてきても」
「でも、特撮ヒーローには、女の子だっているじゃん。イエローとかピンクとか」
「ま、まあ、そうだけど、でも、こいつみたいな泣き虫は」
 オレはそう言いながら、めんまを見る。めんまは必死でこらえていた。泣きそうになるのを、拳をギュッとにぎりながら。
「なあ、じんたん。めんまだって、オレたちと同じ友達だろ?」
「そ、そうだけどさ」
「そのめんまにだけ秘密だなんて、友情に反していると思う」
「あ、ああ」
 ぽっぽの言うことはまちがっていない。そして、この秘密基地はぽっぽが見つけたものなのだ。それに、めんまって女子は、たしかに頼りないし、泣き虫なんだけど、他人を裏切るようなヤツじゃなくて、仲間はずれにされても、じっと耐える強い子で。
「わかったよ。めんま、おまえも、この秘密基地のメンバーだ」
 オレは鼻をこすりながら、目をそらしながら、そう言った。すると、めんまは途端に顔をほころばせて言った。
「うん、ありがとう、じんたん!」
 オレはその笑顔に見とれそうになった。うん、女の子がいてもいいじゃないか。こういう変わり身の早さは、たぶん、ぽっぽと付き合うようになったせいだと思うけれど。
 
「ところで、松雪くんのことだけど」
 秘密基地で、声をひそめながら、ぽっぽは語る。
「おれは、松雪くんは、こっち側じゃないかと思うんだ」
「こっち側って?」とめんま
「うん、最近、よく思うんだ。おれ、松雪くんと仲良くなりたいって」
「本気か?」
 ぽっぽのつぶやきに、オレは反射的にそうたずねた。
 でも、ぽっぽがそう考えるのは一理あると思った。
 ゆきあつ、つまり、松雪集との決闘は、勝敗がついたものではなかった。どちらかというと、オレの負けだった。ただ、奇跡的に一発だけクリーンヒットしただけで。
 ただ、それを見ていないクラスメイトは、オレが勝ったと思った。二日間学校を休んで、ふたたび登校したとき、ゆきあつのまわりには誰も集まらなかった。
 それから、ゆきあつの相手をするのは、つるこぐらいなもので、我がクラスは、委員長と副委員長が孤立するという、先生たちからしても、子供たちからしても、ちょっと困った事態になってしまったのだ。
「そうだな、ぽっぽ。オレもあいつのことを誤解していたと思うんだ」
「誤解って?」とぽっぽ。
「オレはあの決闘で、何とかあいつを改心させたいと考えたんだ。もし、勝ったとしても、それでめんまをからかったら意味がないしさ。でも、あいつが仲間はずれみたいになってから、オレたちに卑怯なことをやったりしないのを見て、ああ、悪いやつじゃないと思った」
「そうだよ、じんたん。悪い子なんていないよ」とめんま
 そのあまりにも楽観的な言葉には、思わず突っこみたくなった。
「おい、最近まで、仲間はずれにされてたのに、そのことを忘れたのかよ」
「いや、それだったら、おれだって、悪いヤツだったし」とぽっぽが口をはさむ。
「ほら、おれも、めんまのこと、みんなと一緒にからかったりしてたし」
「やだなあ、ぽっぽ。もう、そのことは気にしてないよ」とめんま
 気にしてない、か。つまり、めんまはそのことを覚えているんだな、と思った。
 そう、あの日まで、オレはぽっぽのことを見下していた。でも、せいいっぱいの勇気を見せたから、オレはぽっぽの苦しみを知ったし、それから友達になって、そのあきっぽさにあきれながらも、良いところをいっぱい知った。
 クラスのみんなだって、そうだ。きっかけがないだけで、わかりあえれば、きっと良いやつばっかりなんだろう。ただ、そのわかりあえるまでが大変だったりするわけで。
めんまね。じんたんに友達になろうといわれて、すごくうれしかったの」
 めんまが身をのりだしながら言う。
「すごく、すごく、ほんとーに、すごく!」
「あ、いや、わかったから」とオレは後ずさりする。
「そんなじんたんだから、きっと、松雪くんのことも何とかできると思うんだ」
「そうだそうだ、じんたんはオレたちのリーダーなんだから」とぽっぽ。
「リーダー?」
「うん、ぽっぽとめんまと、二人できめた」
「オレがいない間に、なんでそんなことを」
「だって」
「だってね」
 二人で顔を見合わせる。
「だいたい、友達なのに、リーダーなんていらないんじゃないのか」
「じんたん、ここは正義の味方の隠れ家っていったじゃん。ヒーローにはリーダーがいるもんだよ」とぽっぽ。
「そうそう」とめんま
 まあ、つまり、二人はオレに松雪集に話しかけることを望んでいるということなのだ。
 たしかに、それはオレが適役なのかもしれない。なぜなら、オレがヤツに決闘をいどんだ張本人だからだ。
「もし、松雪くんとじんたんが組めば、おれたち、絶対に最強だよ!」
「そうだよ、さいきょーだよ」
 そんな能天気な二人の言葉を聞きながら、オレは考える。あいつよりも頭の悪いオレが、ヤツを説得させることはできないだろう。ということは、やっぱり、前と同じ作戦でいくしかないか、と。
 
