同人ファイターえすけい

 
 このSSは、以前に書いた「強さのヒエラルキーを構築する」という記事を実践したバトル(?)作品です。
 登場人物は8人、それぞれ強さのレベルを設定しています。LV0〜LV7です。
 最後に答えを載せていますので、それぞれの人物がどのレベルにいるか考えながら読んでみてください。
 
※ この作品中には実在する組織名等が出てきますが、誹謗・中傷を目的にしたものではありませんので、ご理解くださいね。
 



 
【同人ファイターえすけい】
 
 
女: い、イヤ!
 
ヲタク: フヒヒ、早くそのブツをよこしなさい!
 
女: そんなことをしたら、警察よぶわよ!
 
ヲタク: 呼んでみたらどうです? そうすれば、アナタが大事に抱えているその夏コミ戦利品の中身が警察に見られるでしょうな。
 
女: くっ…………。
 
ヲタク: 石恵先生の列にそんな痛い格好で並ぶ女性なんて珍しいですからな。おかげで、こうして特定できましたが。フヒヒ!
 
女: で、でも、これはお兄ちゃんに頼まれて……。
 
ヲタク: お兄ちゃん? なんですか、その言い訳は? 精神科の先生に診てもらいたいのですか? ワタシには、そんなアナタの妄想に付き合う余裕はありませんよ!
 
女: (……このままじゃ)
 
ヲタク: さあ、早くワタシによこしなさい! 夏コミ限定A3サイズ「MikanAL」を!
 
女: た、助けて! お兄ちゃん〜!!
 
謎の男: (…………!)
 
−−シュッ!!
 
ヲタク: ぐ、ぐぼっ! 誰ですか! このワタシに本を投げつけたヤカラは!
 
謎の男: 夏コミの戦利品を、かよわき女から奪おうとする者に、なのる名前などない!
 
ヲタク: まさか、アナタがお兄ちゃん? そ、そんな。実在していたとは……。
 
謎の男: そうだ。「お兄ちゃん」と呼ぶ声が、俺を目覚めさせたのだ。
 
ヲタク: しかし、このワタシを傷つけるとは許すまじき行為。倍にして返してあげます!
 
謎の男: ははは、その本の倍となると、120ページは必要となるぞ。そんな同人誌を、あんたは持っているのかい?
 
ヲタク: フヒ? よくみると、これは蛸壷屋の同人誌!
 
謎の男: そうだ。蛸壷屋の待望の新刊「万引きJK生」だ。
 
ヲタク: た、蛸壷屋といえば、原作を無視したストーリーをムダに取り入れてページ数を稼ぐことで知られる変態エロパロサークル! その愛好者がこんなところにいるとは、想定外ですぞ!
 
謎の男: なんだ、その言い方。あんた、蛸壷屋を侮辱するつもりかい?
 
ヲタク: 当然です! このフルカラー全盛のご時世に、ページ数があるだけの同人誌なんて、流行(はや)らないのですよ!
 
謎の男: 愚か者め! 原作への愛という名目の記号化に走り、同人誌の可能性を摘んでいるのは、貴様らのような連中だ。蛸壷屋の偉大さを知らしめるべく、この俺みずから、成敗してくれる!
 
ヲタク: あれ? あの女はどこに?
 
謎の男: むっ。言われてみれば!
 
女: (変な人たちが言い争いしている間に、早く帰らないと。もう少しで……)
 
謎の男: 待て! 妹よ!
 
女: い、いえ、あたしはあなたの妹ではありませんが……
 
謎の男: なんと! そなたは俺を呼んだのではないのか!
 
女: あたしは、お兄ちゃんを呼びましたけど、あなたのような人は……
 
謎の男: 何を言う! 「お兄ちゃん」とは、全男性の心を揺さぶる合言葉ではないか! その言葉には、血のつながりなんて、もはや関係ないはずだ!
 
謎の男2: おい、近所で何を騒いでるんだ、オタクども。
 
女: お兄ちゃん!
 
