【レビュー】涼宮ハルヒの憤慨 (紹介者:涼宮ハルヒ)

 

涼宮ハルヒの憤慨 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憤慨 (角川スニーカー文庫)

 
 こんにちは! SOS団団長、涼宮ハルヒです!
 
 わがSOS団は、この世界のありとあらゆる不思議を求めています。もちろん、黙って報告を待っているだけじゃないわ。古事記でもあるじゃない? 閉じこもったアマテラスを引きだすためにみんながどうしたか? そう、その外でパーっとドンチャン騒ぎをしたのよ。そしたら、アマテラスも辛抱できなくなって出てきたってわけ。宇宙人だって未来人だって、指くわえてただけじゃ出てくるはずがないわ。あたしたちのことを愉快な連中で友達になりたいと思ったとき、はじめて、姿を見せるはずなのよ!
 
 そんなふうに、我々は日々の活動にいそしんでいるんだけど、まだ一般人に存在を知らしめるのは早いとあたしは考えてるのよね。ところが、あるヒラ団員が、あたしに隠れてコソコソとSOS団の活動記録を発表してるっていうじゃない? 冗談じゃないわ。団長の許可も得ずに勝手なことをするなんて、団員にあるまじき行為よ。だから、これまでキョンとかいう奴の書いてたことは、キレイすっぱり忘れてよね! でも、せっかくの機会だから、団長であるこのあたしみずから、SOS団の活動を、きちんと紹介することにしたわけ。
 
 で、今回書くことは、生徒会とJ・Jのこと? うーん、ただ紹介するだけじゃつまらないから、団員の貢献度を採点することにしたわ。団長っていうのはね、ただ命令するだけじゃないのよ。団員がどれだけSOS団に貢献したかをきちんとチェックしなくちゃいけない立場なの。まったく、トップというのは大変な仕事なのよ。特に、団員が独断専行で自分勝手な行動をしてしまうときとかはね。
 
 まず、紹介する事件は「ROUND2 SOS団VS生徒会」ね。わがSOS団が学校の不認可であることを言いがかりにして、生徒会が攻撃をしかけてきたのよ! どうせ、我々の人気に嫉妬したんでしょうね。今や、北高でSOS団のことを知らない生徒は一人もいないといっても過言ではないわ。でも、生徒会長っていうのは、自分が一番偉くないと気に入らない人種なのよね。そして、あたしたちのような努力をしようともせず、権力を武器に、SOS団を壊滅をもくろんだのよ!
 
 しかも、そのやり方が姑息なの。SOS団は文芸部の部室で活動してるんだけど、その文芸部に唯一所属している有希に攻撃を仕かけてきたの。有希ってほんとはすごいけど、いつもは本読んでておとなしそうじゃない? だから、有希だけを集中攻撃しようと企てたのよね。あたしはすぐに気づいて、生徒会長とサシで談判したわ。そうしたら「機関誌を発行したら、存続を認めてやる」だなんて、メガネを光らせながら言うじゃないの。アイツはきっと、あたしたちをバカ騒ぎをしてる能無し連中と思ってたみたいね。でも、甘々、極甘よ! 「ROUND1」のコンピ研との対決のときも、向こうの条件を全て受け入れて、我がSOS団は圧倒的勝利を飾ったんだからね! さっそく、あたしは編集長になって機関紙の作成を開始したわ。もちろん、奥付の発行人名義は有希だけどね。あたしは名よりも実を取るから。
 
 執筆はいろんな人に頼んだわ。だって、みんなで作ったほうが面白いじゃない? 美術部や漫研のやつらだって、喜んで描いてくれたわ。みんな、自分の努力の成果をアピールしたくてうずうずしてるのよ。おかげでけっこう見ばえのいい冊子になったわ。鶴屋さんにも声をかけたし。あの人の書いた冒険活劇はめちゃくちゃ良かったわね。谷口と国木田が書いたのは大したことなかったけど。
 
 結果、あたしたちの作った雑誌はすぐにさばけたわ。きっと、あの生徒会長、メガネをずり下ろして呆然としてたんじゃないかしら。あのキザったらしい顔がゆがんで「バ、バカな」って椅子からへたりこむ姿が目に浮かぶようだわ。ザマアミロね!
 
 もちろん、SOS団員にも書かせたわよ。でも、自分の好きなものを書くんじゃ面白くないから、くじ引きで書く小説のジャンルを決めさせたの。そして、団員四人はそれにもとづいて小説を書いたわけ。
 
 一番出来が良かったのは古泉くんね。合宿ではいつも楽しませてもらってるけど、今回もさすがだったわ。顔が広くて知り合いもいっぱいいて、すごく頼りがいがあるのよね。あたしが副団長に任命したのも当然って感じね。まあ、今回は80点! 団員のなかでは一番良かったけど、鶴屋さんのに比べたら、ちょっと意外性が乏しかったから、100点満点はつけられないわね。愛すべき団員たち相手とはいえ、あたしの評価は厳しいのよ。
 
みくるちゃんのはかわいいイラストが好評だったと思うわ。でも、かわいいだけじゃイマドキの読者を捕まえることはできないのよね。放っておくと、何にも起きないままハッピーエンドだなんて、化石にもならないものができそうだったから、何度もダメ出ししたわ。最終的には、あたしがかなり手を加えたし。まあ、みくるちゃんはファンが多いから、読者獲得には十分に貢献したからね。ここは50点あげちゃう!
 
