らき☆すたベストを作ってみた(その1)

神前暁の無駄遣い、平野綾オタク化計画、白石稔の売名行為……。いろいろ形容すべき言葉はあるだろうが、ともあれ、4コマ漫画作品「らき☆すた」に、製作スタッフは膨大な楽曲を注ぎ込んだ。
そのほとんどの歌詞は畑亜貴先生が担当。「もってけ!セーラー服」から「悠長戦隊ダラレンジャー」、「幸せ願う彼方から」に至るまで、その仕事っぷりには、坂本竜馬を呼び捨てにした陸奥宗光ですら「先生」と呼んでしまうであろうと推測する。その歌詞は多くはオタク文化を強調しており、とても他人と一緒に聴けたものではないが、よく聴くと、メロディラインは秀逸な楽曲がもりだくさん。なかなか、あなどれないのである。
つい、最近、らき☆すたのことを知ったばかりの僕には「もってけ!セーラー服」だけでお腹がいっぱいだったのだが、ニコニコ動画ユーザーが映像をつけた「組曲らき☆すた動画』」を鑑賞してから、キャラソングを網羅したいという欲求を抑えきれなくなった。

ニコニコ動画(RC2)‐組曲「らき☆すた動画」MAD 完成板
組曲らき☆すた動画』とは、らき☆すたの音楽担当である神前暁が、それらの楽曲をメドレー形式でまとめたもの。多くのキャラソングが使われており「らき☆すた」の世界観を知るうえで、格好の入門編となっている。
そんなこんなで「らき☆すた」ベストを作ってみた。「らき☆すた」を知って日が浅い、僕の選曲なんて、ファンの人からすれば「キャラへの思い入れが足りない!」と説教されてしまいそうだが、それはそれ、上から目線で、僕の文章を楽しんでいただきたいと思う。


【試聴用BGM】らき☆すた キャラソン集【Vol.01〜Vol.12】
(かなり良い編集。オススメである)

1.もってけ!セーラー服

TVアニメ「らき☆すた」OP主題歌 もってけ!セーラーふく
作詞:畑亜貴 作曲・編曲:神前暁
歌:泉こなた平野綾),柊かがみ加藤英美里),柊つかさ福原香織),高良みゆき遠藤綾
1曲目はこれしかない。ボーカル無し版でも十分楽しめるが、やはり、アニメ声でのラップも、この曲のインパクトの一つだろう。
レッチリのフリーが弾く姿が目に浮かぶファンキーなベースライン。サビの部分のコードは、フーのピート・タウンゼントの堂々たる風車弾きを想起させる。いろんなジャンルの音楽が注ぎこまれた、まさにミクスチャーミュージックである。
最初に見た者は鳥肌が立ったものだろう。わずか90秒という制限時間の中で、あらゆる可能性がそそぎこまれた会心作だが、神前暁のアレンジはフルコーラスで聴くと、さらに魅力が増す。
外国のオタクたちはこの曲を聴いてどう思っただろう? 「これが日本のMOEアニメだ!」という制作陣の誇らしさすら感じられる名曲である。

Red Hot Chili Peppers - By The Way
(ミクスチャー・ミュージックの有名曲)

2.最大聖地カーニバル【Vol.008 パトリシア・マーティン

らき☆すた キャラクターソング 8
作詞:畑亜貴  作曲・編曲:神前暁
歌:パトリシア・マーティンささきのぞみ
らき☆すた」はキャラソングシングルを12枚もリリースするという常軌を逸した行為に出たのだが(ハルヒでさえ9枚)、作曲者は多岐にわたる。神前暁は「Vol.010 胸ぺったんガールズ」の2曲、劇中歌をもとにした「Vol.011 かなたとそうじろう」の「幸せ願う彼方から」以外は担当するはずがなかったはずだ。
だから、キャラソン第8弾パティ編の2曲目にひっそりと神前暁曲が収録されているのは、いろんな事情があったためと推測する。シングルのカップリングだけの依頼、というのは、神前暁の実績からすれば、ありえない。
つまり、これは間に合わせで作られた曲であるはずなのである。
しかし、この曲の完成度の高さはいったいどういうことだろう。サンバのリズムに合わせて、オタク留学生パティが「アキハバラ」の素晴らしさを高らかに歌い上げる。サビの部分の歌詞は秀逸。
「アキバ キラキラキラキラ DREAM
Let's Dancin' PAW PAW LUCKYHABARA」
宮沢和史ファンの人には本当に失礼な話だが、この曲はTHE BOOMの名曲「風になりたい」を思い出させる。