「遅いなあ」とめんまがつぶやく。
 オレは前と同じように、ゆきあつの靴箱に手紙を入れたのだ。ただし、前回の「果たし状」とはちがって、今度は「案内状」なんだけれど。
 朝、それを見たゆきあつは、前と同じように、オレに近づいて言った。
「本気か?」
「ああ、本気だ」と、前と同じように、オレも答えた。
 こうして、オレたちは、学校が終わると同時に、秘密基地に集まって、ゆきあつが来るのを待ってるのだった。
「やっぱり、あの地図がまずかったんじゃない?」と不安そうなぽっぽ。
「だいじょうぶだよ」と根拠のない自信を見せるめんま
 しかし、やがて、人が歩く音が聞こえてくる。こんなところに来る人の目的地は一つしかない。ぽっぽやめんまだけでなく、オレも思わずかけだした。
「待たせたな」
「来てくれたのか」
 いつもの偉そうな口調のゆきあつの言葉にも、思わず頬がゆるんでこたえてしまったオレだったが。
「おい、どういうことだ?」
 すぐさま、ゆきあつの後ろにいる人影に気づいた。
「どうも」
 ぺこりと頭を下げるのは、つるこ。
「やっぱり、二人とも来てくれたんだぁ」
 めんまはうれしそうに言う。もしかすると、めんまのやつ、勝手に鶴見にも案内状を出していたのか、とあせる。
「ちょっと待ってくれ。おい、おまえら」
 オレは歓迎ムードのぽっぽとめんまを、基地の内部に引き寄せる。
「どういうことだよ。オレは松雪のことは入れるっていったけど」
「だって、そういうことじゃなかったの?」とめんま
めんま。おまえ、リーダーはおれと言ってなかったか? おれに無断で」
「べつに、何もやってないよ」とめんま
「で、ぽっぽ。おまえはどうなんだよ」
「どうって?」
「鶴見にこの場所を知られたってことだよ。アイツ、すぐに先生に告げ口するんじゃないか」
「そんなことないって」とぽっぽは笑う。
「だって、松雪くんが味方になるんだから」
「でも、鶴見って絶対、性格悪いと思わないか? あの、帰りの会のときだって……」
 そのとき、めんまが厳しい顔をして、オレとぽっぽの間にわりいった。
「じんたんって、あの子の絵を見たことないでしょ?」
「絵?」
「うん、あの子、とっても絵が上手なんだよ。知らなかった?」
「知るわけないよ、そんなこと」
「あー、じんたんって、すべてわかってるみたいな気がしたけど、やっぱり、ぜんぜん知らないんだね」
 やっぱりってなんだよ、やっぱりって。だいたい、絵の才能に何の関係が。
「あの絵を見ればね、じんたんだって気づくはずだよ。あの子が良い子だって」
 そんなこと言われてもなあ、と思う。あの決闘以来、見かけ上はともかく、オレの心の中では、松雪集とのわだかまりはなくなっていた。でも、それが、つるこという謎の女子に向けられてしまったわけで。
「なんだ、たいしたものないじゃないか。これで、秘密基地とはな」
「おい、勝手に入るなよ」
「だって、案内状はもらったし、すっかり歓迎されるかと思ったんだがな」
 あいかわらず偉そうな口調のゆきあつと、当然のようにその後ろにしたがう、つるこ。
 まだ話は解決してないんだよ、と言おうとしたときに、めんまの声が先に響いた。
「わぁー、つるこ、麦茶持っていてくれたんだ」
 つるこ? まさか、鶴見のことか? 鶴見が何かを持ってきたという事実よりも、そのことにオレは気になってしまう。もう、そういう関係になったのか。
「うん、紙コップもあるから」
 そして、差し出そうとするつるこを、めんまはさえぎった。
「あのね、ここの仲間には、みんなそれぞれコップがあるから。これ、つるこの分。そして、これが……」
「ゆきあつ」と、つるこは言う。
「松雪くんのこと、これから、そう呼んで」
「あ、ああ」
 あまりにも準備のいいつるこの言葉にオレはうなずくほかない。
「はい、じゃあ、これがゆきあつの分」
「ふん」
 鼻を鳴らすだけだったけど、ゆきあつはそのコップを受け取る。
「おお。これで面白くなったぜ」
 そんな緊張感をふきとばすように、ぽっぽは言った。
「じんたんとゆきあつが組んだら、もう敵なしだぜ!」
「おいおい、敵ってなんだよ。おまえら、誰かと戦っているのか」
 そう言いながらも、ゆきあつは、そう呼ばれることにちょっとした喜びを感じているようだった。
 ああ、そうか。やっぱり、おまえも、偉そうにしながらも、ただの友達がほしかったんだな、と思った。
 
