フリーADV「papillon」―「死にたい」と連呼する闘う少女の物語


 「最近の男は、国家と女にすがりつく」という、よくある論説を読みながら、「papillon」(パピヨン)というフリーゲームを思い出した。


タイトル:papillon α
種別:フリーソフト
ジャンル:ノベルアドベンチャー
入手先:http://www.geocities.jp/akimasanari/
一行説明:女子高生が変身して正体不明の敵と戦う孤立無援なADV


 最近の物語でよく見る「闘う少女」のストーリーだが、主人公の女子高生は、正義の味方ではなく、仲間もいない。女性らしい溌剌さはなく、「死にたい」とつぶやきながら、謎の生物「ASH」の出現を告げる電話を待つ。彼女が充実をえるのは、ASHとの生死をかけた戦いのみである。闘う少女は、孤独に、怠惰な毎日を過ごす。
 この作品でもっとも印象的なのは、ゲームオーバーのシーンである。戦いに敗れ、血に染まり、目を閉じる主人公の姿は、はかないほど美しい。

コミックメーカー版papillonより


 「GAME OVER」と表示するだけで良いのに、長々と続くテキスト。だが、それだからこそ、主人公の死に思い入れを寄せることができるのだ。僕はコミックメーカー版「papillon」の、最後の二行が好きだった。リメイクにともない、それが削除されたのは、ちょっと残念である。
 作者サイトをご覧になればわかるように、この作品には二種類ある。コミックメーカー版「papillon」と、LiveMaker版の「pappillon α」。両者は大まかな筋書きは同じだが、シナリオやシステムに細かな差異がある。

コミックメーカー版「papillon」


テキストはウィンドウに表示される。メッセージスキップ機能などがなく、ユーザフレンドリーなシステムとは言いがたい。
また、Windows Vistaではプレイできない。

LiveMaker版の「pappillon α」


テキストは全画面表示。メッセージスキップ、自動メッセージ送りなどの機能が充実。
戦闘では「見切り」システムを追加している。技のヴィジュアルが凝っているため、ある程度のスペックがないPCでは、戦闘中にフリーズするかもしれない。


 個人的には、リメイク前の「コミックメーカー版」のほうが好きである。僕はこの作品に「悪との戦いのみに生の充実を見出す女子高生の救いのない物語」という印象を抱いているので、エンディングへの方向性を明確化した「LiveMaker版」は、救いがあるが、独自性が薄れたと感じている。
(くわしくは後述する)
 いずれもバージョンの「pappillon」も、ゲームデザインは、ノベルパートと戦闘パートにわけられる。

 戦闘パートはRPG式画面だが、あまり今作にRPG要素はない。バトルは一話につき一回である場合がほとんどで、バトル後のステータス振り分けにより戦術が決定する。

 自由度が高いと思われるかもしれないが、強力な「技」は、特定のステータスが一定数に達しないと取得できない。この「技」がないと、先に進むのは難しい。「技取得表」は作者サイトに掲載されているので、どうしても先に進めない人は見るといいだろう。

 あまり選択の幅は広くないバトルだが「防御でひたすら耐えて、強力な必殺技で一撃粉砕」というゲームデザインは好きである。「Cresteaju」のカオスワードを唱えつづけるルナンを想起させる。
 ストーリーは第6話から核心にせまるのだが、僕は「死にたい」と連呼する主人公が好きなので、第4話あたりで戦闘に敗れるストーリーのほうが「papillon」という物語にふさわしいのではないかと思う。少なからずのゲームをプレイしたが、ゲームオーバーのシーンがもっとも好きなのは、この「papillon」ぐらいである。
 巷では「闘う少女」が活躍するストーリーがあふれている。強い女性に導かれたいという気持ちのあらわれだろうか。女性に手をひかれて、虹の向こうに行くのが男の願望なのだろうか。そんな世界の中で、きわめてネガティブな女子高生が主人公の本作は、他の物語にはない雰囲気が味わえる魅力がある。



http://www.geocities.jp/akimasanari/
 本作「papillon」以外にも良作が多い「クレナイブック
 おすすめ作品は「PULSE」(シェアウェア・成人男性向けADV)。「PULSE」の特徴は、女性キャラでもっとも序列が高い、つまりメインヒロインである「虹橋黒」がなかなか出ないことである。血のつながる姉に堂々と告白してふられたり、M男×Mっ子の不器用な恋など、この作者ならではの感性が、それぞれの女の子とのラブストーリーにある。
 「倉庫」にあるWeb漫画「ペンギンのクロスケ」は、かつての「クレナイブック」の看板コンテンツ。一読の価値あり。


【関連記事】

<以下、ゲームをクリアした人以外は読まないほうが良い情報が含まれています>

【LiveMaker版のリメイクの不満点】

  1. 「見切り」に失敗すると、第一話から死ぬ。第一話では、主人公の虚無感がプレイヤーに伝わっていないため、屈指の出来であるゲームオーバーシーンの第一印象の価値がうすれてしまう。コミックメーカー版では、第3話あたりで最初に見たため、僕の中で「Papillon=最高のゲームオーバーシーンのあるゲーム」という、独自性が確立されたのだが。
  2. 「見切りシステム」が体感的にわかりにくい。いつからいつまで待てばいいのか、なかなかつかめない。敵が光るなどのアクションがあれば良かった。
  3. 前述したが、ゲームオーバーシーンの最後の二行が削除されたのが、とても残念である。コミックメーカー版ではスキップもできないため、何度も何度も主人公の死にゆく姿を見ることになるのだが、それが良かったと思うのは僕だけか。LiveMaker版の場合、見切りが成功するかどうかで、何度も死をむかえてしまい、何だか、主人公の死が軽んじられてしまった感じがする。
  4. 第5話で死んだときも、ゲームオーバーシーンが流れるとはどういうことか。それまで長々と死の描写が語られていたのに、いきなり「END」と表示されるのは、不親切ではあったが、インパクトはあった。

 それほど本筋が変わらない「LiveMaker版」なのだが、「コミックメーカー版」をプレイしたときに感じた「これは!」という要素が薄められている印象を受けた。ユーザーフレンドリというのも、良いことばかりではないのだ。