風になりたい/THE BOOM -YouTube
「風になりたい」のPVは、銀座の歩行者天国THE BOOM一行が練り歩くところを撮影しているが、同じく秋葉原歩行者天国を舞台にこの曲をパティが歩きながら紹介している映像が目に浮かぶ。
もし、秋葉原に初めて来たときに、この曲が鳴り響いたら、たぶん泣けると思う。最後の「ララララ〜」のところなんて、涙ぐみながら振り付けをやってもいいぐらいである。この曲にあわせて、毎週日曜5時からパレードでもやってもらいたい。秋葉原の中央通りなんて、銀座に比べたら、たいして人が多いわけないし、最近は企業がからんだ露骨なアピールが目立って、路上ライブも気軽に楽しめたものでないんだから。
そんな想像抱かせるほどの曲が、たかがキャラソングのカップリングに収められているのである。これはもうおかしい。菅野ようこにパクリ疑惑が発生したように、神前暁にもパクリ疑惑が起こってほしい。もちろん、氏の作曲方法には、意識的なパクリは介在しないと思われるが、パクリ疑惑が発生したほうが救いがある気がしてならない。
ということで、この曲が僕の「らき☆すたベスト」の2曲目である。桑田圭祐でもそうしただろう。「もってけ!セーラー服」という怪物曲の直後だからこそ、この曲は生かされる。
しかし、原作の漫画を読むかぎりでは、作者も特に思い入れのなさそうなパティだが、泉こなたとユニットを組んでいることもあり、曲のほうではかなり存在感がある。

3.みんなで5じぴったん【Vol.010 胸ぺったんガールズ

らき☆すた キャラクターソング 10
作詞:畑亜貴 作曲・編曲:神前暁
歌:泉こなた平野綾小早川ゆたか長谷川静香岩崎みなみ茅原実里
アニメ「らき☆すた」という企画は、オタク界に一大ムーブメントを巻き起こすという強い熱意を持ってのぞんでいたと思うが、それと同じぐらいの熱意で、平野綾というアイドル声優をオタク側に引きようと努力していると思われる。
ご存じのように、平野綾は「ハルヒ」でもハルヒ役として主役をつとめたわけだが、そのOP曲「冒険でしょでしょ」のジャケットなんて、もはや昔日の感がする。
TVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」OP主題歌 冒険でしょでしょ?
↑今見ると、何かの罰ゲームみたいだが。
らき☆すた」でも主役に抜擢された平野綾だったが、残念ながら「らき☆すた」のヒロインは、オタクの泉こなた。そのために、オタクらしい演技をしなければならない。そんな逆境の中でも彼女はがんばったと僕は思う。感動的ですらある。
そんなわけで、気づけば「胸ぺったんガールズ」の一員として「リアルタイムでアニメを見ることの大切さ」を主張する曲を歌わされることになったわけで、制作スタッフは心の中でニヤニヤしまくっていたと思われる。まったくもって、うらやましい話である。
だいたい、畑亜貴先生の歌詞が容赦ない。聴いて恥ずかしい単語を惜しげもなく投入する。僕ですら聴いて恥ずかしいのだから、平野綾からすれば、歌うのは地獄だっただろう。
なお、このカップリングの「ロリィタ帝国ビショージョ大帝」は、あまりにも歌詞がアレなので、とても聴けたものではなく、神前暁の曲の中で唯一このベストから漏れている。
さて、楽曲についてだが、氏の代表曲である「もじぴったん」よりも、氏も数曲提供した「アイドルマスター」を意識した楽曲となっている。3Dアニメのアイドルを育成する「アイドルマスター」というゲーム。パッと見で、こんなものが「ニコニコ動画」で、はやっていることに、生理的嫌悪感を抱いた人は多いだろう。
ところが、そこで使われる楽曲が良かったのだ。特に、オフィシャルのPVで使われている神前暁作曲の「Go My Way」は、人気凋落中のモーニング娘が歌ってもヒットしたのではないかと思われる名曲だ。この曲のおかげで「アイドルマスター」というゲームを受け入れた人は多いだろう。僕もその一人である。

