「神戸線」を「JR神戸線」と呼ぶ理由


 東京に来て驚いたことの一つは、電車の路線に社名をつけないことだ。
 「京王井の頭線」「東急田園都市線」「JR山手線」は、それぞれ「井の頭線」「田園都市線」「山手線」で通じる。「京急本線」「京急空港線」は「京急線」「空港線」と略される。
 大阪圏では、このようなことは考えられない。阪急には「神戸線」「宝塚線」「京都線」とあるが、「神戸線」という愛称はJRも使っている。「京都線」にいたっては、JRだけでなく、近鉄でも使っている。だから「JR神戸線」「阪急神戸線」と社名をつけて呼ばなければならない。
 大阪(梅田)駅から、神戸の三宮駅までは、JR・阪急・阪神が競合している。三つの路線が並行して走っており、それぞれが交叉することはない。そして、同じ「○○駅」でも、関西では私鉄(JR以外)のほうが栄えている例が少なくない。
 例えば「野田阪神駅」という駅がある。JR西日本の「野田駅」と、阪神の「野田駅」は、500メートル離れている。阪神は野田に本社があるので、阪神野田駅は規模が大きい。そのため、大阪市営地下鉄は、阪神野田駅に隣接して作られている。しかし「野田駅」だと、阪神なのか国鉄(JRの前身)なのかわからなくなるため、つけた名前が「野田阪神駅」である。
 東京圏では、旧国鉄の駅が中心であり、JR西日本のように「JR○○駅」という名前がつくことは考えられない。そして、JRと私鉄は、競合ではなく、互いに補完する関係になっていることが少なくない。だから、乗継がわかりやすい。逆に、大阪圏では、他社乗換の標識はきわめて不親切である。
 2005年におきたJR福知山線脱線事故の原因として、JR西日本が私鉄との対抗意識のあまり安全性が置き去りにされたことが批判された。東京圏と違い、大阪圏ではJR(旧国鉄)は絶対的な存在ではないのだ。
 輸送力増強のために協力しあった東京圏と、互いに敵対関係にある大阪圏とは、JRと私鉄の関係が異なる。そのため、東京圏では社名をつけなくても路線が通じるが、大阪圏では社名をつけないと通じない。
 もちろん、利用者からすれば、便利なのは東京圏のほうである。首都ではない大阪圏は、国鉄に頼らず都市整備した歴史があるのだが、JRと私鉄が歩み寄って、客の奪い合いではなく、互いに補完する関係になってほしいと思う。