登戸ブルース(17) ―新宿駅をめぐる冒険

 
 世界一の乗降客数をほこる新宿駅は、その規模もとんでもなく大きい。中途半端な情報で待ち合わせしていたら、永遠にその二人は会うことはできないだろう、と思うほどである。
 
 ただ、一人で歩いて、迷子になることは少ないと思う。案内標識はうんざりするほど用意されているから、目的地に着くことは誰にでもできる。どこを通っているのかはわからなくても、気づけば、そこに達することができるのだ。
 
 さて、それまでの僕の新宿とは、歌舞伎町方面が中心だった。だから、JR新宿駅東口から出た街が、僕にとっての新宿である。
 
 ところが、先輩宅の登戸から新宿までは、小田急線に乗ることになり、小田急線のもよりの出口はJR新宿駅西口である。だから、先輩にとっての新宿は西口から見た街である。
 
 この両者は、同じ「新宿」という名称でも、まったく異なる別の街だといっていい。東口から降りた人が都庁と出会う可能性は皆無だし、西口から降りてスタジオアルタに着くのはちょっと面倒である。
 
 先輩は新宿の魅力を「清濁あわせもつ」ところだと言っていた。ホームレスの老人に、若いホストが「おはようございますっ!」と声をかけるような陽気なところがあれば、黙々とスーツを着込んだ人が足を運ぶところでもある。ある者は南口から東急ハンズに行き、ある者は東口からドンキホーテに向かう。それが一つのエリアにまとまっているのが、新宿のすごいところである。
 
 ということで、今日は「タウンワーク」という月曜発行の求人誌をもとめて、新宿駅にやってきた。これは、駅やコンビニに置いている無料誌だが、一日後にはそのほとんどがなくなってしまうという人気求人誌である。
 
 僕の住む登戸駅小田急線とJR南武線が交叉しているが、登戸エリアのタウンワークは「町田・相模原版」であって、新宿寄りの小田急沿線や、JR南武線沿線の求人が掲載されておらず、不満だった。しかし、新宿駅に行けば、それが全て揃えて置いてある場所があるのだという。
 
 ということで「西口地下」という情報だけを頼りに行ってきたのだが、これが完全な失敗に終わった。西口を知らない僕にとって、その地下街は未知の領域である。自分がどこにいるのかわからず、たまらず外に出てみる。西口のヨドバシぐらいは知っているから、それを基準に自分の居場所を確認することはできる。しかし、それでは「タウンワーク」置き場を見つけることはできはしない。
 
 まあ、どうせ、明日も面接に来るからいいや、と、新宿駅をめぐる冒険を一時間足らずでやめて帰宅した僕である。