【俺の妹】八巻は佳作、でもシリーズは終わったコンテンツ
- 作者: 伏見つかさ,かんざきひろ
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/05/10
- メディア: 文庫
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「俺の妹」8巻は、シリーズ中もっとも佳作であった。
特に、これまでは直接書かれていなかった、黒猫と桐乃の、高坂京介に対する思いを吐露する場面は、まさに総決算と呼ぶのにふさわしい。
そして、その読後感も、シリーズでもっとも満足できたものだった。
読者としては、これ以上の展開は求めないほうが良いのではないかと考える。
高坂兄妹を中心にした本編は、この8巻で完結するべきだろう。
もし、続刊があったとしても、もう高坂兄妹を表紙絵に使うべきではない。
残念なのは、メインヒロインである桐乃が、ファンの目には、黒猫の引き立て役にすぎなかった点である。
高坂桐乃が、このシリーズで果たした役割はもっとも大きく、物語の主体者であるはずなのに、ファン人気は黒猫が圧倒的に高い。
その理由は、桐乃のキャラ設定にあるのではなく、彼女を魅力的に描くエピソードが足りなかったからではないか。
この8巻では、桐乃は人気読者モデルでなくとも、陸上部エースでなくとも通用するのだが、このように大胆すぎる「桐乃のキャラ設定」にこだわらない展開をするべきであった。
だから、7巻で子供時代の桐乃を出すべきではなかったかと思うのだ。
異常なブラコンになってしまった現状から一歩ひいて、普通の兄妹であった時期を描くべきだったのだ。
そうして、読者の桐乃に対する思い入れを強めさせてから、この8巻のようなエピソードを描けばよかったはずである。
そうすれば、桐乃は黒猫の引き立て役という地位に甘んじることはなく、読者はよりカタルシスを得ることができただろう。
8巻は佳作だが、それがゆえに、これ以上の展開を望めなくなった。
コンテンツとしての「俺の妹」シリーズは、この8巻で寿命を迎えるだろう。
各キャラを主役にした単発エピソードは描くことはできても、表紙絵で示された高坂兄妹の人間関係に変化をきたすことはできないはずだ。
これを建設的にとらえて、作者は新たなシリーズに足を踏み入れてもらいたいものだが。