2014年3月に読んだ本まとめ
3月に読んだ本は10冊。そのうち、小説が5作品である。
もっとも印象に残った本は、一ノ瀬俊也『日本軍と日本兵 ― 米軍報告書は語る』(講談社現代新書)だった。米軍の言葉を借りるだけではなく、戦後から21世紀にわたるまでの豊富な史料を分析してきた著者ならではの説得力がある。「上官の命令がなければ他の中隊を助けない」「組織戦に優れるが個人の能力は三流」という米軍の日本兵評には、現在社会に通じるものがある。日本兵が絶望的な玉砕突撃を敢行した背景を「天皇」や「靖国」ではなく「出兵後のムラの共同体」に見いだした著者の結論には納得したものだ。
次点は堀川惠子『教誨師』(講談社)。50年にわたり、死刑囚と面会し、その執行に立ち会った僧侶の語りをまとめたものだ。その慎重な物言いから、死刑制度を語ることの難しさがわかる。個人的には、これを読んで、人間の手で行われる死刑制度の限界を知った。「処刑をして幸せになる者は誰もいない」という僧侶の言葉を否定できる人はいないだろう。
小説では、インド系ケニア人の回想録という体裁の『ヴィクラム・ラルの狭間の世界』(岩波書店)が印象的だった。アフリカの貧富格差の背景にある社会構造を、小説という形で見事に描き出している。知らぬ国の文学だからこそ、小説の価値がわかる一冊。
あと、泉和良『私のおわり』(星海社FICTIONS)は、男性の書く女性一人称小説の理想形を見た。特に「恋を競う女子大生の友情を純度の高い美しさで描いた」ことに感心した。なお、僕の紹介文ではそのことばかり書いているが、本筋はあくまでも恋愛がメインである。
評価をもっとも高いSとしたのは、心理学者フランクル博士の強制収容所体験記『夜と霧』(みすず書房)だが、これは大学生の頃に読むべき書であっただろう。その理念が「高尚すぎる」と感じる人もいるだろうが、フランクル博士が体験したことは、人類最大の悲劇といってよく、その中で人間がどのように生きたかを知ることは、様々な運命を受け入れる準備をするために必要なはずだ。
◆3月に読んだ本紹介
twitterでの読書報告(140文字)とブログでの書評&感想(1000文字以上)のリンクを掲載する。
◎いとうせいこう『想像ラジオ』(評価・B)
- 作者: いとうせいこう
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2013/03/02
- メディア: ハードカバー
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死者の恨み・生者の「罪の意識」をなぐさめる《鎮魂文学》
被災地を考えるのは重荷だと耳を閉ざしている人に伝えたい物語
→http://twitter.com/esu_kei/status/443977191529779200
→【感想】いとうせいこう『想像ラジオ』(評価・B) - esu-kei_text
◎一ノ瀬俊也『日本軍と日本兵』(評価・A+)
- 作者: 一ノ瀬俊也
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/01/17
- メディア: 新書
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組織戦に優れるが、自分で考える力を持たない「三流」の日本兵の実像とは?
敵の視点から日本陸軍の本質にせまった意欲作!
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→敵から見た日本軍の実像 ― 一ノ瀬俊也『日本軍と日本兵』(評価・A+) - esu-kei_text
◎泉和良『私のおわり』(評価・A)
- 作者: 泉和良,huke
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/06/16
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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同じ男に恋する女子大生の友情を、純度の高い美しさで描く。
男性作家による女一人称恋愛小説の理想形!
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→恋を競う女子大生の友情を美しく描く ― 泉和良『私のおわり』(評価・A) - esu-kei_text
◎斉藤国治『星の古記録』(評価・B)
- 作者: 斉藤国治
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1982/10/20
- メディア: 新書
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星の動きから「天の啓示」を見きわめようとした陰陽師が残した記録とは?
古史料の天文記事を現代天文学で解き明かす、教養人向けの新書。
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→古代史料の天文記事を読み解く ― 斉藤国治『星の古記録』(評価・B) - esu-kei_text
◎中島京子『女中譚』(評価・C)
- 作者: 中島京子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2013/03/07
- メディア: 文庫
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「女中」が主人公の文学作品を書き替えた二次創作中編集。
直木賞受賞作『小さいおうち』成功の叩き台となった失敗作。
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→文学作品の二次創作の限界 ― 中島京子『女中譚』(評価・C) - esu-kei_text
◎∨・E・フランクル『夜と霧』(評価・S)
- 作者: ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2002/11/06
- メディア: 単行本
- 購入: 48人 クリック: 398回
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極限状態の中で、人はどのように運命と向き合うべきか?
人間が生きる意義を問う、ユダヤ人心理学者の強制収容所体験記。
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→心理学者の強制収容所体験記 ― ∨・E・フランクル『夜と霧』(評価・S) - esu-kei_text
◎伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(評価・A)
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/11/29
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 214回
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米国ケネディ大統領暗殺事件を大胆にも模倣!
首相暗殺犯に仕立てられた逃亡者に残された「人間の強み」とは?
→http://twitter.com/esu_kei/status/447742760192180224
→逃亡者に残された個人の強み ― 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(評価・A) - esu-kei_text
◎堀川惠子『教誨師』(評価・A+)
- 作者: 堀川惠子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/01/31
- メディア: 単行本
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死刑囚と面会し、その処刑に立ち会う宗教者、教誨師。
その慎重な物言いから見える、死刑制度の「救い」のなさ。
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→死刑囚と向き合った僧侶の「現場の声」 ― 堀川惠子『教誨師』(評価・A+) - esu-kei_text
◎二間瀬敏史『ブラックホールに近づいたらどうなるか?』(評価・C)
- 作者: 二間瀬敏史
- 出版社/メーカー: さくら舎
- 発売日: 2014/02/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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親しみやすい文体とイラストで、3次元空間の限界《ブラックホール》に迫る。
日進月歩の宇宙論を反映してか、やや急ぎ足でまとまりに欠けた入門書。
→http://twitter.com/esu_kei/status/447742894909046784
→二度と戻れぬブラックホール観光ツアー! ― 二間瀬敏史『ブラックホールに近づいたらどうなるか?』(評価・C) - esu-kei_text
◎M・G・ヴァッサンジ『ヴィクラム・ラルの狭間の世界』(評価・A+)
- 作者: M.G.ヴァッサンジ,小沢自然
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/01/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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詐欺師と弾劾されたインド系ケニア人を語り手に、
アフリカ独立前後の格差社会を、巧みな構成で映し出した小説。
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→インド系ケニア人が語るアフリカ独立の影 ― M・G・ヴァッサンジ『ヴィクラム・ラルの狭間の世界』(評価・A+) - esu-kei_text