The iDOLM@STER GoMyWay (やよいVersion)

4.悠長戦隊ダラレンジャー【コスって!オーマイハニー】

コスって!オーマイハニー
作詞:畑亜貴 作曲・編曲:神前暁
歌:こなたとパティ(平野綾ささきのぞみ
泉こなたとパティが自主制作で作成したとアニメで宣伝した「コスって!オーマイハニー」は、当然のことながら、実際にCDで販売されることになった。
あくまで、同人CDということで、神前暁は安っぽいアレンジをしている。MIDI音源的である。
なんで、こんなことをする必要があるのか、と思われるかもしれない。しかし、神前暁という職業作曲家は、ふと浮かんだメロディーを五線譜に書きこむという作曲方法ではなく、それぞれの曲の輪郭を整えてから、構築するという手法を取っていると思う。作曲とアレンジは、ほぼ同時に行っているのではないか。今回の曲はチープなレンジというテーマがあったのだから、こういう曲調になったわけで、そのアレンジを良くするなんてことは、氏からすれば本末転倒になるのではないか。なお「組曲らき☆すた動画』」では、ファミコンサウンドで印象的に使われている。
だから、神前楽曲はすべて、Aメロ〜Bメロ〜サビの流れが美しく聴いていて飽きない。一種の数学ではないかと思う。
この曲は、チープな戦隊もののOPを意識しているが、それにしても、このAメロはできすぎではないか。誰も氏の才能は疑わないので、早めにパクリ疑惑とか起こしてほしい。なんていうか、こういうふうに名曲を量産すると、他のミュージシャンに迷惑ではないか。
また、この曲は泉こなたとパティのかけ合いが楽しめる。どこからどう見ても、泉こなたを演じる平野綾ノリノリである。こんな楽曲を録音したあとでは「いや、あくまでも演技ですから」と言っても、説得力はきわめて乏しい。

5.寝・逃・げでリセット! 【Vol.003 柊つかさ

らき☆すた キャラソン(3)
作詞:畑亜貴 作曲:ISAO 編曲:nishi-ken
歌:柊つかさ福原香織
さて、やっと作曲者が替わる。個人的に神前暁をひいきしているのだが、他の人たちが担当したキャラソングの出来栄えも、もちろん良い。
これは「To Heart」のヒロイン神岸あかりと酷似していることで有名な柊姉妹の妹、つかさの曲。しかし、似ているのはルックスぐらいで、性格は神岸あかりが世話焼き女房タイプであるのに比べて、柊つかさはちょっとだらしない。寝坊もするし、成績も良くない。本人はがんばるつもりがあるが、その計画がことごとく報われないところがかわいい。

6.みにまむテンポ 【Vol.005 小早川ゆたか

らき☆すた キャラクターソング 5
作詞:畑亜貴 作曲・編曲:菊谷知樹
歌:小早川ゆたか長谷川静香
泉こなたの従妹で、病弱なところがある小早川ゆたかのキャラソング。岩崎みなみとの友情をいつくしむような歌詞がいい。
まったく畑亜貴先生は「ロリィタ帝国ビショージョ大帝」を書いたのと同じ頭で、こんな詞を書いたりするから恐ろしい。同一生命体かどうかという疑いすら抱きたくなる。まさに、プロの作詞家という職人芸を、畑亜貴先生の歌詞は思い知らされてくれる。

7.ケンカ予報の時間だよ 【Vol.002 柊かがみ

らき☆すた キャラソン(2)
作詞:畑亜貴 作曲:綾原圭二 編曲:nishi-ken
歌:柊かがみ加藤英美里
ファンの熱さは「らき☆すた」ナンバー1。柊姉妹の姉にして、「ツンデレ女王」の名を欲しいままにする柊かがみのキャラソング。
ライトノベル好きで、成績の良い、普通の女子高生であるはずが、ついつい妹の柊つかさのことが気になって、そのクラスに顔を出しているうちに、妹の友人である泉こなたとも仲良くなってしまう。そして、いつの間にやらオタクの知識を植えつけられ、おつかいを頼まれたり、コミケデビューも果たしてしまう(アニメでは)。
気づけばオタク界に引き寄せられている不幸な女性。しかし、こういう不幸ほど、第三者から見て楽しめるものはない。

