いろんな意味で「ロシア式」であった「野口飛行士帰還」ニコニコ生放送の様子
6月2日12時25分(日本時間)、5ヶ月以上にわたる宇宙滞在を経て、野口聡一飛行士が、地球に帰還した。
日本人による、ロシア製宇宙船「ソユーズ」での着陸は、1990年の「宇宙特派員」秋山豊寛飛行士以来、二度目のこと。
これまで、多くの日本人宇宙飛行士が搭乗していた「スペースシャトル」は、この2010年11月を最後に運用を終了。今後、JAXAの飛行士も「ソユーズ」を利用することになる。
この着陸の模様は、JAXAによって、二時間以上にわたり生中継で映像を配信。
JAXA公式サイトをはじめ、ニコニコ動画などのサイトで、その映像を視聴することができた。
なお、ニコニコ動画の生放送では、放送終了時に累計視聴者数は26,004人に達している。
(同時接続数は最大1万人。接続数が1万ユーザを超えると、見ることができなくなるシステム)
それでは、ニコニコ生放送での模様をキャプチャー画像でお届けしよう。
これまで見慣れた「スペースシャトル」の着陸中継とは異なり、いろんな意味でも「ロシア式」だった生放送であった。
今回のソユーズ搭乗員は、以下の三名。
・オレッグ・コトフ (FSA:ロシア連邦宇宙局)
・野口 聡一 (JAXA:日本宇宙航空研究開発機構)
・ティモシー・クリーマー (NASA:米国航空宇宙局)
ロシア・日本・米国と、国の異なる三人の飛行士が同乗することになった。
前述した通り、2010年をもって、米国NASAの「スペースシャトル」の運用は終了。
しばらくは、ロシアの「ソユーズ」が、国際宇宙ステーションと地上をつなぐ唯一の移動手段となる。
「ソユーズ」による着陸では、1967年(一名)・1971年(三名)と、二度の死亡事故を起こしている。
最近では、1988年のエンジン緊急停止トラブルがある。このときは、副操縦士の機転により、死亡事故をまぬがれることができた。
以降、20年以上にわたって、「ソユーズ」による離陸および着陸にて、目立ったトラブルが発生したことはない。
一方の米国「スペースシャトル」では、132回のミッションのうち、二度の失敗を起こした。
1986年のチャレンジャー号爆発事故と、2003年のコロンビア号空中分解事故である。
これにより、計14名の宇宙飛行士が犠牲となっている。
「スペースシャトル」に比べれば、経済性・信頼性・安全性、どれをとっても、ロシアの「ソユーズ」に利があるのが現状だ。
日本も有人宇宙飛行の基礎計画を立ててはいるが、40年以上の実績がある「ソユーズ」に勝るのは難しいであろう。
今後も、しばらくは、日本人宇宙飛行士も「ソユーズ」を利用することが続くはずだ。
さて、今回の着陸中継は「スペースシャトル」のそれを見慣れた我々にとっては、戸惑うことが多かった。
こちらは、12時18分時点の「ニコニコ生放送」の様子。
すでに、累計視聴者数は一万人を突破している。
しかし、着陸予定時刻の12時24分から、10分を切っているのに関わらず、ソユーズの映像は、まったく届かなかった。
音声が途切れることが多く、「何かのトラブルがあったのでは」と不安になる時刻が続く。
着陸予定時刻の1分前の12時23分でも、映像は届かない。
「予定通り」という情報が断片的に伝えられているだけである。
そして、着陸時刻であった12時25分。
リラックスした表情でペットボトルを手にした管制員を見て、「成功したんだな」と僕は思った。
しかし、「着陸成功」の知らせは、まだ届かない。
この生中継で「着陸成功」が報じられたのは、12時26分のこと。
ただ、視聴者が期待していた着陸映像は、まだ流されていない。
現場中継がはじまったのは、着陸した15分後の、12時39分のことである。
ロシアのオレッグ・コトフ飛行士がメディカルチェックを受けている様子が映される。
そして、12時41分、新たな飛行士が運ばれてくる。
5人がかかりで運ばれて、椅子に着席したその飛行士は……
野口さんだった!
