【レビュー】涼宮ハルヒの消失 (紹介者:朝比奈みくる)

 

涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

 
 み、みなさん、はじめまして。あたし、あの、朝比奈みくるです。よろしくお願いします。
 
 この本はシリーズ4作目で、12月に起きたある事件を題材にしています。でも、あたしはその事件の当事者ではありません。話を聞いたのは「涼宮ハルヒの陰謀」というタイトルの本に書いているとおりで…。いや、あの、別に、あたしが表紙だから「涼宮ハルヒの陰謀」を薦めたいわけじゃないんですよ。そうじゃなくて、つまり、この本で起きたことを、あたしは詳しく知らないんです。
 
 しかも、この事件は禁則事項になっています。どうして、こんなことが起きてしまったのか説明することが今のあたしにはできません。すみません。
 
 でも、想像することならできます。だから、これからちょっと、ひとりごとを話します。
 
 もし、SOS団がなかったら、あたしたち、どうなっていたと思いますか? そして、みんなただの高校生で、何の役割も与えられていないとしたら?
 
 あたしは、たぶん、書道部にいたままで、鶴屋さんとも友達だったと思うし、なんだか普通の生活が送れたかもしれません。だけど、普通の生活ってどういうものか、あたしにはよくわかりません。その世界のあたしにも、きっと生きる意味があるはずで、あたしはその目的に向かってがんばっていたと思うんですけど。
 
 長門さんはどうなんだろう? やっぱり、文芸部に所属して、一人ぼっちの部室でずっと本を読んでいるのかな。でも、長門さんがどんなことを考えているか、あたしにはよくわかっていないんです。あたしが長門さんの立場だったら、きっと耐えられないと思う。いろんなことが許せなくなると思う。だから、長門さんのことはあんまり深く考えたくない気持ちがあります。
 
 そして、涼宮さんは、たぶん、中学時代のままの涼宮さんだったのかもしれませんね。友達が一人もいなくて、誰ともわかりあおうとしない涼宮さん。もし、キョンくんがいなかったら、涼宮さんは…って、こんなこと考えてたらきりがないですよね。
 
 そう、これはただのひとりごと。あたしたちはSOS団に入って、キョンくんや涼宮さんたちと一緒に生きている。そうじゃない未来もあったかもしれないけれど、今のあたしは、この世界をあるべき姿にするために、ここにいる。
 
 でも、この事件を境にいろんなことが変わったと思います。特に、キョンくんは、このあともいろいろ頼まなければならないことがあるんだけど、いやな顔ひとつせず、引き受けてくれるようになりました。ほんと、キョンくんはみんなのことを気づかうようになりましたよね。でも、その優しさがつらいときもあります。正直いって。
 
 おそらく、あたしはこの事件の一番大事なことを知らされていないと思います。だけど、あたしにだってわかっているんです。そして、未来は前よりも確かになった。この事件の結果をあたしは喜ばなければならない。ただ、この世界をのぞんだ人の意志の強さを考えるたびに、あたしは胸が苦しくなります。
 
 いや、悲しい話じゃないですよ。クリスマスにかわいい犬と少年が死をむかえるという話じゃないんです。いつものようにみんなが笑って結末をむかえることができる、そんな物語です。だから、楽しんで読んでくださいね。きっと、そうすることで、あたしたちのことを、もっと知ることができると思うから。