兄(謎の男2): まったく、無職童貞引きこもりのオレを外に出させるとは、世話が焼ける妹だぜ。
 
妹(女): お兄ちゃん、それよりも変な奴が二人いて。
 
謎の男: うぬ! まさか、本当にお兄ちゃんが実在したとは……。
 
ヲタク: (……これはまずい状況ですぞ。女一人相手のはずが、いつの間にか立場は劣勢。しかし……)
 
兄: それで、おまえたちは、何をやらかしたんだ?
 
謎の男: いや、俺は関係ない! むしろ、妹さんを助けようと……。
 
ヲタク: フヒヒ、バレてしまってはしょうがないですね。実はワタシたちはグルだったんです!
 
謎の男: おい! あんた、根も葉もないことをいって、この俺を貶(おとし)めるつもりか!
 
兄: なに言い争ってるんだよ。それより、妹よ、早く石恵先生の描いた美柑さんオンリー本「MikanAL」をオレに!
 
妹: うん。
 
ヲタク: (……今だ!)
 
−−シュッ!
 
兄: な……。おまえ、人の戦利品をかすめ取るつもりか!
 
ヲタク: 何をおっしゃる! 実の妹に美柑オンリー本を買わせるような変態が!
 
兄: ああ、確かにオレは変態だ。しかし、紳士でもある! きちんと変態紳士と呼んでいただきたい!
 
ヲタク: だったら、なぜ、妹に買わせる必要があるのです? ララ春菜、それに古手川をはじめとした、数多くの魅力あるヒロインが出演する「ToLOVEる」で、あえて、主人公の妹、美柑しか描かなかった変態本「MikanAL」を! シスコン&ロリコンの認定証としか言いようがない「MikanAL」を!
 
兄: それは、オレが石恵先生のファンだからだ! ご存じのとおり、石恵先生は商業誌でも連載をしている。オレはそれらの作品だってちゃんと読んでいる。今回、美柑さんオンリーとなったのは、仕事のせいで、石恵先生が貧乳少女を描けなかったせいだ! 商業作家として、貧乳成分に飢えていたからこそ、この「MikanAL」は作られたのだ!
 
ヲタク: そんなの、変態本を買うための口実ではないですか! アナタは、実の妹を美柑に見立てて欲情している犯罪予備軍なんです!
 
兄: はぁ? おまえ、美柑さんを侮辱する気か!
 
ヲタク: ぶ、侮辱?
 
兄: 我が妹を見よ! どこからどう見ても腐女子オーラ全開。なおかつ、美柑さんの倍以上の年齢だ。こんな妹のどこに、美柑さんとの共通点があるというのだ!
 
妹: ちょっとお兄ちゃん。あたし、まだ23才よ! 倍以上っていうのは……
 
兄: 似たようなものじゃないか。
 
妹: それだったら、お兄ちゃんだって、四捨五入したら30才のくせに!
 
兄: 違う! 二十代半ばだといってくれ! オレはまだやり直しができる年齢のはずだ。本気を出して、ハローワークに行きさえすれば、どこかの正社員になれるぐらいは……
 
ヲタク: かはっ(吐血)まさか、目の前で兄妹ゲンカを見せつけられるとは! 一人身のワタシにはキツすぎますぞ!
 
謎の男: (……あれ? コイツ、この程度でダメージ受けているのか?)
 
ヲタク: で、ですが、「MikanAL」を実の妹に買わせるような変態行為をするなんて、許されることじゃありません。ええ、このワタシが許しません!
 
兄: なにいってるんだよ。おまえのその論理、アグネスと一緒じゃないか?
 
ヲタク: なんということを! このワタシを、あの悪名高きユ偽フのアグネスと同一視するとは!
 
兄: だって、そうじゃないか。おまえは美柑さんとオレの妹とを混同している。そして、オレを性犯罪予備軍と断言する。誰にも迷惑をかけない二次を、三次と同じようにとらえて、性犯罪の温床とするアグネスのやり方と、どこが違うんだ?
 
ヲタク: い、言われてみれば……。
 
兄: おまえは所詮アグネスなんだよ!
 
ヲタク: ま、まさか、ワタシがアグネスと同類だったとは。ぐふっ!
 