(このとき、奇跡的なことに、まったくコメントが流れていなかった)
たちまち歓迎コメントの弾幕があふれる。
NHKでは、野口飛行士の着陸が成功したと、12時25分の時点でテロップを流したようだが、どうも、それは正確な情報に基づいていない、予測によるフライングであったと思う。
生中継を見ていた我々が、野口さんが無事に着陸したことを知ったのは、その16分後の12時41分であったというのに。
こんな細かいことを逐一書くのは、「ロシア式」報道と、「日本式」との違いを感じてもらいたいからである。
現場の中継をすぐに流さない「ロシア式」報道姿勢に、ニコニコ生放送の視聴者は不安を感じた。
しかし、40年近く、死亡事故を出していない「ソユーズ」着陸ですら、万が一のために、即時に報道しようとしない「ロシア式」の報道姿勢に、僕はいろいろ考えさせられた。
米国「スペースシャトル」の中継では、こんなまどろっこしいことは起こるはずがない。透明性のある報道が、米国の宇宙報道には求められているからだ。
二度の「スペースシャトル」事故でも徹底的な調査を行い、「人災」であると結論づけた。
この報告書の結果を見て、NASAの体質を批判するのは簡単なことだが、僕は真相を究明しようとする関係者の努力に心打たれて、さすが米国だな、と思ったものである。
だが、「ソユーズ」よりもはるかに進歩した技術の結晶である、米国の「スペースシャトル」は、今年に運用を終えることになるのだ。
これは僕の深読みかもしれない。
ロシアからすれば、これは、40年近く続く「ソユーズ」着陸ミッションのひとつにすぎないが、日本にとっては、1990年以来、二度目の日本人宇宙飛行士による「ソユーズ」着陸であった。
そして、野口飛行士は、日本人最長の宇宙滞在記録を打ち立てた英雄なのだ。
ロシアに比べて、過剰な意識で、この着陸をとらえるのは仕方ないのかもしれない。
ただ、NHKのフライング気味のテロップといい、日本の報道姿勢では、今後も有人宇宙飛行でロシアに勝ることはできないのではないか、と僕は感じた。
一分一秒でも、新しい情報が欲しいと望むニーズに応えることが、その分野での勝利を意味するのではない、と。
では、ニコニコ生放送のキャプチャー画像に戻ろう。
メディカルチェックを受けながらも、野口飛行士は健康そうである。
野口飛行士のすごさといえば、やはり、そのタフさだろう。
数多くのミッションをこなしながら、野口飛行士はTwitterで宇宙ステーションから見た地球の画像を配信し、25万人以上のフォロワーを得た。
五ヶ月以上の宇宙滞在ともなれば「滞在するだけ」でも評価されるべきミッションなのだが、野口飛行士は国際宇宙ステーションにいる機会を最大限に活用したのである。
JAXAには他にも多くの宇宙飛行士がいるが、ぜひとも、野口さんには再度、宇宙に滞在してほしいと思う。
そして、他の飛行士も、精力的に活動した野口さんを見習ってほしいと思う。
そんな野口さんをねぎらう後ろの人物に見覚えが。
JAXA宇宙飛行士の同僚、若田光一さんである。
なお、この二人が「ソウイチ」「コウイチ」と名前が似ているというだけの理由で、野口さんの宇宙食の一部が、同僚飛行士に食べられた、という微笑ましい事件も起こった。
☞http://www.asahi.com/science/update/0222/TKY201002220387.html
そして、またもや人力で、キャンプに運ばれる宇宙飛行士たち。
こういうところも、いかにも「ロシア式」である。
そのコトフ飛行士の次は、野口さんが運ばれるはずだが、どうやら携帯で電話をしている様子である。
おそらく、家族と話しているのだろう。着陸から三十分も立たぬうちに長電話とは、やはり、野口さんはタフな人である。
しかし、ロシア人は、電話が終わるのを待ってくれるような人種ではない。
電話で話しながら運ばれていく野口さん。
この着陸を物語る、一番良い映像であったと思う。
着陸から15分後に届けられた現地中継には、数十人ものスタッフがつめかけていた。
つまり、僕が見るかぎり、完ぺきな成功に終わったのが、今回の着陸ミッションなのだ。
それならば、1分でも早く報じればいいと思うのだが、「焦る必要はない」と考えるのが「ロシア式」であろう。
「予定通り」に終わったはずなのに関わらず、「スペースシャトル」の着陸映像を見慣れた我々からすれば、大いに戸惑ったのが、今回の生中継だった。
その後ようやく、ソユーズの帰還船の映像が届く。
野口さんの笑顔を見る前に、この黒焦げの帰還船を見たら、僕を含め、多くの日本人は、1971年の窒息死事故を思い出したのではないだろうか。
1971年のソユーズ11号では、着陸には成功したが、機体の気密漏れのため、搭乗していた三人の宇宙飛行士は全員窒息死している。
それにしても、三人が搭乗していたとは思えない小ささである。
こんな「ソユーズ」に比べると「スペースシャトル」のほうがずっと信頼性が高いのではないか、と思うのだが、30年にわたる「スペースシャトル」プロジェクトは、5機のうち2機(チャレンジャー号・コロンビア号)が破損する結果と終わった。
今回の野口飛行士着陸中継で、「ロシア式」宇宙開発のたくましさを感じたのは僕だけだろうか。
おそらく、今後も、日本が単独で有人宇宙飛行を実現することは難しいと思う。
(それは決して、JAXAの低予算だけが問題ではない)
しかし、日本人宇宙飛行士を絶やすことはあってはならないはずだ。
人工衛星による利便ある生活を我々が享受しているかぎり、宇宙に旅立つ飛行士の人材育成は続けなければならないだろう。
それは、我々の今の生活に直結するものではないかもしれないが、必ずや、その先人たちが開拓したものは、未来につながるはずだ。
我々は、今回の野口さんの着陸映像などを通じて、より宇宙を身近に感じることができた。
今後も日本はそのような機会を絶やしてはならない、と考えた6月2日のことであった。
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