既存のキャラクタに頼らず発展した「フリーゲーム」というメディア

 自分の構想を物語化する手段は、多くの選択肢がある。小説、ラジオドラマ、Flashアニメ、動画などなど。
 しかし、動画に関していえば、日本でもっとも集客力があるニコニコ動画では、個人チャンネルという概念がない。関連商品の売上を主軸に置いたサイトデザインである。つまり、作者よりネタが重視されるメディアであるということだ。ニコニコ動画は文化の発信地ではなく、文化の再生工場といえるだろう。
 自分の技術や感性を試したければ、ニコニコ動画の流行を見きわめ、それに即したパロディ作品を作れば良い。ニコニコ動画のランキングは、旬のパロディ作品が上位のほとんどを占める。ただし、二次創作は、原作に忠実でなければならぬという制約がある。また、著作権保有者の気分次第で、作品を削除される危険性がある。
 決して、アマチュア作品=パロディではない。既存のキャラクタに頼らないオリジナル作品が主流のメディアもある。そのひとつがゲームである。アマチュアゲームといえば、アダルト要素+二次創作を連想する人も少なくないと思うが、フリーソフトとして公開されているもののほとんどは、その二つの要素を含まない。


 フリーソフトで公開しているゲーム、略して「フリーゲーム」の作者には魅力的な人物が多い。
 例えば、100作以上のゲームを公開しているアンディーメンテは、Youtube以前から自作曲のオリジナルPVを発表していた。


Youtube ―REI'S MEDICINE (Andy Mente)


 「Seraphic Blue」の作者、天ぷら氏は50時間をこえる大作RPGを、フリーソフトとして公開している。独特の価値観で構築されたその架空世界は、一般常識では相容れない作者の倫理観を表現するために用意されたかのようだ。


↑「壮大」ではなく「重厚」と表現するのがふさわしい、天ぷら氏の「Seraphic Blue」


 個人レベルの制作であるため、フリーソフトシェアウェアで公開されているアマチュアゲームの完成度は、市販ゲームに比べて大きく劣る。しかし、その分、面白さがより伝わりやすい。正六角形よりも、鋭角二等辺三角形のほうが、僕は楽しいと思う。
 「いかに見せるか」というエンターテイメント要素を求めるならば、ニコニコ動画を見ればいい。フリーゲームは作者のクリエイター魂の熱さにふれることが魅力のメディアである。


 このようなアマチュアゲーム作品の発展にともなって、作成ツールも発展してきた。
 RPGでは「RPGツクール」という市販ソフトが有名だ。名前はふざけているが「2000」以降は、作家のゲームデザインを反映できる機能が確立されている。オリジナリティあふれる2DRPGを制作できるようになったのだ。なお、フリーソフトでは「シルフェイド見聞録」の作者による「WOLF RPGエディター」などがある。
 ノベルアドベンチャーになると、フリーソフトで市販レベルの作成ツールがある。「吉里吉里2/KAG3」「NScripter」が有名だ。しかし、両者はいずれもテキストエディタでソースを書く必要がある。マウスを使って視覚的にゲームを作りたい人は「LiveMaker」を使えばいいだろう。

 その他、音楽やグラフィックは素材として公開されているものが多く、作成支援サイトも多い。アイディアと忍耐力さえあれば、アマチュアゲームを作成することは決して難しいものではない。みずからの構想を物語化するうえで、ゲームという選択肢は敷居が高いものではないのだ。

 もちろん、ゲームは小説を書くより手間がかかる。小説ならば、小説家になる可能性と直結しているが、良いフリーゲームを作ることが就職につながる可能性は低い。「月姫」や「ひぐらしのなく頃に」などのように、同人ゲームからメディアミックスに成功した例があるが、そのハードルはきわめて高い。それでも、数多くの優れた作品が、フリーソフトシェアウェアとして公開されている。

 アマチュア作品はパロディばかりではない。オリジナリティあふれるフリーゲームという分野が、サブカルチャーの中で果たしている功績は、決して軽んじられるものではない。

【関連記事】


【参考リンク】