「ところでさ」
 二人が帰ったあと、オレはぽっぽとめんまに言った。
「つるこって、ゆきあつのなんなんだろう?」
「恋人、じゃないよなあ」とぽっぽ。
「幼なじみ、じゃないの?」とめんま
 幼なじみにしては、その関係はずっと深すぎるように思えた。
 あの帰りの会のときだって、ゆきあつを悪者にさせないために、ぽっぽへの追撃の手をやめることはなかった。決闘のときだって、ゆきあつを助けるためならば、自分の身を犠牲にしてもわりこむようなことをした。
 そこまですることが、オレにはとても信じられなかった。
「幼なじみというよりも、兄妹っていったほうが近いかもな」とぽっぽ。
「じんたんは深く考えすぎなんだよ。つるこはゆきあつの味方で、ゆきあつがオレたちの仲間になったってことは、つるこはオレたちの味方でもあるんだ」
 いや、そういうことじゃなくて。ゆきあつの行くところなら、どんなところでもついていこうとするつるこのことを、オレはちょっと怖かったりするわけで。
「まあ、女の子は、誰かのために生きたいと思うものだから」
 めんまは、そんなふうにあっけらかんと言う。
「でもさ。もし、ゆきあつがまちがったことをした場合、つるこって同じことをやりそうじゃないか。そういうのって、正義の味方としては、どうなのかなって」
「そのときは、じんたんにお任せします」と、めんま
「ああ、おまえがゆきあつと話しあえば、どうにかなるよ」と、ぽっぽ。
「じゃ、なくて。そのときに、つるこは止めなくちゃいけないんじゃないのか、とオレは思うんだよ」
 そんなオレの言葉に、めんまはふー、とため息をついた。
「わかってないなあ、じんたんは」
「なにが?」と得意げなめんまにちょっと腹が立ちながらもオレは言う。
「オレ、まちがったこと言ってる?」
「うん」とめんまはうなずく。
「じんたん。本当に大事な人にはね、言えないことだってあるんだよ」
「どういうことだよ」
 そんなオレの言葉に、クスクスとめんまは笑う。それは、いつものめんまよりもちょっとおとなびていた。
「くわしいことは、ヒミツ」
 
「ゆきあつ。ロケモンの隠しキャラのことだけどさー」
「はぁ? 僕がロケモンのことを知ってると思ったのかよ、ぽっぽ」
「知らないのかよ。おれ、ゆきあつなら、何でも知ってると思ってたけどさー」
 クラスで、ぽっぽとゆきあつがそんなふうに会話しているのを、ほかのみんなは不思議そうな目で見ていた。文武両道のクラス委員長とケツ出し野郎が、親しげに会話している光景は、一ヶ月前にはとても信じられなかったものに違いない。
 もちろん、ぽっぽはそういうクラスの視線を意識しているわけではない。ぽっぽは本気で、ロケモンというゲームの隠しキャラのことが知りたかったのだ。ゆきあつを仲間にしようとした理由の一つは、まちがいなくそれだ。ぽっぽはそんなヤツなのだ。
「じんたん。ゆきあつにもわからないって」
「だよなあ」
 実はオレもちょっと期待していたので、それにはガッカリだった。
 秘密基地に集まったといっても、戦うべき悪がいるわけでもなく、ただ、オレたちはマンガを持ち込んだり、携帯ゲームをプレイしたりしていただけだ。まあ、それはそれで楽しいことではあったんだけれど。
「あ、あの」
 そのとき、女子の声がした。この声は、とふりむくと、そこには、かつての幼なじみがいた。
「ロケモンのことなら、あたし、知ってるんだけど」
「あ、安城?」
 ぽっぽは、その子の名字を疑問形でつぶやいた。
 そう、このクラスになってから、オレは母親同士が仲のいい安城鳴子と、ほとんど会話したことがなかった。だから、ぽっぽからすれば、完全に赤の他人にすぎなかったのだ。
「あたし、金も銀も持ってるよ。うん、全部のキャラの出し方だって」
 口早に安城はつぶやく。オレのほうも見ないまま。
 ぽっぽはそれにおどろく、というよりも、不審そうな顔をしている。当然のことだろう。ぽっぽとオレは友達で、それは友達同士の重要な会話であって、よそ者が入るには、それなりのルールが必要なのだ。
 でも、この状況はオレにはいたたまれないわけで、だから、助け舟を出す。
「そういや、安城って、くわしかったよな。ゲームに」
「うん」
「あれ? この子とじんたんって、知り合いなの?」
「幼なじみなの」と、安城は言った。
「そう、幼なじみでさ。よくゲームしたり、マンガを見せてもらったりしたんだよ」
「マンガ?」
 やばい、想像以上に、ぽっぽがくらいついてきた。
「じゃあ、ボーボボって知ってる?」
「全巻持ってる」
「たけしとかは?」
「全巻持ってる」
「おい!」と、ぽっぽはオレの肩をたたく。
「こんなすばらしい幼なじみがいたことを、なんで、じんたんは教えてくれなかったんだよ」
「いや、まあ」
「それで、知りたくないの? 隠しキャラのこと」
「もちろん!」
 
