三巻目も波乱なし ― 三上延『ビブリア古書堂の事件手帖3』(評価・B)

 

 

スッキリしすぎて読み返す気にはなれない安定した面白さ
シリーズ三巻目でも崩れない雰囲気の良さを楽しむ一冊
 

 三巻目となると、新たな展開を期待してしまうが、どうやら『ビブリア古書堂』シリーズは「雰囲気」を楽しむことが第一で、その魅力は「安定した面白さ」にあるらしい。
 ただ、ミステリーとしての展開は、シリーズを経るにつれて技巧をこらした「飽きない」ものだ。
 

 

 本書では、短いプロローグとエピローグの間に、3つの中編が収録されている。
 1作目は、同業者のみが知り得る「古書交換会」を舞台としたもの。シリーズ二巻目で登場した、ヒロインの母親の影が、またもやちらつく。
 2作目が、本作でもっとも面白い展開だろうか。シリーズ初の「古書のタイトルがあらかじめ明かされない」内容である。依頼者の子供時代のあやふやな記憶だけでは、さすがの万能探偵であるヒロインもそれを特定することはできない。そのあやふやさは、関連人物の感情の交錯とも重なりあって、読み進めるにつれて輪郭が定まっていく快感があった。
 3作目は、一巻・二巻と同じように、誰もが知るタイトルの古書である。今回は宮沢賢治が唯一生前に出版した『春と修羅』。ただし、その謎解きは、賢治作品の魅力に迫ったとはいえない。賢治ファンを喜ばせる内容ではないだろう。
 いずれの作品も、古書を題材にはしているものの、そのあらすじは明らかにしていない。「読書案内」が本シリーズの目的であるならば、今回も成功したといったところか。
 それにしても、本書を読むと、文学作品ではなく大衆音楽でも同じようなミステリーが作れるのではないか、と錯覚できるようになる。例えば、ビートルズの英国盤と米国盤の違いがもたらした登場人物のすれちがいとか。
 

 このブログの書評は、読者が呆れるほど長ったらしいのが特徴だが、本シリーズに関しては、何も書くことが思いつかない。批判すべきところがないことは喜ばしいことであろうが、積極的に他者に勧める動機もない。
 雰囲気は良いが、ミステリー部分はタネがわかるとすっきりしすぎて読み返す気にならない。ヒロインの探偵力が骨抜きにされない展開は、勉強になる人にはなるんだろうけれど。評価はB。