謎の男: ……勝負あり、だな。
 
兄: それはそうと、おまえは何者なんだ?
 
謎の男: 面白いバトルを見せてもらって満足したギャラリーの一人だよ。あんた、なかなかの論客だな。
 
兄: ああ、2chでゆとりやニワカどもを日々罵倒しているからな。あの程度のオタクは軽く粉砕できるさ。
 
謎の男: そうか、ただ、言葉に頼りすぎる嫌いがあるな。
 
兄: (……言葉に? どういうことだ?)
 
謎の男: そうそう、すっかり任務を忘れていた。
 
兄: 任務?
 
謎の男: これを受け取ってくれ。
 
兄: …………! これは、蛸壷屋の同人誌!
 
謎の男: さすがだな。蛸壷屋を知っているとは。
 
兄: ということは、おまえは、かの「えすけい」か!
 
えすけい(謎の男): 俺の名をも知っているとは光栄だな。いかにも。俺がえすけいだ。
 
妹: どういうこと? 蛸壷屋とか、えすけいとか、あたしには全然わからないんだけど。
 
兄: 妹よ、これはおまえが知るべき世界ではない! 暗黒サークル「蛸壷屋」、そしてその熱心な布教者「えすけい」。そんなものは、おまえにとっては何の価値もない話だ。
 
妹: なにいってるのよ! お兄ちゃんなんて、部屋に閉じこもってばかりの自宅警備員のくせに! 今日だって、夏コミに自分から行かないで、あたしに限定本を買わせたニートオタクのくせに!
 
兄: 俺は情報戦に忙しかったんだ! 夏コミ実況スレを混乱させ、現地の愚かなオタクどもを釣る仕事に励んでいたんだ!
 
妹: じゃあ、そんな偉そうな顔してないで、蛸壷屋のことを、あたしに教えてよ。
 
えすけい: では、妹さんにも進呈しよう。こんな奴の言葉より、実物を読むほうが早いからな。
 
妹: そうね。そうそう、えすけいさん。すっかりかんちがいしてたけど、あたしのこと、助けてくれたんだよね。ありがとう。
 
えすけい: ああ、どういたしまして。
 
妹: だけど、あたし腐女子だし、三次の男の人には興味持てないっていうか……その……。
 
兄: 妹よ、23歳のおまえがリアルにデレたところで、見苦しいだけだぞ。
 
えすけい: ははは。我々も似たようなものじゃないか。では、二冊ということで、1200円いただこうか。
 
兄: 金とるのかよ!!
 
えすけい: もちろんだ。
 
  ※ ※ ※
 
母: まあまあ、お兄ちゃんが友達を連れてくるなんて、何年ぶりかしら。どうぞ、ゆっくりしていってね。コーヒーいれてくるから。
 
えすけい: 僕はブラックでお願いします。
 
兄: なにカッコつけてるんだよ、えすけい。それと、勝手に人の家に上がりこむな。
 
えすけい: いや、大事な話があるからな。
 
兄: だから、俺は蛸壷屋の同人誌は買わないって。
 
えすけい: その話はさておき、別の件だ。
 
兄: まさか、我が愚妹にホレたとか?
 
えすけい: そんなわけないだろ! それより、先ほどのバトルの話だが、この付近ではよく起こることなのか?
 
兄: いや、オレは聞いたことはないが。どうして、そんなことをきく?
 
えすけい: 俺にはどうしても、あのヲタクが単独で、妹さんの買った戦利品をねらったとは思えないんだ。
 
兄: どういうことだ?
 
えすけい: つまり、背後に組織がいるということだ。
 
兄: ちょ! おまえ、陰謀論とかすぐに信じるタイプか?
 
えすけい: なに勝ち誇った顔をしてるんだ。怪しいとは思わないのか。
 
兄: あいつに友達がいないだけだろうよ。まあ、オレだってリアルで友達なんて無きに等しいが……。
 
母: お兄ちゃん、また、お友達が来てるわよ!
 
兄: うるせぇよ、クソババァ! って、友達? まさか……
 
えすけい: 嫌な予感、的中だな。
 
 
同人ファイターえすけい(続き)