 その日の秘密基地で、ぽっぽは安城鳴子のことを宣伝した。
「じんたんの幼なじみでさ。ゲームとかマンガとかいっぱい持ってるみたいなんだよ」
安城さんが?」とつるこは首をかしげる
 安城鳴子というクラスメイトは地味な子だった。クセッ毛が強くて、太い黒縁のメガネをかけていて、だから、クラスでも目立ったことはなかった。
「すごい、すごーい」と、一方のめんまは楽観的なものだ。
「おれはさ、その子を仲間に加えてもいいと思うんだ。なあ、じんたん?」
 オレは不安だった。だって、安城鳴子とは、幼稚園のときにいろいろあって、結局仲良くなれないってあきらめたじゃないか。ふたたび、それを仲間にするなんて、おかしいんじゃないのか。
「僕は反対したいけどね」とゆきあつは言う。つるこのほうに、顔を向けながら。
 いや、ゆきあつとつることの関係と、オレたちの関係はまるでちがう、と思ったけれど、あのときとは違うことがあった。
 ここには、めんまもいるし、つるこもいる。女子の相手は女子にさせればいい。オレが気をやむことはないはずだ。
「そうだな。オレは安城を入れてもいいと思う」
「じゃあ、あだ名を決めないとな」と、気の早いぽっぽ。
「じんたんはさ、幼なじみだったんだろ。なんて呼んでたんだ?」
 オレはちょっと恥ずかしかったけど、当時の呼び方を口にした。
「あなる。そう呼べばいいんじゃないか」
 こうして、あなるもオレたちの仲間になった。
 
 オレたち六人は、やがて、「超平和バスターズ」なんて、勢いだけでつけた名称をつけて、秘密基地で活動をするようになる。
 活動といっても、ゲームしたりマンガしたり、あと、ちょっとした冒険をしたりするぐらいだけれど。
 それは、オレにとっては心地いいものだった。何しろ、オレはリーダーだ。クラスでは委員長であるゆきあつも、秘密基地ではオレにさからえないわけだ。といっても、リーダーらしいことなんて、特にすることはなかったけど。
 とにかく、みんなは楽しんでいたと思う。
 でも、それはやがて終わりをむかえる。友情を壊してまでも伝えたかった想いがある子と、そんなものよりも今の自分を楽しみたかった子と、誰かのために生きたいと願っていた子との間で、ちょっとしたいさかいがあって、そして……。
 きっと、これは思い出として片付けなければならないことかもしれないけれど、オレにはそれができない。オレは思う。もう一度、あの日をやり直せたのならば、オレはどんなふうに言っただろう。めんまとオレ、そしてほかのみんなとはどんなふうになったんだろうか、と。 
 
   【終わり】
 



 
【追記】

 「宿海仁太」を「宿見仁太」と間違えていた(訂正済)ぐらい下準備もせずに書き始めた、この「あの花」二次創作。
 日曜に構想をはじめて、月・火・水で書き上げました。執筆時間は、三日間で合計10時間足らず。これでは、キャラの心情を意識した内容など書けるはずがありません。
 特に、この後編では、小学生らしさが微塵も消え失せてしまっています。僕の力量不足もありますが、とりあえず完成形を作ることを優先した結果がこれです。
 じんたん一人称形式で書くよりも、「あふたー・ざ・けいおん」のときのように、あらすじ形式でまとめたほうが、まだマシだったのかもしれません。ただ、意外と一人称というのは、その視点を通じて、多くの情報を盛り込むこともできる利点もあるわけですよ。
 まあ、ブログで他人に見せるような完成度ではありませんね。できれば、こういうのは人に見せずに、完成形のみを掲載するような、立派な大人になりたいと僕は思っております。