僕にとって読書とは「嵐のための隠れ場所」である。

 
十代で人生をダメにするための“読書” - シロクマの屑籠
 
 上記エントリの影響を読んでから、自分なりの読書の意味を考えたので、書き連ねてみよう。
 
 読書とは、本の作者と向き合う時間をすごすことである。
 一日で人間の書ける文章量には限界があるのと同様に、一日で理解できる文章量にも限界というものがある。
 あなたが文芸評論家であれば、一冊の本を手軽にまとめる手法を身につけなければならない。しかし、そうでない場合、一冊の本を書くために作者が費やしたものを理解するほうが、便利であるし、効率的である。
 
 自分の思考が硬直化していると感じていたら、本を手にするといいだろう。そして、その人と自分の信念の違いを考えながら読み進めると面白いはずだ。
 
 最近読んだ一冊が「若き将軍の朝鮮戦争 - 白善ヨップ回顧録」。この本を読めば、安易な「韓国批判」が何も生み出さないことを知ることができる。
 
 僕は反日感情を嫌悪する声を批判するつもりはない。
 例えば、1945年8月のソ連参戦により戦前の満州戦線は壊滅したのだが、そのときに所属していた日本軍を裏切ったと豪語する韓国軍人の声が、今でも韓国ではもてはやされている。
 我々は日本人である前に、人間である。そのような裏切り行為を賞賛する風潮を許すことはできない。それは、両国の歴史以前の問題であるといえるだろう。
 
 「若き将軍の朝鮮戦争 - 白善ヨップ回顧録」の著者の白将軍(ペク・スンヨップ)も、1945年8月に満州軍の一人として終戦をむかえた。
 白将軍は当時の所属隊長であった曾根原実少佐に半島経由で日本に帰国してもらうよう懇願した。しかし、曾根原少佐は家族や部下がいるのに忍びないと、白将軍の要請を拒んだ。曾根原少佐はやがてシベリアに送られ、10年近く捕囚の身にあったという。その後、白将軍は曾根原少佐と再会し、かつての上司の労をねぎらった。
 
 韓国人や日本人という区別よりも、人間として大事なことがある。
 朝鮮戦争で英雄となった白将軍は「戦争でもっとも重要なのは人事管理である」と語る。
 いくら武器が発達しようとも、人間の意志のない戦争はない。悲惨な戦場で、白将軍が部下たちのプライドをどのように受け入れ、処理してきたか。白将軍の回想録は、人間の尊厳というものについて深く考えさせられる。
 
 この本については、別エントリにまとめているので、詳しくはそちらを参考にしてほしい。
若き将軍の朝鮮戦争 ―日本人に敬愛される韓国軍人の回顧録 - esu-kei_text
 
 
 そのあとに続いて手にしたのが「韓国を強国に変えた男 朴正煕―その知られざる思想と生涯」。こちらは、伝記かと思っていたが、架空の人物が出てくる等、信用性が乏しい歴史小説であった。感情的な表現が多く、韓国人の反日感情がどのように熟成したかを学ぶための本とわりきったほうがいいだろう。
 
 この本では、白将軍は米国のひいきを受けた怜悧な人物として描かれている。白将軍が公平を期して行った「粛軍」や「ゲリラ討伐」が、残虐なものとして書かれているのだ。これらの印象表現から、白将軍が韓国で評価されない理由を知ることができる。
 
 「漢江の奇跡」を成し遂げた朴正煕だが、それが日韓基本条約ベトナム派兵によって獲得した外貨によってなされたのは明らかである。
 しかし、外貨だけで国を発展することはできない。自家用自動車がない貧しい韓国で、高速道路を建設しようとする朴大統領を、国民のほとんどは批判したが、朴大統領は十年先を見据えた経済開発を行っていた。
 そして、北朝鮮との「経済競争」を呼びかけることにより、国民に発展をうながしたのである。
 朴正煕は1985年まで大統領に居座ることを、周囲にもらしていたという。もし、彼が暗殺されていなければ、韓国人の反日感情はもう少し氷解していたかもしれない。
 朴正煕の開発独裁は民主的とはいえないが、その経済発展の功績は近代アジア有数の優れた政治家として認められてしかるべきだろう。
 
 
 このように、現在の「韓国批判」に流されないために、僕は二冊の本を読んだ。それを納得するまで読みこみ、関連する情報をインターネットで検索して調べることで、現在の日韓問題については冷静な目で見ることができる。
 
 現在の日本の若者の貧困は、在日朝鮮・韓国人が原因ではない。
 愛国心というものは、押しつけられるものでも試されるものでもなく、自分の生活を守ることに強い目的意識を持つことから生まれなければならない。
 そして、両国間の誤解を知るためには、日本が目を背けつづけた「朝鮮戦争」の実態を知る必要があるということを。
 
 読書の際には、できるだけ立場の異なる二冊をあわせて読むことにしている。今回の場合は、みずからの戦功を語る際に、わざわざ敵国の北朝鮮の戦史を引用する白将軍の周到さに感心した。それに比べ「韓国を強国に変えた男 朴正煕―その知られざる思想と生涯」は、著者の推測に支配された描写の数々に辟易した。
 ただ、それはどちらかを否定するわけではない。後者の本を読んでも参考になるところは多かった。特に、韓国の熟成した反日感情には、日本側がいかに正論を述べても通じないことを、読みながら思い知らされたものだ。
 
 7月5日に中国のウィグル自治区での暴動が起きた。彼らに、冷静になれ、と説得しても無駄だろう。嵐がきたときは、家にこもるしかない。そして、その家にこもっているときに、自分の知るべき分野を追求するために、読書を没頭するのが良い。そうすれば、自分という立場で訴えなければならないものが見えてくる。
 
 読書はあなたを変革したりはしない。ただ、あなたを熱狂の渦から引き離し、進むべき道を照らし出す効力はある。僕は嵐から逃れるように、ひっそりと読書を楽しんでいる。