8.幸せ願う彼方から【Vol.011 かなたとそうじろう】

作詞:畑亜貴 作曲・編曲:神前暁 歌:泉かなた島本須美
泉こなたがオタク化した理由は、父親の影響があるのだが、母親はいたって真面目な人であった。残念ながら若くして他界してしまったため、原作の漫画では出てこないのだが、アニメ22話では彼女の幽霊を中心に展開され、ファンの涙腺をゆるませた。
この曲もそんなファンの感動を汚さぬよう、泣きのメロディーと歌詞でつづられる。しかし、畑亜貴先生の言葉の選び方は、ただの職人芸とは思えない的確なものである。この曲はカラオケで歌っても、出典を知らされなかったら、場を感動させること間違いなしである。もちろん、男が歌ったら、キモイことには変わりないが。

9.どんだけファンファーレ【Vol.001 泉こなた

らき☆すた キャラソン(1)
作詞:畑亜貴 作曲:橋本由香利 編曲:nishi-ken 歌:泉こなた平野綾
ご存じ「らき☆すた」の主人公であり、オタク女子高生である泉こなたのキャラソング。なお、こなたは、いわゆる「腐女子」ではなく、美少女ゲームを喜んでプレイするような子である。そのため、ボーイズラブへの関心は、ライトノベル愛好家柊かがみより遥かに劣る。「ふふ、かわいいのう」などと言いながら、ゲームのヒロインを攻略する姿は、どう見ても健全ではないのだが、彼女自身は幸せみたいである。
ライトノベル界というか、萌え漫画というか、「オタク界」には「幸せは人それぞれ。他人にどうのこうの言われたくない」という意見があるみたいである。個人的にこれには同意しかねる。本人が本当にそうわりきっているのか不安だからである。結構、オタクというコミュニティに入ることで居場所を得ているだけの人もいるだろうし、オタク界のある作品のファンになったからといって、オタクだと自認するのは問題あるだろう。
泉こなたは強いオタクである。バイトもしっかりやって、それで自分のコレクター熱を満たしている。こういう自立したオタクに「あんたそれで幸せなの?」と声をかけるほど、僕は世間知らずではない。アニメ版「らき☆すた」の16話の「ハルヒ喫茶」は名場面のオンパレードだが、もっとも良い場面は「ハレ晴れユカイ」を踊ったあとの、こなたの「ふひ〜」という息づかい。そこには他人がどう思おうが、充実した毎日を過ごしている彼女の姿がある。
基本的に、オタクの男女が結ばれるのは難しい。オタク女性は、オタク男性を「友達」とは見ることはできても、「恋人」と認めるのには抵抗があるみたいである。共に架空のキャラが好きなもの同士、開き直ってカップルになれば、というのは外野の意見にすぎない。
オタク界の代表として、いろいろ意見を出すことも多くなった泉こなた。そんな彼女を演じることになった平野綾は、本人の意思はともあれ、立派なオタク界の広告塔になってしまった。しかし、オタク界というのも、それほど悪いものではないだろう。「右翼や左翼なんてものはない。上翼と下翼があるだけだ」と言ったのはボブ・ディランだが、オタク界にも「上翼と下翼」があって、「上翼」の人たちには魅力的な人がいるものである。もちろん、ダメな人たちもいるが、それはオタクにかぎったことではない。どんなコミュニティにも、どうしようもない人たちはいる。
ぜひとも、平野綾にはオタク界のど真ん中を突き進んでほしい。それは結構、気持ちいいことだと思う。少なくとも、彼女の歌う曲は、どのアイドルよりも愛唱されているわけだし。
なお、カップリングの「Dドライヴ/ラヴ」は、僕の知らないネットゲーム用語が乱れ飛ぶ。畑亜貴先生の歌詞に、歌い手に合わせた遠慮という言葉は存在しない。

→その2に続く