ハチワンダイバーとルー・リード

 

ハチワンダイバー 1 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 1 (ヤングジャンプコミックス)

 
 今さらながら「ハチワンダイバー」を読んだ。
 将棋盤の81マスにすべてをかける青年の話である。
 
 みずからの生活を将棋に捧げたものの、プロとなることができなかった菅田は、しかし、アマチュアの中では最強クラスの強さを誇っていた。
 働き方を知らない彼は、「真剣師」として賭け将棋で路銀を得ている。プロになるためには抜けなければならない、年齢制限のある奨励会で、日々戦ってきた菅田にとって、賭け将棋の名人など、取るに足らないレベルだと思っていた。
 
 そんな菅田が出会った女性の真剣師、凄腕といわれる「アキバの受け師」に、菅田は挑む。
 しかし、勝てば10万円という賭け将棋で、菅田は圧倒的な強さを見せられ、その女性に敗れ去った。
 それは、将棋しか生きる術のない菅田の人生が否定されたことを意味した。
 彼は奨励会時代には見えなかった「将棋の深さ」を知る。
 将棋盤の81マスに潜りながら、彼は戦い続ける。
 
 と概要をまとめていたが、シリアスな内容ばかりではなく、福本伸行の「最強伝説黒沢(1) (ビッグコミックス) [ 福本伸行 ]」のように、ギャグとしか思えない描写がちらほらあって、笑いながら読める内容である。
 巨乳メイドの乳をもむために、己の存在をかけて挑む男たちの、愚かにして刹那的な挽歌、といったほうがわかりやすいかもしれない。
 
 「ハチワンダイバー」のように、一つのことにとことん潜りこむ物語が、僕は好きだ。
 「けいおん!」の中野梓に格別な思い入れを寄せるのも、僕が彼女のことをギター以外に取柄がない女の子ととらえているからだろう。
 
 僕がルー・リードを聴くのは、そういう傾向があるからだと思う。
 

Velvet Undergrond - What goes on (Live 1969)
 
 そんなルー・リードらしい曲をひとつ紹介。
 これは、彼がヴェルヴェット・アンダーグラウンドというバンドを結成していたときのライブ音源である。
 
 「What goes on」というこの曲は、コード進行がすべてといっていい曲だ。
 

  D  C G D  
  D  C G D  
  A G D
  A G D

 
 基本となる進行はこれだけ。
 これを、9分間、ひたすらくり返す。
 
 3分以降は後奏である。
 6分間、このコードを弾き続けているのだ。
 新たなメッセージは何一つなく、劇的な展開も、メロディアスさもない。
 曲が終わったときに、拍手すら起こらないのが面白いところだ。
 
 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは、活動していた60年代に、まったく売れなかったバンドである。
 後に、ルー・リードのソロが脚光を浴びるとともに再評価されるようになったため、そのライブ音源が陽の目を浴びるようになった。
 しかし、そのライブ音源には、観客の話し声は聞こえても、歓声はない。
 
 多くの人は、この曲を最後まで聴くことはできないだろう。
 むしろ、疑問を抱くはずである。
 なぜ、6分も単調な後奏をひたすら続けるのか。
 それが終わっても、誰も拍手する人がいないというのに。
 
 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのチャート最高位は171位。
 60年代を代表するバンドとして、現在でも語り継がれるミュージシャンの中で、もっとも売れなかったバンドといっていい。
 
 そんな彼らのデビューアルバムは、ローリング・ストーン誌の「偉大なるアルバム500選」の中で、13位になっている。
The RS 500 Greatest Albums of All Time
 
 ビートルズの「アビー・ロード」よりも、ニルヴァーナの「ネバーマインド」よりも、ブルース・スプリングスティーンの「明日なき暴走」よりも、マイケル・ジャクソンの「スリラー」よりも、チャート最高位171位のアルバムが上にランクされているのである。
 
 ある者は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを十年早すぎたバンドだという。
 しかし、十年後に出たところで、よほどのプロデューサーが関わらなければ、ヒットしていたとは思えない。
 彼らの音楽は一度聴いて感動できるものではないからだ。
 たいていの人は面食らうだろう。
 「What goes on」の6分の後奏に、誰も拍手しなかったのと同じように、それは聴きやすい音楽から遠く離れたものだからだ。
 
 だが、彼らは観客を白けさせたくて、6分間も同じコード進行の後奏を続けたわけではない。
 その演奏を聴けばわかるように、一弾き一弾きに身をけずりながら、6分間、演奏しているのだ。
 なぜ、そんなことをするのか?
 それが気になった人には、ルー・リードの魅力がわかる可能性がある。
 
 僕はこの6分間の後奏に「終わりたくない」「終わらせたくない」という欲望が感じられて好きである。
 「ハチワンダイバー」を読みながら、僕はそんな音楽を聴いていたのだ。
 まあ、劇中で出てくるミッシェル・ガン・エレファントを聴いたりもしたけどね。
 

Thee Michelle Gun Elephant - キャンディ・ハウス (PV 1996)
 
 

High Time

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