会社の品格―新入社員は上司で社会を判断する(評価:B)

会社の品格 (幻冬舎新書)

会社の品格 (幻冬舎新書)

まるでセミナーを受けている錯覚に陥るこの本は、つまるところ「上司が悪ければ会社がダメになる」ということだ。僕が属する就職氷河期世代(25〜35歳)にとって、正社員であることは多大な重圧としてのしかかっている。派遣社員やバイトに「この程度か」と思われないために、ついつい仕事を抱えこんでしまう。しかし、そんな疲労に満ちた姿を見て、新入社員はどんな感想を抱くだろう?
本書の著者が「若者はポストやお金に興味がない」と断定するのは正しい。二十代の人間にとって、未来よりも現在の生きる充実を求めるのは当然のことである。かつて、男の生きる充実は仕事に見出すのが当然のことであった。ところが、企業が採用を渋るようになり、多くの未就職者を生み、生活は多様化する。そして、会社の基盤となるべき、25〜35歳の正社員が明らかに不足した状態に陥った。残業をしなければどうにもならないぐらい仕事は蓄積され、新入社員に任せられるように体系化する余裕がなくなっている。
そんな上の世代を今の若者たちはどんなふうに見ているだろうか。正社員になれなかった者たちがネットコミュニティで打ち立てた、多種多彩な「サブカルチャー」のほうが、はるかに魅力的に映っているのではなかろうか。
職場を決める理由は、職種や給料に拠るところが大きいだろう。しかし、職場を辞める理由は、人間であることがもっとも多いと思う。会社がどのような理念を打ち出しても、社員がまず知るのは上司の人間性である。上司がいかに「人を使う」技術を身につけているか。確かに、組織の中では個人の才能の有無は大して価値はない。だが、組織に属してなければ得られないものは多い。人間関係もそうだし、個人では決して経験することのできない多くを知ることができる。
趣味として、ネットコミュニティを活用するのは良いことだと思うが、組織に属することのメリットも、上司は新入社員に知らしめなければならない。また、上の立場だからこそ求められる責任問題や管理の徹底。直接、仕事に携わらないからこその視点で、それぞれの部下の仕事をチェックするための技法。ともあれ、「すごい」と思われないと新入社員は仕事に生きる充実を見出さないだろうし、そうなった彼を雇い続けることは、会社の損失にもなりうる。
社会人となって、初めての上司で、新入社員は社会が何たるかを判断する。かつては「我慢すれば」だったが、今では「我慢しても」の時代である。退職金や年金を信じて、数十年を会社に身を捧げることは当たり前ではないことを、若者の危機感は察知している。だからこそ、一人でも多く、会社を愛する人材を育てなければならないだろう。明快さと持続力。本書を読みながら、働くうえで他人の模範にされる概念について、いろいろ考えた。