 有希の小説は意外だったわね。あの子、本をよく読んでるから、けっこう小説書くのうまいと思ったんだけど、なんていうか、よくわからない話だったわ。きっと、有希は今は本を読んでいろいろためこんでいる時期だと思うの。そのうち、いつか「自分でも書きたい」と考えるようになるはずね。ああ見えて、有希は将来大物になると私はにらんでるの。もしかしたら、歴史に名を残す、大文豪になるかもしれない。そう考えたら、今回の機関誌はプレミア物かもね。世界の大作家・長門有希の幻のデビュー作として、億単位で取引される日が来るかもしれないわよ。そういう可能性を感じて、今回は60点!
 
 さて、あと一人団員がいるんだけど、コイツがねえ。もうね、今、思い出しただけでも、ムシャクシャするやつを書いたのよ。
 
 だいたいねえ、古泉くんにしろ、みくるちゃんにしろ、有希にしろ、どんなふうに書こうか悩みつつ書いたと思うのよね。読んでてそういう必死さが伝わってくるのよ。だけど、アイツは全然ダメ。なんていうか、ニヤニヤ笑いながら書いてたんじゃないかしら。そういうアホっ面が出てきたような小説だったのよね。そりゃ、現国の成績が悪いのもわかるわよ。素直に解答すりゃ点数もらえるのに、下らないことばっかり考えるから、ねじまがった答えしか出せないのよね。
 
 そんなわけで、バカキョンは−50点! 本当なら書き直しを命じたかったんだけど、締め切りギリギリになってアレだもんね。まったく、ああいう団員を持ったあたしの身にもなってほしいものよ。
 
 
 次に、J・Jのことなんだけど、これはまだ詳しく書かないほうがいいと思うわ。阪中さんの犬の元気がなくなって、その原因解明にSOS団ががんばった話なんだけどね。ちなみに、阪中さんっていうのは、あたしのクラスメイトのこと。
 
 この事件、残念ながらスクープ写真を撮ることができなかったら、あまり胸張って活動報告できるような内容じゃないのよ。あえて、キーワードにすると、ジャン・ジャック・ルソー、陽猫病、シュークリーム、となるかしらね。これでこの事件のことがわかった人は勘がいいと思うわ。
 
 さて、今回は有希の読書量が生かされたのよ。実際、解決したのは有希だからね。だから、有希に80点! 100点満点じゃないのは、有希って口下手だから、古泉くんの助けを借りなくちゃいけなかったところ。うん、今回も古泉くんは良い仕事をしてたわよね。有希のいいサポート役に回ってたわ。だから、古泉くんには70点あげちゃう!
 
 みくるちゃんはねえ。がんばったけど、残念ながら成果を出すことはできなかったわ。でもね、みくるちゃんがいろいろやってたからこそ、有希は動いたと思うの。有希って、ほら、自分から何かを言いだすってことないじゃない? だけど、みくるちゃんなりにやっているのを見て、自分も試してみようと考えたはずよ。そんなふうに、有希を動かしただけでも、みくるちゃんの努力はむくわれたのよ。そう、がんばる姿はきっと誰かが見ていてくれる。団長として、そんな団員のささやかな努力もきちんと評価していくつもり。だから、みくるちゃんには60点!
 
 で、あと一人、団員がいるんだけど、コイツ、何かやってたかしら?
 
 この事件は、まだまだ世の中にはあたしの知らないことがいっぱいあることを教えてくれたわ! うん、そのうち、きっと地球全体がひっくり返るような衝撃の映像を、お届けすることができるはずよ。その日を楽しみに待っててね!
 
 
 さて、結果発表! 今回のSOS団員の活躍ぶりはどうだったかというと……
 
 1位は古泉くんの150点! 副団長として安定した仕事っぷりを見せてくれました! 最初は普通の高校生って感じだったけど、このSOS団にもうまくなじんでくれたしね。まったく、あたしの人を見る目の良さに改めて感心するわ。
 
 2位は有希の140点! 有希ってとっても良い子なんだけど、まだあたしの知らない可能性を秘めているところがあるのよね。けっこう、頼りにしているのよ、有希のことも。
 
 3位はみくるちゃんの110点! うーん、副々団長としては、ちょっと低い点数よね。もっと自信を持てば、みくるちゃんだったら北高の男どもなんてイチコロなのに、まだまだ照れがあるのよね。でも、そんなところもみくるちゃんらしくていいんだけど。
 
 で、ダントツの最下位がバカキョン! −50点って、どういうことなのよ! 自分で点数つけてぼうぜんとしたわ。マイナスってあんた、谷口や国木田よりも低いじゃない!
 
 うーん、でも、J・Jのときは、シャミセンが事件解決に協力したからね。よし、シャミセンの貢献度を特別に80点追加して、30点! これで、谷口や国木田よりは高い点数よ。でも、ほかの三人に比べたら、貢献度の低さははなはだしいわね。もうちょっとSOS団のために働かせないといけないわね、バカキョンは。
 
 こんなふうに、あたしは団長として、日々がんばってるわけよ。もし、あなたがSOS団のように面白い毎日をすごしたいなら、まず、自分から始めてみなさい。あたしだって何にもないところから、コツコツと今のSOS団を作ってきたのよ。そう、宇宙人も、幸せも、黙って指くわえてちゃ、絶対にやって来ないんだから!