登戸ブルース(12) ―だし取り昆布と禁煙

 
 世の中の誰もが依存というものを抱えている。
 ある人はキレイにしなければ気がすまない潔癖性であったり、安く買うためには労力を惜しまない倹約家であったり、酒を手放せなかったり、タバコを吸ったりするものである。
 それは、時として、常識外れに映るかもしれないし、合理的とは思えなかったりする。ただ、精神の均衡を保つために必要なものなのだ。
 
 さて、僕はタバコ吸いである。先日までは節煙していたが、ブンガクな集まりの酒の席で、うっかりタバコを手にして、常習化してしまった。
 もともと、僕はタバコが吸わないとまともな文章が書けないと思いこんでいる男である。吸う量は、休日だと一日三箱近く。とにかく、自制がきかない性格なのだ。その自己管理能力の無さを、タバコに依存することでまぎらわせているのである。
 
 しかし、先輩宅は禁煙である。なので、時々、外に出てタバコを吸っている。このおかげで、ずいぶんと節煙できたものだが、だんだん生活になれてくると、ついついタバコが状態化してしまう。
 
 そんな危機を感じながら、先輩とディスカウントショップに行ったとき、彼がだし取り昆布を手にして、こんなことを言っていた。
 
「そうそう、俺、だし取り昆布を買って、パソコンするときに、これを噛んでるんだよね。やってみる?」
 
 むむ、と僕はうなる。好物ではないが、おしゃぶり昆布を噛むことは、よくあることだった。前の職場も禁煙だったので、ガムや昆布を噛んでいたものである。
 しかし、自制のきかない僕では、おしゃぶり昆布なんて、あっという間になくなってしまう。タバコを買うよりも金銭的に損をしているぐらいの勢いで噛みまくるからだ。
 
 その点、だし取り昆布は、味付きだから、飽きるまで噛むことができる。一緒に水を飲めば、おいしさ倍増である。コストパフォーマンスも、おしゃぶり昆布よりも優れている。
 
 俺の未来はこれだ! と、さっそく、300円のだし取り昆布大袋を購入した。これで、俺もいよいよ、タバコ依存症から逃れられる、と思いながら。
 
 しかし、実際にやってみると、自制心のない僕は、どんどん昆布を噛んでしまう。いくら水を飲んでお腹が満たされたところで、何かをくわえないと気がすまない精神が落ち着くことはないのだ。
 しまいには噛みすぎて気分が悪くなってしまい、たまらず外に出てタバコを吸う。うーん、やはり、タバコはうまい。
 
 そんな僕に、先輩からこんな忠告が。
 
「だし取り昆布、食べ過ぎると、塩分のとりすぎになるから注意してね」
 
 そうなのだ。タバコがわりの昆布にはリスクが少なくないのだ。塩分過多は生活習慣病への最短ルートである。
 
 こうして、わずか二日で、だし取り昆布を噛み終えてしまった僕には、大量の塩分摂取という成果が残った。当然のことながら、タバコはまだやめられそうにない。
 
 タバコは吸う場所が限られてるし、税金で値上げする一方だし、健康に悪いし、良いことは何一つない。
 よし、働き出して、給料がたまったら、まっさきに話題の水蒸気パイポを買おうと意を決した僕であった。